「流石に見てられないんだけど」
「ミオリネの観察は、別の奴に任せている。お前の担当は別だろ」
「今のはラウダじゃなく、グエルに言ったの。
それに仕事はやってる。この内容じゃ不服?」
「スマン。決断したいんだが…」
「兄さんは気にしなくて良いよ。
それで、内容は良しだ。時間がかかったのは許してやる」
兄さんに絡むな。期日ギリギリめ。
でも、内容は良い。他寮の動向も予想も的確だ。経営戦略科の中でもトップだろう。
だが、性格には問題がある。兄さんに絡むのは論外だがそれだけではない。
「その感受性が高いのは直せ。共感性と一緒だぞ。
それとも、またキャンプがしたいのか?」
「この性悪宰相」
「そう褒めるな。で、ダイゴウの動きが気になっているんだが、何か聞いていないか?」
「ダイゴウは担当じゃないんですけど。先ほど上司から担当が違う事を言って怒られました」
「それはそれ。これはこれ」
「こいつは……ダイゴウは前からの仕込み、グエルが見直しているって噂が馴染んでいる事もあって、寮内の空気が変わって来たみたい。
後ろはアレだけど、学生は興味が出てきているそう。特に新入生に押される感じでね」
ダイゴウは、社としては反ジェタークでマルタンが言う保守派になる。よって、花嫁争奪戦に前向きだ。
だが、寮生は兄さんと戦いたくないのが本音だし、むしろ、僕たちの長期休みの行動に興味を持っているようだ。ある意味、ジェタークの怖さを身をもって知ったが故に、その力の根源を知りたがっている。
「ちなみに、ダイゴウが参加するのは反対か?」
「私に聞くかな?」
「お前だから聞いているんだ。この元凶が」
ダイゴウの生徒がコイツに惚れたのが、そもそもの原因だ。
「わ、私の所為じゃ無いよ。多分」
「で、質問の答えは?」
「……別に反対とは言わないけど、ちょっと怖いかな」
「だったら止めておくか」
ダイゴウ全てと、身内の1人、どちらを優先するかと言えば、当然後者になる。
「い、いや、でもね、因縁を清算するのは必要だと思う。私の所為で清算できない方が嫌」
「無理はしなくて良いぞ。それとも何か要望があるか?」
「えっと、どうせ班分けとかするよね? それをマルタンと同じにしてもらえば……」
「なるほど、虫除けか。それくらいなら調整してやれる」
「だったら大丈夫」
満面の笑みでOKしたか。ふむ、やはり不安はあるから、騒動の原因となったマルタンと一緒に居れば安心ということか。
だったら……
「なんだったら、僕と親しいふりをするか? これでも虫除けとしては優秀らし…」
「ゼッタイニイヤ」
急に目が死んだぞコイツ。
「あのね、何処の世界に虫除けに
「お前、随分と口が悪くなってないか?」
「尊敬する上司の、教育のたまものかと」
「兄さんの悪口は許さんぞ」
「ラウダに言ったのよ」
「だったら良い」
「でも、ダイゴウを誘うって言っても、ジェタークからだと難しいから…」
「シャディクに頼む。それなら乗りやすいだろ」
「うん。いけると思う。それで……」
兄さんに見ながら、困ったような表情になる。兄さんの覇気のなさに物申したいのだろう。
そのタイミングで来客が告げられた。エナオだ。
「もう、大丈夫」
「ん。良かった。そろそろ新入生の勘違いを正さないとね」
新入生曰く。グエル先輩は優しくて話しかけやすい。
前半は合ってる。優しいさ。でも、決して話しかけやすいような軽い存在じゃない。
気安く話しかけるには、それなりの自負がいる。兄さんにそのつもりが無くても、目の前のコイツくらい実績が無いと委縮するんだよ。
入れ替わりに、エナオを先頭に、続いてウマ娘を進化……これ、長くて言い難いな。乳がでかいからウシで良いや、ウシ娘。地味子に、儚げちゃん改め推し子が入室する。
「一応、紹介するね。レネ、メイジー、イリーシャ。ほら、挨拶する」
エナオに言われ挨拶するが、興奮状態の推し子以外は、観察してるな。兄さんと僕を。
どんな感想を抱いているかは知らないが別に良いや。
「これが、こちらで調べた内容。メールで整理が不十分でも良いと言ってたけど、本当に平気?」
「ああ、こちらで集めたデータと違いが無いか比較するだけだからな。本題は別だ」
「うん。ミオリネの状態を報告して」
「え? あ、うん」
良い。実に良い。
強引にアス高へ入学させられ、寮にも入らず、理事長室に籠る。
一応は、授業に出席をしているようだが、好奇に満ちた視線を気にしてか、誰とも目を合わさないようにしているようだ。まあね、トロフィーの見た目は気になるものですよ。
どうも、ジェターク寮の同級生の反応は気になるようだが、無視されているので、歓迎されていないと判断して落ち込んでいるという。
おまけに、顔なじみのいるグラスレー寮生から距離を置かれているので、誰とも相談することが出来ない。
実に痛快な状態だ。原作の様にただ反発すれば良い状態ではない。何と言っても推しの婚約者だからな。裏切り者と思われていないか不安なのだろう。単純に被害者気取りが出来なくて残念だったなぁ。
バタフライ効果最高。このままバタフライの羽が鋭利な刃物と化して飛び回って欲しいくらいだ。
「そんな状態だし、そろそろ声をかけたいんだけど?」
「構わんぞ。好きにしろ」
「好きにって……」
「他の寮の動向を調べたくて、接触の自重を依頼したが情報は集まった。これはお互い様だからな。
その上で、グラスレーのお前たちが、何かをするのに、僕の判断を仰ぐ必要は無い」
「あの、どうすれば……」
推し子が縋るように言ってくるが、誰に頼ってる?
「声をかけたければ、好きなだけかければいい。
相談と言う名の愚痴を聞いてやってもいい。
脱走したいなら脱走させればいい」
今の彼女だと、直ぐに詰むだろうがな。孤児として苦労していたから分かるだろ?
それに、いま脱走しても何の解決にもならないってことも。
「それで、エナオは当面の予想として、何か対策を考えたか?」
「何も。必要ない」
「だな。しばらくの間は…」
「待てよ。エナオまでさ。こっちの話は終わってねぇよ。イリーシャの質問に何も答えてねえ」
「……エナオ、教育してるのか?」
「まだ。入学して1週間。その間はミオリネの観察をやらせていた。
それに、使えなかったけど、集めた情報の整理を手伝わせていたから」
「……じゃあ、僕の所為か?」
「そう」
「だったら改めて言ってやる。自分で考えろ。考えもせずに人に答えを求めるな」
「ごめん。本当に忙しかった。この子たち使えないし」
「いや、良いさ。責任は僕にもあるみたいだ。少し考える手伝いはしてやる。
そうだな……エナオはお前らに仕事を手伝わせたって言うけど、お前らはやりたかったのか? 使えなかったらしいが」
「使えない使えないって、本当にひでえな。
いや、やりたかったわけじゃねーし……なあ、アタシら、何で手伝ってたんだ?」
「え? まあ、仲間なんだし、その後ろめたさって言うか……イリーシャは?」
「シャディクと、一緒に、迷惑、かけるとこだった」
「気にすることは無いだろ。シャディクは昔も今も自分で考えて、良いと思った道を選んでいる。
サビーナとエナオは、僕に絡んできたのが悪い。狂犬に噛まれて運が悪かったと諦めてもらうさ。
でも、お前らは何もしていない。気にする必要はないぞ」
「待って、絡んだのはサビーナ。しかも、思い返せばラウダに誘導された」
「引っかかったのが悪い。あと連帯責任だ」
「な、なにがあったんだよ?」
「世の中には悪い男がいるって話。引っかかると抜け出せない」
「エナオが言うと説得力ありすぎるから止めて」
「まあ、気にするな。そんなことより、話は戻すが、お前らまでシャディクに付き合う必要は無い。
好きなことをやれば良いんだ。
何なら、革命ゴッコを再開しても良いさ。全力で叩き潰すけど」
「しねーよ。そもそも、サリウス様にはシャディクを頼むって言われてっし」
「全部バレたのにね。これ以上、不義理は出来ないって」
「うん、もう、裏切れない」
「だったら良いさ。まあ、仲間や友人って奴は、そういうものだと言えば、そういうものだ。
でも、嫌々やるより、楽しんだ方が良いぞ。ある意味、後ろめたさを感じずにいられるようになったんだ。
その、イリーシャだったか、彼女の様に趣味を見つけても良いし、恋人を作っても良い。楽しい学園生活を送るようにしろ」
「趣味ね……」
「レネは彼氏作らないの? 前はバカなスペーシアンを誘惑して内心で笑ってやるって言ってたじゃん」
「やんねー。つーか、アタシの黒歴史を掘り起こすな」
そんなこと考えてたんか。
いや、考えてみれば、アーシアンをバカにしているはずのアス高で、実はアーシアンの孤児だった彼女たちがアイドル扱いされてたな。内心で笑ってたん? だとしたら、むしろ痛快だな。ドルオタ君たちは真実を知ってどうなったんだろ?
「そう慌てるような話では無い。趣味なんて無理して作るようなものでもないしな。
だが、仕事に関しては、やりたくなければやらなくてもいいだろ?
逆に、前は変なことに巻き込まれそうになったから、逃げるって言って逃げろ」
「い、良いの?」
「良いぞ。好きな推し活の時間を削ってまでやることはない」
「うん。手伝い止める。でも、ミオリネのこと、助けたい」
「ラウダ、
「いや、この程度で壊れないだろ? まさか、手伝わないから絶縁とか言わんだろ?」
「そうだけど」
そこまで言った瞬間、後ろからパンと肉を叩く音が聞こえた。
振り向くと、うつむいて自分の両頬を手で押さえている兄さんが……結構、大きい音したけど、かなり強く自分の頬を叩いたよね?
「え?」
「何だよコレ?」
え~と、まだ何もしていないんだけど? もしかして自分で気付いた?
久しぶりに感じる兄さんの覇気に、頬が緩む。
「おはよう、兄さん」
「寝ぼすけ」
おいエナオ、兄さんを悪く言うのは許さんぞ。
「悪い。エナオにも迷惑かけてたみたいだな」
「大丈夫。で、決まったの?」
「ああ、イリーシャだったか? 彼女のお陰で気付いた。
ありがとな。ついでと言っては何だが頼みがある」
「ひゃい」
「ごめんグエル、今日はイリーシャ、もう使えない。3人セットでの依頼か、個別の依頼なら他の2人」
「? 分かった。だったら、3人への依頼が良いか。ミオリネに会いたい。手はずは……」
そう言って、兄さんが僕を見る。
まだ、方針を表明して無いけど? 何も言ってないんだけど? つーか推し子、鼻血でてない?
「分かったよ。はっきり言う。サビーナも言ったが、俺もデリングの考えなど知らん。無視する。好きにする。
でも、そんな奴に振り回されて、引き籠ってる女がいるのが気に食わん。婚約者予定ってことで気が引けていたが、それで放置すると、俺の気が滅入る。
要はイリーシャが言ったことと同じだよ。自分が楽しみたいが、ミオリネが気になるから何とかする」
何も言わずに察してくれて嬉しいよ。
でも、そうなんだよ。動くときは目的を決める。これは原則だが、目的も何も今回の件は動く必要なんてない。
放置しておけばミオリネは勝手に潰れるか消える。兄さんは最初から何も気にする必要なんてなかった。
でも気にしてしまった。婚約の件を聞いた時、相手の事を考えてしまったんだろう。
その混乱の状況の中でミオリネの境遇を聞かされてしまった。
結果として、善性の人間ほど罹りやすい共感性の増大という一種の病を発症した。
無力な小娘に自分を重ね、自分まで無力になってしまった。
でも、これは兄さんの問題ではない、ミオリネの問題なんだ。
そのことに気付けば、答えは2つ。完全に無視するか、ミオリネの問題の解決を手伝うか。
僕なら絶対に無視なんだけど、兄さんには無理だった。
そして、僕としても、たまにしか見れない
結果として、ミオリネを救わなくてはならなくなった。
「了解。明日になったら、ミオリネと会って約束を漕ぎつけてくれ。兄さんと会わせる。エナオはシャディクに、このことを伝えてくれ。来たくないなら構わないが来るだろう。シャディクも同席させる。
時間は明日か明後日の放課後、場所はジェターク寮、グラスレー寮、地球寮の好きなものを選ばせろ。多分、今の精神状態から、明日の地球寮で落ち着くと思う」
「え? そうかな?」
「明日と明後日に予定があったら?」
「ない。どうせ何もすることが無く、時間を持て余してネットかゲームでもしてるさ。
その状態を脱したいと思っているだろうから、早めに動きたい願望はある」
「だったら、明日で良いじゃん。場所だって…」
「彼女は親の勝手な取り決めで、ここに来ているんだ。せめて選択する自由があると思わせないと意固地になる。かと言って、何時でも良いと言うと、何時までも選ばない。
場所に関しては、現在のジェターク寮とグラスレー寮は半ば敵地だ。地球寮なら中立か、下手したら味方と思い込む。以上だ」
「は、はい」
「ラウダ、既に手筈は整えてるんだな?」
「今の兄さんの状況にクレームが殺到してるからね。今日は最初から起こすつもりだったよ。自分で気づいたみたいだけど」
「良いんだな? お前はデリングの娘が気に入らないらしいが」
「仕方がないよ。あいつを放置して、兄さんが不調になるよりはね……って、まさか、本気で婚約するとか言わないよね?」
「あまり見くびるな。そんな真似したら、ミオリネだけでなく全員に失望される。
これでも、分かっているつもりだ。
デリングと言えば、あの時を思い出すが、今のミオリネは、あの頃の俺と同じところにいる。
そして、今まで寝てたと言っても本当に寝てたわけじゃ無い。全部の情報は入っている。時間、場所、人、全てがミオリネの味方だって教えれば良いだけだ」
「うん。ミオリネが道具であることを脱すれば良い。逆にそれ以外にはない」