『日向楓』は混乱していた。二十代の半ばに差し掛かったOLである楓は本日も自分は残業をしないくせに不満や愚痴ばかりを口にする上司への怒りを覚えながら残業をしており、仕事が終わった頃には日付が変わろうという時間だった。
仕事を終えてグッと背筋を伸ばすとバキボキと関節から悲鳴が上がる。雑に使って悪いわねマイボディと思いながら帰る為に席を立とうとして……力が入らずに、その場に倒れてしまった。
『あー、これ……ヤバいやつだ』
力が入らない上に声も出せない。まるで眠りに落ちるかの様に重くなっていく瞼に楓は自身の体がヤバい状態なのだと何処か他人事のように感じていた。
『あのゲーム……クリアしたかったなぁ……ドラマもまだ途中までしか見てない。あのアニメの映画の封切は来週からだったっけ……』
死の間際でもオタクな事を考える私は色々と終わってんな……と楓は意識を失った。
と言う前世を思い出したのは、つい先程の事である。
「ヤバいヤバいヤバい!なんで!?」
楓は混乱しきっていた。何故、自身は生きているのか。何故、自分とは違う人物の記憶があるのか。何故、スーツを着ていた筈なのにセーラー服を着ているのか。その答えはオタク知識ならではの物に辿り着く。
「これって転生って奴だよね……私の場合、前世を思い出したから憑依って言うか過去を思い出して記憶が統合されたって感じかな?」
そう……そこまでは良い。前世を思い出し今世の記憶と統合された人格となった。今世の記憶と前世の記憶。それらが混じり合った結果……今現在、かなりヤバい事に絶賛巻き込まれ中と言う事が導き出されていた。
楓の手の中にある『緑色のカードデッキにカメレオンの紋章』作品を知る人ならば即座に理解できる代物。
「此処……仮面ライダー龍騎の世界!?」
自身の手の中にあるカードデッキと鏡に映るバイオグリーザ。疑いようのない事実が突きつけられていた。そもそも前世を思い出したから切っ掛けがモンスターとの契約だったのだ。
今世の楓が神崎士郎からカードデッキを受け取り、たまたま近くに居たミラーモンスターとの契約をして……楓は何故か前世を全て思い出した。
その結果『ライダーバトルに参加した』と言う事を完璧に理解してしまったのだ。
「なんでよりにもよって……龍騎なのよ……」
仮面ライダーシリーズの中でもバトルロワイヤルを提唱し、生き残れる確率がダントツに低い世界でトラウマも数多く存在する危険な世界。
どうせなら乙女ゲー世界かスローライフが出来そうな世界が良かったと思うものの確認する事は多々ある。
幸いにも前世と今世の名は同じで『日向楓』であった。部屋に置かれた姿見で自身を見れば前世と違って身長はそこそこあり、プロポーションも良い。前世のチビで眼鏡で貧乳だった自分と比べてちょっと泣きたくなった楓であったがそろそろ現実逃避は終わりと本格的に頭を切り替えた。
自分が変身するライダーについてである。
『仮面ライダーベルデ』
テレビシリーズでは出番がなく、テレビスペシャルではナイトに敗北し、映画では脱落した事のみが伝えられ、ディケイドではシザースに敗北し、スピンオフのRIDER TIMEでは不意を突かれ変身する前に捕食された不遇続きのライダーである。
まず仮面ライダーベルデは不意打ち等に特化したライダーである上に基本スペックが低い。つまりはタイマン勝負には向かない上にモンスター相手にも苦労しそうなカードばかりなのだ。逃げるには良いのかもしれないが。
だが、それとは別に楓には悩みがあった。それは今世のバイト先の事である。今世の記憶の中で楓はバイトをして生計を立てていた。
そのバイト先は街のとあるアンティークショップで名を『TIN'S COKKECTION』そしてそのバイト先で店長の友人だと紹介されて知り合った刑事の『須藤雅史』存在である。
アンティークショップTIN'S COKKECTIONとは須藤が刑事の立場を隠れ蓑に悪事を働いていた裏の仕事仲間である加賀友之の店であり、須藤が仮面ライダーシザースになる切っ掛けの店でもある。
楓の前世の記憶が蘇る前の記憶なら店長の加賀も須藤も良い人という印象だったが前世の記憶がある今はそうは思えない。バイト先が犯罪の片棒を担いでるとなれば働いているバイトにも何かしらの罪に問われる可能性すらある。
「あれ……でも店長はまだ生きてるから……原作開始前?私がカードデッキを神崎士郎から貰ってるから勘違いしてたけど今ならまだ無関係に出来るんじゃ……」
そう思いついたら後は行動しかない。楓は「バイトを辞めます」と加賀に電話しようとポケットの中を探ったがスマホが見当たらない。
「もしかしてTIN'S COKKECTIONに忘れてきちゃった?……もう夜だけど取りに行こ。そのついででバイトも辞める事を話せば良いよね」
まだ慌てる時間じゃない。自分にそう言い聞かせながら楓はアパートを出る。
TIN'S COKKECTIONに到着した頃には日付が変わりそうな時間になっていた。本来なら学生の身分である楓は外出するべきではないが当人にとってはバイトを辞める事が死活問題となってる以上はやむを得ない。
「スマホ忘れましたって言ってバイトも辞めますって言って、あれ?……そう言えばなんでスマホなんだろ?ガラケーじゃなかったっけ?」
仮面ライダー龍騎の頃はまだスマホは存在せずガラケーの筈だった。でも今世の自分が持っていた携帯電話はスマホだったと楓は首を傾げる。何処か時代の食い違いを感じるのだ。
「ま、今は考えても仕方ない。それよりもバイトを辞める事が……あれ?鍵が空いてる」
店の玄関の鍵は当然掛かっているだろうから店の奥の自宅に回ろうと思っていた楓だったが何故か店の玄関の鍵が施錠されていなかったのだ。夜である事も考慮して楓は音を立てない様に静かに店に入ると奥には灯りがついていた。
「須藤さん、次の……は……仕事になる。報酬の額も……分け前をもっと増やせ……かね?今は7:3ですが……せめて6:4……ましょう」
「………報酬の……は口出し……でしょう?それに私は……裏の仕事は……」
店の奥で交わされている会話に楓はヒュッと喉が鳴る。即座に体を屈めて向こう側からこっちの姿が見えないようにした。
距離があるから会話は途切れ途切れで聞こえたのだが間違いなく店長と須藤の会話だったのを楓は確信していた。
原作において加賀は須藤と裏の仕事の報酬の分け前で揉めて須藤が加賀に手を掛けて、それを神崎に見られた事で須藤は神崎からカードデッキを受け取り、仮面ライダーシザースへなる事が決まる。
つまり楓はシザースからフェードアウトしようと思った矢先にシザース誕生エピソードに遭遇してしまったのだ。しかも、先程のやり取りからして須藤は加賀に不信感と言うか反感を持っている。シザース誕生まで秒読み段階だった。
『ど、どうすんのよこれぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?』
楓は心の中で叫びながら頭を抱えてしゃがみ込む。既に仮面ライダー龍騎の物語は始まっていた。目の前で起きるであろう惨劇は一介の女子高生に止められる訳がない。
しかし、彼女は知らなかった。この悩みはまだ序の口である事を。
この後、蟹に懐かれたり、蛇に標的にされたり、虎に付き纏われたりとトラブル目白押しの運命が待ち構えている事に。
『日向 楓』
仮面ライダー龍騎の世界の女子高生に転生したオタクOL。
長い髪をポニーテールにしている。
一人称『私』
ややつり目気味。
制服はセーラー服。
私服は黒ニットにデニム。
神崎士郎からカードデッキを受け取り、バイオグリーザと契約した際に前世を思い出すがシザース並にハズレデッキであるベルデのデッキである事に絶望。
しかもバイト先のアンティークショップ『TIN'S COKKECTION』でデンジャラスな場面に遭遇し、様々な運命を変える事になる。
前世は非モテのオタクOLでブラック企業に勤めていたが過労死した。
今世では両親は事故により他界しており、天涯孤独の身の上でボロアパートに一人暮らしをしている。
前世は眼鏡、貧乳、背が低いの三拍子だったが今世では身長が160㎝程で格闘ジムに通っていた為スタイルも良い。
前世と今世で偶然にも同姓同名と同じだったが生き方は逆だった。
原作である『仮面ライダー龍騎』の事はうろ覚えでざっくりとした話の流れしか覚えておらず、先の見えない未来に不安しかなかったりする。
しかもTV版とTVスペシャル版の設定が混在する世界である為に混乱が加速気味。更に登場人物の様子も違っていて……
どうせ転生するなら乙女ゲー世界が良かったと嘆いている。
【仮面ライダーベルデ】
カメレオンの姿がデザインの仮面ライダー。最弱と名高い仮面ライダーシザースよりも実は基本スペックが低く13ライダーで一番性能が低い仮面ライダー。
原作と違って変身者が女性である事からフォルムが女性的な物になっている。
また楓が格闘技経験者である事から仮面ライダーベルデと言うよりもDRAGON KNIGHT版の仮面ライダーキャモのものが近い。
【所持カード】
『アドベント』【AD VENT】
カメレオン型ミラーモンスターバイオグリーザを召喚。4000AP
『ホールドベント』【HOLD VENT】
バイオグリーザの目を模したヨーヨー「バイオワインダー」を召喚。基本的に拘束武器なのだが劇中では打撃武器として使用していた。海外のDRAGON KNIGHT版では実際に拘束するシーンもあった。2000AP
『クリアベント』【CLEAR VENT】
自身の姿を透明にする効果を持つ。カメレオンのミラーモンスターだからどちらかと言えば保護色や同化なのかもしれない。スピンオフでは仲間に触れれば一緒に透明になれる事が判明した。
『コピーベント』【COPY VENT】
相手の姿とその時、使用していた武器をコピーする。
『ファイナルベント』【FINAL VENT】
必殺技デスパニッシュを発動させる。
召喚したバイオグリーザが長い舌をベルデの足に巻き付き、振り子の要領で相手に急接近して拘束した後に高速回転を加えた後に頭から地面に叩き付ける技。5000AP
劇中ではライア、ナイトを仕留めた技となっているが実は技を喰らわせた直後はライアもナイトも存命であり即死には至っていない。ナイト相手の時はその事が原因で反撃を許してしまい逆襲の憂き目に遭っている。
しかもこの技は『対ライダー』には非常に有効だが大型モンスターや重量系モンスター相手には発動が出来るのかも怪しい性能になっている。