ラウダの野望   作:山ウニ

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やましい気持ちはない。クールに説明する。

 

 

アリヤさん、近すぎません? 体温や感触が気持ち良いんですけど?

何かと3人目を要求するものだから、からかわれてるだけだとも思ったりするんだが、こんなことするから、やはり好意を感じるんだよ。

このまま、よこしまな心が沸き上がってきそうなのを押さえ、頑張って冷静な声で質問する。

 

「それで、持ち込んだMSは?」

 

ニカがタブレットに撮った写真を表示して、テーブルの上に置いて全員が見れるようにする。

 

「なるほど、かなりの旧式だな。デミシリーズはマイナーチェンジが激しいし、決闘は厳しいな」

 

「ハッキリと無理と言った方が良いんじゃね?

 グエル先輩は当然、アタシ等にも勝てねえで、鬱憤が溜まってる保守派連中に狙われっぞ」

 

「保守派?」

 

「知らねえの?」

 

MSを持ち込むくらいだ。アーシアン内での企業との横の繋がりも薄いはず。

そんな情勢に疎いチュチュが知っているはずも無いが、知ってて当然と思っていたレネが首を傾げる。

どう説明したものか悩んでいると、オジェロが助け船を出す。

 

「コイツ、今の状況とか知らないんだよ。

 そうだな、お前がケンカを売ったらダメって言われている相手が改革派で、大将がそこにいるグエル先輩。

 それが気に喰わない連中が保守派。で、地球寮に入った時点で、お前は改革派だって思われるって事だ。

 一応、言っとくが、アーシアンが保守派にはなれねえぞ。要するに保守派ってのは、アーシアンを見下し切った連中の事だからな」

 

「なるほど、それで弱そうな、あーしが狙われるて訳だ。舐めやがって」

 

「気持ちは分かるが、マジでデミトレじゃあ無理だぞ。オメーがいくら強くてもな」

 

「なんでだよ?」

 

「デミトレーナーってMSは、訓練に適してんだよ。理由は出力が低いから。

 どう説明すっかなぁ……」

 

「ニカ、ディランザの訓練用と戦闘用の画像を並べて表示してくれ」

 

そう言って、表示された画像をチュアチュリーに見せる。

 

「ジェタークで作っているMSだが、コイツは骨組みの周りにモーターなどのパーツを加えて行ってパワーや速度を上げる設計だ。

 で、こっちが訓練用で、こっちが戦闘用。これだけ加えるパーツに違いがある。

 そして、デミトレーナーは訓練用(コッチ)になる」

 

「マジで?」

 

「後で半年前のランブルリングの映像を見せてもらえよ。

 アタシらは3人がかりでラウダ先輩に勝てなかった。つーか、アタシは右手持って行かれたし、メイジーは左腕を持って行かれた。あのまま続けてたら、普通に負けてただろうな。

 でも、ラウダ先輩がデミトレに乗ってたら、アタシ1人でも勝てるぜ。それとも、そのくらいハンデだって言えるか?」

 

「無理だな。ハインドリーとでは性能が違いすぎる。

 ちなみに、ニカならコイツで戦えって言われたら、どう改造する?」

 

「どうせ捕まったら捻り潰されるんだし、推進機を積みまくって、その上で装甲を機動に耐えられるだけ残して全部外すかな。

 武器は射程のあるライフルだけで、とにかく逃げ回りながら射撃する機体にする」

 

原作のアレだな。いや、推進機を積みまくるとか言ってるし、ナチュラルにブルジョワになっている。原作では、コストが許す限りって言葉が付くだろう。

その機動力を生かすまでも無く、シャディクに近付かれた後は、速攻でやられていたがな。

つーか、元々のコンセプトがシャア専用なんよ。そんな凄腕パイロットが乗る前提の機体に、威勢が良いとは言え素人の1年生でしかないチュチュを乗せて戦わせるのが間違っている。

 

「それ、滅茶苦茶ハンデを背負って、戦えって言ってるようなものだよ」

 

「すでにMSがハンデだからね。ハンデの方向を偏らせるくらいしか出来ないと思うな」

 

「なあ、悪いことは言わねえから、ディランザにしときな。これじゃあ、3年になる前にスクラップになっちまうぞ。それか、ギャプランでも良いからさ」

 

グラスレー組とフェルシーがそろって、チュチュにディランザを勧め始める。

原作では他に選択肢が無かったからアレになったんだろうが、普通に考えて正気の産物ではない。

そんな流れをぶった切るかのように、兄さんが言い放つ。

 

「だが、せっかく用意してくれたんだろ? それを無下にするのは悪いだろ」

 

それなんだよね。アリヤが僕に連絡してきたのも、それがあったからだろう。

このまま続けていてもグダグダするだけだし、アリヤの感触に理性が削られる前に話を終わらせよう。

 

「ちなみに、チュチュは学園で何を学びたいか、希望はあるのか?」

 

「希望って?」

 

「ある意味、ジェタークやグラスレーは簡単なんだ。適当に決闘でもしておけば、パイロット科は腕を磨けるし、メカニック科は損傷した機体の修復で技術的な経験を積める。経営戦略科はその修復費で出たコストをどうするか。

 何と言っても自社のMSだから、学生は推薦した企業に、企業は対外的に、頑張れば頑張るだけ良い宣伝になる。

 でも、地球寮は事情が異なる。それぞれ目的が異なる寄合だからな。それで、チュチュは? 例えば軍人になりたいとか?」

 

「あーしは……」

 

元々、モビルクラフト乗りで、掘削の手伝いをやっていたが、操縦の才能が有った。

しかも、中学時点でアス高に入学できるレベルでだ。周りのオッサン共に天才だと持ち上げられた。

なるほど、原作ではオッズランキングにも掠らない1年生だったにも関わらず、自信家だったのも頷ける。

そして、底辺関係者にも関わらず、アス高への入学条件を満たしてしまった。素直に凄い。

その結果、周囲が盛り上がった。スペーシアンに舐められるなと、意気揚々と乗り込んできたと。

 

「ノリと勢いじゃねえか」

 

フェルシーのツッコミに全員が同意する。

いかん。希望を聞いて、速攻で終わらせようと思ったが、予想以上に手強い。

 

「先ずは、チュチュに可能な道を提示しておこう。

 戦闘で頂点を目指す。デミトレでは厳しい。

 口で言っても納得しないだろうから、明日にでもフェルシーと戦ってもらえ。

 それと、この方向は、実力を上げれば何とかなるという話では無い。修理にかかるコストをどうするかという問題が出る。

 チュチュがブリオン寮にスカウトでもされれば、修理代も面倒を見てくれるだろうが、残念ながらブリオンは保守派だ」

 

アス高カーストの特徴で、上位者は最下層である地球寮に嫌がらせをしないので、ブリオン寮の人間から嫌がらせを受けることは無いだろうが、それでもブリオン社は保守派だ。

戦争シェアリングが続けば、ベネリットグループで御三家を超える頂点になれた可能性のある企業だ。

その破壊を目指す改革派とは相いれない。

 

「個人的には嫌な人間は少ないがな。それでも、チュチュのデミトレが壊れても、修理パーツを提供してくれることは無い。

 よって、壊れたら購入する必要があるし、ある意味では全身を破壊されて、新規パーツに交換した方が性能は上がる。だが、その場合のコストは新型を一機購入した方が安くつくだろうな。

 その資金だが、地球寮には無い。特に最近は財布の紐が固くなってるだろうな。原因はジェターク社の所為だ。その点については恨んでくれても構わん」

 

ジェターク社がバックに付く前は、それぞれが持ち込んだMSの修理代の見積もりを出して、後見する企業に支援を求めていた。

払いたくなくても、MSが無ければ学生は活動が出来ないし、自分だけが出さないとなれば、横の繋がりでハブられるので、余程の多額でもない限りは、嫌でも出さなければならない。原作ではこのスタイルだったはずだ。

 

だが、ディランザやギャプランを弄っている限り、地球寮の学生を推薦した企業は、使用するMSの修理代は払わなくて良かった。

その上、高性能なMSの運用経験を積んでくるという、実にお得な現状に甘んじてきたと言える。

 

その状況を捨ててデミトレを弄り、新入生のために金を出せと言っても、絶対に良い顔はしないだろう。

すでに僕との縁で予想外な利益を得たアリヤと、実績の高さで兄さんが代表を務めるMRMSにスカウトされているマルタンを推薦した企業なら、縁を繋ぐ目的で資金を出してくれるかもしれないが、残りは反対するだろう。

 

「よって、他の方法を提示するから検討してくれ」

 

先ずはデミトレの使い道が気になるだろうから、あのポンコツを役立てる方法を提示しなければ、話を聞いてくれないだろう。

 

「ディランザがやっているように、戦闘でなく作業に使用する道があるが、手が問題でな。

 あの3本指では、細かい作業は不可能だ。おまけにデダラスという、手の付け替え可能な機能だが、あれって何なんだろうな? 武器や道具の持ち替えこそがMSの最大の売りだと思うんだが、その肝心の手を付け替えって……」

 

「ラウダ、脱線しそうだぞ」

 

手の付け替えという謎機能の不満を語りたいんだが、脱線を予想したアリヤに注意される。

 

「すまない。とにかく、手を付け替えにした所為で、余計に器用さが低い。

 御三家のように、しっかりとした五指を揃えた手だと、技術的な難易度もあるし、コストもかかるから、ある意味では清々しいかもしれないが、細かい作業には不安がある性能だ」

 

「だったら、手だけ付けかえるとか?」

 

「いや、人間と一緒で、五指の稼働には、手より前腕の構造が重要になる。

 こんな感じで自分の腕を握りながら、指を動かしてみろ」

 

左手で右腕の前腕を押さえたまま右手の指を動かすのを見て、チュチュがその真似をする。

 

「おお! 動いてる」

 

「指を動かすには、その辺の筋肉を使用しているし、そこはMSも同じだ。デミトレは指のモーターだけで動かしているが、それが細かい動きが苦手な理由だ。

 よって、手の代わりに、ディランザの肘から先を付ける。あるいは、デミトレの前腕部をぶった切って、そこにディランザの前腕を移植する。

 前者は腕が妙に長くなるからバランスが難しい。後者は腕をぶった切るから後戻りは難しい。

 どちらにするか?」

 

いきなりの選択肢を突き付けられ、チュチュの頭がパンクしそうだ。

だが、少なくともデミトレが無用にならないことが分かったので、最初の不機嫌さは無くなっている。

 

「そう悩まなくても、急に選べと言われても無理だろう。

 当面は、ディランザで腕を磨くと良いさ。地球寮の作業用セッティングは高評価だったが、個人的には戦闘用を扱って欲しい」

 

「何で?」

 

「地球に出回っているディランザの、ほとんどは作業用だ。

 だが、その地域に敵が攻め込む危険がある」

 

現状の戦争シェアリングにケンカを売っている状況を説明し、近接する紛争国が攻めてくる危険を教える。

デリングがそそのかすことは無いと思うが、デリングほどの影響力は無くても、別に奴がする危険は十分にある。

 

「それを想定して、作業用を戦闘用にする。

 だが実は、どの程度が妥当かはっきりしなくてな。現状では思いっきり変更して別物にする予定だが、コストがかかりすぎるのが難点だ。それに操縦感覚も大きく異なる。

 そこは、来年から本格的にやる予定だったが、来年だと兄さんも僕もいないからな」

 

「来年から?」

 

「来年は結構な人数が地球寮に入る予定だ。

 ジェターク社が作った難民の子供の学校と、パーツを作る会社で働く者の子息らだが、しっかりとした教育がされた人間がようやく育った。

 それだけでも7人だ。それに加えて例年で、2、3人は地球寮に入るから10人近くなるな」

 

ジェタークが地球に手を出し始めたのは、僕たちが11歳の頃からだが、当初の学校のレベルは低かった。

それが、次第に基礎学習に加えて、学業の基本である何を成すか、何を学ぶかが成立し、難民が溶け込みつつ、その地域に馴染むには、農作業以外に、MSでの作業、及びいざという場合の兵として役に立つことを目指すことにした。

その最初の卒業生が今年になる。

いやあ、どう考えても全員がグエル教信者になると思うから、ミオリネにぶん投げる。

 

「それって、ジェターク寮に入るんじゃね?」

 

「その選択をするのもいるが、少なかったな。

 ジェターク社に入社するってことは、ジェタークの意向で赴任先が決定する。

 だが、あの子らは自分がいた地域を豊かにしたいと願った。そこに戻るには、その地域の会社に推薦を受ける必要があるからな」

 

ジェタークの子会社という形になるが、その地域ごとで作られた会社での就職を望む子が多い。

まあ、その方向に教育したんだけどな。

でも、間違ってはいない。あの子たちは今いる場所を祖国だと思っている。それを守り、豊かにしたいと思う気持ちも本物だ。

戦乱で追い出された故郷、元居た場所に帰りたいとは思わなくなっている。

 

「ちなみに、地球寮の建物はジェタークで建造するから安心しろ。個人部屋や複数部屋もある大きな建物にする。

 来年は10人程度だが、その次、チュチュが3年になる年はもっと増える見込みだし、3年ほど遅れるだろうが、グラスレーが手を出す地域からも来るだろうからな。

 そんな訳で、僕が見やすい内に、多少の基礎を作りたいという希望がある。

 それに、ヌーノとオジェロはギャプランは扱っていたが、ディランザでの経験が少ないから、今年中にティルとアリヤから教わって欲しいんだ」

 

個性的な戦闘カスタマイズを磨き続けるジェターク寮と違い、作業用を重点にしてきた地球寮をベースにして、そこから戦闘が可能なパーツ構成を探る。

来年、一斉にゼロから始めるより、ある程度のベースがあれば、そこから分岐しながら様々なパターンを組んでいきたい。

 

「だが、決めるのはお前だ」

 

その気になりかけたチュチュに、兄さんが声をかける。

そうだな。あまり誘導するものじゃないか。

少し先走りしすぎた。

 

「何なら片っ端から手を付けて、しばらくは自分に合うのを探せば良いさ。

 こちらの希望は伝えたが、拒否しても構わない。俺の目には、お前はギャプラン向きに見えるしな。

 ラウダが言った件も、元々、来年からやる話だったから、断ったところで当初の予定通りに進めるだけだ」

 

「うん。分かった。でも、そのディランザのは興味あるし、やってみてえ」

 

「助かる。それに、腕を磨く最短ルートだと思う」

 

助かった。デミトレに拘られたら、来年が心配だからな。

体格的にギャプランに惹かれる可能性もあるが、情に厚いタイプだから、ヌーノとオジェロの事も考えてディランザを使ってくれると信じよう。

つーか、本当に話を終わらせてくれないと、アリヤさんの感触で冷静な話が出来なくなる。

 

 

 

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