ラウダの野望   作:山ウニ

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その内、星々を砕くとか言わないよな?

 

 

 

 

頭の整理が追いつかない。デリングの娘だという事実と、前方を歩く少女の行動が合致しない。

到着早々、学友に乱暴な扱いを受けたかと思えば口論し、まとめてラウダに折檻される。

そのラウダに丸投げされる形で、彼女を畑や水田を案内するチームの護衛をやることになった。

ジェタークの警備部隊は扱いに苦慮しているので、自然と注意や苦言はオルコットの役目になる。

 

「おい、足元に気を付けないと、マムシがいるぞ」

 

「マムシ?」

 

「毒蛇のことだ」

 

「え?」

 

注意すれば聞いてくれる。

怯えたように慎重に歩き出すが、それも長くは続かない。

直ぐに早歩きになり、目的の場所へ行くと地面の土を調べ、手持ちのデバイスに何かを入力する。

 

「ここの水田って、水を遮断してしまえば畑に出来るのね?」

 

「そうです。土作りを兼ねて米を収穫した後はソバを作ることもあります」

 

「予想してた以上に良いわね。これなら潰してやり直しをしなくて済む。おまけに水路があるから水を撒きやすい……多分、そう使う道具があったんじゃないかな? 後で探そう。

 水田は連作障害は起きにくいけど、土の栄養の調整を考えたら、ローテーションで畑にして別の作物を作った方が良いし……ここなら、トウモロコシとネギを交代で……」

 

「あ、あの……水田は治水対策で作っているものが大半なので」

 

「分かってる。洪水にならないのは当然で、地下水の確保は優先する。それでも余裕が出来るスペースがあるから、そこを畑にするのよ。その方が同じ場所で米を作り続けるより実りも良いし、違うものが食べられるでしょ?」

 

そう言うと、次の場所へと進む。そうやって手だけでなく、顔まで土で汚しながら歩き続ける。

最終的に基本となる栽培モデルを作ると、それを地域の責任者に報告する。

何故そうするのか説明し、質問にも淀みなく答え、参加者を納得させていた。細かいことなど分からないオルコットも、彼女の指示に従った方が良いと、何となく思ったくらいだ。

 

ジェターク社が支援した地域を回り続けるが、段々とミオリネの存在が知られてきた。

地域の住人にとっては、デリングがグエルを篭絡するために送り込んできた娘だ。当然ながら彼女の行く先々で罵詈雑言が飛んできた。

言葉だけでなく、物理的な攻撃が来ないか警戒を続ける。

 

その日も、例によって罵声を浴びながら歩く。ミオリネの足となるギャプランを操縦するフェルシーも一緒だ。

そのフェルシーは罵声に怯え、ミオリネの背中に隠れるが、ミオリネは、むしろ罵声を喜んでいるように見える。

総裁の娘を盾にする傘下企業の重役の娘という構図なのだが、注意した方が良いのだろうか?

 

「お帰りミオリネ」

 

「ただいま。今日のご飯は何?」

 

寮に所属していない上に、別行動をしているミオリネは、友人などいないだろうと思っていたが、そうでもないようだ。

何人かは友人がいる。それだけでなく、前は親しくなかった相手とも笑顔で会話を交わすようになっている。

盗み聞きをする気は無かったのだが、会話の内容から察するに、初日の折檻が良い方向に作用したようで、近寄りがたい総裁の娘ではなく、悪さをすれば怒られる1人の生徒としての認識が高まっているようだ。

 

おまけに、学友には堂々と婚約に関しては無視していると公言している。

これはグエルと話し合って決めたことのようで、アスティカシア学園に通うのも、親の言いなりにならないで済むように、自立するための勉強期間だそうだ。

卒業すれば、自立して自分がやりたかった道を改めて進むと言っている。

 

これはグエルとの婚約が嫌と言うのではなく、今の自分がグエルの伴侶など務まる訳がないというのが一番の理由で、この先どうなるかは分からないが、少なくとも親の取り決めに従う気は無いようだ。

 

そして、最終日が近づく中、今日も行先で罵声を浴びる。次第に彼女への無理解に苛立ちを覚えてくる。

そんな中、ふと違和感を覚える。その理由に直ぐ気付いた。

フェルシーだ。ミオリネの背中で怯えていた小柄な少女が胸を張って歩いている。罵声は以前と変わらない。いや、酷くなっていると言っても良い。

何しろ、デリングの娘が地球に居て単独で行動していることが広まってきている。

テロへの注意もオルコットは警戒レベルを上げている。それだけ彼女を非難するために集まっている人が増えている。

だというのに、ミオリネもフェルシーも、その罵声を何処か嬉しそうに受け止めている。

 

……何なのだ?

 

まさか、ミオリネに感化されてフェルシーも強くなっている?

これが、デリングの娘、いや、ミオリネという少女の力なのか?

 

そして護衛を終えて、アスティカシア学園の生徒が待つ宿舎に戻ると、ミオリネは友人たちが待つテーブルに笑顔で向かう。

オルコットも食事のトレーを持って、グエルたちが待つテーブルへと向かって報告を行った。

 

「お疲れ、今日も大変だったろ?」

 

「いや、問題は起きなかった」

 

シャディクの労いの言葉を受け、返答する。

続けて、グエルが現状を説明してくれた。

 

「悪いが、明日までだ。耐えてくれ。

 予想では次回からは当たりがマシになるはずだ。ミオリネの提案が俺たちの予想以上に好評でな。

 これから冬に向かうが、それに合わせた作物の育て方も出している。

 次に来るときは真冬になるが、そこで成果が出ていれば流れも変わる。そして、予想では出ているはずだ」

 

「そうか。楽しみだ」

 

グエルとシャディクは治水により、この国に水と安全をもたらした。

グエルにいたっては今まで巡っていた地域で、最低限とは言え食料の自給を可能にしている。

そして今度は、あの罵声を受けていた少女が豊潤をもたらしたら、罵声を浴びせていた者はどのような反応をするだろうか。

そんなことを考えていると、ラウダが前に彼を送った際にコクピット内でした質問をする。

 

「ミオリネの護衛はどうだ?」

 

前は仕事だと割り切っていた。だが、今は違う。

 

「……光栄だよ」

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

ど、どうなってやがる?

ポツンとボッチ飯を食いながら、罵声を受けたダメージで落ち込む姿を想像してたのに、予定と違うだろ。

 

何でミオリネの人気が高まっている?

原作ではボッチだったろ? それが何で周囲に人が集まってやがる?

和気あいあいと喋ってるじゃねえか。

 

おまけに行く先々では罵声を浴びているのに、全くのノーダメージ。

いや、むしろ嬉々としている。

何故だ? こいつはMじゃなくSだったろ? ウマ娘とトレーナーさんを脅して良い笑顔してたじゃないか。

罵声にへこんでたのも、そのフェルシーだけだったし、それも今では元気になっている。

まさか、新入生の間では、罵声を受けるのがトレンドなのか?

今日はこんな罵声を浴びたww なんてのが流行っているのか? いや、それは無いだろ。

無粋な気もするが、彼女らの会話に耳を澄ます。

 

「フェルシーもすっかり大丈夫になったわね」

 

「まあね。意味を知った今じゃあ逆に高揚するくらいだ」

 

「当然ね」

 

「正直、羨ましいよ。俺も同行して罵声を浴びたいよ」

 

「「「同感」」」

 

おいぃぃぃぃっ! 何だ? 何なのアイツ等!? 変態!? 変態集団!?

 

「まだ、石は飛んでこないの?」

 

「ええ。残念だけど言葉だけね」

 

「投げて欲しいんだけどなぁ」

 

「後1日、明日が最後のチャンスね」

 

変態だぁぁぁぁ!?!? 変態がいる!? 罵声が好き!? 石を投げられたい!? 

お、お前等、アレがどんだけ辛いか知ってんのか? 僕は泣きたかったよ。反撃したかったよ。

でも、兄さんが黙って耐えてるから、僕も頑張って…………………………ま、まさか!?

 

「でも、そう考えると、明日で最後か」

 

ミオリネを中心に集まっているメンバー。全員が1年生だが寮はバラバラだ。

フェルシーとトレーナーさん、更に地球寮の男子2人はいるのにニカはいない。

推し子はいるのに、ウシ娘と地味子はいない。

アイツ等はむしろ距離を取っている。巻き込まれたくないという気配を感じる。

 

「そう。終わる。かつてグエル・ジェタークが辿った道のりの再現」

 

こ、こいつら、変態なんかじゃない! こいつらの正体は!?

 

「聖 地 巡 礼 の旅が」

 

推し活仲間だった!!!

兄さんを推す活動が、何か宗教行事みたいになってる!?

確かにあるよ。推しが行った場所に行こうってノリが。でも規模が大きすぎるだろ?

 

い、いや、そういえば、推し活と宗教活動は似てるって聞いた事があるな。

一種の依存症。好きなアイドルへの高額プレゼント。もっと分かりやすいのがYouTube等でのスパチャと呼ばれる行為は、それを行う事で相手に認められるという高揚感が得られる。

そして、その心理は悪徳宗教への高額献金と同じもので、金銭を払う事で神に助けられると信じ込む。

他人から見ればバカバカしいが、当人はその行為をしなければ、ふさぎ込み、心を病んでしまう。

洗脳というが、心の依存症と言ったほうが正しい。麻薬と同じ。だから抜け出すのは難しい。

 

何てこった。兄さんが新宗教の神に……………………あれ? 宗教? 依存症?

そう言えば、推し子って、前は儚げちゃんだったよな?

何でそう思った? やる気のない表情? いや、あざとい女キャラだって印象で……何故そう思った?

最初に見た時を思い出す。私服だったが、今は何かが欠けている気がする。

 

………………………………………………………………ぬいぐるみ。

 

そうだ。ぬいぐるみを持っていない。

原作の儚げちゃんは、ぬいぐるみを何時も抱いていた。

そうだ。キャラとして見れば、単なるキャラ付け。好きな奴は好きだが、好みじゃない僕にとっては、あざとさが目立つから儚げちゃんだった。

再会したときは、ぬいぐるみを持っていなくても、兄さんの推し活をやっていることが印象深いので、そのまま推し子と脳内では命名していた。儚さが薄くなっていても気にしなかった。

 

僕は何時まで周囲の人間をキャラとして見てるんだ。目を覚ませ。ここにいるのは人間だ。

キャラでなく、人として見れば、ことは単純ではない。

いい年をした少女が、何故ぬいぐるみを手放せない? 子供が手放せないのは?

さみしさ。不安。何かへの依存。

 

何故、兄さんが、あの3人に甘いのか? 僕が感じた既視感の正体。

気付いていた? 兄さんを見るが、あの3人を気遣っていない。じゃあ、気付いてはいないか。

だったら、経験から何となく察したか。それで無下に扱えない。甘い対応になる。

そして、あの3人が兄さんに懐く理由も納得だ。

 

アイツ等は戦災孤児だ。ニカと同じ、下手すればそれ以上のトラウマを抱えていてもおかしくない。

いや、シャディクの計画に付き合おうとしたくらいだ。まともな訳がない。

 

兄さんは、多くの難民の子供や、心に傷を負った戦災孤児と接している。そして懐かれる。

僕が兄さんに近付くなと殺気を送っても関係が無い。兄さんに惹かれていく。

理由は見当が付いている。兄さんのカリスマを強くしたのは、未来へのヴィジョン。

僕が誘導したのもあるけど、兄さんは目標を定め、未来を描いてから行動する。

その存在は、将来への不安が強い、戦災孤児への特効になる。

 

彼女たちが付いていこうとしていた、シャディクが目指した道は途中で消えた。

今度は、何となくで新たな道に付いていこうとしていたが、僕が余計なことを言ってしまった。

そのせいで、レネとメイジーは不安定になってしまったんだ。

そして、その不安定な状態で兄さんが目覚めるのを見た。

彼女らにとっては、強烈な光だっただろう。近付きたいと思っていた所に隙を見せた。そこに食らいついた。

エナオの予想と大きくは違わないが、より深刻だと言える。

 

その点、イリーシャは、既に新たな依存先を見つけていた。

オープンキャンパスで兄さんを見てしまった。何かを感じた。そして、深く知りたいと思ったんだろう。

そこで、下手な調べ方をすれば、妙な方向へと行きかねない危険がある状態だ。

不安から依存先を見つけようとする状態。こんな時に人は悪徳宗教に引っかかる。

 

だが、幸運にもグエル・ジェタークを良く知る人物が同級生にいた。

悪徳宗教のような変な要求はせず、ただ話をする。ただ話を聞く。それだけで心の平穏が保たれる。

兄さんが高額スパチャを求めるような輩と違うのもあるが、イリーシャを導いたのはミオリネだ。

悪徳宗教ではなく、自分を不幸にしたり、他所に迷惑をかけない良い宗教に出会った感じか。

 

ニカもだが、レネとメイジーは、グエル教ミオリネ派はノリが合わないと思ったか、距離を置いている。

ニカは大丈夫だろう。現状では僕と接するときの距離感が近すぎるが、ずっと一緒にいなければダメだという訳ではない。やがて、完全に自立できる。

 

だが、レネとメイジーは、しばらくは兄さんと一緒にいる時間が必要かもしれない。

レネの過度なスキンシップに、男子高校生には特効となる遊びで良いよに耐えてもらう必要があるが、兄さんには頑張ってもらおう。

まあ、耐えきれない可能性もあるから、アス高に戻ったら、アイツ等の症状について相談しよう。

いっそ、ミオリネに面倒を押し付けたいが、ノリが合わんものは仕方がない。

 

それにしても、ミオリネに宗教指導者の才能があるとは。

まあ、兄さんを崇めるのは悪いことではないしな。

それに、兄さんに同行した使徒とも言える僕との格の違いも分かって良い。

精々、神の足跡を辿るだけだし、所詮は信者に過ぎない。

信者では、どれだけ頑張っても教皇どまり…………………………あれ? 何か強そう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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