ラウダの野望   作:山ウニ

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デリングは敵だよ。救助対象じゃないからね

 

 

 

インキュベーション・パーティも終わり、日常に戻る前にエナオと勢力図の擦り合わせを終えた。

ファルネオ社は、無事グラスレーの勢力下に収まる見通しだし、シャディクに押し付けたと思っていた娘は、何か兄さんに脳を焼かれていたそうだ。

まあ、あの日は道具として、たらい回しにされていたし、そこに兄さんの言葉だ。彼女の気持ちを考えればそうもなるか。

入学は僕たちと入れ替わりだし、ミオリネに任せよう。

 

そのミオリネも、婚約騒動から実質解放されて喜んでいるし、兄さんVSデリングの会話を録音したデータを渡した際には、教典ゲットとはしゃいでたから大丈夫だろう。いや、別の意味で大丈夫かと言いたいが、害は無いのでヨシ。

 

ペイルに関しては、謎が深まったと言える。

何となくだが、4BBAに関しては、既にベネリットグループに見切りを付けているんじゃないかと思う。

そう考えないと不自然なほど、リアクションが無いのだ。

あれを説明するには、当事者意識がなく、俯瞰して見ているというしかない。

何とかして、オリジナル・エランと繋がりを持ちたいが、学園のエランには期待できない。

奴にとって、僕は利用価値があると思われただろうから、向こうから接触を待つしかない。

逆に、それが出来ない程度の人物なら、僕にとって利用価値が無い。こういう無機質な人間関係は実に良い。

 

なお、情報の擦り合わせ時には、学園のエランとは別人な気がするとは、全員に伝えてある。

その結果、インキュベーション・パーティに替え玉を送る意味も無いので、学園にいるエランがペイルの後継者ではないとの見解の元で様子見となった。

 

デリングの思惑は不明のままだが、周囲の目には保守派の代表で、それに反抗するのが、兄さんを代表とするジェターク・グラスレー連合として映っている。

そんな訳で、勢力抗争に関しては、地道に進めるしかない。取り込めるところは積極的に取り込んでいく。

既に早すぎる展開だし、来年あたりは反動がやってくるだろう。

ホルダーに関しても、ミオリネが逃げると分かっていても、取りに行くことでデリングへの忠誠を認められると思うだろうし、改革派トップの兄さんを倒すこと自体に意味を見出せる。

 

それらの情報を擦り合わせた後、グラスレー組が帰り、寮長室に2人になったところで兄さんが呟く。

 

「デリングか……」

 

「どうかしたの?」

 

「いや、久しぶりに会ったんだが、何でかデリングの事を嫌いになれないんだよな。

 ミオリネの件で精神的に振り回されたから腹は立てたけど……」

 

なに言ってんの? 

 

「そりゃあ、そうでしょ。アイツってシャディクみたいなもんだし、兄さんは好きな部類だよ」

 

「シャディクと? いや、全然違うだろ? それに、お前はデリングのこと嫌ってたよな?」

 

「えっと、勘違いしてるみたいだけど、デリングの事を好き嫌いで判断した覚えは無いよ。

 単に、アイツがベネリットグループという、営利団体の長や政治家として相応しくないと批判しているだけで、軍人としては評価している。

 まあ、能力があっても軍人が独断専行を行った時点で、その点でも落第だけどね」

 

「そうだったか? シャディクに似てるってのは?」

 

「似てるというより同類。いや、進化系かな。進化した分、シャディクと違って違うルートに辿れない。

 仮にシャディクが予定通り革命ゴッコを続けて、おまけに生き残れば、デリングになっていた」

 

「いや、でもアイツの場合は……」

 

「同じだよ。シャディクは、是正されない格差や貧困に飢餓。この閉塞した世界を憎んだ。

 その結果、世界を壊したかった。少しでも良くなることを願い、自分の身を捨てた。

 この、自分の身を捨てるってのが問題だって気付かずにね」

 

普通は美徳と思われる滅私の心って奴だが、実際は大きな落とし穴がある。

自分がいない未来の想像なんてリアリティが無い。だからいい加減な未来を描く。

 

「デリングは前半生を優秀な軍人として生きてきた。

 でも、軍人には優れた政治指導者が必要なんだ。何といっても軍人は実行役で、使う相手に恵まれなければ地獄だよ。

 そして、デリングは恵まれなかった。政治家でなく政治屋だった。

 宇宙議会連合という、フロント間の調整目的で作られた機関にも関わらず、タカ派なんてものがある。意味が分からないよ」

 

国家間政治においては、自国を第一に他国を蔑ろにするのをタカ派、自国が引いて相手の顔を立てるのをハト派と言って良いだろう。行き過ぎれば、タカ派は敵を作り外敵にやられ、ハト派は損ばかりで内部崩壊。だからバランスが重要となる。

でも、宇宙議会連合は調停役だから、そんな区別は本来は生まれない。それなのに生まれた。

 

「国ではなく、自分の顕示欲に政治を使ってる。おまけに民主主義は短期で結果を出さねば支持は得られない。

 そして、短期的に利益を得るには植民地化だ。そのままでは無くても、それに近い状態にして利益を得て支持を得る。

 だから、アイツ等は政治屋で、デリングはその存在を憎んだんだろうね。だから、軍人を辞めた後、グラスレー社に入った。

 経済学の父、アダム・スミスが唱えた政治家の正しい道を行わせるため」

 

アダム・スミスは政治家に強い指導力は必要ないと考えていた。

あくまで、治安の維持を始め、経済が円滑に回るためのシステムを守る存在だと。

 

「ベネリットグループを作り、戦争シェアリングで争いのコントロールを狙った。

 宇宙議会連合が口出しできない態勢を作り上げた。

 調停役でありながら気炎を吐く、タカ派と言う承認欲求しかない俗物が、何も出来ない環境を構築した。

 そこは評価できるんだけど、やはり、アイツは軍人でしかなかった。

 指導者に必要な未来への展望が、ネガティブすぎたんだろうね。

 兄さんはデリングに未来を考えていないって言ったけど、少し語弊があると思う。アイツだって未来は想像する。

 でも、軍人が想像する未来は、僕たちが言う未来と異なる。兄さんは戦闘前にどんな予想をする? それに経営戦略にさせてる?」

 

「最悪の展開、これをやられたら困るって予想。

 そうか、アイツの描く未来は、こうなりたいじゃなく、これだけは避けたいって未来なんだな。

 結果として、最悪を避けられたから、これで良いだろうって世界しか作れない。

 戦争シェアリングなんて、その典型だな」

 

「うん。でも、戦争シェアリングに関しては、別の一面もあったかもしれない」

 

「別の面って、植民地じみた搾取をマシにする以外にあるのか?」

 

「想像だけどね。デリングはドローンに否定的だし、兵器は人殺しの道具であるべきだと明言している。

 何より自らの手で殺めて罪を背負う事ことが必要だとね。

 そして、デリングはそれを実行し続けているんだけど、この言葉は暗にドローンの使用者や自らの手を汚さずに、なにより人を殺した罪の自覚も無いまま殺人を命じた者を批判しているんだと思う。

 それって、裏を返せば、他の人も手を汚せば、自分のように人殺しを厭う気持ちになると信じていた。

 そうなれば、戦いは膠着状態になると信じるまでは行かなくても、期待してたんじゃないかな?」

 

「それって、シャディクが計画していた冷戦状態と同じ状態になると思っていたって事か?」

 

「戦争シェアリングの構造は、アーシアン同士が手を結べる前提なら、シャディクの計画より、遥かに膠着状態になる可能性が高いんだよ。

 同盟を結んだり、離間を謀ったりと、血を流す前にやれることが多くなるからね。

 軍備の増強はするけど、使用は時期を見計らって同盟者を増やすとかね。これなら、急に兵器が売れなくなってジェターク社(うち)みたいな家業が、いきなり潰れることも無い。いきなりだと反発も必至だし、ゆっくりとした売り上げの減少が進むのが狙いだった。

 だから、売り上げが下がるのなんて、最初から想定済み、いや、期待していたんじゃないかな?」

 

「見通しが甘すぎるな。戦争に慣れているんだ。引き金が軽い上に、自重はしない。

 ただ、シャディクのよりはマシか」

 

まあ、シャディクのやろうとしたことは、アドステラをコズミックイラにしましょうだからな。

いや、戦力差が地球と宇宙で逆だから、それにさえならんか。

 

「シャディクは、デリングまで届いていなかった。未熟だったと言える。

 でも、根っこは一緒で、戦争シェアリングによる最悪と思っている世界を壊したかった。それが優先で後の事はこうなって欲しいという期待と言うか願望に近いかな。

 でも、ある意味、未熟だったから方向転換が出来たとも言える。

 そして、共通して言えることは、未来に自分の幸せは描いていない」

 

2人とも、ミオリネとの幸せな未来を描ければ良かったんだろうけど、それが出来なかった。

まあ、ミオリネの呪いともいえるな。全部、ミオリネの所為だ。

 

「俺が言った孫を抱けないなんて、通じないよな」

 

「私の手は血にまみれている、とか言って、最初から孫を抱く資格なんて無いと思ってるんじゃない?

 それどころか、娘のミオリネを抱くのも拒否してた可能性もあり」

 

「ありそうだな」

 

可愛い娘だからこそ、自分が抱くなんて許されないとか思ってそう。

それが高じて、あの親子関係を築いたんじゃないか?

実際はミオリネはファザコンだし、デリングは娘のこと大好きだし。

 

「だからこそ、兄さんには未来を描いてほしい。

 この世界の問題はそこなんだよ。未来を描きにくい状況なんだ」

 

かつては多くの人々が未来を描いていただろう。

でも、今は違う。水星で掘削が始まった頃は先があると思っていたが、過酷な環境に立ち止まり、月でパーメットが発掘されると、地球の近くに戻ってしまった。

そう、戻ってしまったんだ。

 

だから、未来を思わない。前を見なければ後ろを見るしかない。

それは、上を見ないで下を見るに等しい。アーシアンへの蔑視感情への根底はそこにあるのだろう。

上を見ている内は気にも留めなかったのが、上を向けないものだから、下を見て留飲を下げる。

 

「田舎から一旗揚げようって出て行って、大物にはなれず、かと言って失敗した訳でも無い。

 そこそこの成功者が、田舎を食い物にしながら威張り散らしてるのが、スペーシアンの現状さ。

 威張るなと言っても効果は薄い。方法は、もう一度挑戦すること」

 

「ああ、分かっている。全員で前を見る。全員で宇宙へと上がるんだ。

 問題は何時、他の連中にも伝えるかだが」

 

「アリヤのケースは稀だよ。彼女は自分が描いてた未来が、僕たちの描く表向きの未来ではなく、真の未来に近かったからだし」

 

アリヤには罪悪感があった。前を見る事への。

そこは僕たちと異なるけど似ている。だからこそ、迂闊に他人へと漏らすことは無いと信じることが出来る。

でも、彼女以外の人は、僕たちの真の目的に、否定的なら裏切り者だと断罪し、肯定的でも他の人に伝えることが正しいと思い込む。

 

「分かっている。今は表向きの未来を見せておく。

 自分で、その先を見だすものがいたら、仲間に加えるけど」

 

「それは無いと思って良い。だからこそ、勢力を強くする。

 兄さんの言葉に誰もが耳を傾けるようになってもらわないとね」

 

「それでデリングに挑ませたんだろ?

 奴が打倒すべき相手だって事は理解しているさ」

 

それでも、何処か声に力が無い。

兄さんの悪い癖だ。デリングの事も助けたいと思ってるのだろう。

でも、兄さんがそうしたいならそれが正しい道だ。僕はそれに従う。

 

 

 




22話で思いっきり抜けているのを感想で書かれてビックリ。

元データは消えてるし、何を書いてたか忘れたので、こんな感じだったというのを追加しました。


申し訳ありませんでした。
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