「それでは、私もスレッタに付き添います」
決闘をする2人が自分のMSがある場所に向かうため部屋を出る。
それに合わせてペトラも出るようだ。
それに不満の声を上げたのは、意外にもセセリアだった。
「え? アンタまで行かなくても良いじゃん」
グエルとしても、このままペトラに居てもらおうかと思っていた。
来年から自分もラウダもいない。そうなると、ジェタークから決闘委員会に出すとしたら、フェルシーが筆頭候補になるが、彼女だとパイロットとしての腕はともかく、こういった仕切りを務めるのは難しい。
それはグラスレーも同様で、レネだと感情的になり片方に肩入れしそうだし、メイジーだとかき回しそうだ。
イリーシャなら公平だが、声を出すのが苦手だという問題がある。最近は改善が進んでいるが、期待しすぎは良くない。
ペイルも今の2年にこれといった人物はいない。
そうなると、来年はセセリアの負担が大きすぎる。彼女もそこを不安視しているのだろう。
そして、解決策として期待されるのがペトラの存在だった。彼女ならフェルシーもレネもコントロール出来る。
話し合ったことは無いが、シャディクもセセリアも同じことを考えているのだろう。
双方、このままいろよと目が物語っている。
「せっかくだからペトラには決闘委員会を見学してもらおうと思ってたが、それは次の機会にするか。決闘にジェタークが関わらない場合になるが」
「はい。その時はお願いします」
ペトラが部屋を出ると、不満そうなセセリアへフォローしておく。
「パーカーとスレッタの2人を同時に出したからな。短時間とは言え拙いだろ?
言ったとおりに、またの機会にペトラも呼んでおくから」
「そうしてくれると助かります。
でも、大丈夫なんスか? あのスレッタって子に校内清掃なんてさせて。編入したてで晒しものでしょ?」
「いや、多分……」
スレッタの印象だが、随分とオドオドした娘だと思った。
挙動不審で、そこが危なっかしくて目が離せない。
同時に妙に素早い。反応が良い。いや、速すぎる。一瞬でペトラの背中に回っていた。
その動作だけではない。視線を動かすときの反応から、上手く喋れないのは、思考が遅いのではなく、緊張しているだけで、おそらく頭の中では色々と考えている気がする。
「なあ、シャディクはどう見た?」
「余程、変なMSで無ければ負けないんじゃないかな?」
「お前もそう思うか?」
「あの水星から来た編入生、どう見ても強いよ。じゃなきゃ、校内清掃なんて言わないね。あれは編入生いじめを企んだパーカーへの罰さ。グエルが自信なさげなのが不思議なくらいさ」
それもそうだ。情報を分析すれば、スレッタが強いことは分かりきっている。
だが、その会話にセセリアが待ったをかける。
「いや、そんなことが、何で分かるんスか?」
「反応速度。視線や動きから反応速度が尋常じゃないよ。俺の知る限りではグエルより落ちるが、ラウダより上だな。自分の事は分からないけど、もしかしたら、俺より上かもしれない。パイロットに一番必要な能力だ。
それとスタイル。視線が下を見てるから気付きにくいけど、良い感じに鍛えられている。
それだけなら、才能の塊で済むけど、あの水星ちゃん、MSを使って救難活動をしているって、彼女の母親から聞いてるからね。操縦も素人ではない。そんなとこかな?」
「他にも色々あるが、俺も言語化できるのはシャディクが言ったことくらいで、残りは言葉で説明は難しいな。
だが、セセリアだって、何となく強そうだとか分かるだろ?」
「言われてみれば……」
「俺やシャディクも最初から言葉で説明は出来なかった。
だが、何人かの強い奴を見て、そこに共通する何かを感じる。その中のいくつかを言語化まで出来るようになったのは最近の事だ」
納得がいったような、いかないような、微妙な表情でロウジを撫でだす。
おそらく、そういった事はロウジに投げるのだろう。
「それで、グエルは何で自信なさげなんだ?」
「いや、自信が無いわけでは……」
シャディクが言ったようにスレッタは明らかに強い。
問題となるのはMSだが、母親のプロスペラがCEOをしているシン・セー開発公社は、ラウダとニカが驚くほど優れた特許を数多く取得しているので、そこのMSなら、そう酷いものでは無いだろう。
つまり、スレッタが負ける理由は思い当たらない。
それなのに、何故と思うが、やはり、彼女の自信なさげな表情や態度がそう思わせるのだろうか?
何処か放っておけない庇護欲をそそる。
いや、やはりMSを見ない事には……
そんなことを考えていると、指定の決闘区域に2つのMSコンテナが到着した。
「これより双方合意の元、決闘を執り行う。
勝敗は通常通り、相手MSのブレードアンテナを折った方が勝利者だ。
立会人はジェターク寮のグエル・ジェタークが務める」
今までの思考を追い払い、立会人として振舞っていると、コンテナが開き中からMSが出てくる。
『LP041、スレッタ・マーキュリー、エアリアル出ます』
その声を聴きながら愕然とした。
コンテナから現れたMSが、あまりにも酷似していたから。
「ウソだろ?」
嫌になるほど見続けている普段の訓練相手。
それを破壊することがパイロットとしてのグエルの勤め。
いや、破壊だけではない。マルタンが持ってきた資料にあったガンダムのパイロットとなった子供の末路。
あんな事は許せない。もし、自分の前に現れたら、必ず救って見せると思いながら訓練してきた。
『おい! 何時まで待たせる!』
パーカーの苛立ちを込めた声に、我に返った。
「両者、向顔」
咄嗟に、何度も口にしてきた台詞を出す。
『勝敗はMSの性能のみで決まらず』
『操縦者の技のみで決まらず』
『『ただ、結果のみが真実』』
「
言った後に、これで良かったのかと後悔する。
シャディクを見ると、彼も愕然としている。
決闘を中断させて、一度、調べるべきではないか? だが、どう調べる?
仮に、あれがガンダムなら、プロスペラが簡単に口を割るだろうか?
それでも、プロスペラは探し続けていた魔女の可能性がある。
だが、そもそも、スレッタはプロスペラの娘のはず。
ならガンダムではない? いや、もしガンダムなら、プロスペラは自分の娘を? そして、スレッタは母親に?
やはり、止める? だが、あれがデリングに知られたら? ヴァナディース事変の惨劇を思い出す。
デリングなら、関係者を皆殺しにしかねない。プロスペラだけでなく、スレッタまで?
定まらない予想がグルグルと頭の中をかき回す。
判断できない。冷静になろうと自分を戒めようとするが、資料で見たガンダムに乗ったため、体中にパーメットを流入させた痣だらけの少女の死体と、スレッタの顔が重なる。
プロスペラに会わなくてはならない。
だが、会ったところで、あれがガンダムなら、素直に話してはくれないだろう。
GUNDを正道に戻すことも、スレッタを救おうにも、誤魔化されて終わりだ。
だったら、交渉を有利に進めるカードがいる。
いや、そのカードが目の前にある。スレッタの身柄とガンダムが。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ペトラに書いてもらったメモのお陰で、口上もクリアし決闘が始まる。
相手は知らないけど、アスティカシア学園生だから弱い訳が無い。
それでも、掃除は避けたいし全力を尽くす。
そう思っていたのだが……
「何で?」
相手の射撃。何故、狙いを教えてくれるかのように銃口を止めてしまうのか?
母が作ってくれたプログラムでは、赤い人、グエルは当然で、青い人、ラウダも銃口を向けたら直ぐに発射する。
だから、避けるのは難しいのだが、この相手は最低でも0.1秒は固定している。ここを撃つと宣言しているようなものだ。当然避けれる。むしろ、当たる方がどうかしている。
「まさか私の知らないルールが!?」
ランブルリングで見た限り、赤青白の3人組は直ぐに発射していたから、母のプログラムが間違っている事は無い。
だとすれば、自分だけでなく、母も知らないルールがあると考えるのが妥当だ。
しかし、相手に狙いを知らせるルールがあるにせよ、どれくらい止めるとかが分からない。
これは撃つのは拙い。即座に反則負けになるだろう。
ライフルを装備するのは止めて、そのまま接近する。
防御用にエスカッシャンの使用も考えたが、何が反則になるか分からないから止めた。
相手の武器は実体剣の付いたライフル。それで切りかかってくれば、切るのはセーフだ。
そして、間合いに入ると希望通りに切りかかってきた。
「これなら!」
ビームサーベルを抜いて、相手の剣に合わせる。
直ぐに別の角度から切りかかって来たので、咄嗟に武器を持った右腕ごと切り飛ばす。
簡単に行き過ぎた? これはセーフか? そう思っていると左腕で殴り掛かってきた。これも咄嗟に左腕を切り飛ばす。
反則? でも、何も言ってこない。
両腕を失って、呆然としている相手のブレードアンテナを切る。
良いのか? もしかして反則負け? 何かしたのか?
そう思っていると、自動での勝者判定が出ると、自分が勝利したと告げられ、コクピットが開く。
「え、えっと……」
愕然としているパーカーという人が見える。
何か、拙いことをしたらしい。
「あの……私、決闘のルールとか、よく、分からなくて……」
自分が何をしたのか分からないが、分かることはある。
「貴方、凄く弱かったんですけど……本気では無かったんですよね? 私、何かルール違反しましたか?」
すると、何だか叫び出した。凄く怖い。
謝ろう。何をしたか分からないけど、とにかく謝ろう。
「ご、ごめんなさい! あの…」
『スレッタ・マーキュリー』
謝罪の言葉を探していると、グエルの声が聞こえた。
決闘委員会からの通信だった。
声はコクピットの中からでは無いので、全体放送か何かで喋っているらしい。
「は、はい!」
少し怒っているように聞こえる。
やはり、何かしたのか?
『ヘルメットを取れ』
「え? ……はい」
言われた通りにヘルメットを取る。何だか、視線を感じるが気のせいではないだろう。
『身体に問題は無いな?』
「へ?……大丈夫…です」
『では、俺と決闘しろ。日時は明日の朝から』
「ハ、ハイ」
したらしい。だったら逆らえない。決闘するしかない。
だが、よく見ると怒っているというより、何かを決意したような真剣な声に聞こえる。
いや、今はそれよりもルールの事だ。
「あ、あの、私が何かルール違反をしましたか?」
『ルール? いや、決闘ではどんな手を使ってでも勝てば良い。
口上で述べた通りだ。勝敗は、結果が全て』
「で、でも、あの、パーカーと言う人、弱すぎましたけど? 何かのルールがあって…」
『ああ、道理で。お前とパーカーでは実力が雲泥だ。気にする……黙ってろ!』
パーカーと言う人が何か叫び出したが、グエルが一喝すると涙ぐんで黙り込む。
どうやら、悪いことをしたらしい。
『だが、安心しろ。俺に手を抜く必要は無い。
もちろん、下手な射撃を何かのルールと勘違いして、ライフルを使ったらダメだという誤解も捨てろ』
そういうことらしい。普通に使って問題なかったようだ。
『それで、勝利時の要求だが、何かあるか?』
「え?」
首を左右に振って、何もないことを表明する。
『だったら、考えておけ。お前のどんな要求だって聞き入れてやる。なんなら、俺の命だろうがな』
「い、いやいやいや!」
いらない。そんな要求は断じてしない。
『そして、俺からの要求だが……お前の母親に会わせろ』
「お母さんに? どうして?」
『返答次第では、そのMSを破壊して、お前を貰い受ける』
お母さんに会って、私を貰い受ける? それって……
「…………え?」
この瞬間、アスティカシア学園中に驚愕の声が響いた。