「やはり、宇宙では寂寥感を感じ、海中では安らぎを感じる方が多いみたいだね。
逆のパターンは少数派だったよ。兄さんは別枠だけどね」
長期休みでは、仕事が無い日の生徒を誘って、ジュネーズやスキューバダイビングの装備で海中を経験させてデータを取ったが、アリヤやエナオといった極少数が海中に圧迫感を感じたが、ほとんどは安らぎを感じると好評だった。
そのこと自体は良い。海に安らぎを感じる人間が少数だと、民間軍事会社の老後問題を改めて考えなければならないので、問題が増えることは無かったと言えるだろう。
更に、アス高に戻った後、その中から何人かを宇宙服で宇宙遊泳させると、海中に圧迫感を感じると言ったアリヤやエナオは宇宙では解放感を感じると返答したが、海中に安らぎを感じる僕やシャディクのようなタイプは、寂寥感を感じた。
この時点で将来的な不安が出てくる。考え方による対立の可能性だ。
なお、兄さんは海中では安らぎを、宇宙では解放感を感じるようなので、改めて何処に行っても生きていける人なんだと実感した。
「全員が俺やアリヤみたいになる必要があるってことか?」
「いや、色々な人がいて、それを認める方向が良いと思う。あと、兄さんは別枠だから」
サラッと自分を常識人に入れようとしたので釘を刺しておく。
兄さんの特性は悪い事では無いけど、それを普通の事だと思うと弊害が生まれる。
問題は、分かりやすく、僕やシャディクをオールドタイプ、アリヤやエナオをニュータイプと定義すると、そこで対立構造が生まれかねない危険を抱えている事だ。
兄さんの真の目的である宇宙進出計画において、望まれる特性はニュータイプの方だが、これを正義だと強引に推し進め、オールドタイプの意見を封殺すると必ず反動がある。
最終的に、お約束とも言える地球帰還計画のような動きが出てくるので、これを封じる必要がある。
「これは、資質の差ではなく、趣味の違いでしかない。そう言い張る。実際に脳の仕組みを調べたところで、その程度の差しか生まれないと思うよ」
観光を趣味にする人がいても、その中でも城や寺社などの人が作り上げた物を好むタイプもいれば、大自然が作り上げた景勝地を好むタイプもいる。
僕は前者だが、前世での観光スポットでは自然派の方が多かったと感じる。
「考えてみれば、宇宙って娯楽が少ないよね」
「そうか? ゲームに賭博に…」
「いや、デートや友人と一緒に行く楽しむ場所なんだけど」
この世界に転生してからは仕事中毒だったので気にもしなかったが、はっきり言って娯楽が少ない。
当たり前だが、歴史的建造物も無ければ、自然景勝地などある訳が無い。
アミューズメントパークかショッピングくらしか楽しむところが無い。
でも、これは僕が前世持ちだから言えることであって、兄さんは気にも留めていない。おそらく兄さん以外も同じだろう。
でも、これが巡り巡って、性格の悪さに繋がるのだとしたら笑えない。
ストレス発散は大事なことだ。
「
また、あの風景が見たいって思うんだよね」
最初の年は地球にストレスを感じる奴がいないかと思い、色々と考えていたが、ほとんどの奴がエンジョイしている。
休日は普通に遊びに行ってるし、現地の避難民の子供に、面白そうな場所に案内をさせて、一緒に飯を食うカミルのような強者まで出てきた。
子供たちの方も飯を奢ってもらえるからと、楽しそうな場所を見つけていたりする。
「ああ、それは分かるな。ギャプランで高度を下げながら見る風景がどんどん大きくなる。
海や山、それに湖とか、本当に奇麗だもんな」
「その思いが最大の障害になる。宇宙へ行っても、一部の者が帰りたがれば、やがては、そこから分断が生まれると思うんだ。
だから、今の内にそういった風景を楽しめるプラントを…」
「焦りすぎじゃないか? 今は地球への忌避感を無くしている段階だ。むしろ俺たちが生きている内はそれで良いくらいだろ?
そう考えれば、良い発見だったと思える。追い追い必要なものを見つけて行けば良い。
ただ、娯楽を増やすのは悪くないかもな」
「それもそうか。何か、平穏すぎた所為かな? つい難しく考えたのかも」
インキュベーション・パーティでの衝撃が覚めぬままに突入した長期休みは、予想より平穏に終わった。
デリングへの宣戦布告とも思われそうな、兄さんが起こした混乱に、各社の対応が定まっていないこともあり、参加者は前回と変わらず、参加者からの情報も、上は混乱しているようだとのこと。
ただ、ダイゴウなどは参加を止めるどころか、やんわりとだが推奨する感じだったそうで、優勢と見ても良い。
造船所の建設という行為も、これまでの作業の延長として問題なく進めることが出来たし、小規模のものは既に稼働を始めている。
ミオリネも、前回より日時的な余裕がある上に、グラスレーの縄張りである寒冷地は農作業自体が一段落しているので、フェルシーと一緒に作業に参加する時間すらあった。
風当たりも前回と変わっていて、歓迎とまでは行かないが、罵声が無くなって寂しい思いをしたようだ。
そんな訳で、インキュベインパクトとも言うべき騒動の結果が見られるのは、次の長期休み前の大イベントである、オープンキャンパスが有力候補である。
これも予想通りだが、兄さんに決闘を挑んでくる相手は未だに出てこない。
機体なりパイロットなり、新しいものを用意しない事には勝ち目が無いのは明白なので、その準備をしているのだろう。
よって、兄さんに一矢を報いるとしたら、ランブルリングになる。
「いっそ、シャディク達と組んで、保守派を真っ先に片付ける?」
「それもなぁ……今年は、ペイルは参加するかな?」
「不明だけど、僕の予想ではしない。慢心がダメだとは分かってはいるけど、ペイルが参加しても、シャディク達と組めば速攻で片が付くからね。
むしろ、グラスレーや改革派以外は静観させて、ジェタークだけで先に蹂躙してしまうのは?」
インキュベーション・パーティでデリングが言った警告が、本当に無駄だと証明するには良い手だと思う。
ブリオン含めて、他の会社のMSではディランザとギャプランに勝ち目は無いと知らしめる。
ただ、兄さんは乗り気ではない? というか言い難いことがある?
「兄さん、何か困っているの?」
「いや、それなんだがな。そう言えばランブルリングなんて行事もあったなと……」
ん? それって、ランブルリングがあると、今は都合が悪い状況ってことか?
何だろう? 保守派の中に警戒する相手がいる? エランと何かあった?……いや、それならランブルリング抜きでやってるだろうから、それは無さそうだし、別にこんなお祭り騒ぎの結果が改革派の結束にヒビを入れることも無いと思うし……………………そういえば?
「ねえ、兄さん。今のレネ達の実力って…」
今、あからさまに動揺したよ。
やべえって顔をしてるよ。
あの3人、週末はグラスレーに帰るって、シャディク達と一緒にアス高を発ったから今日は来なかったけど、ずっと兄さんの訓練に付き合ってたな。
「兄さん?」
「お、お前なら3人まとめて相手にしても勝てるさ…………」
目を逸らしながら言って、最後に何かを付け加えた。
「最後が聞こえないよ」
「多分、ギリギリだけど勝てるんじゃないかな?」
何やってんの? サビーナ3人なら余裕をもって、5人相手でも勝てる自信があるんだけど……見誤ってる訳は無いよな。
「つまり、あの3人をサビーナ以上にしちゃったわけ? 遊んでて強くしちゃったと? 本気でお父さんライオンになってたんだ?」
「なるほど、これが父親の気持ちって訳か。辛いな」
「違うよ。今の気持ちは、やっちまっただよ」
父親関係ないから。いや、隠し事がある父親なんてたくさんいるから、ある意味では父の気持ちになるのか。
ここはフェルシーに頑張ってもらって、制空を確保する事で戦闘を優位に進めるしかないな。
明日は兄さんも仕事だし、エナオもグラスレーに戻るって言ってたから、フェルシーを鍛えるか。
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翌日、地球寮に来てフェルシーとニカに状況を説明する。
「そんな訳で、今回の戦いは、フェルシー、お前にかかっていると言って過言ではない」
「マジで?」
「マジだ。残念ながら正面から戦えば良くて互角、おそらくは分が悪いくらいだ。
だが、想像してみてくれ。地上戦で正面だけでなく、四方の敵を相手にするだけでも困難なのに、それに加えて上空からも攻撃される。それに、どう対応する?」
「え~と……無理っす」
「す、少しは粘ろうか。だが、上空に意識を持って行かれるだけでも前方への対処が疎かになる。
よって、この状況を作るには何が必要か分かるか?」
「上からバンバン撃ちまくります」
「正解だが、その前に条件を整える必要がある。
一つが制空権の確保。まあ、これは確実にはいかないだろうから、航空優勢でも十分だ」
「その違いは?」
「今回で言えば、ペイルを始めとした飛行型MSがいれば、地上に意識をしていれば落とされる。
その心配が全くない状態なら、制空権確保と言えるが、死角外で飛び上がるMSもいるだろうから、確保までは至らない。
だが、飛行型のMSを潰してしまえば、早々にやられないから安心だろ? その状態を航空優勢とする」
「了解! で、でも、ペイルが相手だと……」
「おそらくは出場しない。仮に出るなら、僕もギャプランを使用する」
「最初から乗らないんすか? 性能はディランザより上のはずでは?」
「そうだな。防御力は若干ディランザが上なだけで、パワーとスピードではギャプランが圧倒する。
だが、装備が問題でな、僕の戦闘スタイルは多くの武器を使用し、相手を翻弄するスタイルだから、固定装備のギャプランは相性が悪いんだ」
「ああ、何か色々使いますもんね」
「多少のオプションは加えられても、僕が満足する装備にはならないからな。特に両腕の前腕部がシールドのフレームでふさがるのがな」
「う~ん……だったら、シールドを手持ちにするってどうっすか?」
「それ、両手がふさがるだけ」
「で、ですよね。じゃあ、前腕部にも手を付けるとか?」
「それ、シールドを放すとして、その後は?」
「そ、そうっすね。ごめんなさい」
「いや、怒った訳じゃ無い。発想としては面白いから聞いただけだ」
面白い考えをする奴だな。考えてみれば、シールドだと考えれば、持ち替えを出来て当然だし、サブアームにして、宇宙用と大気圏内用での装備変更を、持ち替えで済ませることが出来れば便利かもしれん。
「また、面白い案があったら言ってくれ。
それで話を戻すが、ペイルが参加しないなら、他の飛行型を速攻で片付ける。
次の問題として、僕だったらジェタークへの対処として、真っ先にギャプランを潰す。兄さんのディランザ以上の脅威としてな。
だから、当然、フェルシーはそれに対応しながら、対地攻撃をする必要がある」
「地対空攻撃に注意しろって事っすね」
「そうだ。その辺りを意識して、対空と対地のシミュレーターを頑張ってもらう」
訓練は基本的にはシミュレーターを使用する。
対空、対地の基本を繰り返す。この愚直な訓練を普通は嫌がるが、フェルシーはその耐性が高い。
だが、その分、疲労は蓄積するし、上手いタイミングで止めてやらないと……
「失神するような訓練はしないだろうな?」
その声に振り向くとアリヤだった。
「大丈夫だ。当分はゲームのようなシミュレーターだよ」
「そうか、安心した」
「何時もスマンな」
G耐性が極めて高いフェルシーだが、その分逆に無理してグレイアウトを起こすことがある。
何度か、ブラックアウトで失神した事もあり、ティルは作業用ディランザでの回収作業に慣れるし、アリヤは治療に追われ、今ではその辺の医者より余程適切な処置をしてくれる。
「だが、フェルシーに重圧がかかる役目はどうかと思うぞ。あの子は緊張しいだ」
「分かってるさ。だが、安心しろ。そこまでは求めていない。
対空では、ペイル、正確に言えばエランさえ出なければ、そこまで怖い相手はいないからな。
基本的に対空戦を考えていない飛行MSに、フェルシーの敵はいない」
MSの構造上、戦闘は対空より対地を得意としている。
宇宙戦が可能だから勘違いしそうだが、主力市場である地球に、地球製の高性能飛行MSが無いので、自然とそういう進化をしてしまった。
「だから、対空訓練はそこそこで良いさ」
「甘く見てないか?」
「むしろ、フェルシーは僕たちが卒業後の、ジェタークのエースだぞ。甘く見てもらっては困る。
厄介なのはグラスレーの1年生トリオだが、先の話だし、今回は空を飛んでるだけで気を引ける。
だから警戒するのは地上からの対空攻撃だ。そこを重点的にやれば大丈夫さ」
「また自信満々に……嫌な予感がするな」
「そんな訳が無い。信じろ」
全く、ニュータイプ気取りか? 困った奴だな。