ラウダの野望   作:山ウニ

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星空の下で、愛を叫ばれる

 

 

やはり、ここから見る星空は美しいな。

昨年と変わらない空に心が洗われる。

ここはアリヤの実家。子ヤギを送り、今年も宿泊だ。

 

「今年は静かだな」

 

「まあな。他の連中は笑ってるんだろうが」

 

昨年は冷やかしのメールが来ていたが、今年は笑って送ってくれた。

いや、もう、笑うしかないという状況だろう。

僕のベネリットグループ内での評判から、アリヤは既に僕のモノと認識されている。

今年は僕でなく、ヤギを気に入っているし、フェルシーに頼むことも考えていたが、フェルシーが行くとなると、アリヤを推薦した会社に、僕との縁が切れたと思われかねないので、今年も僕が行くことになった。

おまけに、宿泊は最初からの予定である。

 

「でも、本当に良かったのか? こう、早めに誤解を解くとかした方が……」

 

「無理だな。私たちが処女だと言っても、ベネリットグループの者は誰も信じないぞ。私の両親も含めてな」

 

「直球すぎないか?」

 

「お前に迂遠な言い回しをすると、斜め上どころか、異次元の方向に勘違いするだろ?

 とにかく、お前でなくフェルシーに頼んだら、飽きて捨てられたとしか思われない。

 同情しつつも残念がる両親に、どう説明しろと言うんだ?」

 

「本当に悪かった」

 

全部、僕の所為だから何も言い返せない。

 

「最初から誤解だと言って通じるなら良いが、全く通じそうにない気配だったぞ。

 付き合う付き合わないの話では無く、産む産まないの話になりかけたからな。

 せめて、卒業してからにしなさいと言われた時は、私も笑うしかなかったぞ」

 

「いくら何でも、気が早すぎないか?」

 

「そう思われることをエナオと人前でしたのだろ?」

 

「いや、こう、話しかけるタイミングで、軽く耳に…」

 

「説明はエナオからも聞いたが、この際だ。私にもやってみろ」

 

「だったら、先ずは腕を組むぞ。

 いや、そういう手で持つ感じでなく、肘と肘を絡める感じで……」

 

「この時点でアウトだろ? どう見てもパーティでやる組み方ではない」

 

「いや、そもそもの目的が、他から声をかけられないためだからな。

 お前だったら、こんな腕の組み方をしてる男女に声をかけられるか?」

 

「無理だ。なるほど、最初の一歩目から迷走しだしたんだな」

 

肘に胸が当たる感触は同じだが、質量では今回が上だな。

 

「それで、会話の内容は色気とは程遠い、グループ内企業の動向をチェックして、それについて耳打ちしてたんだが、こんな感じに」

 

アリヤの耳元に口を寄せて、説明をする。

 

「う、うむ……まあ、腕の組み方に比べれば……セーフ?」

 

「ああ。ただ、会話の内容が真剣なものだったし、その中で恋人に見えるように振舞いたいという相反する状況だ。

 そこで、エナオが恥ずかしそうな顔をした。僕としては、それこそが求めていたものだと考え、自分の演技力の無さを埋めるためにこうした」

 

会話の最後に息を吹きかける。

アリヤは、組んでいた腕を解いてしゃがみこんだ。

 

「ない! 絶対にない!」

 

「甘いな。エナオは耐えた。腕を解いたりはしなかったぞ。

 ただ、顔を赤くして、うるんだ目で見てきた」

 

「くっ……こうか?」

 

「睨むな。まあ、その後は、エナオの反撃として、こんな感じで」

 

そう言って、耳に軽くキスをする。

 

「更に、互いの攻撃がエスカレートしてだな……そんな感じになった」

 

アリヤは、あの時のエナオと同じように、組んだ腕を放さないようしがみつき、うつむいて息を荒くしている。

 

「な、なるほど。アウトだ。下半身の後継者の異名に相応しい振舞だ。

 人前でこんなことをする奴を家に招いて、おまけに泊まったなら、何もないはずが無い」

 

「誤解、解けないかな?」

 

「お前ならどうだ? 例えば、顔見知り程度の奴が? 予定を変更しての宿泊だぞ」

 

え~と、人前でいちゃつくバカ男を家に招いて、そのまま宿泊した。

……口説くのに成功した。落ちたと思うな。

 

「無理だな。客観的に見て、僕に信用は無いし、アリヤは大人の階段を上っている。いないはずがない」

 

「そんな訳で、誤解を解くのは諦めよう。

 それに、誤解ではない部分もあるしな」

 

「何がだ?」

 

「何時まで朴念仁をする気だ? まさか、本気で気づいて無い訳ではないだろ?」

 

「……それは、まあ、いくらなんでも、な」

 

「これで気づかないとは、流石に言えないか」

 

「だが、お前等にも問題あるぞ。お前とエナオ、仲が良いだろう? 僕に好意を持っているなら敵対してしかるべきではないか?」

 

「仕方がないだろ。全く気付かない朴念仁が相手だ。愚痴を言い合う内に、最も分かり合える相手になった。

 それにだ。最大の壁はグエルだからな。手を取り合う事も考えるさ」

 

「手を取り合うって……」

 

「グエルに勝つにはそれしかない。いや、それでも戦力不足だと痛感している。ジークグエルだ!」

 

「いや、兄さんを称えながら挑むな」

 

「ふむ。それで感想は?」

 

「お前等、趣味が悪いな」

 

「人の趣味にケチを付けるな」

 

「そうか……困った奴だな」

 

「それで……その……」

 

ここで答えないのは、それこそダメだろう。

だが、僕自身が自分の気持ちに戸惑っている。

 

「少し、落ち着いて話を聞いてくれるか?」

 

「ああ。振られるのは覚悟の上だ」

 

「そうじゃなく……怖いんだ」

 

「怖いって?」

 

「えっと、僕は恋愛をする気は無かった。

 僕の人生は、グエル・ジェタークに捧げ、彼のために生きると思っている」

 

「その、ブラコンは知っている。

 だがな、兄弟で結婚は出来ないし、肉体関係もアウトだと思うぞ。

 だが、女性恐怖症となると…」

 

「ちょっと待て。怖いってのは、そういう意味じゃない。別に兄さんと、結婚したいとか、関係を持ちたいとかは無い。

 あと、男色ということは無いからな。なんなら、肘に当たる胸の感触の所為で興奮してる」

 

「そ、そうだったか」

 

顔を赤くするが、組んだ腕を離すことは無かった。

その態度に、ホッとしながらも話を続ける。

 

「そうだな。僕は最初、兄さんに会う前は、本当に自分のことしか考えていなかった。

 周囲の人間は、全て利用できるか否か。役に立つか否か。それしか無かった。

 母さんが消えて、ジェタークの家に行くときも、ジェタークを利用する事しか考えていなかった。

 兄さんを、蹴落とそうと考えていたんだ」

 

「今からでは信じられんな」

 

「ああ。そうだよ。そんな僕を変えたのは兄さんだ。

 当時の僕から見て、兄さんは子供だった。今みたいな英雄の資質もなく、勉強も運動も僕の方が上。ただの明るい子供だった。

 でも、そんな兄さんは、全力で僕の兄として振舞おうとした。純粋で、優しくて、そんな兄さんに、それまでの僕は壊された。

 ミオリネの件で分かったと思うけど、今でも邪魔な相手は、誰であろうと潰す方が良いと考えている。

 だけど、そんな事をしたら、兄さんに嫌われると思うと、それが出来なくなる。

 僕の良心はね、兄さんによって植え付けられた後付けのものなんだ」

 

アリヤに軽蔑されるかと思ったが、どことなく納得したように頷いている。

 

「だから、恋愛をする気は無かった。

 そんなものしなくても、僕の相手は父さんが選んで、勝手に決めてくると思ってたからね。

 相手はそれで十分だと思っていた。愛情なんて無くても良い。それでも家庭は作れる」

 

原作のヴィム・ジェタークなら、そうするはずだ。

 

「お前は親が相手を決めることに抵抗はないのか?」

 

「してどうする? まさか、立場がある人間に、自由恋愛が普通に出来ると思っているのか?

 おまけに、恋愛するにも、必ず結婚を視野に入れる必要がある」

 

前世で言えば、勤める会社より、皇室の結婚の方がイメージしやすいか。

自国の名誉、利益、そう言ったものを無視した相手との結婚など、誰も喜ばない。マイナスなら反対する。

企業でもそうだ。まして、一族経営ともなれば、相手によっては企業がダメージを受ける。

そして、その迷惑は従業員までが被ってしまう。だから、責任ある立場なら相手は慎重に選ばなくてはならない。

 

「僕がこれまで生きてきたのは、ジェタークの力を無視できない。

 いや、そうだな。もっと分かりやすく言えば、僕がジェタークでなく、お前の代わりにマフヴァーシュ家に生まれていたら? それどころか、今まで見てきた難民の子供と同じ立場だったら?」

 

原作との差異は起きなかっただろう。

いや、起こせないと言った方が正しいか。運よく、サリウスに拾われれば、アホなことを考えてるシャディクを蹴落として、今と同じ流れにも持ち込め……やはり時間が足りないか。

 

「今の僕があるのは、ジェタークの、父さんの力が背景にあるからだと自覚している。

 それを考えれば、相手の選び方は慎重にもなるし、いっそ親が決めるなら、その方が楽だと思っていた。

 それに、そんな相手なら、結婚しても所詮は他人だ。兄さんを優先できる。

 変わったとしても、僕の良心は所詮は外付け。他人がどうなろうと構わない。そう思っていた」

 

「過去形か?」

 

「ああ。気付いたのは、この前のランブルリングだ。

 あの時、エナオを救助するために動こうとした。すぐ隣に兄さんがいるのに、兄さんより優先してしまった」

 

腕をつかむ力が強くなった。

僕がエナオを選んだと思ったのか?

 

「後で悩んだよ。ちょうど、例の噂の事もあったからね。

 そして、エナオのような状況になっても無視できると思える相手が、意外なほどに少ないと気付いて愕然とした。

 むしろ、僕の周りには、兄さんよりは優先しないまでも、咄嗟に手を差し伸べてしまう相手で溢れていた」

 

どうでも良いどころか、シャディクやミオリネのように処分することを考えていた相手でも、今となっては手を差し伸べるだろう。

 

「僕の良心は、僕自身のものになっていた。そして、それが僕を縛り付けることも。

 それが怖い。これ以上、僕にとって大切な存在になるのが怖いんだ」

 

「その中には私も入って……」

 

「入ってるどころじゃない。

 今だから言うけど、元々、僕はお前が兄さんに近付くのが嫌だった」

 

「ああ。それは気付いてた。

 それで……もう、恥ずかしいが、思いっきり言う。自惚れてしまった。お前が私の事をアレだと思ってだな。それで意識しだして……その、こうなった」

 

「そうだったんだ?

 えっと、その、お前って、少しあり得ないくらいに気さくと言うか、図々しいというか」

 

「待て、酷くないか? 確かに恥ずかしい勘違いだが、あれはお前も悪い」

 

「いや、そうじゃなく、褒めてるんだよ。ハッキリ言って、僕たち兄弟に、お前ほど緊張せずに接してくる奴は少ない。

 大なり小なり、腫物扱いだ。カミルとか慣れてくれば違うんだが、初対面であれはない。

 それが、何で推薦した企業とか、ちゃんとした場所に行くと緊張するんだか」

 

「いや、私はこんな喋り方しか出来ない。その、かしこまった態度や言葉遣いが苦手でな。ああいった場所では何も喋れなくなる。

 だからかな? こう接して良い相手が何となく分かる。お前たちは大丈夫だと分かった。むしろ、その方が喜ぶだろうと」

 

「正解だよ。その方が嬉しい。でも、会った頃は、僕個人の感情は自分でもどうでも良かった。ただ、兄さんが喜んで兄さんが惹かれるのが嫌だった。それで、邪魔をしていた。

 その内に気付いた。お前と会話していると僕自身が楽しいんだと」

 

まあ、ララァに似てて、メタ的な理由で危険視したんだが、それはそれ。

それを除いても、アリヤの気さくな態度は、兄さんに効くと思った。

 

「最初はアリヤに兄さんを取られたくなかった。

 それは、その後も変わらないつもりだったけど、色々考えている内に変化していた。

 今では、アリヤを兄さんに取られたくない。そう思っている」

 

「お、おう」

 

まるで、兄さんに逆らうかのような考え方。僕にとって絶対に許せない思考。

でも、そうなってしまった。

僕は全てにおいて兄さんを優先したい。

そう考えれば、アリヤとは距離を置くべきなのに、それが出来ない。

 

「……なんか、意外と言うか、その……」

 

「僕自身が困惑しているんだ。誰かを愛すべきではないと思いながら、それが出来ないで困っている。

 だから逃げている。情けないと言われようが、朴念仁でいたいとね」

 

「諦めろ。それに、困るな。私としては凄く嬉しいんだ」 

 

腕をつかむ力が強くなっている。緊張してるんだな。

まあ、僕もだが。何せ告白したようなものだ。後戻りは出来ない。

でも、兄さんを優先したい気持ちは捨てられないし、普通に呆れられるかもな。

振られた時は一人で落ち込もう。

 

「うん……えっと、話の中で気になった事があるのだが、聞いて良いか?」

 

「ああ」

 

「お前は、父親が相手を決める方が良いと考えていたらしいが、私で反対はされないのか?

 その、例の噂が出た後、相談に行ったよな? 一応、私は強いバックはいないはずだが……」

 

「ああ、行ったが気にするな。父さんに相談したことを後悔している」

 

本当に無駄足だった。

あれほど、恋愛相談に不適格な人間はいない。

 

「やはり、反対されたか?」

 

「違う。そうじゃなくて」

 

誤解されたか? そんな真っ当な話では無いんだが。

 

「えっと、反対するとかは全くない。

 そもそも、父さんは好きに相手を選べとは言っているが、それこそ産業スパイの可能性とか、会社にとって、マイナスになるような相手を許すほど、甘くも無ければお目出度くもない。

 だから、とっくにアリヤとエナオの事は調査済みのはずだ。その上で反対はしなかった。

 だから、気にしなくても良い」

 

「……何か隠してるな?」

 

何で分かるんだよ。

でも、聞く価値なんて無いからな。

 

「なあ、言ってくれないか? その、明日から会うかもしれないんだし、心構えと言うか……」

 

当然、会うだろうな。

むしろ、時間を無理に作ってでも見に来る。そういう人だ。

 

「本当に下らない事だぞ」

 

「構わん。言ってくれ」

 

「そうか。じゃあ、言うぞ」

 

そこまで言うなら仕方がない。言ってやろうじゃないか。覚悟しろ。

 

「もう1人、行っとけ。と」

 

「んん?」

 

「だから2人、おまけに仲が良い2人は危険だから、もう1人増やせと」

 

「それって、つまり、二股でなく三股しろと?」

 

「そうらしい」

 

「……なあ、ジェターク家には突拍子もない言動をしなくてはならない縛りや家訓でもあるのか?」

 

「ない。断じてない」

 

あの父親と一緒にしないで欲し……あれ? でも、ジェターク家って、みんなエキセントリックな言動が多いような?

 

「そうか。3人目か」

 

「だから、気にする必要は…」

 

「そうだな。確かに私とエナオの2人がかりでも、あのグエル相手には戦力不足だとは思っていた」

 

待って。何で兄さんと戦う前提なんですか?

 

「3人目が仲間になれば、勝てるか?」

 

「待て。何で魔王を討伐する勇者一行みたいな思考になってる?」

 

「よし。候補は誰だ? どんな相手が良い? ニカか? それとも、最近、お前を弄ってくるジェターク寮のSの子か? 確かに彼女の口撃ならグエルにもダメージを与えられるし、お勧めだ」

 

「だから待て。何で兄さんを倒そうとしている? ダメだ。許さんぞ。絶対に兄さんを守って見せるからな」

 

「そうやって、グエルを優先するからだ。

 新たな仲間を探して、グエルを倒す。ジークグエル!」

 

「だから、兄さんを称えながら倒そうとするな!」

 

あれ? 何の話してたっけ?

 

 




2年生編完結。
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