スレッタが呆然としたままで、心ここにあらずの操縦で不安だったが、問題なく元のハンガーに戻ると、困惑した表情のペトラが出迎えてくれた。
「えっと、おめでとうで合ってる?」
「ち、ち、ち、違いまふっ」
噛んでしまった。でも、ペトラとは顔を合わせにくいのだろう。
スレッタは即座にコクピットを閉めて引き籠りモードに入る。昔からそうだ。困ったことがあると自分の中に引き籠る。
「ねえ、ラウダ先輩に会う話は?」
「ど、どのような顔で会えと?」
「そうね。うん。私も思いつかない」
「わ、私も無理です! 今日はここで寝ます!」
両手で顔をおおう。耳まで真っ赤になっていた。
コクピットをノックするように叩いてペトラが声を上げている。
彼女は何か話があるようだから、外部の音声が入るようにする。
「ペトラさん?」
「聞こえるの?」
「はい。エアリアルが……」
外部の音声が拾えるようにしたのを、どう説明するか悩んでいると、最初から外部通信が繋がったままだと判断したらしいペトラは苦笑してから話を続ける。
「夕飯どうする?」
「い、いりません」
「お腹減らない?」
「へ、減ります」
「じゃあ、持ってくるね。コクピットの中で食べるなら携帯食料で良い?」
「はい」
「じゃあ、また後でね」
「……ペトラさん、本当に良い人だね」
スレッタに同意する。多分、彼女以外にも良い人は多いはずだ。
だって……
「グ、グエルさん、何で?」
スレッタが再び顔を真っ赤にする。
スレッタは彼の事が嫌い?
「分からないよ。突然すぎて。
でも、エアリアルを壊すのはダメ。それだけは絶対に」
それさえなければ?
「ど、どうなんだろ? 何か怖い人かも? でも、お話もしたこと無いし」
絶対に優しい人だよ。
「そうかな? 確かにペトラさんもグエルさんを慕っている雰囲気だったし、怒ってたのも、あのパーカーと言う人にで、叱ってくれたし……」
考え込むスレッタを見守りながら、意思を送るのを止める。
ペトラが優しいのはスレッタにも分かるだろうが、グエルがどんな人か判断が付かないのも無理はない。
でも、エアリアル、いや、エリクトは気付いていた。
彼が何処まで気付いているのかは分からない。
しかし、確実にガンダムだと疑っている。そして、行動したのだ。
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「なに考えてるんだよ兄さん!」
兄さんがジェターク寮に戻ってくるなり、兄さんに詰め寄った。
よりによって、公開プロポーズみたいな真似をして、水星女に決闘を挑むなんて。
実際に、スレッタが強い。パーメットの流入確認で顔を見る。その流れから、兄さんは強くて顔が好みな編入生に惚れたと噂され始めた。
そして、当の兄さんは、誤解されているなんて露ほども思っていない様子だった。
つーか、兄さんの好みが強い女だなんて、何処から出てきた?
「何考えてるって、あれが……こっちに来い」
他の人間、正確には下級生の視線があるので、話を聞かれないように隅っこへと移動して、コソコソ話をする。
「あのね兄さん、あれがガンダムだって決まった訳じゃ無いんだし、先ずはプロスペラと話せば」
「あれがガンダムならプロスペラは魔女だ。危険極まりないが、目的が分からん。
だから、先ずは話すにしても、交渉を有利に進めるカードが欲しい。上手く行けば、GUNDの技術を正道に戻せるし、話の主導権を取りたいんだ。
それに、最悪の事を考えると、スレッタだけでも救い出したい。
何より、デリングに知られる前にケリを付けたいんだ。お前だって分かってるだろ?」
「それは、分かるけどさ……」
いや、そんなことより、みんな兄さんがスレッタに惚れたって思ってるんだけど?
違うよね? 貴方強かったです言われてないもんね?
「だから、明日の一番で決闘を始めて倒す」
「だったら、僕がやる。相手の力量は未知数なんだ。
僕が勝てば良しで、負けてもデータが入る」
エアリアルのエスカッシャンは初見殺しだ。
戦闘プログラムで、シールドになるビット兵器は見せたけど。エスカッシャンは防御プラス攻撃だ。
その機能はデータにないし、防御した後に兄さんが防御兵器だと勘違いする危険がある。
おまけに、スレッタが何故かパワーアップしている。あんな台詞、昨今ではなろう系主人公でも使わない。
それに、何と言っても僕が出れば、あのプロポーズは誤解だって周囲に知れる。
「いや、パーカーだから瞬殺できたが、お前が相手だと難しいだろう。
どちらが勝つにせよ長期戦は避けられない。その場合、スレッタの身体が心配だ。
だったら、こっちも最初から全力で行く。それには俺だ」
何で、あんな女の身体を心配してるんだよ。あいつは本来なら兄さんが転落する切っ掛けを作る奴で……
「悪い。心配してくれんのは分かるが、あれが本当にガンダムなら、そして、データストームの流入が起きるなら、あまりにも救われない。自分の娘だぞ」
正論パンチなんて嫌いだよ。何も言えなくなるじゃないか。
「お前は決闘委員会に出席してくれ。何かあった場合は頼む」
「普通の医者が治せる症状じゃ無いんだけど?」
「何かあった場合と言っただけで、俺の不安を当ててくれるお前だからこそ頼れるんだよ」
ニ、ニコポなんてしないからね。そんな古い手は通じないから。ほら、次は撫でるんだよ。
「カミル、準備を頼む」
「分かった。万全の状態に仕上げて見せる。何時もの装備で良いな?」
「それに加えて、両方の前腕にビームガン装備のガントレットを」
ミカエリスの左腕装備の小型シールドを更に小型にしてビームガンを発射する武器だが、外付けジェネレーターだから、弾数が少ない上に余分な重量になるので、使うかどうか迷うような武器だ。
「相手の装備が分からないからな。不要と判断したら直ぐに捨てるさ」
「そうだな。取り敢えず、後は任せてお前は自室に戻って休め。食事も運ばせる」
「何もそこまでしなくても」
「いや、今は余計な雑音を入れない方が良い」
「そうか? 分かった。研ぎ澄ませておく」
兄さんが去った後にカミルに詰め寄る。
「何で兄さんと周囲を断たせる?」
「プロポーズと誤解されてると気付かせたくない。
アイツの性格だと、スレッタと言ったか? 彼女に気を使いすぎて戦闘に集中できなくなる。
決闘が終わるまでは、勘違いに気付かせたくない」
「妙に気が回る。まさか、本当にくっつけたいとかじゃないよな?」
「お前と同じで、グエルの決定に異を挟むことは無いし、お前と違って搦手でグエルの意思を誘導するなんて真似はしない。
俺はグエルのサポートメンバーでメカニックチーフだぞ」
「そうだったな。すまない。邪推した」
「良いさ。お前が混乱するのも分かる。
だが、俺の役目はグエルが勝利するために全力を尽くすことだ。そのために、MSだけでなく、アイツ自身の能力を100%発揮できるようにする。
まあ、戦闘後は知らんがな」
「そっちも少しで良いから気を使ってくれ。
どうするか。下級生にも話さない訳にもいかなくなってきたか……それ以前にシャディク達はどうだったんだ?」
「言われてみれば、シャディクなら勘違いされていると言いそうだな」
「それどころか、向こうにはセセリアがいたはずだ。こんな面白そうなエサを与えたら絶対に喜ぶだろ?」
不思議だ。何があった? 考えられる可能性としては、このまま黙っておいて、もう少し温めてから爆発させようと企んでいるくらいだが、基本的にセセリアはエサを見れば直ぐに喰いつく節操無しなんだが……
「シャディクに確認してみる」
そもそも直ぐに説明しないアイツが悪い。
電話をしてみると、直ぐに出てくれた。スピーカーでカミルにも聞こえるようにする。
『やあ、グエルは落ち着いたかい?』
「落ち着いたかいじゃない。何で止めなかった?
兄さんは誤解されているなんて思ってもいないようだが、お前は何をしていた? それにセセリアは噛みつかなかったのか?」
『…………慣れって怖いね。その分だと、ラウダだけでなく、カミルたちも気付いてない?』
「何がだ?」
『グエルは完全にスイッチが入っていたんだよ。バリバリの戦闘モードさ。
俺だって声をかけるのは躊躇うし、ロウジなんて目を合わせることも出来なかったよ。
セセリアだって似たようなものさ。端的に言ってビビってた』
「そ、そうか? たまにある状態だが?」
カミルも頷いている。あるあるだ。
『だから慣れだって。ちなみに俺は無理すれば声をかけられるけど、今はテンション上げていた方が良いだろ?
決闘委員のラウンジで見たけど、あの水星ちゃん、本気で強いよ。それがあんなものに乗ってたら、グエルのコンディションを最大にまで上げる必要があると判断した。そうだろ?』
ぐうの音も出ない。
今は誤解を解くイコール兄さんのテンションが下がるだから、そっとしておくべきと判断するのが正解だ。
反対派の僕は、単なる感情論でしかない。
『明日の立会人は俺がやる。余計な雑音は入れさせないし、グエルの事は頼む。
俺は水星ちゃんに、やきもち焼いて暴れているレネを取り押さえている最中なんだから邪魔しないでくれ。
何ならグエルの所に襲撃するのを見逃すけど?』
何かレネが叫んでいる声が聞こえる。
「全力で押さえてくれ。ついでに他の2人も」
『イリーシャは気絶したから気にしないで大丈夫だ。それに、メイジーは恋愛には口出ししないスタンスみたいだよ。
でも、レネはガチだった。コラ暴れるな』
「それじゃあ、頑張ってくれ」
『ああ、グエルのサポートメンバーに頑張れって伝えといてくれ』
なるほど。謎は解けたが何かが好転したわけではない。
決闘後の問題が大きくなっただけとも言う。どう説明しよう?
「ラウダ先輩」
今回の事を、下級生にどう説明するか悩んでいると、ペトラが声をかけてきた。
「どうした?」
「スレッタですが、混乱して引き籠りました」
「どういうことだ? 一緒だったのか?」
妙な組み合わせだ。原作では、むしろ敵対関係だったはず。
そして、ペトラの説明を聞いたのだが、なるほど、原作と違って、去年のインキュベーション・パーティで会っていたニカとフェルシーから話を聞いていたので、仲間認定だったらしい。
だが、人見知りの激しさから近付くことが困難で、1日放置した結果、パーカーにケンカを売られたと。
だが、問題はスレッタが僕を探していたという事だ。
おい、まさか、プロスペラの奴、僕の脅迫を額面通りに受け取り、世話を任せようとしたって事か?
上等だよ。決闘の結果がどうなろうと、本気で駄タヌキにしてやる。
「それで、この様子だと、グエル先輩の発言はプロポーズって訳では無さそうですね」
浮かれた感じの下級生に比べ、3年生は戦闘モードだ。
本当に来ると思っていなかったガンダムが現れたから気合が入っている。
間違っても兄さんの恋路の応援といった空気ではない。
「当然だ。何だって兄さんが、あんな女に」
「それはどうでしょう? まあ、それは置いといて、もしかしてスレッタの存在って、3年生がコソコソしていた件や、グエル先輩とラウダ先輩のサポートチームに、下級生を混ぜない件と関係があります?」
鋭いよ。正解だ。3年生はガンダムと戦う可能性を考慮していたし、メカニック科の経験という意味でも、上級生の仕事を間近で学べるよう、一人のパイロットに全学年のメカニック科を混ぜるようにしていたが、実際に戦闘する事になるだろう僕と兄さんのシミュレーターを下級生に見せないため、僕たちのサポートチームに下級生は混ぜることは無かった。
「後は任せた」
「おい」
カミルは早々に退散する。
いや、兄さんのディランザのセッティングがあるから、本気で忙しいのは間違いないが。
「ああ、答えにくい事なら、言わなくても構いません。
それより、スレッタには何か伝えなくても構いませんか?」
「また会うのか?」
「はい。食事を運ぶので」
「毒を盛っておけ」
「ちゃんとしたものを運びます」
気の利かない奴め。
「スレッタは良い子ですよ」
「そうか」
知ってるよ。水星女は善良な人間だ。そこは否定しない。
でも、危険なんだよ。アイツの存在は。
「ただ、困ったことにグエル先輩のことは怖がってました」
「そのまま怖い奴アピールを頼む」
「任せてください。グエル先輩の良さを伝えておきます」
「ヤメテ」
ヤバい。このまま会話していると、ペトラさんのドSスイッチが入ってしまう。
どうせ、ドSるんなら、水星女にやって欲しいんだが……