ラウダの野望   作:山ウニ

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なんてタイミングで出てくんだ! 何の話してたか忘れただろ!

 

 

ミオリネが持ってきた資料に、少なくない驚きを持った。

お題を出したのが一昨日。昨日は朝からニカとフェルシーを連れて、ギャプランの長距離移動装備が完成したので、その評価のためにジェターク本社に行っていた。

残りの評価テストは、2人に任せて今日の昼過ぎには戻って来たんだが、ミオリネに資料が出来たとメールを見ても期待はしていなかった。

 

「高級品種の復活か」

 

ゴメン、舐めてました。正直に言って、全力で支援をしたいくらいだ。

ミカンか。ハウス栽培にする気か? 野生で育っているのはあるだろうけど、高級品種まで持って行くのって、大変だろうな。

 

だが、そう言われると普通に食べたくなってきた。ミカンを食うならコタツが欲しいな。

それに、イチゴか。転生後(ここ)で食べたイチゴって酸っぱすぎて好きになれないんだよね。

他に、モモにピオーネにメロン。食いたいな。

 

「素直に凄いよ。これ、お前だけで考えたのか?」

 

「うん、と言いたいけど、シャディクに知恵を借りた」

 

「途中までか?」

 

「う、うん」

 

「なるほど。明らかにシャディクの発想ではないが、お前のやりたいことを、シャディクがビジネスに使えるよう輸送ルートに着目して進めていたんだな。

 だが、最初の内は、日持ちのするミカンからスタートして、並行して輸送ルートの確立を目指していたのに、シャディクが目を離した途端に、あれもこれもと、収拾が付かなくなったか」

 

「何で分かんのよ!」

 

「分かるに決まってるだろ。詰め込みすぎだ。利益が出るまで何年かける気だ?」

 

「えっと……その間は融資をお願いして」

 

「構わんが」

 

「本当!? 頭打った? 変なもの食べたとか? フェルシーにアシストして欲しいと思ってたくらいなのに!」

 

「失礼な奴だな。ちなみに知っていると思うが、フェルシーなら戻ってくるのは明日だぞ」

 

ミオリネにとっては、フェルシーに地球産の食べ物の良さをアピールして欲しいと思っていたのだろう。

だが、ミオリネからしたら、信じられないのも無理はない。

実際に経営者として見れば不合格だ。ただ、僕が高級品種の美味しさを知っているから、乗り気なだけで、普通なら却下案件だ。

 

「それで、融資は構わんが、やはり会社の経営をしたいか?」

 

「経営をしたいって訳じゃ無いけど……」

 

「経営者になりたいのでないなら悪いことは言わん。これをしたいのなら、ジェタークに就職しろ。

 このプランにプラスして、植生エンジニアの専門家も顧問として雇う。そいつに学びながら、やがては宇宙のプラントでも栽培できる道を探せ。もちろん、地球の農業従事者も一緒に宇宙へ行ってもらう」

 

「それって、随分と先が長い話になるけど?」

 

「当然だな。就職だぞ。これは定年まで終わることは無い事業レベルだ。お前がやってしまうでなく、事業として継続していく方向で進めて欲しい」

 

「それって、グエルの妻になれって事?」

 

「……やはり、シャディクに話して、グラスレーでやってもらおう」

 

「グラスレーでも良いの?」

 

ふむ。兄さんの妻と言う時は何となく嫌そうだったが、グラスレーだと嬉しそうだ。

 

「シャディクは拒否はしないだろうな。どう思う?」

 

となりで資料を読んでいるエナオに尋ねる。

 

「絶対に歓迎する。むしろ、ジェタークに就職したら泣く」

 

「だそうだ。エナオのお墨付きも貰ったし、そもそも、日本はグラスレーの縄張りだしな。グラスレーに就職希望を出すと良い」

 

「う、うん……じゃなく、何で就職が良いの? 利益が出ない場合でも切り捨てが難しいだけよね?」

 

「最大の理由は、お前の身の安全だ。

 護衛も無しにウロウロされたら、テロの標的になる」

 

「やっぱり、恨みに思っているアーシアンがいるのね?」

 

「それはいるだろうし、そう見せかけて保守派に狙われる可能性もある。

 お前が死ぬと、今まで積み重ねてきたものに、大きなキズが入るから、そこを自覚して自重して欲しい。

 だから、警護が出来るグラスレーに就職した方が良い」

 

「なるほど。そう言われると、好き勝手に動くと迷惑よね」

 

「ああ、自分で思っているより、お前の命は価値は高いと思え。

 それと、他の理由として、お前の武器はアグレッシブな行動力だ。これは体の動きだけでなく、思考においてもそうだな。

 この資料を見ても分かるが、お前はアグレッシブに考えたり動いたりして、勢いに乗ると高い成果を出すが、トップになってしまうと、流石に責任を感じて、無意識に自重すると思うぞ。

 だから、ブレーキをかけてくれると安心できる相手がいる方が望ましい。シャディクがいるとやりやすかっただろ?」

 

最初の切っ掛けも、兄さんにハニートラップをかけると噂されて、それを打ち消すために突っ走り出したことだしな。

変に熟考するより、思いつきに任せた方が力を発揮する。ただ、間違った方向に行く可能性もあるから、ブレーキ役は必須。

 

「その、確かに、シャディクとは凄くやりやすかったけど……」

 

なんか恥ずかしそうにしてるし、言い難そうなことがあるのか、躊躇している。

ふむ。グラスレーが良いと素直に言い難いのか?

 

「ちなみに、ブレーキ役だが、僕だと警戒する。兄さんだと悪いと思う。

 それが理由で、勢いに乗れないんだと思うぞ」

 

「な、なるほど、納得。

 でも、その……」

 

「何だ? ハッキリ言ってみろ」

 

「そう言えば、グエルは? 午後からはいるって聞いてたけど?」

 

「決闘委員会で立会人。シャディクも一緒のはずだ。

 パーカーが新入生に因縁を吹っ掛けたらしい。帰った早々で機嫌が悪くなったよ」

 

「パーカー?」

 

「ハンマーフィールドの3年だ。保守派だし、知らないのは無理もないが、兄さんも嫌ってる奴だな」

 

原作の短気な兄さんを煽るようなバカだからな。新入生にも見境なしだ。

負けて虫の声で謝らせたい。

 

「それで、兄さんに用だったか?」

 

「いえ、むしろ聞かれたくない悩みと言うか……」

 

「どんな悩みだ?」

 

「えっと、恋愛系になるのかな?」

 

「…………は?」

 

聞き間違いかと思い、隣のエナオを見ると、頭を抱えていた。

どうやら聞き間違いではない。この僕に恋愛相談をするバカを見ればこうもなる。

 

「正気か? 病院に行くか?」

 

「大丈夫。単純な恋愛相談って訳じゃ無く、私のグエルへの感情って、自分では恋愛とは違うと思うんだけど、こう言語化できないから、まさかって想いが拭い切れなくて」

 

「そういうことか。僕もお前では無いから正確には分からん。それどころか、自分の感情さえ処理しきれないくらいだしな。

 だから、こうなんだろうという予測になるが良いか?」

 

「お願い」

 

「支援者。それも国を興そうとする奴に従うタイプ。

 動乱期に名を馳せる軍人系の人物に、例えば金のある商人なんかが、惚れこんで軍資金を援助するとかあるんだが、お前の場合は力になりたいと馳せ参じて、そのまま重要な仕事を任されて幕僚に収まった感じだな。

 惚れると言っても恋愛ではなく応援。相手の目指している事に共感しているので手助けをしたいと願い、お前は兄さんに対して、金でなく、その能力で応援している状態だな」

 

三国志でいう挙兵時に出資した商人でなく、配下になりに来た荀彧や趙雲みたいな感じか。

前は無力だったから単なる推し活で、しかも金を受け取らない相手だから純粋な応援だった。

だが、今の状態は、兄さんを主役に歴史物語的にストーリーを作れば、婚約者として親に送り出されたが、婚約なんざ関係ねえと、その能力を見込まれ、主要な幕僚に収まっている感じだな。恋愛や忠誠心ではなく、同じ目的に向かう同志として認め合っている。

実際の兄さんの目的は更に先にあるけど、地球再生だけでも通過点としてある訳だし、間違ってはいないと思う。

 

「ああ、なんだか納得。恋愛感情と錯覚しそうだけど、やっている事に惚れたと言えば、確かにそうね」

 

「本当にあってるかは分からないぞ」

 

ミオリネの感情なんか僕は分からないしな。

 

「グエルも同じ感じかな?」

 

「それは合ってる。兄さんは、お前に恋愛感情は無いが、頼れる相手だと思っている」

 

「ち、ちなみにシャディクはどうかな?」

 

は? コイツは何を言ってるんだ? 顔も赤いし、自分でも分かっているだろうに。

もしかして、ミオリネもシャディクに向かってる? よし、応援しよう。

 

「分かってるだろ? アイツはお前に惚れている」

 

横でエナオも頷いている。

 

「それが自信が無くて……何だか壁を感じるのよ」

 

それはアイツがヘタレだから。

いや、少し違うか。未だに自分がミオリネと一緒になることに抵抗を感じている。

原因として、ミオリネを神聖視している? あれ?

 

「そうだな……壁か。少し待て。考えてみる」

 

シャディクがミオリネに惚れているのは間違いない。何と言っても原作を見てるからな。恋愛下手の僕でも分かる。

だが、原作ではアホなことを企んでいたから、自分は相応しくないと思っていた……と、考えてたが他にも理由が?

なにしろ、今は一発逆転のテロなんて企んでいない。失敗すると分かりきっているし、しっかりと地に足を付けて進んでいる。

それなら、ミオリネに向かって進んでも良いはず。

 

形式上の婚約者である兄さんに気を使っている? いや、2人の関係は知っているから遠慮する必要は無い。

あるいは、それが出来ないほど自分を卑下している?

何故、そこまで卑下する? 産まれ? いや、産まれそのものを卑下するなら、最初に想像したように、自分の身体に流れるアーシアンの血を卑下し、アーシアンへ攻撃的な人間にならないとおかしい。

 

だったら、過去の行動か。

地球では悲惨な生活だったことは知っているが、細かい内容は知らないし興味もなかった。

普通に物乞いや窃盗はやっていると思っていたが、他の犯罪もしているのか?

例えば物を得るために殺人。あるいは売春、あの顔だし男娼としても務まるだろう。

 

仮にエナオがやっていたと想像する。

どちらにしても、遊びの金欲しさに今もやっているなら軽蔑するが、難民だったころの死人が当たり前な治安が終わっている地球の境遇なら仕方がないと思う。むしろ、必死に生きようとした結果だと評価するくらいだ。

僕は気にしないし、ミオリネもそうだろう。

だが、ある意味で上から目線と言われても仕方がない考えだな。やった当人が潔癖な性格なら話は変わる。自分を卑下する。

 

「案外、自分を許せない過去があるのかもな」

 

「どういうこと?」

 

どう言った方が効果的か? 今のミオリネは何だか自信が無さそうだから火を点けてやる方向か。

グラスレーに来た年齢的に男娼の可能性は低いが、その線で攻めてやるか。

 

「例えば男娼をしていたとかかな? それなら自分を卑下するのも当然だし、育ちの良いお前に相応しくないと思うのも無理はない。

 つまり、シャディクと結ばれるのは諦めた方が良い。戦災孤児だ。どんな過去があっても不思議では無い。お上品なお前には荷が重い」

 

「バカにしないで。地球での戦災孤児の扱いは知っているわよ。生きるためには犯罪の1つや2つ、やってて当然でしょ。

 そんなことで軽蔑しないわよ」

 

うん。知ってる。

そして、予想通り先程までの自信が無さそうな空気は消え、お得意のアグレッシブモードに入ったな。

 

「だったら悩むことも無いだろ」

 

「う……でも、余計にハードルが上がった気が」

 

ふむ。確かにミオリネの方から好きだと言っても、何だかはぐらかしそうな気がする。

アイツは根っからのヘタレだからな。あれ? ブーメランの幻影が見える?

いや、気のせいだ。だが、言葉だけでダメなら行動に移すしかないだろう。

 

「襲うしかないな。押し倒せ。シャディクが本当に嫌なら、お前程度は軽く押しのけるさ。

 それとも、拒絶されるのが怖いか?」

 

こう言えば、怖いとは言えないだろ。

ミオリネの方から押し倒せば、シャディクだって覚悟を決めるさ。いや、キスくらいはしないと無理か?

何か考え込んで、顔を赤くしている。どんな想像をしてるんだか。

だが、流石にミオリネでも押し倒す勇気は無いかな?

 

「えっと、私って、こういう経験が無いから教えて欲しいんだけど……」

 

顔を赤くして、発言を躊躇している。

まったく、ここで躊躇するようじゃ先が思いやられるな

 

「笑わないから、遠慮なく聞け」

 

「どれくらいのサイズになるのかな?」

 

「は?」

 

「いや、私から襲うにしても、私は女だから付いてないし、道具を用意しないと」

 

え?…………道具? 付いてない?

…………ああ、シャディクが男娼をしてたと思って、その方向で襲うと?

で、道具を使って尻を…………アッー!!!

 

待って! 違うから! 誰だよ、押し倒す勇気が無いなんて考えてたの! この子、全然躊躇してないじゃん! 攻める気満々だよ。前に進みすぎだよ。

アグレッシブすぎるだろ! 誰かブレーキかけろ! さっきまでの甘酸っぱい空気カムバック!

 

「ちょ、ちょっと待て」

 

「何よ? 別に見栄を張らなくても良いわよ。アンタのサイズになんか興味ないから」

 

ちげーよ! 何でだ? 何だってこんな考えになる?

あれか? 女の子としては、その手の過去があれば最後までしてくれないと安心しないとか? それとも、ミオリネ固有の考え方なのか?

女心が不得意な僕では分からないが、それでも分かることがある。このままでは、シャディクの尻と尊厳が破壊される。

進めば2つ(破壊する)だ。絶対に進ませてはいけない!

 

「あ、あのな、ミオリネ……」

 

どう言う? 何と言って踏み止まらせる?

エ、エナオだ。エナオに助けを……ダメだ。僕を見て固まっている。そんな、あの子を助けてみたいな表情をされてもな。

僕だって助けたいが……悩んでいたらデバイスから着信音が。

五月蠅い。今は重要な案件を抱えているんだ。出たくはない。

 

今度はエナオのデバイスから着信音。

僕のデバイスも鳴りっぱなしだし、本格的に五月蠅い。

誰からだ? カミル? 後にしろ!

 

「ねえ、出た方が良くない?」

 

五月蠅いからか、ミオリネが言うので、取り敢えず通話しとくか。

 

「何だ?」

 

『おい、決闘の映像見てるか?』

 

「あのな。パーカーの新入生いびりなんかに興味はない」

 

今はそれどころじゃない! シャディクのピンチなんだよ!

進んで2つのものを失いそうなんだよ!

 

『新入生? 相手は2年の編入生なんだが……いや、そんな事は良い。とにかく映像を見ろ!』

 

カミルの珍しく強い語気に、渋々と今やっている決闘の映像を表示する。

だが、それを見て固まった。

それに、2年の編入生だと?

 

『なあ、あれって……』

 

「ガンダム」

 

カミルの疑問に答えたのは、隣のエナオからだった。彼女も通話をしている。

シャディクは決闘委員会だから、相手はサビーナだろう。

サビーナ、エナオ、そしてカミルが気付くのも無理はない。

それは、映像で確認したことがあるルブリスに、あまりにも酷似しているシルエット。

だが、僕にとってはルブリス以上に印象に残る姿。

 

決闘しているのは、間違いなくエアリアル。

スレッタ・マーキュリーが来たのか?

 

 

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