ラウダの野望   作:山ウニ

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兄さんVS水星女 その1

 

 

色々と問題があるが、その多くを先送りにしてでも、兄さんのコンディションを優先することにした。

そして、朝から兄さんと一緒に決闘委員会へ向かう。

なるほど、シャディクが言っていたが、すれ違う生徒も兄さんの迫力に尻込みして声をかけてくる奴はいない。

この分なら、セセリアも大丈夫か?

 

「おはようございます。グエル先輩」

 

決闘委員会の部屋へ入るなり、セセリアがニヤニヤしながらの挨拶。

甘かったか。この女の神経は他とは違う。このまま余計なことを口にする前に、お行儀の良い女性にしておこう。

僕がズカズカト近付くと、警戒して口を閉ざす。

そのまま、兄さんに聞こえないように注意を口にする。

 

「今日は大人しくしていろ。余計なことを口にしようものなら、お前に対して思わせぶりな態度を取った上で、3人目大歓迎とアリヤを突撃させるからな」

 

「私の人生終わらせる気っすか?」

 

ロウジを抱きしめて怯えだす。

それで良い。今は大人しくしていろ。

 

「どうしたラウダ?」

 

「いや気にしなくていいよ。それより、対戦相手は?」

 

部屋を見渡すが、水星女の姿は無い。

ソファーの裏に隠れている様子もない。

 

「まさか、逃げ出したか?」

 

「ペトラが迎えに行ってるから、何かあれば連絡が入るはずだけど」

 

デバイスを開いて着信履歴を確認するが、問題は無さそうだ。

しばらく待っていると、ペトラに促され水星女が入室する。兄さんを見るなり、顔を赤くしてうつむいた。

おいおい、何だその態度はよぉ? 勘違いしてんじゃねえぞ。兄さんは、お前の事なんかこれっぽちも好きじゃないんだからな。

 

「さて、水星ちゃんも来たことだし始めようか。両者中央に」

 

シャディクが言うと、兄さんと水星女が向き合う。

言っておくが、これから始まるのは決闘であって、断じてお見合いではない。

 

「双方、魂の代償をリーブラに。

 決闘者はグエル・ジェタークとスレッタ・マーキュリー。場所は戦術区域4番。

 グエル・ジェターク、君はこの決闘に何を賭ける?」

 

「昨日、言ったとおりだ」

 

「スレッタ・マーキュリー、君は何を賭ける?」

 

「……エ、エアリアルはダメです。壊させません。絶対に。た、大切な家族なんです」

 

MSを家族扱いする妙な言葉に兄さんもシャディクも訝しむ。

思わず、壊す気満々だった兄さんが質問する。

 

「家族、MSがか?」

 

「ず、ずっと一緒だったんです。水星で。他には大人の人しかいなくて。たった1人の友達で家族で、大切なものなんです。

 だから、絶対に壊させません」

 

オドオドとしながらも、強い意志を込めた言葉。

全員が神妙な表情になるが、実態はボッチだった過去の告白である。僕だけは生暖かい目で見てやろう。

 

「なるほど。だが、それは代償としては不適格だね。

 君のMSの破壊はグエルが勝利した場合の条件で、君が勝てば自動的に守れる。

 他には?」

 

おいおい、公平な審判やってんじゃねえぞ。

余計なことを口にする前に終わらせろ。

 

「え、えっと……」

 

「何なら、終わった後でも構わない。

 グエル・ジェタークも、それで構わないか?」

 

「ああ。了承した」

 

「それでは、決闘を承認する」

 

さて、このまま一緒に出るとMSハンガーまで一緒になるので、それを阻止するべく兄さんを呼ぶ。

 

「兄さん、少し良いかな? ペトラ、先に案内しててくれ」

 

「どうした?」

 

「聞いてたけど、彼女強いよ。かなりの強敵になる」

 

これにはガチで驚いた。

原作に比べると、戦闘能力のインフレが起きているので、そこまで警戒はしていなかった。

エランは変化が無いから良い比較対象になるが、ファラクトの初見殺しのビットを使っても兄さんやシャディクどころか、レネでさえ倒すのは難しい。

だが、今の水星女はシャディク以上に見える。

 

「分かってる。だが、倒さなければならない相手だ。見守っていてくれ」

 

そう言うと、笑顔で決闘委員会のラウンジを出る。

さて、兄さんが戦う以上は僕も働かなくては。エアリアルのデータを収集するための機材の準備を進めよう。データストームやパーメットの変化を記録しておいて、プロスペラに、これってどういうことだ? ああん? と、詰め寄らなくては。

 

そして、準備が終わって間もなく、2つのコンテナが姿を現す。

ディランザとエアリアル。性能はトータルではエアリアルの方が上だろう。

と言うか、エアリアルの性能が良く分からない。パーメットスコアが上がればパワーアップするらしいが、その辺の理屈がさっぱりだ。

その辺を調べてから戦ってほしかったが、今となってはどうしようもない。後は兄さんを信じるだけだ。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

『決心開放《フィックスリリース》』

 

開始の宣言と当時に、グエルは速攻で片付けたい気持ちを抑え、ホバー走行でゆっくりと近付く。

スレッタの身体は心配だが、負けてしまっては元も子もない。

相手がガンダムだと仮定すると、スウォーム兵器があるはずだが、それが見当たらない。

ただ、全身に不自然なパーツが付いているのが気になった。追加装甲とも思えないし、外付けの推進機か?

 

警戒しながら近づくと、背中からビームライフルが外れて自動で手元に来る。

一瞬、あれがスウォーム兵器かと思ったが、ギャプランで特許を使わせてもらっており、通常の技術の延長だった。

だが、相手もビームライフルを装備した以上、こちらから攻撃を決意する。サイズ的にもこっちのビームランチャーの方が威力も射程も上のはず。

そして、ビームランチャーを発射すると、全身に付いていた不自然なパーツが浮き上がって、シールドを形成した。

 

「なるほど、シールド型のスウォーム兵器か。だったら!」

 

背部の巨大スラスターを解放し、一気に飛び立つ。

途中でビームランチャーを一射し、左腰に装備していたビームカタナを抜く。

カタナでシールド型のスウォーム兵器を吹き飛ばして、切りかかろうと考えていたが、進路を譲るようにスウォーム兵器が広がる。

 

「?」

 

射撃に対する警戒のためのスウォーム兵器で、本体は接近戦仕様かと考えたが、やはり不自然だ。

カタナを振りかぶりながら、全身を警戒信号が駆け抜ける。

バランスが良いMSに見えるし、接近戦特化に見えない。それに今になってビームサーベルを左手で抜こうとしている。

何より接近戦仕様だとしても、シールドが避ける意味が無い。

エアリアルが後方でなく、大きく左、相手にとっては右に避ける。瞬時に判断して地面を蹴って上へと飛び上がる。

すると、今までいた場所に複数のビームの射線が流れた。

スウォーム兵器が撃ったビームの光だ。

 

「シールドだけでなく、攻撃も出来るのか!?」

 

想像以上に厄介なスウォーム兵器だ。

だが、同時に相手はやはりガンダムだ。その確信と共に、エアリアルに向けて上空からビームランチャーを発射する。

 

 

 

 

 

「あれを避けるの!?」

 

ビームランチャーを避けながらスレッタは驚愕していた。

母の作ったシミュレーターのグエルとは何度も戦っている。そして、勝利していた。

元となる能力は半年前のものだから、決して必勝と高をくくったりはしないつもりだった。

半年の間に成長していることも考慮していた。

 

だが、それでも戦闘時の条件で圧倒的に有利になる条件が、今回は適用されるはずだった。

それは、スウォーム兵器と呼ばれるエスカッシャンを見られていない事。

エスカッシャンは、事前に知られていなければ、どのような武器か分からない。

だから、最初にシールドとして使い、その後に背後から撃てば必ず当たるはずだった。

今回のみんなとのコンビネーション攻撃は、初戦の戦闘なら必ず当たっていたし、そこでほぼ終わるか、何と撃墜を免れても、大きな損傷をしているはずだった。

 

「エアリアル、強いよ。想像よりはるかに」

 

エスカッシャンを戻し、ビットオンフォームでチャージを行いながら、グエルの攻撃をかわす。

射程では相手が優る。廃ビルの影に移動して、その陰から射撃を始める。

撃った後は直ぐに隠れて、近付くのを待つ。かと言って近付かれすぎるのも拙い。完全な切り合いでは、シミュレーターでも勝ったことが無い。

廃ビルの地形を利用して、適切な距離を保ちながらビームライフルとエスカッシャンを近づけて死角からの攻撃。

相手は強い。格上と認識しよう。例えるなら人間に抗えない災害のようなものだと認識し、焦らずに、確実に行動する。ずっと水星でやっていたように。

 

 

 

 

 

「そう来るか」

 

グエルは苛立ちを込めた声で呟く。

奇妙な追いかけっこと化し、時間ばかりが過ぎていた。

ビームランチャーの長射程だけでなく、接近戦も嫌っている。

おそらく、こちらの戦闘データ、ランブルリング辺りの記録から作ったもので研究されている。

 

「こっちの気も知らずに!」

 

一度、大きな声と一緒に焦りと怒りを吐き出す。

落ち着け。スレッタは、こちらの隙を伺う堅実な戦闘を行っている。

焦ってしまっては、其処から隙が生まれ、それを取り繕うためにゴロゴロと下り坂を転げ落ちるように無様を晒して詰むだろう。

 

「良い判断だ。操縦技術が高い上に、判断も的確。凄いな」

 

今度は敢えて相手の良いところを口に出す。

助けてやるという高みからの視点を捨てる。

スレッタは強い。エアリアルは高性能だ。そこを正しく認識しよう。

油断が許される相手ではない。そして、冷静に戦局を読もう。

 

こちらが、長射程と接近戦を得意とするのに対し、相手はグラスレー社と似たタイプの典型的な中近距離のMSだ。

下手な接近では、これまで同様に、絶妙な距離を取られるだろう。

ならば、一気に踏み込む必要がある。

どうする? スレッタは正当な行動を取っている。過酷な水星の環境では、僅かな判断ミスが死を招くのだろう。

それは、同時に相手が正しい行動を取る前提で動いているということだ。

 

「じゃあ、無茶をさせてもらおうか」

 

ビルに向かって射撃する。その空いた空白に向かって飛び込み、ビルの角を曲がらず、ショートカットでビルを通り抜けると、エアリアルの背後に飛び出した。

 

「良い距離だ」

 

距離を取ろうとするエアリアルに左腕のビームガンを撃ちながら近づく。

相手も避けながらビームライフルを撃った。

その瞬間、グエルは喜ぶのを押さえた。ここまで堅実な戦いをしていたスレッタが初めての判断ミス。

背部のスラスターを全開にして踏み込む。同時に右手にはビームカタナを抜いて、振りかぶると同時に左肩のシールドを前にしてビームライフルから撃たれたビームを弾く。

 

「思った通り、バカなことをする相手に弱いか!」

 

綱渡りどころか、自殺行為にも見える行動に、スレッタの動きから動揺が見られる。

それを補助するようにスウォーム兵器が外れる。撃つか? 守るか?

関係ない。強引に飛び込み、頭部を切り落とす勢いでカタナを振る。

だが、途中で剣の軌道を変え、右腕を切り落としてから、そのままの勢いで飛び続け距離を取った。

 

「やはり、頭部は守ったか」

 

ここでもスレッタの判断ミス。

いや、正しい判断をした故に、追い込まれた。

大自然の理不尽さと向き合う危険な場所では、正解を選ばないと命の危険すらある。そんな場所で生きてきたために、反射的に最適解を選んでしまうのだろう。

本来なら、それは優秀さの証明だが、相手が自然ではなく人間と言う、別のベクトルの、時には愚かしい選択をする理不尽には対応できていない。

 

攻略の道は見つけた。

振り向きざまにビームランチャーを撃つが、スウォーム兵器に防がれる。

いや、それは予想通りだが、今までと異なるものがあった。

 

「何だ? あの発光は?」

 

右腕を失ったエアリアルの胸部が、赤く輝いていた。

 

 

 

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