北岡秀一はまだ仮面ライダーになりたてだが戦いの鉄則は踏まえていた。
複数の敵を同時に相手にしなければならない時には分断するか、孤立する状況を作り出す。そもそも北岡自体が乱戦のようなごちゃごちゃした状況を好まないのが理由だが戦いとは孤独なものだと考えていたからだ。
それを体現したかのようなライダー同士によるバトルロワイヤル。最後の1人にのみ得られるとされる願い事。自身の不治の病を治す為に他人を蹴落とす戦いに甘さは許されなかった。
そんな折、北岡はひょんな事から他のライダーと共闘する事となる。
ミラーモンスターの気配を感じた北岡は自身が変身する仮面ライダーゾルダへと変身するとミラーモンスターとの戦いに身を投じた。戦い始めた当初は一体だけで弱いミラーモンスター相手で楽勝かと思われたがミラーモンスターは数体同時に現れたのだ。
蟻型のミラーモンスターは一体倒しても残りの個体から分裂して次の個体が現れる。つまり複数の個体を同時に撃破しないと延々と戦い続ける羽目になる厄介なタイプだった。
ゾルダがどうしたものかと悩みながら戦っていると乱入者が現れた。ゾルダと同じく緑色の仮面ライダーベルデである。
「援護します!」
「おいおい、ライダー同士は戦うもんだろ?」
突如現れたベルデにゾルダは呆れた様な声を出した。不意打ちと奇襲のアドバンテージを自身にではなくミラーモンスターに浴びせたベルデはゾルダが共闘の意思を了承していないにも関わらずゾルダに背中を見せたのだ。
「背中を撃たれても文句は言えないよね」
【SHOOT VENT】
皮肉の笑みを浮かべながらマグナバイザーにカードをセットしてギガランチャーを召喚したゾルダはベルデに狙いを定めていた。戦いの厳しさを教えてあげるよ、と引き金を引こうとしたゾルダ。しかし、そこでふとゾルダは気付く。
先程までゾルダに群がっていた蟻型のミラーモンスターが全てベルデに群がっているのだ。
(どういう事よコレ?確かにあのライダーが乱入してきたから注意がそっちに向くのは分かるけど俺に全く反応しなくなるって変でしょ)
引き金を引く指が完全に止まったゾルダはベルデを観察してハッとなる。
(あのライダー……奴等の注意を完全に引き付けてる。大きく振りかぶる仕草や複数の敵に対して細々した攻撃で奴等はあのライダーを無視出来なくなってるって事か)
ベルデのしている事はマジシャンがしている視線誘導やスポーツ等におけるフェイントの様なものなのだと気付くゾルダ。そのおかげで蟻型のミラーモンスターの注意はベルデ1人に注がれておりゾルダは悠々と狙いを定められる状況になっているのだ。
【HOLD VENT】
「これで……今です!」
「お、おう!」
ホールドベントで蟻型のミラーモンスターを一箇所に縛り纏めたベルデはゾルダに指示を出し、自身は素早く離れた。ゾルダも考える事に集中してしまっていたが咄嗟に引き金を引き、ギガランチャーを放った。放たれた砲弾は蟻型のミラーモンスター達に直撃し爆散していった。
「成る程ね……こりゃ戦いやすいわ」
そう呟きながらギガランチャーを手放しながらゾルダはベルデを見つめた。実は以前、モンスター狩りをしていた龍騎とベルデの戦いを陰で見ていたゾルダは彼等の戦いのスタイルを把握してから戦いを挑むつもりだったのだ。しかしニ対一の状況は不利になると分かっていたゾルダは戦力の分析に徹した。
龍騎はがむしゃらな戦い方だが戦闘力は高いと評価したがベルデは逆だった。ミラーモンスターに力負けする上に所持しているカードも戦闘向きとは言えない。最初に倒すならベルデの方だな、とゾルダは考えていたのだがゾルダは考え方を改めていた。
先程の戦いでも分かる様にベルデは単体での戦闘力は低いがサポートに関しては掛け値なしに優秀である。それは先程の戦いでも証明された。
つまり最弱の駒であるベルデは自陣に引き入れる事で最強の駒となる。
(これは良い拾い物かもね。味方に引き込めば戦いも楽になるねコレは)
ベルデと組めばバトルロワイヤルの勝率が上がる。更に最後の2人になったとしても単独での戦いに弱いベルデならばタイマン勝負なら問題なく倒せるだろうと目論んでいた。
「ありがとうございました。おかげで一気に倒せましたね」
「いいや。キミが奴等の注意を引いてくれたからだよ。おっと時間切れだし、一旦外に出ようか。話もそこで聞くよ」
ゾルダの下へ走ってきて礼を言うベルデにゾルダは仮面の下でニヤリと笑みを浮かべた。コイツはお人好しだ。間違いないとゾルダは確信した。ならば言葉巧みに誘導して言いなりにしてしまえばライダーバトルを有利に進められると考えたゾルダはベルデに対して波風を立てないように言葉を選びながら時間切れを理由に外に出る事を提案して更に誰が変身者なのか正体も探ってきた。
ミラーワールドを出ると案の定、ベルデに変身していた者は北岡の方へと小走りで駆け寄ってきた。やっぱりお人好しがライダーだったんだな、と確信した北岡は駆け寄ってきた人物を見て驚いた。
何故ならば駆け寄ってきたのは今現在弁護の依頼を受けている城戸真司の関係者の日向楓だったのだから。これは好都合だな、と北岡は考えた。
「驚いたな。キミがライダーだったなんて」
「……私もです。北岡さんがライダーだったなんて」
ベルデの正体が楓だと知って北岡は作戦変更する事にした。本来であるならばライダーである城戸に恩を売るだけ売って戦う決意を鈍らせ様と画策し、更に正義のスーパー弁護士の記事を書かせる事で世間的な評価を上げようと考えていたのだが、更に搾り取れそうだと思いついたのだ。
北岡は城戸の周囲の事も弁護の為に調べ上げていたが当然ながら楓の事も調査済みで彼女が天涯孤独の身の上であり、バイトで生計を立てている事も知っていた。そこに付け込めば簡単に切り崩せるだろうと考えたのだ。
対する楓は必死にポーカーフェイスに徹していた。楓はゾルダの正体が北岡である事は当然知っていたし、現在の城戸と北岡を取り巻く状況を嫌と言うに理解していた。此処で勘が良く頭の回転が早い北岡に下手に勘繰られて城戸の弁護を辞めると言い出さない様に繋ぎ止めておく必要があるからである。
そんな楓の考えとは裏腹に北岡は人の良い笑み……北岡の内情を良く知る者であれば胡散臭い笑みを浮かべて楓の手を取った。
「楓ちゃん。俺の所に来ない?」
「え、ええっ!?」
北岡は楓の両手を握りながら笑みを浮かべた。動揺している楓に「初心だねぇ」と心の中で呟きながらも北岡は言葉を続けた。
「実は今、助手がもう一人欲しくてね。キミを雇いたいんだ。ああ、なんだったら城戸の依頼料の1000万も取り下げてもいいよ。キミにはそれだけの価値がある」
「そ、そんな好条件出されて私なんか雇っても……」
北岡が発した依頼料とは城戸の弁護の依頼料であり、北岡は城戸の弁護の依頼料に1000万と正義のスーパー弁護士の記事を書かせる事の二つの条件で城戸の弁護を請負、城戸の無罪を勝ち取ると宣言したのだ。その北岡が自身で出した条件の一つを撤回させる程に楓のライダーとしてのサポート力を評価していたのだ。
勿論、楓自身にそんな自覚は一切ない。先程の戦いでも楓は『こうすれば皆が戦いやすいよね。私は弱いし』くらいの気持ちで戦っていた。つまりは自身の弱さをカバーしてくれる他のライダーの力を当てにしてという事である。
互いの認識の違いとは恐ろしいものである。
「いやぁ、俺もさ。ライダーバトルを勝ち残る為にも色々と手を尽くしたいのよ。死にたくないし、叶えたい願いもある。因みに俺は城戸がライダーって事も知ってるからね。此処で弁護を辞める事も出来る。全てはキミ次第だよ。俺と手を組んで城戸を助けるか、俺を見捨てて城戸も助けられない道を選ぶか。ああ、条件も出そうか?弁護士の助手と言っても偶に事務所に来て書類整理をしてくれれば良い。寧ろライダーとしての力を期待してるのよ俺は。今日みたいにサポートをお願いしたいんでね。ああ、バイト代は勿論出すよ。表向きはスーパー弁護士の俺の助手だからね。さあ、どうする楓ちゃん?」
「うぅ……わかりました。北岡さんの助手になります。」
北岡は自身の身の事と城戸の身の事を話に織り交ぜつつ交渉を進めた。楓の情に訴える事で心に縛りを付けて更に『見捨てる』と言うキーワードを自身と城戸に絡ませる事で北岡だけの問題ではなく城戸の安否も話に絡ませたのだ。そもそも楓や城戸は北岡に弁護の依頼をしている立場なのだから断る事が出来ない。
そうなると楓には『YES』以外の答えは出せなくなる。
全ては策士北岡の手の上だった。
しかし北岡は知らなかった。楓には須藤と言う特大の地雷が待ち構えている事に。