ラウダの野望   作:山ウニ

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世間知らずで僕より強い? そ、そんな奴いるわけない!

 

 

「それでは、婚約者らしいことはしていないんですか?」

 

「そうね。婚約なんて、クソ親父が勝手に言ったことだし、それも形骸化してるし」

 

グエルとの関係に興味がある1年生からの質問攻めに、ミオリネは多少ウンザリしながらも、冷静に事実を告げる。

2年に進級して1か月。1週間の長期休みでは、去年から進めていた栽培モデルの成果を確認し、概ね満足いく結果を出したことで安堵と言うか、普通に嬉しかったので我ながら機嫌が良い。

おまけに、最後の夜になる今日は、温泉が用意されていて、入浴後はお座敷という場所で女子のみが集まっての雑談タイム。心身ともにリラックス状態である。

そんな状態だから、新入生の不躾な質問にも、丁寧に対応する心の余裕があった。

 

「その、クソ親父って、総裁のことですよね?」

 

「そうよ。アレはクソ親父よ。貴方たちもクソおっさんで良いわよ。敬う必要なんてないから」

 

「いやいや、そうはいきませんって」

 

多くに否定され、クソおっさん呼びは受け入れられなかった。

気にしなくても良いのにとは思うが、それを無理強いは出来ない。

 

「でも、形骸化なんて出来るものなんですか? 総裁がお決めになった事ですよね?」

 

「まあ、普通は出来ないけど……」

 

そう言って、デバイスを取り出し、録音されている音声データを再生する。

これぞ教典。例の件で良くやったと、ラウダから褒美にもらったものだ。

説明するより分かりやすいし、どうせだから、同志を増やす。

 

「やだ。うちの寮長カッコイイ」

 

「総裁に、こんなこと言ったんだ」

 

「は、話には聞いてたけど……」

 

効果はバツグンだ。新入生だけでなく、2,3年の女子にも効果があった。

何度も聞いているはずのイリーシャが昇天しかかっているが、レネとメイジーが一緒にいるから平気だろう。

 

「そ、その、こんなことを言われて、逆に恋に落ちません?」

 

「ですよ! むしろ、婚約に前向きになるものじゃないですか?」

 

「え? 内容は勝手な婚約の否定でしょ?」

 

「そうですけど!」

 

「もう、単刀直入にお聞きします」

 

ずいっと、1年生の子、確か地球寮のリリッケという子だ。彼女が前に進み出る。

 

「ミオリネ先輩は、グエル先輩のことを、どう思っているんですか?」

 

その言葉に、周囲の視線が強くなる。圧だ。圧を感じる。

その雰囲気に圧され、真剣に考える。

 

「推し。その一言に尽きるわね」

 

「それって、好意を持ってるんですよね?」

 

「そうなるわね」

 

「だったら、何で!?」

 

「そう言われても……」

 

考えた事はある。このままグエルの妻になることを。

どう考えても理想的な相手だ。容姿、性格、社会的地位。どれを取っても子供が考えた理想をも上回る。

だが、何かが違うという気がする。

勝手に決めた父親への反発は大きいが、決して、それだけではない。

でも、その理由が自分でも分からなかった。

 

「一緒にいて、ドキドキするとか無いんですか?」

 

随分と乙女な質問に苦笑してしまう。

だが、ある意味で最も核心を突いた質問かもしれない。

 

「無いわね。それどころか、何と言うか、グエルへの好意の理由が分からないのよね。

 最初は頑張れって、応援してたんだけど、今となっては、そんな立場でもないし」

 

距離が近付きすぎた。応援どころか手伝える立場になり、それどころか、役に立っている自信もある。

一方で、彼の言葉に感動する初心な自分もいる。

 

「うん。よく分からない。 

 でも、コイバナしたいなら、私よりアッチの方が面白いわよ」

 

そう言って、仲良く、くつろいでいるアリヤとエナオを指さす。

 

「いえ、あの方たちは、私たちの理解の範疇を超えているので」

 

「そう? ネタとして話す分には、凄く面白いんだけど?」

 

そう言って、ネタとして弄り回しているレネに視線を送るが、意外にも否定するように手を振られる。

 

「いや、その子たちはコイバナをしたいんであって、珍獣の生態観察で盛り上がりたいわけじゃねーの」

 

「でも、私もコイバナは無理よ」

 

「そう思われてねえから、絡まれてんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「あいつら、随分と酷い言い草ではないか?」

 

「そう言われる原因の大半はアリヤにあると思う」

 

「お前も乗っただろう」

 

愚痴を言い合いたかったのに、エナオに裏切られた気分だ。

だが、そう言われても仕方がないとも思う。

この状況を作ったのは間違いなく自分だという自覚はある。

元々、分不相応な恋だと思っていた。普通に先方の親に反対されると考えていたのに、そんなことも無く、グエルがジェタークを継ぐ際の障害を減らす意味での条件を満たしていた。

 

そして実家に行った夜、何時もの軽口の延長のつもりだったが、意図した以上にラウダを追いつめてしまった。

観念したように自分の考えを言い、同時にアリヤを受け入れようとした。

嬉しさと同時に、それ以上に怖かった。

 

あの後は直感で行動した。感情を押さえて理性的に行くと、ラウダにはぐらかされて終わる。

しかし、感情に任せると嬉しさで結ばれる前に、恐怖で拒絶したたろう。

だから、感情でなく直感に任せた。

結果がアレだ。我ながら、何でこうなったと思ったが、後から冷静に振り返ると間違っていなかったと思う。

 

ラウダにとって、女性との交際は結婚を前提にしたお付き合いで、半ばプロポーズなのだ。

それに、あの時ラウダを追いつめたのが、自分でなくエナオだったとしたら、ラウダはエナオを受け入れただろう。

それは、元々、相手は自分の意思でなく、親に任せるつもりだったということでも明らかだ。

そして今は、親でなく、世間の噂に従い相手を受け入れようとしている。

それでも、最初に出会った頃の、グエル以外は自分も含めてどうでも良いという空気は見えなくなっているし、親が決めた知らない相手よりも大事にされるだろう。

 

しかし、それで良いかと言われたら、少し躊躇する。

まず、エナオに対して罪悪感を抱く。抜け駆けのようなものだし、改めてエナオに迫られたら、ラウダも揺れるだろう。

それに、グエルに勝てない。勝ち負け以前の問題で、仮に現時点で自分かエナオのどちらかを選べと言われたら、彼の判断基準は明白だ。どちらを選んだ方がグエルのためになるか。そうに決まっている。

 

それなら、そんな意図は砕きたい。方法は2つある。

一つは選ばせない事。二股上等は決して嘘ではない。そもそも、ラウダの正妻になれば苦手な社交が避けられない。エナオが得意とは言わないが、グラスレーで教育を受けているだけあって自分よりマシだ。

その意味でも社交が得意な3人目と言うのも悪くはない。

だが、一方で自分だけを選んで欲しい希望もある。選ばれないリスクもあるが、嘘は吐けない。

 

そして、2つ目の方法はグエルが誰かを選ぶこと。

ラウダの異常性が目立つが、グエルも普通とは言えない。

ラウダのブラコンは分かりやすい。誰が見てもそうだ。

だが、グエルはどうだ? 彼が弟より大切にしている相手がいるか?

恋人も好きな相手もいない。友人と言ってもカミルやシャディクをラウダより上に思っている事は無い。

つまり、あの男もブラコンなのだ。壮大な野望とやらも、見方を変えればブラコン同士が仲良く同じ目的に向かっているのが現状だ。一歩間違えれば気持ちが悪い。

だから、グエルがラウダより優先する相手を見つけることで、ラウダに変化を促す。これが最も実現性が高いだろう。兄が弟離れしたことで、ラウダも最愛を見つけ出すかもしれない。

もっとも、ラウダがグエルと言う外付け良心を外すことで、普通に浮気性になるかもしれないがそれはそれ。

 

「しかし、残念だが、ミオリネでは脈が無いな」

 

「諦めてないんだ」

 

こちらの呟きにエナオが反応する。エナオには自分の考えなどお見通しのようだ。

エナオとしては、シャディクを応援する意味で、グエルとミオリネが恋仲にならない現状に満足しているが、アリヤとしては、ミオリネが最大の希望だった。

 

彼女ほどグエルの相手として相応しい女性は現状で知らない。

並んで立っていると実に絵になるし、出自もケチの付けようがない。ラウダは手厳しい評価だが能力も高い。

ラウダの厳しさも組織の頂点に立ったらダメというものであって、No.2、それも亭主の尻を叩く系の伴侶だったら、その役目を十分に果たしてくれるはず。

ただ、グエルの尻を叩けるかと言われれば、無理だろう。

その意味では、ミオリネには、グエルよりシャディクの方がお似合いではあるのかもしれないし、彼女がグエルに惹かれないのも、その辺りが関係している気がする。自尊心の強い彼女としては、もっと、自分に頼ってくれる相手が良いのだろう。

 

「他に相手がいるか?」

 

「レネとフェルシーに頑張ってもらう?」

 

グエルのお気に入りとして、フェルシーとレネがいるし、彼女等もグエルを慕ってはいる。

だが、問題もある。

そのことを確認すべく、レネの元へと移動する。

 

「なあ、私たちの事を珍獣だと言ったが、そう言うお前はどうなんだ? グエルを慕っているだろ?」

 

「な、なんだよ。別にいいじゃん」

 

「もちろん構わんが、一つ聞かせてくれ。もし、グエルにプロポーズされたら応えるか?」

 

「え?」

 

「ついでにお前らならどうだ? グエルに、何ならラウダでも構わん。付き合うでなくプロポーズだ」

 

周囲で遠巻きにミオリネと新入生のやり取りを一緒に見ていたフェルシー、ペトラ、ニカ、サビーナ、メイジー、イリーシャ、チュチュに聞く。

 

「い、いや、いきなりプロポーズって……」

 

「アイツは良家の子息だぞ。女遊びは出来ん。そうだろ?」

 

視線をミオリネに送ると、生真面目な表情で首肯する。

 

「絶対にないとは言えないけど、推奨はされないわね。余程のはみ出し者なら気にしないのもいるけど、当然ながら親からも周囲からも評価が下がる。デメリットが大きいわ。

 その点では、グエルは典型的な良家の子息として振舞っている。ラウダに関してはご愁傷様ね。面白いから良いけど」

 

「えっと、それじゃあ、ラウダ先輩との関係って?」

 

「プロポーズされたんですか?」

 

「今は私たちの事は良い。お前等、あのグエルの妻になれと言われてOK出来るか?」

 

「そ、それはちょっと……」

 

「荷が重い」

 

これが問題だ。グエルの評価は異常に高い。デリングに反抗して見せた事で、下手すれば父親のヴィムより評価されているくらいだ。

真面(まとも)な神経なら、彼のパートナーなど拒絶する。

 

「ミオリネ並みの背景も無しじゃ、余程の世間知らずでもない限り無理」

 

「実家の太さの他に、並びたてるアピールポイントは無いかな?」

 

「ジェタークの跡継ぎなんだし、経営者能力とか?」

 

「あるいはMSの会社なんだし、MSを開発できるとか?」

 

「その両方で、ラウダより上がいるか?」

 

「何でラウダ先輩が基準なんだよ?」

 

「グエルの頼る相手の基準がラウダだからだが? グエルにはラウダより重要な相手が欲しい」

 

「それミオリネにも無理だから!」

 

「だったら、ラウダよりMS戦で強くなれ。グエルの事だ。間違いなく関心を抱く。

 それに、対外的にもジェターク社のテストパイロットとして認められる。頑張れ」

 

「無理言ってんじゃねえ!」

 

「どんな化け物をグエル先輩の嫁にする気だよ!」

 

名案だと思ったが、レネだけで無く、普段は良い子のフェルシーにまで怒鳴られた。

 

「う~ん、いや、そう言えば世間知らずで、MS操縦の才能がある奴が」

 

「なに見てんだよ。冗談じゃねえ。ここ1か月で散々鼻っ柱折られたってーの」

 

チュチュが不貞腐れて言い返す。デミトレでフェルシーに挑んだ結果、デミトレを壊さないよう、優しく倒されたのを切っ掛けに、レネ達とも戦ったが、デミトレの無事を喜んでいいという結果だった。

現在では、ディランザを少しずつチューンしているが先は長い。

 

「いや、センスはあると思うぞ」

 

「それはそう」

 

「自信持って良いぞ」

 

「おだてたって無理。それに、何時までも世間知らずじゃねえし」

 

「ダメか。しかし、そうなると……」

 

「なあ、考えてみれば、ミオリネがダメなら、グエル先輩ヤバくね? 下手すれば一生独身?」

 

改めて気付いたが、その通りだ。このままでは、グエルにとっての一番は永遠にラウダになる。

ラウダは大喜びだろうが、それは都合が悪い。

 

「あの男、何だって、大モテなのに、結婚となると全員が拒絶するんだ」

 

「人のこと言えんのか?」

 

レネのツッコミはスルー。

ミオリネを見ると、続けて全員が一斉にミオリネを見る。

 

「な、何よ? そんなに見られても……」

 

「いや、いるよ。ラウダ先輩より強い人」

 

そんな中、ニカがお茶を飲みながら平然と言う。

ラウダでも構わんと言った時、真剣に考えていた様子だが、今はスルーして、そのラウダより強い相手を聞くことを優先する。

 

「誰だ?」

 

「シャディク先輩。世間知らずじゃないけど、ジェタークに匹敵する背後だし、経営者としても優秀。

 欠点として同性婚になるけど…」

 

「天才か!?」

 

グエルとシャディク。確かにお似合いだ。並んで画になるのは実績がある。

変な想像をした女子の黄色い声が響くが、こちらとよこしまな気持ちは無い。切実だ。

何だかミオリネが慌てだしたが、グエルの引き取りを拒絶した罰だ。シャディクは渡さん。

 

「何だか、アリヤって、ラウダの変な影響を受けてきてない?」

 

「お前が言うな」

 

エナオのツッコミはスルーする。

ラウダより優秀か強い、ジェタークに引けを取らない背後を持つか余程の世間知らずでも現れない限り、グエシャディを推すと決意した。

 

 

 

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