ラウダの野望   作:山ウニ

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学校に通う意味を考えろ

 

 

 

「シャディク、何故、よりによってあの狂犬に頼った!?」

 

「スマン、俺がどうにかしていた」

 

「すまない。あふれ出す衝動が抑えきれず、つい、本心があふれてしまった」

 

そう訂正するも、ラウダの視線の冷たさは変わらない。

グエルはどうなのかと彼を見ると、苦笑を浮かべたまま、何の反応も無かった。

騒いでいたシャディクとサビーナも、グエルの反応を見て沈黙する。

 

「さて、我らが敬愛するベネリットグループ総裁殿の突拍子もない発案により、アスティカシア学園は大変な混乱に陥っている訳だが、そもそも、何を考えてこのような発想に至ったのか非常に理解に苦しむ。

 親バカが発動して、優秀な人物に誰からも愛される可愛い可愛い娘をプレゼントという血迷った考えか、逆に娘の将来を悲観して、ベネリットグループの総裁という地位をセットにすることで、マイナスを帳消しに出来ると考えたのか、そこのところ本人はどう思っている?」

 

知らない。知りたくもなかった。どうでもいい。

そう思っていると、呆れたように溜息を吐かれた。

 

「では、次のお題だ。パパの良いところ」

 

そんなものない。

 

「いっぱいあるだろ? パパの良いところは?」

 

「無い」

 

「照れるな。パパの良いところは?」

 

「無い! 一つも無い!」

 

「パパの…」

 

「無いわよ! 全然無い!」

 

「ふむ、ではパパの嫌いなところは?」

 

「全部!」

 

「具体的には?」

 

「横暴! 自分勝手! 傲慢! 顔が嫌い! 声が嫌い! 髪型が嫌い!」

 

「そのように思うようになった経緯は?」

 

「習ってたピアノを勝手にやめさせられたし、友達を勝手に決めたり! ありえる? そんなの友達じゃないでしょ! 今回だってそう! 私は植生エンジニアを目指してたのよ! 受験だってした! ちゃんと合格した! それなのに、卒業と同時に外に出られないようにして、勝手に進学先を決めてた!」

 

怒りに任せて不満を吐き出し続けた。何故、こんな目に合わなければいかないのか?

 

「そもそも、アンタは何なの! 呼び出されて何を話すのかと思えば、ひたすら罵詈雑言を浴びせて、さらし者にして楽しいの!?」

 

「ほう、今度は僕への不満か? 良いだろう。言いたまえ」

 

「目つきが気に入らない! 態度が不遜すぎ! 偉そう! 前髪垂らすな! 死ねって、アンタが死ね!」

 

笑いを吹き出す音に反応すれば、グエルが笑いをこらえていた。

それだけでなく背もたれにしているレネとメイジーもクスクス笑ってる。

ちなみに、シャディク達はジト目だ。

そんな微妙な空気を終わらすように、グエルが口を開く。

 

「準備運動は終わったみたいだな」

 

「うん。エナオ、アリヤに言ってミルクを貰ってきてくれ。ハチミツを入れた奴」

 

「な、なによ?」

 

「だから準備運動だ。ストレスで精神が参っていた上に、結構な長い間、会話をしていないようだからな。発声に関する筋肉が衰えている。それと思ったことをアウトプットする機能もだな。脳内で考えは出来ても、それを出力するのに時間がかかる状態になっていた。

 普通は少しずつ慣らすのだが、そこまでの長期間ではないし、強引に繋げさせてもらった。

 大声を出してスッキリしただろ? 沈黙はストレスをため込みやすい。軽度のストレス対策には大声で騒ぐのが一番だ。

 だが、言ったように運動不足だからな。急激な運動は筋肉痛になる。のどやアゴが痛いだろうが、しばらくは耐えろ。ミルクを持ってくるから、それで誤魔化せ」

 

「えっと、気を使ってくれたの?」

 

「このままでは会話が出来ないからな。それと言っておくが、死ねと言ったのは冗談でなく本気だ」

 

「最後は余計! 嘘でも冗談だと言いなさいよ!」

 

「死ねと言ったのは冗談だ。嘘だが」

 

「この…」

 

「これ以上、茶化さない。はい。グッといって。一気一気」

 

そう言いながらエナオが差し出してきたミルクを飲む。

正直、この狂人を相手にした所為で、のどとアゴが痛む。変わった味のミルクだと思いながら飲み干すと、のどの痛みが和らいだ。

 

「いま、暖かいのを準備しているから」

 

「あ、ありがとう」

 

「さて、では話を進めよう。こうして幾重にも重ねていた猫の皮を破って、口の悪い本性が露わになったわけだが……」

 

「アンタにだけは言われたくない!」

 

「その調子で思ったことは言ってくれ。まず、現状として…」

 

「ここからは俺が説明する。お前に任せると脱線しまくりそうだ」

 

グエルが溜息を吐きながら、テーブルの上を指さす。

 

「まずは置かれている状況を知ってもらう。これが何か分かるか?」

 

「企業名? 全部ベネリットグループの……」

 

「正解だ。今回の件を聞いての反応を整理している。大まかに言えば、積極的にホルダーを取りに行こうと考えている企業もいれば、様子見のとこもある。

 だが、今は様子見でも他が動けば変化はあるだろうな。例えば、父さん、ジェタークのトップは、総裁の地位にメリットを感じていない。だが、他人にくれてやるのは気に喰わんそうだ。

 そして、父さん以外も似た考えをするのは多いだろう」

 

「こいつに、くれてやるくらいなら…ってこと?」

 

「ああ。特に現在のベネリットグループは、戦争シェアリングを軸にしているが、その構造にケンカを売ってる奴がいる。

 実は地球再生計画ってのは、途中でどうしても戦争シェアリングの利権と衝突する」

 

「そりゃあそうでしょうね。ジェタークって、わざわざ戦争シェアリングの舞台の隣を繫栄させてるんだから。やってる方はバカバカしくなるか、国民が逃げ出して国力低下を招く」

 

「わざわざって訳ではないんだがな」

 

「どう見られているかって問題でしょ? あまり言い訳も通じなくなってるんじゃない?

 そこは、グラスレーを味方に引き入れて、上手くやったみたいだけど」

 

「聞いてはいたが、想像以上に聡明で助かる。

 とにかく、現在は派閥ってほどの勢力では無いが、マルタンの命名で従来の戦争シェアリングの継続派を保守派。俺たちを改革派って便宜上呼んでいるが、ミオリネの存在は、この派閥間の争いと無関係ではないな」

 

「現状、私を押さえているのが改革派の大将。保守派は奪いたいって事ね」

 

「正解だ。ただ、予想としてホルダーを取り行こうとしている企業も1年は動かない。

 理由は……」

 

言い難そうに口を閉じた。

だが、その代わりに両脇のレネとメイジーが口を開く。

 

「理由は、そのお兄さんが怖いから」

 

「まあ、自分で言ったら自信過剰に思えっけどな。でも、事実なんよ。洒落にならねえの。その人」

 

「だから、代わりに言ってやった。ああ、ちなみに主観とかじゃなく、情報の整理を手伝わされてたからね」

 

「使えなかったようだがな」

 

「「うっさい」」

 

なるほど、グエルが強すぎて、他の挑戦者が現れないようだ。

 

「それで、1年と言うのは?」

 

「やってりゃ、まぐれや偶然で勝ちってのを期待する奴はいる。実際は、そのまぐれを期待できるのはシャディクかラウダ先輩くらい。サビーナにも無理だとよ」

 

「ああ、私では奇跡でも起きなくては勝てないな。

 まして、その奇跡で得た地位を1年も守るなんて不可能だ」

 

「そうか。今からホルダーになっても、今度は挑戦者が現れるってことね」

 

「そ、グエル先輩と再戦で取り返されるなら、ボコボコにされるだけだから良い方かな。

 でも、そこのヤバい弟さんが、大好きなお兄ちゃんをコケにされて黙ってるはずないしね。女子のパイロット科の中には、調教されたくないって、泣いて拒否する子もいるみたい」

 

「この変態、何してんのよ?」

 

「何やったんだろうね?」

 

「さあ? それに、シャディクもいる。ホルダーを確保しやすい人物は、現状では改革派優勢ってこと」

 

そのタイミングで、エナオがホットミルクを置きながら補足説明をしてくれる。

先程と違って温かい。ゆっくり飲むと、のど全体に染み渡るようで気持ちがいい。

 

「もしかして私、今すぐどうこうなる状況じゃないってこと?」

 

「正解。そもそも最短でも17歳の誕生日までは、ゆっくり出来るって事だ」

 

「最短?」

 

「俺を含めて、ここにいる連中は、お前の意思を無視する真似はしないってことだ」

 

「……確認するけど、グエルもシャディクも、ベネリットグループの総裁の地位には興味が無いってこと?」

 

「いや」「ああ」

 

異なる返事が来た。シャディクは肯定。総裁の地位はいらないと。

だが、グエルはいやと、つまり総裁の地位を欲しがっている。

 

「総裁の地位は欲しい。だが、デリングの娘婿にはなりたくない」

 

「そっか」

 

これは嫌われたのか? それとも言葉通り、クソ親父が嫌いなだけ?

 

「それで話を戻すが、ここにいる連中がホルダーなら、お前の意思は尊重する。そこでお前を背もたれにしている奴らがホルダーになってもな。

 だが、何かが起こって、保守派の連中にホルダーの座を奪われる可能性もある」

 

「えっと、レネやメイジーが私の花婿に?」

 

「不満かよ?」

 

「大丈夫。私は亭主関白だから。子供の面倒は任せるね」

 

「それの何処が大丈夫なのよ?」

 

「悪いが家族計画は後でやってくれ。それで、自分が置かれた状況は理解できたな?」

 

「ええ」

 

「では、根本的な問題に目を向けようか。今までの周囲の状況ではなく、今度は自分の問題だ。

 ミオリネは、どうしてアスティカシア学園に入学した?」

 

「それはクソ親父が…」

 

「そうじゃない。お前は別の高校へ行きたかったんだろ? それなのに、何故、ここにいる?」

 

父親の意思。それに尽きる。

だが、グエルが言いたいのはそんな事ではない。短いやり取りで、彼がそんな回答を認めないことが理解できた。

おそらく言いたいのは……

 

「私が父に逆らえなかった。いえ、逆らう力が無かったってことね」

 

グエルが感心したような笑みを浮かべる。となりでラウダも、驚いたという表情を浮かべる。

おそらく、この2人にとって、ミオリネへの評価は決して高くないのだろう。

 

「イタチと思ってたんだがな」

 

「ラウダ。混ぜ返すな。悪かった。お前を過小評価していたよ。正直、俺が指摘するまで、親の所為だと駄々を捏ね続けると予想していた」

 

「ううん。そう思われても仕方がないわ」

 

イタチがどのような意味かは分からないが、実際に、自分でもそう思う。

事実、先ほどまでは、全て父の所為だと思ってきた。

 

「だったら、後は簡単な話だ。与えられた期間内に力を付ける。

 このままだと、父親の言いなりから、夫の言いなりの人生に変わるだけだからな」

 

「話は簡単だけど、やるのは難しくない?」

 

気に入らないが、父の力は強い。それに対抗する手段があるのか?

 

「そう難しく考えなくても良いさ。

 イリーシャに聞いたが、逃げ出そうとは考えたんだろ?

 だったら、最悪のケースに備えて、逃走先と手段、それに伴うスキルと人脈の確保…」

 

「それの何処が簡単なのよ?」

 

目の前の男は基準がおかしいのではないか?

 

「だから、難しく考えるな。今の持ち札で何とかしようとするから、直ぐに詰むんだよ。

 今回はダメだった。自分の行きたい進路へ進めなかった。先ずは、それを認めろ。

 次に理由だ。そもそも行きたかった進路だって、父親に学費を払ってもらう必要があった。

 そのことを自覚してるか? 父親に認めてもらってたか? 調べた限り父親との会話は無い。それなのに、父親なら学費を払って当たり前だと思っていないか? 

 そんな父親もいるかもしれないが、デリングは違った。それだけの話だ。

 ちなみに俺たちの父親もそんなに甘くは無いぞ。金を出してもらうときは、しっかりと理由を説明して納得させる。ラウダがな」

 

耳が痛い。父親に反抗しながら、無自覚に自分の望みは叶えてくれると思っている事を突き付けられた。

おまけに、気に入らない奴がやっていることを出来ないという事実のオマケつきだ。

 

「だったら、今度はどうするかの話だ。目標は決まっているんだ。植生エンジニアになりたいんだろ? 父親に頭を下げて納得させるか、父親に頼らないかの2択。

 前者は助言できない。俺とお前では親子関係が違うからな。

 だが、後者なら言える。ここで勉強しろ。それに大人になって行きたい進路へ入学したらダメって決まりも無いんだ。それに近い仕事でスキルを増やしながら金を稼いで、それから本当に行きたい学校へ行けば良いんだ。

 それを視野に入れた就職先を探せ。そこに就職するのに必要な勉強をしろ。最短じゃなくても目標には辿り着ける」

 

諦めかけた夢。諦めきれない夢。その葛藤がバカバカしく思える単純で明快な回答。

直線で行けないなら、回り道をしていけば良いだけだ。

 

「あと、友達作れ。人脈とか考えて利用できるか否かで判断するなよ。好きな奴と仲良くすれば良いんだよ。コイツが困ってたら助ける。そう思える奴を増やせ。

 そうしたら、お前が困ってるときは、そいつが助けてくれる。そいつに力が無くても、そいつの伝手で助かることもある。 

 それだけで、最初に言った逃走先と手段、それに伴うスキルと人脈の確保。逃走した先での生活手段に勉強しなおすための資金の調達方法。その選択肢がいくらでも増えていく」

 

友達。もしかすると、それが一番欲しかったものかもしれない。

そして、難題だと思っていた事が、簡単に思えてくる。

 

「最短だと17歳の誕生日になるが、そうはならないよう努力する。俺は先輩になるから、可能な限りは守ってやる。俺だけじゃない。シャディクは当然で、サビーナ達も守ってくれるさ。

 好きで入学した訳じゃ無いだろうが、学園は学園だ。学ぶことは多いし、気の良い奴も多い」

 

そこで、真剣な表情で話していたが、力の抜けた優しい笑顔になる。

 

「要するにだ。婚約の話なんか忘れて、学生生活を満喫しろ。楽しめ。それだけのことだ。」

 

目の前が広がる気がした。

何も悲観することは無かった。ふさぎ込むことも、怯える必要もない。

そして、自分の視野や思考が広がっていく。いや、途中から広がっていたのだ。

1つしか歳が変わらないのに、その経験の差から、自分より遥かに成熟している。自分の未熟さを痛感し受け止められる。

彼と話していると、何もかもを他責していた自分を恥、自分に何が足りないかを意識させる。

だから先ほども、父の所為にせず、自分の力の無さを受け入れられた。

 

目の前の憧れていた男を見る。

応援していた。尊敬していた。そんな人物。

この思いは恋? 愛?

違う、この感情こそが……

 

「……尊い」

 

「「わかる」」

 

「台無しだよ」

 

イリーシャとラウダ(変態)の同意と、レネに呆れ声が聞こえたが、この感情に間違いはない。

 

 

 

 

 

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