「どうした? 僕と遊んでくれるんじゃ無かったのか?」
『そうやって、女の子からのアプローチ待ちって、どうかと思うなぁ』
『たまには、女の尻を追いかけるのも悪くねえだろ?』
突っ込んできてくれた方がやりやすいが、すっかり警戒するようになってしまった。
何だか、僕が危険人物みたいに見えるから止めてくれないかな?
「なるほど、だったら、僕からアタックしようかな」
全力で加速し、進路を変える。
先ずはお前からだ……サビーナ!
コイツを落とせば、兄さんはシャディクに対し優位に立てる。
『この節操無しが!』
『浮気者!』
言いたいなら言えばいい。
正直、僕も余裕が無い。何故なら、先程まで叫んでいたフェルシーが大人しい。
あの子は、普段から騒がしいし、戦闘でも叫ぶことで自分のテンションを上げている。
だというのに、沈黙が続くという事は、本当に辛い状態なのだろう。
「本当に悪いと思うが……」
僕たち以上に準備もしてたみたいだし、気合を入れて臨んだんだろう。
兄さんと戦わせたい気持ちはあるんだが、悪かったな、シャディク。
『仕方がないか』
僕の考えを察した兄さんが、一気に僕の方向へと進む。
『レネ! グエルが来るぞ!』
レネは、飛び道具なしで、兄さんの相手が出来るかな?
それにシャディク、ミカエリスのヘンテコ武器が、僕の全周囲砲撃と相性が悪い事くらい分かるだろ?
『マジかよ!?』
『チッ! ラウダ!』
「簡単にはやられないよ」
ミカエリスが猛攻を加えるが、兄さんがレネを落とす時間くらいはかせいでみせる。
その兄さんは、ブースターを全開にして突進する。
『させない』
レネを守るようにイリーシャが動くが、兄さんを止めることが出来ない。
アンテナを狙ったビームランチャーの砲撃をシールドで防いだかと思えば、すれ違いざまに両足を叩き切られる。
そして、後一歩でレネに届くというところで、兄さんが方向を変える。
上空からの砲撃。エナオだ。
兄さんのディランザは、加速していた分、方向を変えたことでレネとの距離が空く。
上空の注意が低下していた。
そのエナオをフェルシーが襲うが、エナオが逃げながらMSに変形すると、再びフェルシーが逃げる形になる。
『スマン、仕切り直しだ』
「いや、僕のタイミングが悪かった。エナオに付け入る隙を与えた」
せっかくフェルシーが頑張っていたのに、2人がもっと離れた状況で仕掛けるべきだった。
そうすれば、エナオは間に合っていなかったはずだ。
『エナオ、助かった。イリーシャ、棄権し…』
『砲台くらいやれる』
両足を失っても、まだやる気か。
だが、強力なブースターを付けてない限り、飛び上がるのが精一杯のディランザと違って、ハインドリーは短時間なら飛行だって可能だ。
無視できる相手でもないが、あの状態の相手に止めを刺すのは外聞が悪いから兄さんにはさせたくない。
だったら、速攻で僕が仕留めるのが正解だ。
でも、フェルシーとエナオのドッグファイトは基本的にエナオが追う側だ。
MS形態と低速での戦闘では、どうしてもエナオが有利になるので、フェルシーは高速戦闘に活路を見出すしかない。
結果として、フェルシーが逃げになるし、追う側のエナオは何時でも追撃を止めて、地上への攻撃を開始できる。
仕掛けるなら、エナオが介入できないタイミングで……
何だ? エナオの動きがおかしい?
そう思った瞬間、フェルシーがMSに変形しながらの急静止をかけてエナオをやり過ごすと、エナオもMSに変形……途中で失速して墜落し始める。
「ブラックアウト!」
グレイアウトの状態でMS形態に変形しようとしたんだろう。
結果として、Gに耐えきれず、ブラックアウトを起こして失神した。
マズイ! さすがに気絶したまま墜落したら、どうなるかは完全に運任せだ。
こうなったら…
『フェルシー! レスキュー!』
ニカの掛け声と共に、フェルシーが墜落するメッサーラに向かった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
正しいか、間違っているか、考えもしない。ただ、ニカは咄嗟に叫んでいた。
その叫びに反応したフェルシーが、エナオに向かい落下を受け止める。
でも、この後はどうする? ランブルリングは終わっていない。このままエナオを放置していいものか、今頃フェルシーも悩んでいるだろう。
「フェルシー?」
ニカが指示を出さなければ、何か言ってくるはずのフェルシーが黙っている。
ただ、ゆっくりと移動をしている。その動きは、まるで夢遊病者のようだ。
「フェルシー!」
大声で呼びかける。フェルシーもブラックアウトを起こしている。
失神までは至っていないが、完全に思考が低下している。
このまま着陸させ待機させる? それも危険だ。敵味方が入り乱れた状況で気を失った人間を放置するのは危険すぎる。
しかも、両機ともアンテナを折っていない。戦闘中だと認識される状況だ。
少し離れているが、誰かに依頼するか? 普段は気にしないが、ジェタークもグラスレーも敵が多い。
腹立たしい事に、アスティカシア学園の中には、ここに便乗してフェルシーやエナオに攻撃をしてきて、事故だと言い張りかねない人間だっている。
だったら、ジェターク寮の誰かに戦線を離れてもらって、救助に向かってもらうしかない。
でも、両機を守れると確信できるのは……
「ニカ、フェルシーをこのラインに誘導して」
横からペトラが声をかけてきた。彼女が示すのはジェタークとグラスレーが戦闘している真ん中を突っ切るというものだ。
危険すぎると言いかけたが、思い直す。ここに彼女らを守る者はいても、害する者はいない。
「フェルシー、これから出すラインを通って」
フェルシー機をナビしながら、終着点の出口を考える。地球寮の倉庫に近い。
ペトラは、そこまで考えてラインの提案をしたのだろう。
「ニカ、地球寮の人、マルタン先輩が良いかな、番号知ってる?」
「うん。かけるね」
「スピーカーでお願い。話は私がするから、ニカは誘導に集中して」
頷くことで肯定の返事を返すと、マルタンの電話番号を呼び出す。
『ニカ?』
「ペトラです。ジェターク寮の」
『ああ、えっと、既に作業用のディランザを起動準備している。ティルが操縦して回収するから。
それに、アリヤがブラックアウトの治療の準備もしているし、それで良いかな?』
「た、助かります!」
試合中継を見ていて、こちらの行動を察してくれたようだ。
手抜かりの無さに、驚嘆と感謝しかない。
「では、お願いします」
通話を切ると、流石と、声を上げる。そのまま、ペトラが担当しているパイロットにフェルシーの通過を邪魔しないように指示を出す。
周囲を見ると、既に他のオペレーターも、状況を担当パイロットに伝えているようだ。
「大丈夫、フェルシー、みんなを信じて」
フェルシーが、目前に見えるMSに戸惑ったが、そのまま進むように指示を出す。
本当に大丈夫だ。みんな信じられるから。
ジェターク機だけでなく、グラスレー機も行動を止める。
まるで、両機を守るように、周囲を警戒しながら、たたずんでいた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
通過するメッサーラを抱えたギャプランを見ながら、僕は自分がやろうとしたことに愕然としていた。
咄嗟にエナオを救うため動こうとした。兄さんを放置してだ。
所詮はお祭りだから?
黙っていても、兄さんなら、そう動くように指示をするはず?
それはそうだ。冷静に計算すれば、僕が救助に向かっても、間違ったとは言われないだろう。
でも、計算は無かった。あの瞬間、僕は兄さんよりエナオを優先した。
違う。正しくない。今の行動は僕の存在意義を否定する。
僕はグエル・ジェタークのためになるから、この世界に存在を許されているんだ。
他人はどうなろうが構わないはずだ。
『ラウダ、お前は正しい』
そう悩んでいる僕に、兄さんが優しく声をかける。
兄さんは、僕の動きに気付いていたみたいだ。
でも……あれ? バグが発生した。
何よりも兄さんを優先するのが正しい。
兄さんが正しいと言えば正しい。
2つのどちらを優先するんだ?
集中だ。今は目の前の戦闘とフェルシーとエナオの防衛に集中しよう。
『付き合わせて悪いな』
『いや、逆だろ?
『お前は可愛い後輩が、格好いいところ見せてるのに、その前でダサい真似が出来るか?』
『無理だな』
『だったら。今は互いに我慢だ。ダイゴウは遠距離の様子はどうだ?』
遠距離攻撃が自慢の会社だけあって、遠くの状況を見るのは得意だ。
特に上空の支配者がいなくなったので、狙撃されたらお手上げである。
『大丈夫だ。互いに争っていて、こちらの状況に気付いてそうな機体は無い』
『OKだ』
それなら、後は流れ弾がフェルシーに当たるのだけを気を付ける。
そこは全員が理解しているので、シールド持ちはフェルシーが通過するのに合わせて、シールドを上げて防御態勢を取る。
『そのまま警戒を頼むよ。じゃあ、フェルシーが安全区域まで行ったら再開だな』
『ああ』
付近は兄さんと入れ替わりを行ったせいで、強力な面子が揃った魔境と化している。
兄さんとシャディクが正面から睨み合ってはいるものの、サビーナ、レネ、メイジー、イリーシャは、僕に行くか兄さんに行くか、どちらの選択も取れる。
有利な点で、レネは右手と飛び道具、シールド。メイジーは左腕とシールド、イリーシャは両足を失ってはいるが、逆に言えば、思い切った賭けに出てもおかしくはない状態だ。
どう動く?
サビーナ。僕と兄さんの両方を警戒している。次に狙われるのは自分だと思っているのか。
レネ。兄さんを狙っているな。兄さんの事が好きすぎるぞ。飛び道具が無くなっているので、賭けに出たいのだろうが、無茶すぎる。
メイジー。コイツも兄さんを狙っているように見えるが……違う。僕を誘っている気がする。僕が来ると思っているか。
イリーシャ。コイツは僕狙いだな。
だったら、レネに接近しながら砲撃だな。それで仕留めるのが理想だが、無理でもイリーシャが襲ってくるだろうから、そこを迎撃する。メイジーも同じだ。
サビーナはどう動くか読めない。流石に1年生より判断は適格だ。その場で判断するしかない。
まあ、結局はなるようになる。だから、レネを全力で襲う。
沈黙。誰も話さない。全員が一気に動くだろう。
時間で言えば、あと10秒。
兄さんとシャディクが一触即発だ。互いしか目に入っていない。
……5秒
4
3
2
1
ゼ…
「は?」
ビーム砲の軌跡が通ったと思えば、兄さんのディランザのアンテナに直撃した。
「ワンジー!?」
『狙ってた奴はいない! 多分……』
流れ弾か?
兄さんもシャディクも、互いに集中しすぎた。
フェルシーとエナオの安全が確保できた安心感。
その空隙を狙ったかのように、単なる流れ弾で兄さんが撃墜判定を受けた。
僕が、もっと警戒すべきだっ…
『グラスレー各機に告ぐ』
僕が呆然としている内に、シャディクの口から、暗い声が流れた。
本当にシャディクの声かと疑うような怨嗟に満ちた声。
『邪魔者を先に排除する』
『『『COPY』』』
グラスレーチームが散ると、他の戦闘中の敵に襲い掛かる。
僕も慌てて指示を出して、グラスレーを追うように、他の敵を片付けるが……
シャディクは、正に荒れ狂う暴風だった。
避ける隙も、受け止める間も、終いには逃げる時間も与えずに、敵を蹴散らしていく。
その敵はジェターク以外には残っていないようになり、やがて、ジェタークさえ、僕以外はいなくなる。
そして、レネとイリーシャを落としたものの、僕の機体は両手両足を失なった上で、ミカエリスのヘンテコアームに、頭を正面から掴まれたまま宙吊りになっている。
「随分と雑な攻め方をしたものだな」
本当に雑に暴れて撃ちまくるものだから、ダルマさんになってしまったよ。
ただね、その持ち方だと、頭のカメラ正面にちょうど砲口が来るんだよね。
おまけに、全周囲モニターに、ヘンテコアームの内側が見えてるの。凄い圧迫感なんだ。
『悪いね。冷静さを欠いたことは認めるよ。
でも、冷静じゃいられないだろ? 顔に泥を塗られた気分なんだ』
お前、今の声と相まって怖すぎるんだよ。
お願いだから止めてください。もう十分だろ?
でも、僕は最後のジェタークだ。情けないことは言えない。全力で格好つけてやる。
「顔に? どうやら買いかぶっていたか?』
ねえ、優しく角を折ってくれて良いんだよ。もう、撃たなくても良いんだよ。
光り出したよ。砲口が光り出したよ。コクピットが明るくなってきたんだけど?
アンテナだけにして下さい! でも、格好付ける!
「お前は泥の中から這い上がってきたのが強みだと思っていたが、違ったのか?」
『いや……すまないね。そうだった。本当に自分を見失うところだったよ』
これ、砲口が向いてるの本当に頭だよね? 何か、目の前に砲口が見えるから、コクピット撃たれそうなんだけど。
『感謝するよ。もう自分を見失わない。俺は何度だって泥にまみれてやるさ』
光ってる! すっごく光ってる! 眩しいんだけど! 本当に死なないよね!?
「気にするな。次はジェタークが勝つ」
『いいや、次こそグエルも落として完全勝利だ』
「無理だな」
光が広がって……
ぎゃああああああああああああぁぁぁあ!!!