ラウダの野望   作:山ウニ

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GUND関係者の思考がヤバすぎる

 

 

ミオリネの件は、入学から一か月後、最初の一週間の連休で地球での成果が一周年を迎えるし、その後でミオリネ本人の意見を聞いてから、話を進めようという事になった。

そして、本題だった重い件に入る。

 

「これが、地球寮の卒業生が集めたGUNDの情報だよ」

 

マルタンが溜息交じりに出した資料に目を通す。

おうおう、出るは出るはのガンダムと魔女の痕跡。

 

「心臓をGUNDにする理由って何だよ?」

 

思わず突っ込んだが、本当に分からない。

GUNDって、自分の意思で自由に動かせるサイコミュ的なものじゃ無かったの?

心臓を自分の意思で動かす訳じゃないし、むしろ、一定のペースで動く器官だから、普通のコンピューター制御の方が良くないか?

 

「何だって、子供で人体実験をするんだよ」

 

「そりゃあ、戦災孤児って材料が大量にあるからね。

 何処の誰が拾うかで、その先の展開は全然違う。

 例えば、この資料にあるように、モルモットになることもあれば、アスティカシア学園の学生になることもね。

 学園生でも、ヌーノみたいなギリギリの子もいれば、御三家の後継者候補もいる」

 

「おい」

 

兄さんが注意するが穂先を緩める気は無い。

黙っていたって、罪悪感は絶対に沸く。いや後ろめたさか。今のグラスレー組には優しい言葉は毒にしかならない。

 

「事実でしょ。これで罪悪感を拗らせたら迷惑だから、今の内に言っておく。

 何をすべきか見誤るなよ」

 

キツイ言い方に、カミル、マルタン、ティルが不思議そうな表情を浮かべるが、説明する気は無い。

シャディクも言う必要は無い。これは抱えておくべき案件だ。言ってスッキリは許されない。

ただ、アリヤは察してそうだが、まさか、エナオが漏らしたか?

 

「分かってるよ。こんな事にならないよう、ナジを支援して戦災孤児や避難民の子供は早々に拾うし、そもそも出ないよう尽力する。可能な限りね」

 

それで良い。そう可能な限りだ。全てを救うなんて無理をしようとすれば、必ず歪が出る。

共感が行き過ぎて冷静さを失えば、救える者も救えなくなる。

 

「この痕跡を残している魔女の残党なんだが、見つからないのか?」

 

「残念だけど、転々と移動しているか、大物がかくまってるか、それとも死んでいるかの状態みたいだね。

 先輩たちでは見つけられない」

 

「そうか」

 

GUND技術を取り戻したい兄さんは、残念そうにしている。

僕としては、GUNDは怖くもあるので、乗り気にはなれないけど、一応はペイルにいるはずのベル何とかさんを調べた。

だけど、表には出てこないのでヘッドハンティングどころか話も出来ない。

 

「なあ、グエルは、何でGUNDに興味があるんだ?

 こう言っては何だが、使えない技術だと思うぞ」

 

「いや、元は医療技術だぞ。身体の不具合、それも四肢の欠損を補えるなんて便利じゃ無いか?」

 

シャディクが当然の反応をすると、それに反論するように、アリヤが医療技術として優秀だと主張する。

まあ、アリヤは原作でも当然のように株式会社ガンダムに参加していたからな。

見た感じ、ティルもアリヤと同じだが、マルタンは渋い顔。

ここでも原作との乖離が見られる。マルタンが原作に比べて、経営者目線で物事を見れるようになったからだろう。

 

「言い難いけど、四肢の欠損…」

 

「マルタン、良いよ。僕から言おう」

 

マルタンの性格だと迂遠な説明になりかねない。

ここは、容赦なく僕から説明した方が全員に分かりやすい。

 

「例えば腕を失うとする。自由に動かせる腕があれば便利だ。

 それでアリヤは、手足のない人間を何人くらい見たことがある?」

 

「え~と、親しい人にはいないが、数人は見たことが……」

 

「そう、数人だろう。そんなに多くは無い。

 これが紛争地や掘削などの危険な仕事に従事している人が多い場所なら、もう少し増えるだろうが、手足が無い人間なんて当たり前にいるわけじゃない。

 つまり、大量生産は望めない上に、手足を失う人の多くは生活に余裕がない者だ」

 

紛争地で戦っている兵士。巻き込まれる人間。掘削等の危険な作業の作業員。

可能ならば、もっと安全な場所で生活したいのに、それが出来ないから、そこにいる。

兵士の場合は攻撃側なら戻れば状況は異なるが、地球の戦争では、そこまで国から手厚いケアを受けられるケースは多くない。

 

「GUND技術の詳細は知らないから断言は出来ないけど、失った手足を作るなんて、ヴァナディース機関があった20年以上前の時点でも決して安いものじゃ無かったはずだ。

 人件費だけでも、仮に10人の会社だとすると……」

 

株式会社ガンダムがミオリネを含めて10人だった。

それに対し、毎月10人の手足の欠損者が出るなら、手足を失った人が、一か月分の給料を出さなければならない。欠損者が半分の5人なら2か月分。1人なら10か月分だ。

それが毎月毎年行われて、初めて正常な運営が出来る計算になる。ちょっと異常だという事が分かるだろうか?

 

「大量生産が望めないから、コストの削減は難しい。だからヴァナディースはオックスアースに買収されたんだろうね。

 兵器の場合は性能さえ良ければ、多少の値段の高騰には目をつぶれる。釣り合いが取れればね」

 

つまり、株式会社ガンダムは経営としては、どう考えても失敗する。

チュチュが掘削屋の仲間のことを言っていたが、いくら何でも毎月の様に手足の欠損者が出ることもないだろう。

冷たいようだが、彼らの給金で購入できるほど、安い代物にはならない。

全員が納得したところで、シャディクが改めて質問する。

 

「それで、グエルは何だって、そんなものを欲しがる?」

 

「ラウダが服に出来たらって言ったのが切っ掛けだな。

 小型化が可能なら、人が踏み込めない場所でのドローンとか、用途は広がるし、無くすのは惜しいだろ?」

 

「小型化?」

 

「だからさ、例えば、車椅子生活のサリウス代表なんかが、その服を着れば、自分の意思で自由に動けるようになるような服。資料にあるような身体の代わりや埋め込みじゃなく、外付けが良いんだよ。

 理想は、服の下に着れるインナーが良いんだが、取り敢えずは宇宙服みたいなやつでも良いんだよ。

 サリウス代表なら、そこそこ高くても買えるだろ? それこそMS1機分の値段でも」

 

「MSより高くても、俺が買うぞ」

 

「だろ? 俺だって、父さんが車椅子に乗るなら買う。

 で、これは俺たちが金を持ってるからで、俺たちとラウダ以外はドン引きしてる。

 でも、体積から考えても、そんなには高くならないだろう」

 

物のお値段って奴は、基本的に大きいものほど高くなる。何といっても大きい=材料費がかかるだからな。

材質が同じものでも、重量が増えただけ値段は上がる。小型化による技術料はあるが、量産すれば技術料も分散され安くなっていく。

 

そして、GUNDだが、義手に出来るなら、その分の体積で自由に動かせる腕は作れると思う。

そうなると、中が空洞でも可能にさえなれば、宇宙服並みの太さなら作れるはずなんだが……

 

「ビジネスにおいて、メインとなる購買層のことを考えるのは絶対だ。

 でも、ヴァナディースは、それを考えていたとは思えない。義手や義足が必要となる貧困層をターゲットにしてしまった。

 でも、服となれば購買層は広がる。富裕層にも売れるし、そこで広がれば量産化で安くなる。

 そうなれば、義手や義足だって安く作れるようになる」

 

軍事技術からスタートしたテレビや電話が量産化したように、富裕層向けだった携帯電話が量産化で誰でも買えるものになったように。

GUNDだって小型化すれば、水星ママンがしてた義手にしたって、細く作って周囲をシリコンなどで肉感の、ぶっちゃげるとリアルドールのような外観にすることだって可能になるはずだ。

 

「でも、そんな簡単なことをやってない事が気になるんだよな。

 やはり、技術的な弊害があるのかもしれない」

 

「お前は、自分が考え付くことは誰だって気付くと思う癖を直せ。

 周囲を見下すよりは良いが、もっと自分の発想を誇れ。

 少なくとも、俺は気付かなかったし、後でヴァナディースの環境の問題も言ってただろ?」

 

「環境?」

 

まあ、あれは原作のプロローグを見ての感想と言うか、あの人たち、おかしいよね。

アーシアンとスペーシアンの問題で、アーシアンが被害者ってことを強調しようとしているのかな?

でも、普通なら、危険すぎるからと、実験を続けることに、疑問を持つ奴が現れても不思議じゃないんだけどな。

 

「うん。会ったことがないから断言は出来ないけど、GUNDの研究者って、人の身体を刻みすぎた所為かな?

 頭のネジがぶっ飛んでる気がする。アリヤは、自分の身体を望んで機械にしたいか?」

 

「え? それはない」

 

「だよな。仕方なく機械で補うなら分かるけど、望んで機械になりたい人間は滅多にいない」

 

でも、原作で機関の代表のカルドの会話を聞いている限り、全身を機械化することが、正しいとでも思っている印象だった。それを理念とか言って、狂信者の領域に達しようとしている。

それこそ、金がある奴が高性能なボディを手に入れる格差社会になるんじゃね?

でも、それの行きつく先は、機動戦士ではなく銀河鉄道になってしまう。謎の美女と機械の身体になるためアンドロメダに旅立つのか?

 

「それに、アリヤ……でなく、サビーナに聞こうか。

 僕が仕事を依頼してきて、危険だけど、手足を失っても、GUNDで補えるから気にするなと、言われたらどうする?」

 

「撃つ」

 

「せめて殴ってください。

 とにかく、考え方がおかしい。いざという時に、GUNDがあるなら良いが、危険な状況を普通の事とするより、可能な限り必要としない環境を作る方が正しい」

 

チュチュで言うなら、手足を失ってもGUNDがあるから平気ではなく、手足を失わない環境、職場作りを目指すべきだ。

 

「でもさ。ヴァナディースは研究者特有の視野狭窄があるかもしれないけど、他の人が誰も助言しないってのも不思議なんだよね」

 

「それこそ、最初から異常者の集団と思われてたんじゃないかな?

 それなら、他の人は距離を置いても仕方がないよ」

 

「そうかな? マルタンも、そう思ってる?」

 

「普通に変だと思うよ。この資料を見たせいかもしれないけど、少なくとも逃げた奴の中に明らかに異常者がいる。

 これ、デリングに禁止されたから仕方がなくとは思えない」

 

「その手の連中が育つ土壌があったってことか」

 

考えてみれば、嫌々やってそうなベルなんとかさんを基準にしてたが、彼女からして、ガンダムを操縦出来ないなら、パイロットを改造しましょうって発想だからな。それに、水星ママンも異常者だろう。

碌でも無いことを考えるのが、ベルなんとかさんと水星ママンだけでなく、大量に出る集団だと思った方が良いのかな?

 

「それに、デリングはこの件で英雄呼ばわりされているんだし、ヴァナディースへの凶行には軍部以外の支持もあったはず。

 そう考えれば、ヴァナディースもオックスアースも、当時の人から見れば同じだったと思うよ。ヴァナディースに実験の被害者がいない事だって、あるいはサンプルがいなかった…ゴメン」

 

「気にしなくて良いさ。俺もマルタンの意見に同意だ」

 

マルタンは、ヴァナディースが人体実験をしなかったのは、戦災孤児という材料の入手が難しいから実験をしなかっただけと思ってるって事か。

おまけに、シャディクも同意見。そうだな、原作を見ていなければ、そう思うのか。

 

「だが、その所為でGUNDで可能なこと不可能なことが分からないってのがな……小型化、出来ないかな?」

 

「だな。そう考えれば、凄く惜しい技術を無くしたって気になる。

 普通に未練が湧いてくるな」

 

兄さんが残念そうに呟き、それにシャディクが同調する。

もし、出来たらサリウスにプレゼントするつもりなんだろう。

でも、サリウスは自分にGUNDを使う資格なんて無いって言ってるんだが、シャディクがニコニコ顔でプレゼントなんて言って来たら、どんな反応をするんだろう?……面白いから黙っておこう。

 

「確かにデリングの行いは、正当化したところで私刑だからね。

 アイツが感情で処断しなければ、禁止されるにしても、その理由が明確になる訳だし」

 

私刑を行ったところで、うっぷんは晴れても再犯の防止は逆に困難になる。

抑止に期待したいのだろうが、やる奴はやる。

むしろ邪魔になるだけだが、ざまぁやスッキリを人は求めてしまう。

 

「話は変わるけど、みんなには言わない方向で行く?」

 

水星女は、僕が脅しておいたから来ないはずだけど、地球の魔女がな……

シャディクとフォルドの夜明けは大丈夫だけど、逆に、どこから出てくるかが分からない恐怖がある。

 

「正直、学生の手に負える案件じゃないよ。

 探すにしても、卒業してからが良いと思う」

 

「俺もマルタンに同意見。みんなに話すのも抵抗があるし、卒業して軍部に進む奴が知ればいい。

 お前等だって、ニカに話はしにくいだろ?

 それに、現状だと、俺が調べてるって知れば、養父さんも良い顔はしないだろうけど、卒業すれば言ってくれると思うし、そうなればドミニコスに話を出来る」

 

「そうだな。一応は対策の訓練は続けるにしても、魔女のことは黙っておこう」

 

僕としては不安なんだけどな。

でも、無理に捜索を進める理由がない。

この不安をかかえたまま、原作の始まりになる3年生か……大丈夫かな?

 

 

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