ラウダの野望   作:山ウニ

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心が痛むが、指導は先輩の役目なので

 

 

 

「そう緊張するな。操縦桿の優先権は前方にしてある。もし、墜落しそうになっても僕がコントロールするから安心しろ」

 

「ウッス」

 

連休は明後日からだが、大気圏内での移動をフェルシーに経験させるため、地球のジェタークの支社に彼女専用のギャプランを持ち込んで訓練をさせている。

理由は各地での植物栽培モデルを作るミオリネの足をやってもらうためだ。

兄さんの専用機はハンガーなしでは乗降が難しいという物理的な理由がある上に、兄さんがミオリネの足をしてたら、暴動が起きかねない問題もある。

 

その点、フェルシーなら問題ない。ミオリネとの関係も推し活仲間として良好だ。

正直、ミオリネに期待はしていなかったが、現在の心情としては数か所で良いから成功させて欲しいと思っている。

この僕が、ミオリネを応援すると言う悪夢のような状況になってしまったが、そうしないとウシ娘の呼びかけで兄さんの周囲に巨乳のモブが集まると言う地獄絵図が広がってしまう。

 

ミオリネが成功するように願掛けを込めて、フェルシーを立派なダービーウマ娘にするんだ。

じゃなく、大気圏内での機動テクを仕込んでいく。

飛行技術だけでなく、最も重要なのは着陸だ。

 

「シールドの使い方を覚えろ。エアブレーキの効果やバランスの取り方の経験値を積んでもらう」

 

ヘリが限られたスペースに着陸するには、高度な技術が必要だが、当然MSも簡単ではない。

普通はスラスターのみで制御するが、ギャプランは巨大な左右のシールドをバランサーとして使用すれば、他のMSより精密な着陸が可能だ。

その訓練に地上に描いた、的のように何重もの輪を描いたサークルに着陸させる。

僕が操縦して、見本をコクピットの内外で見せて、実際に繰り返しやらせる。

 

「フェルシーは良い子だな」

 

休憩でMSを降り、栄養ドリンクを飲む。その間、しみじみと言いながら頭を撫でてやる。こいつは僕の言う事に、素直に従い、経験を積んでいく。

かなりの長時間やらせているが、泣き言も言わずに愚直に繰り返す。

本当に、ジェターク寮(我が家)のウマ娘は本当に良い子だ。グラスレーのとは大違い。

 

「えっと、誰と比較しているのか分かるんで、素直に喜びにくい気が……」

 

「スマン。そうだな。比較するだけでもフェルシーに失礼だった」

 

「何か怒ってるみたいだけど、アイツ何したんスか?」

 

「口に出すのもおぞましい計画を立てている」

 

「えっと……」

 

スマンな。聞きたそうにしているが、とても僕の口からは言えない。

そう思って沈黙を貫いていると、何処から情報を仕入れたのか、ニカが回答する。

 

「何でも、グエル先輩の周囲を胸の大きい子で囲って、ミオリネは趣味じゃありませんよアピールするってさ」

 

「アイツ、バカなん? 正気か?」

 

「狂ってるよな」

 

「ぜってぇ邪魔する。ラウダ先輩! 訓練を再開するっス! アイツの野望を阻止するっス!」

 

「その意気だ! 始めるぞ!」

 

気合を入れなおして、訓練の再開だ。

何としてでも正確な着陸を極めて、ウシ娘の欲望を打ち砕く。

 

「えっと、でも、どうなるかはミオリネ次第なんだけど?」

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

そして当日、全体の合流時間に合わせて、ジェターク支社から現地のグラスレー支社へと向かう。

フェルシーのギャプランにはニカが乗り、僕はナジの会社の社員に送ってもらっている。

今回の予定では、ミオリネがいるので護衛が厚めになる。基本的にジェターク社がミオリネの護衛を務めるがナジの部下も信頼できる者に絞って参加する事になった。

 

「すまないな。足に使って」

 

「良いさ。むしろ御曹司の送迎を任されて光栄だよ」

 

「僕は、そんな立場じゃないさ」

 

「そう思っている奴はいない。確かに目立たないが、単に兄貴の放つ光が強くて守られているだけだ」

 

「そうかな」

 

言われてみれば、そうかもしれない。

俺だった時は、自分で何とか出来ると思っていたが、変に目立って攻撃対象になってただろう。

僕が好き勝手出来るのは、兄さんの庇護下にあるからだ。

現に、今のジェターク社は保守派にとっては明確な敵と言っても良い。でも、兄さんの存在が味方を引き寄せている。

他にも、兄さんが僕の意に反する行動をしても、結果的に上手く行く。その最たる例がシャディクだ。

僕なら潰すか手下にするしか無いのに、兄さんは対等の友人であり好敵手というのを望んだ。結果的にあいつに助けられた事は多い。

 

ミオリネもそうなるのか?

 

「ちなみに、ミオリネの護衛に関しては、不満はどうだ?」

 

「仕事だ」

 

不満らしい。だが、仕事だからキッチリやる。そんな感じか。

ミオリネは、この逆境を跳ね返せるのか?

そんな考え事や雑談をしている内に目的地へ到着する。

一緒に移動していたギャプランの内、半数が次々とMS形態に変形して、フェルシーの機体を中心に囲むように着陸する。

 

フェルシー機はミオリネを乗せて移動する予定なので、その護衛態勢の予行練習でもあった。

残り半数は上空で警戒飛行を続けている。

僕が地上に出ると、少し離れたところで父さんが待っている。周囲にいるのは、グラスレー社の幹部と地元の政治家のようだ。少し遅れてフェルシーとニカも地上に降りると、ニカが駆け出す。

 

「社長さん、久しぶり」

 

「ああ、久しぶりだ。元気そうだな。学校はどうだ?」

 

「凄く楽しいよ。推薦してくれてありがとう」

 

「俺の方こそ助かってる。ギャプランを任せてるからな。それに、マルタンの発案も良い。上手く進めてくれ」

 

「分かった」

 

「それに、上手い着地だったな。また腕を上げたなフェルシーは」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

こういうお偉い人たちが多い場所では、ニカとフェルシーは僕の後ろに控えてから挨拶をするんだけど、ニカの世間知らずが炸裂して、僕を追い抜いて父さんに挨拶する。

でも礼儀知らずに眉を顰める人はいない。逆に周囲の印象は良さそうだ。おそらくニカの出自を知っているんだろう。

 

「うん。新入生の女の子は可愛いもんだな。それに比べて我が子と来たら」

 

「僕がその2人みたいに、駆け寄って来たり、緊張して初々しかったりすると気持ち悪がるでしょ?」

 

「バカを言うな。可愛い我が子だぞ。ちゃんと病気になったと心配して医者を呼ぶさ」

 

「余計に悪いよ。お久しぶりです。父が迷惑をかけてるでしょうから、先に謝っておきます。申し訳ありません」

 

「お久しぶりです。ラウダさん。CEOには何時も助けられてますよ」

 

何度か顔を合わせているグラスレー社の幹部とあいさつを交わし、次いで、周囲にいる政治家を紹介される。

それにしても、今回はマスコミがいない。何時もは兄さんやシャディクが来る際は、宣伝を狙って事前にマスコミに知らせているんだが。

 

「マスコミがいないのは?」

 

「分かってるだろ? テロの標的になりかねん娘の移動を知らせる真似は出来んよ。

 正直、この行事に参加するとは思わなかったが、グエルが気に入ったのか? アイツが顔で女を選ぶとも思えんが」

 

という事は、ミオリネが地球に来ることは、一般には伏せられているって事か。

政治家連中も困惑が見られるし、地球でも扱いに苦慮してそうだな。

 

「アイツが地球に行きたがってるのは見え見えだったから、兄さんが誘ったんですよ。

 情報収集したのは誘った後で、地球での評判を聞いて爆笑しました」

 

「爆笑? 俺たちは、親子仲の悪さくらいで、性格を知らなかったが、あの噂がありえん女か?」

 

「趣味嗜好、更に思想も違えど、性格はデリング総裁にそっくりです。

 我が強く、人の言いなりになる奴じゃありません。ちなみに気に入ってるのは、兄さんでなくシャディクの方です」

 

グラスレーの幹部がマジか? と言う表情をする。

サリウスなら知ってるだろうが、周囲には知られていないようだ。

 

「ほう、アイツが気に入るか。会うのが楽しみになってきた」

 

そのタイミングで、輸送機を中心にしたギャプランの編隊が見えてきた。

輸送機が高度を更に下げ、着陸態勢に入る中で、赤色の機体だけが近づいて垂直に高度を下げ着陸した。

兄さんのギャプランだが、まさか、ミオリネを乗せてないよな?

マスコミがいないから良いものの、暫定婚約者と空のドライブなんて正気じゃないが……良かった。一緒にいるのはシャディクだ。考えてみれば、マスコミがいないことを知らないし、MSから降りるのも、シールド裏のリフトを掴んだりと素人には大変な作りだ。それをミオリネにさせることはないか。

 

「よう、花嫁の感想はどうだ?」

 

2人に挨拶を受けた後、シャディクに視線を送ってから、兄さんに問う。

あの、バレバレなんだけど。

 

「今、俺を見ながら言いましたよね? ラウダが余計なことを言いましたか?」

 

「聞いた。良い女なんだろうな。それで、コイツの反応が気になったんだが」

 

「面白いですね。シャディクが惚れるのも分かる気がします」

 

「知りたいのは、お前の気持ちだよ」

 

「それですが、今回の騒動で認識したんだけど、父さんの背中を見て育った所為か、女性に対して一歩引く状態だったみたいです。

 今は自分で矯正中なので、ミオリネに対しても面白い女でしか無いし、先の事は分かりません」

 

兄さんの攻撃、俺がこうなったのは、てめえのせいだよが発動。

 

「色々と見本になっただろうが、悪いとこを真似せず、良いところだけ取れ」

 

だが、父さんは笑ってる。ノーダメージだった。

 

「だが、元のお前に戻ってるのには安心した。ついでに、頑張って矯正しろ」

 

兄さん、この人に女っ気の話で対抗するのは無理だよ。

スルーだよスルー。そうすれば、僕みたいに、知らない間に好きな女がいるって話になる程度だから……って、無事じゃないな。

 

そんな話をしていると、着陸した輸送機から人が降りてくる。

班の編成は発表されているので、班長に従いながらこちらに来るのだが……

 

「酔ったのか?」

 

ミオリネを背負っているウシ娘が見える。

見るからに虚弱体質だからなぁ。

今回の主催はグラスレーになるので、グラスレーの幹部を中心に、父さんや政治家などのお偉いさんが並ぶ。

兄さん、シャディク、僕は前列に、残りが班編成に従い整列するのだが……

 

「いい加減に起きろ!」

 

ウシ娘が怒ってミオリネを放り投げる。酔ったんじゃなく、寝てたんだ。

でも、下、コンクリートだよ。頭打ったら無事じゃ済まんよ。そう思っていると、地味子が足でミオリネの頭をトラップ。コンクリートへの直撃は避けたが、人の頭を足で受け止めるってコイツは……

 

「ん? あれ? 軌道エレベーター降りてる? 地上に着いた?」

 

ミオリネも流石に目を覚まし、寝ぼけたまま周囲を見渡す。

 

「地上に着いたじゃ無え。もう、輸送機も降りた。現地だ」

 

「え? ちょっと、輸送機から地上の景色見るの楽しみにしてたのに!」

 

「知るか! 起きねえお前が悪いんだろうが!」

 

「寝れなかったんだから仕方がないでしょ!」

 

「興奮して眠れないとか、遠足前の子供か!」

 

「ち、違うって! ラウダがとんでもない仕事を回すから」

 

「そのラウダ先輩なら、そこで呆れた視線を向けてんぞ」

 

うん。呆れてるよ。でもなウシ娘よ、お前も同罪だからな。

この空気どうするんだよ。父さんとグラスレー社だけでなく、政治家のおじさん達もいるんよ。

 

「ラウダ? よし、案内して!」

 

「何を言ってる?」

 

「だから、アンタに言われた植物栽培モデル。完成したけど、現地で最終確認するから、連れて行って」

 

「ほう、少しは形になったか?」

 

「目標の場所は全部終わらせたわよ。そうしないと経済バランスが悪いでしょうが」

 

……驚いたな。頭は良いと思っていたが、全部やったのか。

どの程度の質かは確認しないと分からんが、ミオリネの言うように一部だけが進むのも問題だからな。

 

「良くやった。褒美に良いことを教えてやろう」

 

「良い事って何?……って、痛ぁっ!」

 

「って、何でアタシ!?」

 

ミオリネとウシ娘にアイアンクロー。こめかみじゃ無く、頭頂部から頭を思いっきり掴む。

 

「礼儀とTPOと呼ばれるものだ。今の状況を考えろアホどもが」

 

強引に顔をお偉いさんの方に向けて頭を下げさせる。

 

「シャディク、何時まで待たせる気だ」

 

「あ、ああ、これから1週間、お世話になります」

 

シャディクが真面目な挨拶する中、視界に入るミオリネを見ながら笑いを耐える方々。

良かったなぁミオリネ。お前は扱いに困るデリングの娘ではなく、口の悪い学友と同レベルな愉快な芸人枠として認知されたぞ。

 

「い、痛いから放して」

 

 

 

 

 

 

 

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