オープンキャンパスが始まり、来年の新入生予定が学園に来る。
みんな一様に兄さんに尊敬の眼差しを向けている。去年以上の熱気のようだ。
それはジェターク寮に留まらない。初日が終わると、改革派の寮長から、見学者に顔を見せるだけで良いからと、頼まれるくらいで、各方面で兄さんが英雄視され始めていることを突き付けられる。
更には、改革派だけでなく、保守派に属する寮の新入生、ペイル社の生徒でさえも、兄さんには尊敬か委縮かの二択に別れ、少なくとも学生の内では、とても対立と呼べる構造になっていないようだ。
そんな中、改革派の中でも異なる動きを見せる相手がいる。
グラスレーとダイゴウだ。
グラスレーは盟友であると同時に、ライバルでもあるので、ミーハー根性丸出しで近付かないのは分かる。
だが、不思議なのはダイゴウである。元々、企業としては保守派、学生は改革派という、難しい立ち位置だったので、ジェタークと距離を取れば、学生が折れ、企業側の言い分が通ったのだと判断するが、その割にはグラスレーとの距離が近い。
かと言って、グラスレーが保守派に変じるかと言えば、絶対にない。元々の誘導者であるジェターク以上にありえないという特殊な立ち位置だ。
ちなみに、派閥抗争とは別の話になるが、僕に対する視線が妙に冷たい気がする。ジェタークから来た子も同様だ。
去年のように、ニカと何かしたわけでもないし、心当たりは全くないが、特に女の子に避けられている気がする。
その辺りに引っかかりを覚えながらも、最終日のランブルリングを迎える。
今年の戦力調査では、去年と異なり、グラスレーにはサビーナとエナオも腕を上げたこともあり、Aランク、つまりプロで十分通じるパイロットが5人、その中でも1年生はA+の可能性がある。
それに対し、ジェターク側は1年生トップのフェルシーでさえMSの技量だけで見れば、Cランクと言う、圧倒的な戦力差がある。
「だが、望みはある。それはフェルシーが制空権を確保し、敵に上空を警戒させることだ。
そして、フェルシーはギャプランでの高速機動を行えば、Aランクの実力がある」
ここで、上空を確保する事が戦闘では如何に重要かの説明が入る。
それを聞く内に、沈みかけていた空気が明るくなる。
フェルシーにプレッシャーがかかるかと思ったが、すでにシミュレートでは制空を取るのは容易だし、地上からの対空攻撃にも、かなりの幅まで順応しているせいか自信を持った表情をしている。
予想通り、ペイルが不参加なので、安心したというのもあるだろう。
そして、説明が終わると兄さんが締めに入る。
「今回は去年より厳しい戦いになる。
保守派との争いとか、色々あるだろうが、難しく考えるな。
この祭り、ジェタークの誇りをかけて戦い勝ちに行くぞ!」
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「KP013ラウダ・ニール、ディランザ、出るぞ」
今回は全力で行く。全方位を攻撃可能なT装備にしたので、重量の増加した分を補助すべく、両腕の前腕部に小型シールドを兼用したアンカーワイヤーを、手持ち装備には遠距離攻撃を諦め、軽量のビームガンとビームトーチしか持っていない。
正直、奴にこの装備を見られたくは無かったんだが……
『今年も立会人は、アスティカシア学園理事長兼、ベネリットグループ総裁、デリング・レンブラン総裁にお願いします』
ランブルリングには、名目上の理事長であるデリングが、毎年のことだが観戦している。
今年は、何故かサリウスも来ているらしく、グラスレー寮は気合が入っているだろう。
そして、
脚部の下駄を履かせたように増加したホバーユニットの機動を確認しながら、開始位置まで進む。
『ランブルリング、スタート』
その声と共に一斉に動き出す。
後ろにいたフェルシーが、飛行形態に変形しながら一気に前に出て、飛び去って行く。
『フェルシー、あまり離れるなよ』
兄さんが制止の声をかけ突出を諫めるが、フェルシーは返事をしつつ高度を上げる。
大丈夫だ。何が最も重要か分かっている。
『グエル先輩、10時の方向、グラスレーに、ダイゴウが接近中』
乱戦にて最も知りたいこと、敵の配置をフェルシーが知らせてくる。
これが有ると無いでは大違いだ。
『戦っては?』
『いません! ダイゴウは後方に付き従いました』
『組んだか、厄介だな』
ハインドリーには遠距離攻撃はない。実戦配備型のハインドリー・シュトルムなら、背部のビームキャノンに、手持ちのビームライフルも大型化し、遠距離にも対応しているというか、遠距離を得意とするが、学園で使用しているハインドリーは、近接戦重視のランタンシールドだ。
そこに、ダイゴウの遠距離攻撃が加われば、バランスの良い編成になる。
そして、ダイゴウの態度の理由が判明した。アイツ等はグラスレーと組んだ。兄さんを嫌ってはいないようだが、シャディクを選んだ。
でも選んだ理由は何だ?
『それに、ハインドリー以外に見慣れないMSが2機、1機は背中に巨大な砲身らしきもの、もう1機は右手が変な形です』
『グラスレーのか? 白い奴は?』
『変な右手の方。白いハインドリーは無し』
変な右手の白いMS? まさかミカエリス? それに、もう1機の新型?
「兄さん、シャディクは本気だ」
『ああ、このまま2時の方向に進む! 先に片付けるぞ!』
2時の方向に複数の飛行型MSがいる。グラスレーと接敵する前に、飛行型を全てと、ついでに進路にあるMSを片付ける。
『すげぇ』
感嘆の声が聞こえるが、その感想は僕も同様だ。
フェルシーのギャプランは、他寮の飛行型MSが昆虫だとすると、それを捕食する鳥だ。勝負にさえなってない。
飛行型MSの傑作と言われているペイル社のザウォートでさえ、飛行するために装甲とパワーを削っている。それ以外のMSなど、それに加えて火力と全体の機動性まで削っているのが現状だ。
ギャプランの性能は、スピード、パワー、防御力、火力、その全てが参加しているMSを上回る。
そして、何より、その性能を十全に生かし切っているフェルシーの技量だ。
いくら飛行性能に優れていようが、それだけでは単に重たい戦闘機でMSには太刀打ちできない。
それを接近しながら急変形して、時に射撃、時に斬撃と武器を使い分けて落としていく。おまけに、自由落下時にはシールドで制御しながら、ベストポジションを取って次の行動に移る。
僕なら確実にグレイアウトを起こしているだろう、繊細さを秘めた強引な制動を繰り返しながら、平気に戦闘をこなしている。
その動き、人呼んで、フェルシースペシャルと名付けても良いくらいだ。
『大したもんだ』
カペル・クゥを切り捨てながら、兄さんまで感嘆の声を上げていた。
フェルシーは完全に主役の座を射止めたな。
『飛行型MS、全排除完了!』
『良くやった! さあ、メインディッシュを頂きに行くぞ!』
フェルシーの誘導に従い、グラスレーがいるはずの場所へと向かう。
そして、戦闘中のグラスレーを発見するが、これを戦闘と言って良いのか判断に悩むところだ。
『正に蹂躙劇だな』
ダイゴウが砲撃を加えた場所に、3機のハインドリーが突っ込むと、ほぼ一撃で敵機のブレードアンテナをへし折りながら進む。
あれが、1年生トリオか……兄さんに鍛えられただけある。あれを僕が相手しなければならないと思うと頭が痛くなる。
そして、後方にいる白いMSを見る。
やはり、ミカエリスだ。そして、ミカエリスを守護する位置に、ハインドリーとベギルペンデ?
ベギルペンデの改良型か? グラスレー特有の細い手足に追加パーツがある。足はギャプランのブースターユニットに似ているし、腕に付いてるのは、何処か見覚えがあるが……それに、背中に付いた一対のビームキャノンらしき装備。
『やあ、グエル、空の片付けご苦労さん』
『おう、そっちこそ、新しいMSまで用意して気合が入ってるじゃねえか』
兄さんも、それを受けて
『ミカエリスって言うんだ。お前と遊ぶんだから気合も入るさ。
それにしても、フェルシーは一段と腕を上げたね。この手の戦いで彼女を好きにさせたら、本当に厄介な存在だよ』
『アイツの怖さが理解できたか? アイツが空から狙ってくると思えば、自由に動けんだろ?』
『ああ、だからさ……えと、ゴメンなラウダ。先に謝っておく』
「は? 謝るって何を……」
『エナオ、フェルシーを落とせ』
『COPY』
ベギルペンデモドキが飛び上がると変形してフェルシーのギャプランに襲い掛かる。
『うぇ!? ちょ、ちょぉぉぉぉぉっぉお!!!』
フェルシーが悲鳴を上げながら逃げ出すが、変形したベギルペンデモドキを引き離せない。
え? あれって……メッサーラ?
ほう、ディランザをベースにしたら、今一の機体だったが、グラスレーが作ったら、ああなるのか……
『あれ、ギャプランと
『いや、悪いとは思ったけどさ、
それで、前にラウダからデータ見せてもらったのを、取り敢えず、ベギルペンデをベースにした試しのテスト機で、使わせてもらったんだけど、思った以上に良いのが出来た』
フェルシーが必死に逃げているが、何せ向こうは火力が高い。おまけに、メイン武器のビームランチャーは、飛行形態でも射角を調整できる。空気抵抗とのバランスが難しいが、ギャプランより空戦では優位に立てる。
『本当は表に出す気は無かったんだけど、今回はどうしても勝ちたくてね。それで、最も厄介だと予想したフェルシーを押さえるには、アイツを引っ張り出すしかなかった』
え~と、こっちの作戦を読み切っていたと?
『やっぱり怒るかい?』
「いや、別に構わんが……兄さんも構わないよね?」
そもそも、僕もパクリだからな。偉そうには言えない。
ただ、兄さんがダメと言えば、訴えるからな。
『ああ、それは構わんが、でも、あれって、空気抵抗が悪くてダメ出ししなかったか、ラウダ?』
『うん。ギャプランみたいに胸を正面に向けられないからね。
でも、アイツ、胸がつるペタだから、空気抵抗が少ないね』
『ちょ、ラウダさん?』
『ぎゃああああああああああああ!!! こ、攻撃が激しくなってきたぁぁっ!』
どうした? エナオからの攻撃が激しくなったな。エナオが怒ってる? 頑張れフェルシー。
でも、困ったな。これで頼みの綱のフェルシーが封じられた。
相手はベギルペンデがベースみたいだから、MS形態で正面から戦えばギャプランが性能では圧倒すると思う。
だが、MSでの正面からの殴り合いでは、フェルシーは並みのパイロットでしかない。
エナオとの力量差を考えれば、機体性能があってもMS形態での戦闘は避けたい。
人並外れた技量を発揮できる高速機動とMSへの急速変形が通じない相手に対する訓練などやったことも無いしな。
いずれは、フェルシーが落とされるだろうから、こちらが予定していた行動、つまり、空から攻撃してくるエナオを警戒しながら正面のグラスレーと戦えと? 無理ゲーすぎない?
「おまけにダイゴウまで手懐けて……お前、ちょっと気合入りすぎじゃないか?」
詰んだよ。どう考えても逆転の目が無い。でも、これランブルリングだぞ。お祭りだぞ。やりすぎだろ。
『グエルが、どんどん先に進んでいくんでね。祭りとは言え、そろそろ勝たないと情けないだろ?
特に地球再生計画では、あまり後塵を拝したくはないんだよ…』
右手のヘンテコ武器を兄さんに向ける動作が入り、少しの間が空いた。
『アーシアンの戦災孤児出身の俺としてはね』
「おい……」
『何だい? お前もグエルも知ってる事じゃないか。俺がスペーシアンとアーシアンのハーフで、戦災孤児だって。
何人かは気付いてそうだけど、まだ
だからって、ここで言うか?
全校生徒だけじゃない。来年から入学する予定の生徒や、その引率の人間だっている。
おまけに……
『戦争シェアリングの影響で俺の親は死んだ。飢えも身近すぎる死も経験したよ。
デリングを、ベネリットグループを憎みもした。バカなことも考えた。
でも、お前らに会えた。バカな俺を導いてくれた。本当に感謝しているよ』
……そのデリングが聞いてるのに言いやがった。
これは……化けるな。
『それでも、いや、だからこそ、地球を良くするのは俺がやりたい。
単なる意地だけど、生粋のスペーシアンのグエルじゃなく、アーシアンの俺がな』
いかん。飲まれている。うまい返しが思いつかない。
『アーシアンの、じゃなく、スペーシアンとアーシアンのハーフだろ?』
そんな飲まれている僕と違って、何時もと変わらない、いや、何処か楽しそうな兄さんがカタナを向けながら返答する。
『つまり、スペーシアンもアーシアンも変わらないって、お前の存在が証明してるんじゃねえか。
要するに大事なのは中身だ。良いぜ受けて立つ。俺を超えれるなら超えてみろ』
『……本当にお前って奴は。
さて、お喋りはここまでだ。相手はグエル・ジェターク、最強の王だ。倒すぞ!』
『『『COPY!』』』
『受けて立つ! 相手が誰であろうが俺たちは突き進む!』
『『『応!』』』