「ああ、通りで何か知った感覚だと思ったんだよな。邪険に出来ないというか。
おまけに、ラウダも何も言ってこないし」
「何か言ったらダメだって感覚があったんだよね。それで気にはなってた。
それで、地球で会ってた難民の子供や戦災孤児と、兄さんが遊んでいる時の状況に似てるって気付いた」
アス高に戻り解散した後、寮長室で相談という体でグラスレーの1年生トリオについて話す。
兄さんも僕と同じような感覚を味わっていたらしい。
「ゴメン。僕が迂闊だった。あのまま、シャディクに甘えさせといた方が良かったかもしれない」
そうすれば無視できた。
でも、知ってしまったら話は変わる。放置は僕ではなく、兄さんの精神衛生上よろしくない。
「それはそれで良くは無いだろう。俺たちに直接の被害は無くても、不安定な爆弾だって事実は変わらん」
「爆弾か……シャディクは、知って誘ったのかな?」
「いや、そこまでは気付いていないだろ。不安を不満として感じ取ったんじゃないか?
知ってたら、フォローをするだろ。やってる事は放任と言うか、俺に懐いてるのを見て安心している感じだし」
「それ、不安定なことを薄々察してたんだよね? 迷惑な奴」
「アイツの場合は純粋に怒りだけだったんだろうな」
「だろうね。理不尽な世界に対する怒り。それを胸に抱えながら、恵まれた環境に耐えきれなかった。
壊してやりたい。その感情を持て余したんだろうね」
「イリーシャ達は不安の方が大きかったようだし、普通はそうだよな。レネも怒りが混じってそうだが、不安を抑える強がりにしか見えん」
「シャディクと違って可愛げがある?」
「まあな。シャディクの場合、不安に怯えるなんて無かったんじゃないか?」
そんな気がする。恐怖も不安も怒りで破壊衝動に変える怪物がイエル・オグルだったんだろう。
アイツが怯えるとしたら、ミオリネによって人間に戻されることだろう。だから距離を置いた。
ある意味ではミオリネに恐怖したと言える。
「問題は、あの3人のメンタルケアだね。イリーシャは、このままミオリネに任せておけば良いと思う」
「いや、俺としては俺の推し活とか恥ずかしいんだが……」
「聖地巡礼とか言って、喜んでたね。フェルシーまで巻き込んでさ」
「何で、こうなった?」
僕の方が知りたいよ。兄さんと違って、僕は原作知ってるからね。ギャップが酷いんよ。
「ミオリネの活動は害が無いんだから我慢してよ。むしろ、似たようなことを悪質に変換して行動する奴が出てくる可能性を心配すべきだよ」
「そんなのがいるか?」
「地球での調査は始めた」
ベネリットグループでの改革派の勢力が高まっている現状、攻撃の理由になる勢力は看過できない。
有名人の威を使って悪さをする人間は必ずいると言って良い。
そして、拙いのがいたら処分する。兄さんを利用して欲を満たそうとしただけで万死に値する。
「問題は残りの2人と、どう接していくか。
それを考えたら、イリーシャを引き取ってくれたミオリネには感謝だよ」
「お前がミオリネに感謝するとはな」
「ホントそれ」
不本意ながら、ミオリネのお陰で、3人の中でイリーシャが一番まともな相手になっている。
ストッパーとしては弱いが、あれが依存心丸出しで迫ってきたら怖いだろ。
「シャディクに相談するか」
「当然、それは伝えるけど、シャディクだって今の状況をポンと伝えられても困ると思うよ。
最低でも、少しくらい提案はしないと」
「提案と言ってもな」
「大変なのは分かるけど、普通に戦災孤児を相手にしてると思うしか無いよね」
「だがなラウダ…………あれは凶器だ」
「レネのこと? 興奮してた?」
「……しないわけがない。俺の理性が削れていくんだよ」
「まあ、今まで会った戦災孤児にはいないタイプだからね」
地球で会うのは、もっと幼いのが多い。兄さんに恋してるような子もいるけど、ローティーンだし、それも栄養が足りなかったせいか貧相な体型だ。
それに比べ、グラスレーはしっかりと食べさせているから、実に育っている。
「一応、言っておくけど、レネの遊びで良いを信じたらダメだよ。
嘘を吐いてる訳じゃ無いけど、一度関係を持ったら普通に依存しちゃうよ」
「やはりダメだよな…………」
揺れてるな。
でも気持ちは分かると言うか、童貞の男子高校生が1つ下のナイスバディな後輩に付き合ってくださいと言われて断る奴がいるであろうか? まして、肉体関係OKの前提で。
断言しよう、顔や性格に多少の欠点があろうが付き合う。
ここは、暗い未来を提示することで、欲望に流されないように釘を刺しておこう。
「依存しながら生きていく事に慣れると、依存先が急にいなくなると壊れてしまう。
一生面倒を見るつもりでも、人なんだから生きてる限り何があるか分からない。最悪、事故で死ぬことだってある。
今のレネが、最も自信を持てるのはスタイルの良さだと思うけど、肉体で篭絡する術を学んだら、それを使って新たな依存先を探していくだけだよ」
ホスト狂いのパパ活女子爆誕だな。
おまけに、あの性格だとジェターク社の代表の正妻は荷が重いと考えそうだ。ましてや、その先の地位を考えれば尚更だ。
多少は図々しさが必要だが、図々しさの方向が違う。メイジーとイリーシャも同様だろう。
僕が知る限り、務まるのはミオリネくらいか。でも、勧めたくはないな。
水星女は図々しくは……ないよな? 小心者だったはず。
「理想は依存せずにすむ自己を確立させること。次点で安心できる依存先を見つけること」
さあ、目標を提示したよ。これを達成するのに、やったらいけないことはなんだ?
「分かった。だよな。欲望に負けてる場合じゃないか。
前提として色仕掛けは通じないと思わせなきゃな。後は別の事で自信を持ったり、本当にやりたい事を見つけさせる。
何か参考が欲しいな。サビーナ達はどうなんだ? シャディクへ依存してるようには見えないが?」
「サビーナの場合は、シャディクに似ているというか、あそこまでは無いけど、元から不安より、世界に対する怒りが強いかな?
でも、本来はシャディクと違って、破壊衝動ではなく、義憤に燃えるタイプだと思う。
何とかしたいけど、彼女の能力では無理だからね。その力の無さに無力感とストレスを感じてたところ、シャディクの破壊衝動に惹かれてしまった。
そのシャディクが破壊衝動から醒めて、どう良くしていくかを模索し始めた。彼女も文句を言いながら、今の流れにノリノリでしょ」
「うん。参考にならないな。エナオは?」
「何なのかな? 良く分からないんだよね。
トラウマはあったと思う。あの手の感情を見せないのは、笑顔のみのメイジーと根本は一緒だから何らかの恐怖や不安で苦しんでいたとは思う。
でも、昔と違って、普通に笑ったり感情も分かりやすくなってるし、改善はされてるんだけど、その理由は分からないな。仕事にやり甲斐を見つけたとか?」
「俺が思うにラウダ。エナオはお前の事が好きなんじゃないか?」
え? なに言ってんの? またマウント取りに来てる?
それとも、そういうことにして、1年生トリオを押し付けようとしてる?
「兄さんは直接見てたよね。僕がサビーナとエナオと戦ったのを。
あの時、僕がエナオに何したか覚えてる?」
「…………ビルを解体して下敷きにしてたな」
「徹底的に恐怖を刻んでやろうと思ってたし、それで死んでも良いやでやったよ。
そんなことをした相手を好きになる訳ないでしょ。
言っとくけど女の子に乱暴をしたらダメだよ。暴力で勇ましい所を見せても、怖いだけで頼もしいなんて思わないから」
「で、でも、その後、仲良くやってるじゃないか。こう、時間をかけて育んだというか」
「こういうの、あまり言うべきじゃ無いんだろうけど、エナオって恋愛はしないって言ってるんだ」
「そうなのか? 誰が言ったんだ?」
「エナオが」
「誰に?」
「僕に」
「何時?」
「オープンキャンパスの後だったな。確か、次の長期休みの計画書を作るのを教えてた時だよ。
その時、僕とエナオが変な噂になってたから、一緒にいると拙いかなって話をしたんだよね。
そうしたら、恋愛はしないから大丈夫だって」
「……好きな相手に恋愛をしないなんて言うか?」
「言わないでしょ。だからエナオが僕を好きだってことは無いよ」
何だろう? 自分で言って何だけど、傷つくというか、ショックがあるな。
「そ、そうか……今回も違うのか。自信が無くなるなぁ」
「僕には言われたくないだろうけど、兄さんは恋愛下手を自覚しようね。
それにしても、恋愛をしないなんて言うんだから、やはり何らかのトラウマがあるのかも」
「そうだな。うん。恋愛を避けるくらいだから。何処か問題が残っているのか」
「まあ、現状では問題は無さそうだけど…って、エナオで思い出したよ」
前にエナオと計画書を作っている最中に、魚を食べたかったって話をしてた。
お陰で思い出した。早めに準備をしないと。
「兄さん、次回の長期休みの企画だけど、造船所を作りたいんだ。
現在、稼働中の船舶と必要な船舶を調べたい。それに合わせて建造と修理ドックを見積もる」
「造船? 何でまた?」
「ミオリネが頑張りすぎた。あれだと輸出入で船舶が動く必要が、近い内に来る」
「確かに食料を空輸は割に合わんか。良い案だが許可が出るか? 畑違い過ぎないか?」
「許可はもぎ取るよ。ミオリネだけの問題じゃないしね。絶対に必要だ」
「分かった。お前がそこまで言うなら反対する理由はない」
「それと、その件の流れで、サリウス代表に面会したい。その際にレネたちのことを相談してアカデミーでの資料も貰えないかシャディクに相談して欲しい」
「なあ、それって、レネとメイジーを俺が面倒見る流れか? 決定か?」
「そうなるね。シャディクが、あいつ等は渡さんと言ってくれるのを期待しても良いけど?」
「無理だろうな。普通に見落としてたことにショックを受けるだろうし、経験も無いから頼まれることになるだろうな。
特に今回はダイゴウの件で借りを作ったばかりだし」
「早々に返せることを喜ぼうか。
ついでに造船所ともなれば、次のジェターク主催だけでなく、その次のグラスレー主催のでもやってほしい。
そうなると、僕とエナオが共同で作業するし、ここを使う事も増える。
その際は、レネ達も突撃してくるだろうから、相手は俺に任せろとでも言ってくれれば」
「俺に任せろって、あの凶器攻撃に耐え続けるくらいしか出来ないぞ。何か手は無いか?」
「当面は、MSでボコれば良いんじゃないかな?」
「…………お前、そこまで堕ちてたか。今までの会話から、アイツ等の状況に気付いて、気を使ってると信じてたのに」
「あのね。僕だって人の心くらいあるよ。大きくはないけど。
そうじゃなくて、自立するってことは、大人になった際に働いて食べていける能力を身に着けることでしょ?
アイツ等は政治的な能力は皆無だけど、MSのパイロットとしての才能はあるんだし、それを磨けばどうにかなるんだから」
アス高でパイロット科の生徒が少ないことが証明しているが、パイロットの才能がある人材は希少だ。
それがあれば、食っていける才能なんだよ。
「やりたい事と食べていける道が一致するなんて、逆に珍しいからね。生活する技能は必須。
イリーシャがそうだけど、仕事と趣味を分けて、仕事の能力だけでも鍛えてれば良いんじゃないかな」
「な、なるほど、その手があったか。
それに、過度なスキンシップも格闘術の訓練の方向に持って行けば……はダメか?」
「いや。あまり痛くしなければ、ありだと思う。
懐く理由に頼り甲斐があるから、痛かったり怖がらせたりしなければ。
子供のライオンに絡まれるお父さんライオンの方向で」
「よし、任せろ。早速シャディクに相談してくる」
「あの、ゴール地点を忘れちゃダメだよ。依存しないで済む方法も見つけなきゃだからね」
「それは慌てる必要もないから、相談にでも乗ってやれば良いだろ?」
そうだけどさ。訓練相手が出来ると思ったせいか急に元気になるな。
やはり、兄さんは僕より恋愛下手だよ。