不本意ながら、ミオリネを失意のどん底に叩き込む計画は変更を余儀なくされた。
おまけに、今の兄さんとミオリネでは、知識や経験に差がありすぎて、会話では無様を晒すことを期待していたんだが、ミオリネが素直と言うか、何ら反抗することなく、こちらの提案に従った。
これが推し活効果か? それとも兄さんに従順な態度を見せて本気で狙っている?
ここは、気を取り直して、兄さんと本当に結婚するなんてならないよう、最大限の努力をしていく所存です。
だというのに、ミオリネを入れての全員での食事会で空気を読まず、地味子から爆弾が投下される。
「それで、グエル先輩はミオリネを女として、どう思ってるんですか?
この子、性格はアレだけど、見た目は凄く良いじゃないですか? 普通はなびきません?」
「性格はってどういう意味よ」
「今はツッコミいらないの。それでどうなんです?」
「う~ん、確かに美人だな……」
「アレ? 反応が薄い? グエル先輩って女の子の好みとかどうなんです?」
一斉に兄さんを注目する。
余計なことを……と言いたいが、実は僕も気になっている。
「好みとか言われてもな……」
「いや、普通はあるっしょ?」
ウシ娘も参加するが、兄さんの口は堅い。いや、本気で悩んでいる。
確か、原作でも水星女以外には反応が無い。この年頃の男子は、普通なら新入生が入ってくると、可愛い子がいないか話題にしたりするものだ。
でも、兄さんにはそれがない。今も困った表情を浮かべるだけだ。
「そうだな。何時までも避けては通れない話か。なあ、ラウダ…」
え? この流れって、好きな人は僕って話の流れ。OK。受け止めるよ。ドーンと来い。
「お前、自分の母親のこと覚えているか?」
「母親?」
母親って、アレだよな? どれ?
「どんな人だったかな? え~と……見た目は僕に似てたかな……」
あまり、覚えてないぞ。
「思い出とかは?」
「いや、物心がついた時には、自分の事は自分で出来たし、構ってくるのが面倒だった。
あとは、よく電話してたな。相手は多分だけど父さんで……」
物心がつく=前世の記憶を思い出すだからな。こちらと子供ボディだ。大きな姉ちゃんが寄ってきたら避けるぞ。
「内容は、僕が優秀だというアピールと、遠回しな引き取り願い……売られたのかな?」
多分そうなんだろう。ただ引き取れと言うより、慰謝料をガッポリ取ってやろうと言う考えだったんじゃないか?
まあ、気持ちは分かる。僕としては大人の精神だ。いや、あの頃は俺だったしな。さぞ気持ちが悪かっただろう。
「少しは甘えてやれば良かったかな? 思えば可哀そうなことをしてたか」
でも、幼児プレイに興味はないしな。こちらの精神が持たないよ。
あれ? でも考えてみれば、原作でも父さんに引き取られるるんだし、そういう女だったんだろう。新しい男でも出来たか? 同情して損した。
そう思っていると、空気が重くなっている。どうした?
「思ってた以上に重かった」
「え? グエルも初めて聞いたの?」
「ああ、つーか聞けないだろ。マルタンも俺たちの関係は知ってるだろ?
母親の話題は自然と避けるし、原因は父さんのアレだ。だから、その、ラウダとは異性の話題も避けていた。
そして、ラウダとは四六時中、一緒にいる訳だし、考えないようにしていたからな」
そうか。それで、ソッチ系の情緒が育たなかったって事か。原作でもそんな感じだったんかな?
だとすると、僕がいるせいで女性に目を向けなかった。
……ということは、僕がいれば女性はいらないということか? ヨシ。
「だが、何時までも逃げてるわけにはいかないしな。
そろそろ前を向かないと。俺もそうするし、ラウダ、お前も過去に捕らわれないようにしろよ」
どういうこと? 僕は過去に捕らわれてなんかいないけど?
「ラウダ先輩なら好きな人いるよ」
そう悩んでいると、ニカが訳の分からないことを言い出した。
「ちょっと待て! ラウダ、俺聞いてないぞ! 相手は?」
「いやぁ~、グエル先輩、格好良かったんですけどねぇ。一緒に前に進もうぜ、キリッって感じで。
でも、弟さんは先に進んでたって笑える」
「むしろ上から目線だったのに、裏切られてやんの」
「そこの役立たずコンビは黙ってろ」
「使えないだからな! 役立たずじゃ無えから!」
「変わらねえよ!」
ニカの発言に兄さんが慌てるが、僕に覚えはない。
つーか、ウシ娘も地味子も兄さんに馴れ馴れしいぞ。あまり仲良くするな。推し子は止めろよ。
ミオリネと推し子は何やってんだ?
「だ、だからアタシはグエル先輩を純粋に尊敬してて」
「その、尊敬する人の、意外な欠点」
「完璧に見えながら、恋愛は苦手。純粋な尊敬なら、ちょっと残念とか思うとこよね?」
「でも?」
「う……むしろ良い」
フェルシーを推し活仲間にスカウトしてるのか? 今年の新入生自由すぎん?
いかん。早く兄さんの誤解を解かないと。
「なあ、ニカ。どういうことだ?」
「え? 言ったよね? 私を地球に迎えに来てくれたとき」
「それって、オープンキャンパスの時期だよな。半年前だし、記憶は曖昧だが……」
好きな人の話なんかするか? そもそも僕は恋愛はしない。
「ホラ、私をお嫁さんにするって流れで」
「相手はニカだったか! 兄妹みたいに思ってたら、お前らそんな関係だったか!?」
「長兄から見て、弟と妹がそんな関係ってヤバくね?」
「精神的なダメージ大きすぎるでしょ」
「いや、違うって。確かあの時は……」
何でニカと結婚するなんて話になったんだ? 思い出そう。確か、添い寝をする話になって……
「ああ、一緒に寝ることになって、子供を作る話になったんだな」
「それそれ。社長さんが初孫だって」
「何で父さんには報告して、俺には無い! 甥っ子か!? 姪っ子か!?」
「落ち着いてグエル、半年前だから産まれてないよ」
「だったら、予定日は!?」
「伯父さんになるのは良いんですか?」
「問題ない! ラウダとニカの子供なら可愛いに決まってる!」
「なあ、お前らも弄ろうぜ。この兄ちゃん面白れぇよ」
「ダメ。今は布教中」
「あの様子、子供も好きみたいね」
「これが……尊いって感覚?」
「イリーシャは、その煽ってる2人を止めろ! こっちの惨状に気付け!」
崩れ落ちそうなエナオを支えながらサビーナが怒っているが、お前が止めろよ。エナオは何を寝ようとしてる。僕を助けろ。
「アリヤは何とも思わないの?」
「ん? ラウダだぞ? どうせ変なオチを用意してるに決まっているだろ」
ダメだ。周囲に助けを求めようにも、助けてくれそうな人がいないぞ。
とにかく兄さんの誤解を解こう。
「待ってよ兄さん。そもそも僕に好きな人がいるって話が、何で子供を作る話になってるんだい?」
「お前が言ったんだよ!」
そうか。そうだよな。何でこうなった?
「あの、グエル先輩、誤解だよ。私はラウダが好きな人がいるって言うから、安心して隣で寝れたってのあるし」
「そうなのか?」
「そうだったか? じゃあ、その前か……いや、ニカはいたが、会話に交ざってたか?
話し始めたのは2人になってからの気がする。その前って……」
「話してたのは、社長さんとナジ」
「何で僕が、あの2人に恋愛相談をするんだ?」
「恋愛相談じゃあ無かったと思う。え~と…」
「思い出せ。このままだと、妙な誤解が広まる」
「手遅れでしょ」
「これで取り返せると思ってるのが図太えな」
「……思い出した! 子供作る話の後、ナジが私じゃラウダのお嫁さんはダメだって話をして…」
「ああ、僕も思い出したぞ。でも、父さんは問題ないって話になったんだ。
実家が太いと面倒だから、逆にニカくらいの子が、僕と結婚して欲しいって」
「そうそう。私はアーシアンの孤児だから、派閥争いにならないので安心だって話で。
それで、あの時、ラウダ先輩が……何て言った?」
「全く記憶にない。あの時は酔っぱらいの相手が面倒だったしかない」
「ねえ、ラウダは好きな人の名前を言ったりしたの?」
「それは言ってない。入学した後、どの人かなぁって気にはしてたし、言ってたら、この人だって直ぐに分かるから」
「そもそも、僕に好きな人などいない」
「そうかな? 無意識に好きな人の特徴を言ってるのかも。
子供の頃の話を聞いて思ったけど、あんな過去があれば、受け入れてくれたグエルに依存するのも、女の人を好きになることを否定する思いがあっても仕方が無いと思う。
でも、トラウマを引きずっている感じはしないし、理性では恋愛なんかと思っていても、心の底では気になる子がいるんじゃない?」
あのさ、マルタンは何でそう説得力があること言うのかな?
兄さんが信じてるじゃないか。これで僕が否定しても、意固地になってる風にしか見えないよね。
「実際に、社長さんの望み通りの相手みたいなことを言ってたよ。その後、どんな人だって、社長さんがしつこく聞いてたから」
「何か、しつこく絡まれたことは憶えてるが……
でも、父さんの望みってことは、僕の好きな人はアーシアンの孤児だと言ったという事か?」
「そのままじゃ無かった。アーシアンの孤児って単語は無かった気がする。
多分だけど、派閥争いにはならない相手だって感じだったんじゃないかな?」
「しかしな……」
「大丈夫だ。ラウダ」
違うはずだと、頑張って思い出そうとしてると、兄さんが優しく語りかけてくる。
あの、優しすぎて怖いんだけど?
「少しずつで良い。少しずつでな。ゆっくりと自分の気持ちに向き合えば良いさ」
「おい、この兄ちゃん。またマウント取り出したぞ。さっきまでの取り乱しっぷりを無かったことにしようとしてね?」
「ラウダ先輩が低すぎたってだけで、グエル先輩が上がったわけじゃないですよ。ハッキリ言ってシャディク以下です」
「うるせえぞ」
「アリヤの予想通り、凄いオチが来たね。もう、身分がとか、釣り合いがとか、言い訳は通らないよ」
「い、いや、待て、それに私は孤児ではないし……」
「派閥争いは出来ないでしょ」
「落ち着いて呼吸をしろ。そして、現実と向き合え」
「な、なんでサビーナは落ち着いてるの?」
「ああ、シャディクがヴィム代表の考えはそうだと予想してたからな。お前でも問題ないと」
「ねえ……もしかして、私の気持ち気付いてた?」
「……バレバレだった」
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「なあ、ミオリネ」
何故か混乱が起きてた食事会が終わり、解散することになったところで兄さんがミオリネに声をかける。
「なに?」
「あと一か月もないが、俺たちは連休に一週間ほど地球へ行く。
ジェタークとグラスレーに地球寮でだが、他にも興味がある奴を誘うことになっている」
「う、うん」
「お前も行くか?」
「良いの?」
「誘ってるのはこっちだぞ。それで、参加で良いな?」
「うん」
嬉しそうにしてるんだが……兄さん?
シャディクも表情が強張ってるんだけど……サビーナは何故かエナオを介抱してて聞こえてないか。
「じゃあ、計画書を渡すから、今度、ジェターク寮に来い」
「分かった。今日はありがとう」
グラスレーの1年生トリオと一緒に離れていったが……
「兄さん、何の下準備もしてないけど? 情報拡散が今回は間に合わないと…」
「そうだな。だが、ここで誘わなかったら、後で参加しにくいだろ?」
「そうだろうけど、地球では、デリングの娘が、どう思われてるか不明なんだ。多分、いや、高確率で良くは無い。
ミオリネだけならどうでも良いけど、兄さんも悪く見られるかも?」
「俺もラウダに賛成だ。今回はミオリネについては、良い方向で情報を拡散して、次回から参加にした方が良い」
シャディクがフォローするが、その言い方は悪手かな。
ミオリネにとっては、冷たい目で見られようが、早い方が良い。
「来てもいないのに、どうやって良い情報を拡散するんだ? 普通にアーシアンを見下してるから、地球に来ないと思われるんじゃないか?」
ホラ、こう言われたら困るでしょ。もう、兄さんの為とか言っても、ミオリネのメリットを優先するよ。
「分かったよ。でも、情報を集めるから、それから判断しても遅くない。
現状の把握と、展開を予想をした後に、どうするかを改めて相談しよう。良いね?」
「ああ、それで良い」
「異議なしだ。俺の方でも調べるよ」
「頼む」
多分、シャディクのルートの方が正確な情報が入るだろうけど、こっちの兄さん大好き勢が多い地域の声を、しっかりと聞かないとね。
面倒なことにならなければ良いんだけど。