ラウダの野望   作:山ウニ

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貴様ら、何か隠しているな?

 

 

「大丈夫ですか、ラウダ先輩♪」

 

「ああ、大丈夫だよ。気にしないでくれ」

 

ペトラさん、何か楽しそうじゃない? ウキウキしてない? 目が怖いよ。

 

「絶対にコクピット光ってましたよね? 眩しかったですか?」

 

お、思い出させないで! 忘れようとしてるのに、何で思い出すような事を言うんだ。

光が広がっていく……あれは光らせちゃいけない光なんだ。

 

「しっかりして下さい♪」

 

「あ、ああ」

 

「それで、やはりコクピットを撃たれるような気分でした?」

 

ヤメテ! あれ4号の最後を思い出したから! ハッピーバースデー歌いそうになったから!

怒ってる? トレーナーの座をニカに渡したことを怒ってる?

 

「ペトラ、開いちゃダメな扉を開こうとしてるから止めなさい」

 

「そ、そんな! もう少し、曇った表情を堪能…じゃなく、私はラウダ先輩を慰めようと……」

 

「本音が漏れたからダメ。戻れなくなる前に止めなさい」

 

行ったか。何だかヤバい生き物が目覚めかけてた気がするが?

トラウマになる前に心を落ち着けよう。

 

それにしても、去年と違って空気が重い。

負けるにしても、予想外と言うか、ポカをやらかしたからな。

 

「みんな、悪かった。俺が油断した所為だ」

 

「いや、俺たちが周囲を警戒すべきだった」

 

兄さんが謝罪し、他のメンバーは自分が悪いと反省する。

この、他責しないのは本当に良いところだ。

でも、一番悪いのは僕だ。作戦ミス。これに尽きる。

それを言おうとしたところで、ドアが大きな音を立てて開き、フェルシーが姿を現す。

 

「だから、走んなって」

 

後ろからは、地球寮のオジェロが呆れた口調で怒っている。

雰囲気から見て、オジェロは途中で倒れたりしないよう、見張り役をアリヤかマルタンに指示されたのだろうか?

 

「あ、あの……」

 

落ち込んだ表情でフェルシーが口を開く。

結果を聞いたのだろう。そして、自分の所為だと自責している。

 

「ごめんなさい」

 

「「「違うだろ」」」

 

一斉にツッコミ。

 

「お前が反省するところはない。

 僕が立てた作戦に、十分に応えただけでなく、予想以上の活躍をしてくれた。

 グラスレーが飛行MSを作成している事を予想しなかった僕のミスだし、それに乗ったエナオを食い止めたのは、想像以上の健闘だ。正直、勝てるとは思っていなかった。すまない」

 

「いや、それ以前に、今回は完全にシャディクが俺たちを上回った。

 事前の準備。作戦。そして、戦いぶり。悔しいが完敗だった。

 そんな中、唯一ジェターク寮が誇れるのがお前だ。助かったよ」

 

兄さんがそう言って頭を撫でると、安堵したように微笑むが、既に尻尾があればブンブンと振ってそうな勢いだな。

見た目はウマ娘のくせに、生態はイヌ科の生き物である。

 

「それで、オジェロは誰かに言われて?」

 

「ウス。アリヤ先輩が。本当はもう少し安静にしてほしかったみたいですけど、散歩前のワンコみたいに治療室をウロウロして、邪魔だからって。

 ただ、しばらくは一人にしないようにと」

 

「すまないな。じゃあ、エナオはまだ失神したままか?」

 

「いえ、俺は直接は見てないけど、意識は取り戻したって。ただ、思考は朦朧とした状態みたいで、そんな状態なところに、アイツが……」

 

「お出かけするワンと?」

 

「みたいっすね」

 

「だ、だってぇ」

 

そうか。エナオは大丈夫だったか。

 

「ラウダ、今の内にアリヤに礼を言いに行ってくれ。

 ついでに、見学者を案内してやってくれ。去年も行ったし、ちょうど良いだろ」

 

「そういえば、ニカの件があったから、去年はついでに案内したね」

 

去年も祝勝会の準備をする間に、地球寮をニカに見せに行く名目で全員を案内したな。

今年は祝勝会でなくなったため、一種の罰ゲームになるが、それは仕方がない。むしろ、負けを受け止める精神力を身に着けられる。

 

「分かった。えっと、今から地球寮に行くから、見学しておくと良い」

 

僕がそう言うと、見学に来ている子たちに緊張の表情が浮かぶ。

ん? 去年はもっとノリノリだったが、もしかすると、今年はアーシアン蔑視の風潮が強いのか?

 

「アタシも一緒に戻ります」

 

「じゃあ、私も」

 

「フェルシーとニカは戻るじゃなく、行くだからな。一応は地球寮じゃないからな」

 

「細かいことは良いんだよ」

 

「じゃあ、行こうか」

 

でも、容赦をする気は無い。正確には、早めに膿を見つけて削除する必要がある。

どんな集団にも、自然とリーダー格になる人間がいる。その人間性で集団の方向が決まると言える。

リーダー格がアーシアン蔑視の感情が強ければ、集団はそれに流されるので、リーダー格をどうにかする必要がある。

すでにリーダー格の目星は付いているし、そいつがアーシアン蔑視者と判明したなら…おそらく、今の反応からそうなのだろうが、早めに排除を行う。

 

つまり、親は左遷だな。地球は不味いから、新規事業とか言って木星にでも行かせるか。ついでに本人も一緒に行くようにして、残りには組織の怖さを実感させる。

見せしめになるが、来年は期待せず、アーシアン蔑視が修正されれば良し。ダメでも次の年からはマシになるだろう。

 

そう思って移動していると、そのリーダー格だけでなく、多くの人間がオジェロに話しかけている。

あれ? 話の内容を聞いてると、地球寮に動物がいることを事前に聞いているらしく、触って良いのかなど積極的ですらある。

とても、アーシアン蔑視者には思えないが、何が引っかかてるんだろう?

 

「あのヤギが一番、人懐っこい。でも、妊娠してるから、あまり強くは触らないように」

 

そう注意されると、緊張した雰囲気でヤギを触り始める。

その様子を見ているマルタン達、地球寮のメンバーの前に行く。

 

「悪い、今年も世話になる。それと、フェルシーとエナオの件、助かったよ。ありがとう」

 

「構わないよ。僕たちとしては、普通に友人を助けただけだし。

 エナオなら、治療室にアリヤといるよ。こちらは任せてもらって良いから、行ってあげて」

 

「分かった。頼むよ。それじゃあ、僕は席を外すが……」

 

何だ? 再び、緊張した表情で僕の方を見ている。

まさか、僕がいなくなった途端に本性を露わにするつもりか?

でも、フェルシーもいるし、何かやらかしても、報告してくれるので、あえて自由にさせてやる。

だが、その報告内容によって、お前ら自身だけでなく、家族の命運をも左右することを覚悟するのだな。

そう決意して、奥に進み、地球寮に作られた医務室に向かい、先ずはノックをする。

 

「ラウダだ。入っても大丈夫か?」

 

「ああ、構わんぞ」

 

アリヤの返事がしたので、ドアを開けて入室すると、まだベッドに横になったエナオと椅子に座るアリヤがいた。

脳波を確認中のようだが、表情から見ても深刻では無さそうで安心した。

ただ、エナオはインナーだけの姿で、髪の毛も解いているせいか、妙に弱々しく見える。

 

「安心しろ。脳波も安定してるし、手足のしびれなんかも無い」

 

「随分と手慣れたものだ」

 

「最初は、こんな機材を送られてもと困惑したが、フェルシーで鍛えられたよ」

 

アス高の寮には、それぞれで自前の医療器具を用意している。何せパイロットには特有の怪我もあるので、その治療経験も勉強になる。基本的には打撲などの治療がメインで、無重力状態から来る症状など、基本的な治療は可能だ。

 

その中でも、ジェターク社が地球寮に設置したそれは、G後遺症の治療設備としては最高性能のものだ。

何しろ、重役の娘であるフェルシーを預かってもらってるから、今までの碌な治療設備がない地球寮では不安が大きい。

問題として、地球寮にはスタッフもいないので、治療も学生がやらなければならないが、アリヤが技術を身に着けてくれて助かっている。

 

「立ち上がって大丈夫?」

 

「先ずは座るからだ。ラウダ、手を貸してやってくれ」

 

「分かった」

 

言われるままに手を貸すが、今のエナオの格好はインナーだけだが指摘しない方が良いのか?

 

「耐G呼吸を」

 

酸素ボンベを咥えて、筋肉を硬直させる。その後で一気に息をする。

脳に酸素を送る方法だ。

高機動戦ではこの呼吸を続けるが、それを叫びながらやってるフェルシーは、やはり異常すぎる。

その異常なフェルシーに慣れていたのでスルーしていたが、可変MSの開発にグラスレーも参入するとなれば、他にも興味を示す企業も出てくるだろう。

いっそ、グラスレーを巻き込んで、耐Gスーツの開発に着手しても良いかもしれない。

 

「ん、落ち着いてきた……髪?」

 

「私が解いた。頭を低くしたかったからな」

 

アリヤがそう言いながら、エナオが普段のポニーテールにする髪留めを手渡す。

 

「だが、しばらくは楽にしていた方が良いぞ」

 

「分かった…………?」

 

ポケットにしまおうとしたようだが、そこでポケットが無いことに、次いで、今の自分がインナーしか着ていないことに気付く。

 

「え、えっと……」

 

「安心しろ。パイロットスーツを脱がしたのは私だ。その露わな姿を見ている異性はラウダだけだから心配するな」

 

そう言えば、オジェロが直接は見ていないと言ってたな。

でも、僕は良いのか?

 

「ふむ。顔の血色も良いな。狙い通りだ」

 

「私は貧相すぎて、この格好は……」

 

「体操選手とか、そんな感じで良いじゃ無いか? なあ?」

 

「そうだな」

 

振られても困るが否定はしないでおく。

その後、立ち上がり、軽く歩いたりして、異常が無いかの確認を行う。

大丈夫だと判断された後、ストレッチというか、軟体動物のような柔軟な運動を行う。

 

「フェルシーにお礼を言いたいけど、この格好で外に出るのは勇気がいる。

 それに、帰りは……メサラに乗っても平気?」

 

「流石に却下だ。明日以降に取りに来い」

 

「じゃあ、パイロットスーツで歩くか」

 

パイロットスーツ姿で学園の敷地を歩くのは妙に目立つよな。

それに、あれって意外と重いし、今のエナオには辛いだろう。

 

「僕の上着を貸すよ。太ももくらいまで隠れるだろ」

 

上着を脱いで渡すと、妙にそわそわしながら着始める。

小柄なエナオが着れば、尻は見えなくなるだろうと思ったが、何かエロイな。裸Yシャツに近い感覚がある。

そこそこの時間も経過しているし、見学者への地球寮の見回りも終わっているだろう。

 

「これ、エナオのデバイス」

 

そう言って、アリヤがMSから取り出したデバイスをエナオに渡すと外に向かう。

 

「1人は避けた方が良いよな? 迎えを頼むか? 僕が送っても良いが?」

 

「流石に、その格好で2人で歩くのはどうかと思うぞ。

 普段なら、学園の生徒しか見ないから、また何かやってるとスルーしてくれるだろうが、今日は2人に慣れていない見学者が多いからな」

 

「待て、お前まで僕を何だと思ってるんだ?」

 

「私の感想ではなく、一般人の基準で客観視した場合の話だ」

 

何も言い返せないから止めて欲しい。

 

「でも、悩む必要は無くなったな」

 

表に出ると、何かバッグを持ったサビーナがフェルシーと話をしていた。

エナオを迎えに来てくれたらしい。

 

「すまない。世話になったな」

 

「気にするな。友達の世話をするのは当然だろ。

 それと、シャディクは優勝おめでとうと伝えてくれ。むろん、尽力したお前たちも」

 

「ああ。それにしても、シャディクの発言はスルーか? ちなみに私もだぞ」

 

「そうだったのか? だが、エナオ自身の事は聞いていたからな」

 

サビーナがアリヤが会話をしている間、エナオもフェルシーのもとに行って何か話している。助けられた礼を言っているのだろう。

だが、僕が気になったのは、見学に来ている子たちの反応だ。

アリヤとエナオに対して、探るような視線を送っている。

地球寮のアリヤは当然で、シャディクの衝撃発言があったので、グラスレーにシャディク以外のアーシアンがいると予想できるだろうし、サビーナとアリヤの会話でエナオがアーシアンだと知られた。でも、サビーナはスルーか?

そう僕が分析していると、ティルが苦笑しながら話しかけてくる。

 

「今年も良い子ばかりだったよ」

 

「本当か?」

 

おかしい。僕の予想ではアーシアン蔑視者がいると思うのだが……

 

「ラウダの心配は杞憂。

 でも、ラウダは誤解を解かないと拙いかも」

 

「誤解?」

 

「うん。どうも、ベネリットグループ内ではラウダの事が噂になってるみたいだね」

 

「噂?」

 

そう言って周囲を見渡すと、サビーナは何だそれと言う表情だが、マルタンを始め、地球寮の子が苦笑を浮かべている。

 

「そう。ラウダのことでね。誤解されてるんだけど」

 

 

 

 

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