「えっと……そういう訳で私、北岡先生の事務所で助手……というかバイトする事にナリマシタ」
「随分急な話だな。それにあの北岡が報酬の1000万を反故にして、お前をバイトに希望するとは思えないがな」
「そうね……何か裏があると思うわ」
北岡から真司の弁護する代わりの要求である『北岡弁護士事務所へのバイト』の話をすると蓮と花鶏に真司の様子を聞きに来ていた真司の上司である桃井令子も不審がっていた。
「北岡先生が言うには……様々な人間を弁護する上で知り得る情報は貴重であり自分では集められない情報や証拠を得る為に必要ナンダソウデス」
「成る程、学生であり女性である楓さんなら時として不審がれる事なく情報を集められる、と。ですが少々強引では?」
「でも依頼料の1000万の代わりに楓ちゃんが北岡先生の所に行くだなんて……」
楓は北岡から伝えられたカバーストーリーを説明するが須藤も優衣も納得はしていなかった。その証拠にバイトする本人が一番納得していなさそうなのだから当然である。
「でも、これで真司さんは北岡先生の弁護を受ける事が出来るんだから良いんです。それに私、真司さんが無実だって信じてますし」
「それに関しては私も同意します。城戸君はそんな事をする人物ではないでしょう。私も楓さんと同じく城戸君を信じていますよ」
楓と須藤の発言に桃井は気まずそうにした。桃井は真司を信じきれずに犯人じゃないかと疑ってしまった事があり後ろめたかったようだ。蓮は未だに疑いの目を向けており、優衣は心配そうに楓を見つめていた。
「じゃあ私、真司さんの所へ行ってきます。北岡先生が弁護を受けてくれたって言ってきますね」
「待って、楓ちゃん。私も行くわ」
「私も外回りの途中だったので失礼します」
楓が自分は気にしてませんから大丈夫、という態度で花鶏を出ると須藤も同じ様に出て行った。桃井も真司へ話す事があるのか同伴して出ていく。
「楓ちゃん……大丈夫かな?」
「北岡の事だから女子供には悪い様にはしないと思うがな」
優衣の呟きに蓮はいくら北岡でも楓に対して悪い事はしないだろうと考えていた。寧ろ、先程出て行った須藤の方がヤバいと感じていた。
(さっき店を出た時の須藤の顔はヤバかった……恐らくだが北岡の事務所に行ったな)
蓮は言葉にはしなかったが須藤が楓の為に行動しているだろうと確信していた。そしてその勘は的中しており花鶏を出た後、須藤の運転する車は北岡弁護士事務所へと向かっていたのだから。
◆◇◆◇
「まさか刑事さんが動くとはね。あの子はアンタ達の間じゃ重要な子って事がよく分かるね」
「貴方が楓さんに何を吹き込んだのか気になりましてね。」
北岡弁護士事務所で須藤と北岡は会席していた。一見和やかに話している様に見えるが互いの腹の探り合いで場はピリピリしていた。
「何を吹き込んだのかも何も。俺は給料を弾むから俺の事務所で働いてくれってお願いしただけだよ」
「そうすれば城戸君を釈放してあげるしライダーバトルも脱落しないで済むとでも伝えたんですか?」
須藤の質問に北岡は惚けた態度を取るが須藤が発言と共に懐からカードデッキを取り出した事で北岡から笑みが消えた。
「へぇ……刑事さんもライダーだった訳。なんで俺がライダーだと思ったんです?」
「先程、事務所の前で私の契約しているモンスターを出しましたが貴方は反応してカードデッキを構えたでしょう。私もミラーワールドの中でそれを見ていたから確認済みです。そして貴方がライダーである以上、城戸君の所持品からカードデッキを見ている筈です。そして楓さんもライダーである事を知った貴方は楓さんを自陣に引き入れる為に城戸君の弁護を受けたんじゃないですか?『このままだと城戸は逮捕されてカードデッキも没収されてモンスターに食い殺される』とでも伝えて。そうなれば楓さんは城戸君を救う為に貴方の所へ行く事を了承する筈だ。そしてこの取引はミラーワールドの事情を知る者にしか通じない。表沙汰になる訳がありませんからね。仮に楓さんや周囲の人間が貴方を訴えようとしても証拠も何もない。形式的には楓さんが自主的に貴方の事務所で働く事が決まっただけなんですから」
北岡の問いに須藤は自身の推測を打ち明けた。ほぼ全てが須藤の推測通りであり、北岡は『へぇ……』と感心した様に声を溢す。
「流石はあの浅倉を逮捕した刑事のチームに居た人だ。洞察力に優れているね」
実は北岡は須藤を知っていた。城戸真司の周囲を調べた際に真司が刑事である須藤と知り合いだと言う事に驚いたのだから。北岡の言う通り須藤は浅倉を逮捕した際に浅倉を取り押さえた刑事の一人であり、楓がその事を聞いたら『TVスペシャル版の設定!』と叫んだだろう。
「俺はあの浅倉を逮捕した人を侮るつもりも無いし、過小評価もするつもりもありませんよ。それで?楓ちゃんを解放しろってんなら元の条件の1000万に戻し……」
「もっと良い話を提案しましょう。弁護士としての評価もライダーとして戦う条件もね」
北岡は楓を自陣に引き入れた以上、手放す気は無い。そうじゃないなら城戸の弁護する条件を元に戻そうと考えた北岡に須藤は別の提案を出そうと言うのだ。
「確かに楓さんは性格上、北岡さんの話を飲むしかない状態でした。ですが無理強いしている状態では楓さんの心象は間違いなく悪くなる。そんな状態で良い関係が築けるとでも?それに城戸君や秋山、貴方が気にかけている桃井さんからの心象も悪くなる一方ですよ。貴方が望むイメージアップにも繋がらないでしょう」
「なら、どうしようっての?刑事さんには考えがあるの?」
須藤の言う通り楓の心理的に飲まざるを得ない状態では楓の心情は悪くライダーバトルにも間違いなく影響は出るだろう。その辺りは今後、楓を思考の鎖で絡めとるつもりだったが須藤は別のアプローチを掛けるべきだと口にした。
「まず……城戸君の弁護を表向きには無償で引き受けた事にしましょう。そうすれば無実で冤罪を掛けられた青年を無償で救った正義の弁護士の記事が書きやすい。その事をOREジャーナルには紙面に出してもらいます。更に無罪を勝ち取った事で楓さんと城戸君の心象も良くなり、彼等は進んで貴方の助けになってくれる。弁護する取引で嫌々戦いに行くよりも助けて貰った事実が心情的に自然と助けになるでしょう。条件を突き付けて縛るよりも自ら望んで助けに行きたくなる方がパフォーマンスも上がるでしょう」
嫌々付き合うのと、進んで協力するの、良い結果が出るのはどちらか明白でしょう、と須藤は北岡に告げた。謂わば楓や城戸を巧妙な傀儡に仕立て上げようと言うのだ。
「確かにその方が無理矢理条件で従わせるよりも良さそうだけど……刑事さんの目的は?ここまで話を持ってくるだから理由があるんじゃないの?」
「……私の望みは楓さんを守る事です。あの子は誰にも渡さない。私だけのモノにしたい。あの子が望むから城戸君も助けるし、貴方にも提案を出しているんです。そう……誰にもあの子を渡すつもりなんてありませんよ」
北岡の問いに須藤は『全ては楓の為に』と返答した。それを聞いた北岡は須藤の瞳に闇を見た。北岡も今まで様々な人間を見ていたが中には狂気に飲まれた人も見てきた。誰かに執着するストーカーやヤンデレ……須藤は北岡が見てきた人間の中でもトップクラスにヤンデレ気質だと感じ取っていた。
出来れば近寄りがたいと思った北岡だったがある意味で利用するには良いと考えてもいた。
「成る程……俺は人間の欲ってのを愛してましてね。貴方の欲望……信じますよ。お互いの利益の為にも協力しましょうか」
「そうですね。貴方が楓さんに害をなさない限り私は目を瞑りましょう。お互いがお互いを利用し合う……最後は私が勝たせてもらいますけどね」
北岡は須藤に右手を差し出し、須藤は北岡の手を取り握手を交わした。ここに北岡と須藤による協力関係が築かれた。
「さて、協力関係になりましたし貴方に有益な情報を渡しておきましょうか」
握手を解いた須藤は北岡に様々な情報を開示した。
城戸や秋山の変身する龍騎やナイトの戦力や楓の友人となった霧島美穂。そして霧島美穂の件もフォローすると約束した須藤は今後の話を詰めた。
要約すると以下の通りである。
・モンスター狩は協力し合う。
・ライダーバトルは基本的に不干渉。
・楓が他のライダーに襲われていたら助ける。もしも蓮や城戸等の知り合いのライダーに襲われていた場合でも不可抗力を装って始末しても良い。
・互いの情報共有をする(霧島美穂の様に不利益になりそうな話等)また新しいライダーが現れたら情報交換。
・楓は北岡弁護士事務所の助手ではなく臨時バイトとして雇う(由良吾郎が動けない場合の処置)
・互いの為のフォローは欠かさない(今回の様なケースに陥ったら互いの利益を尊重する)
・この裏取引は須藤と北岡の間のみでの話で城戸達には内密。
・楓に手を出したらブッ殺す。
刑事でありながらもグレーな仕事に手を染めていた須藤はそこそこに黒い提案をしたが北岡は条件を飲んだ。北岡と交わされた裏取引に須藤は満足そうに帰って行った。
「先生……良かったんですか?」
「楓ちゃんの事?それとも須藤さんと手を組んだ事?」
事務所から須藤が立ち去った後、北岡の正式な助手である由良吾郎は北岡と須藤の会話に口を挟まなかったが須藤が帰った事で漸く口を開いた。吾郎は北岡の望む状況ではなくなったのではないかと心配していた。
「どっちもです」
「須藤さんは信用は出来ないけどビジネスパートナーとしては優秀だよ。あの人は自分に不利になる情報を出しながらも俺と手を組む事を選んだんだ。それにね……あの手の奴は距離を空けすぎると却って危ないんだ。距離が近ければ巻き込まれるし、距離が遠いと何をしでかすか分からないから適度な距離を保つ事を優先した方が良い。楓ちゃんの事は惜しいけどゴローちゃんが居てくれるから助手はこれ以上は必要ないでしょ」
吾郎の問いに北岡は須藤の事を危険だと感じていた。だからこそ距離を適度に取るべきだと考えていた。
浅倉が暴力と狂気の狂人なら須藤は逆ベクトルの理性と狂気の狂人。それが北岡が須藤に対しての評価だった。
「それにさ須藤さんは強いよ?何が強いって生身での強さがライダーに反映されるんだ。なるべく敵対は避けたいんだよね」
北岡は須藤は強い事を警戒。そもそも城戸や蓮は一般人であり格闘技の経験もない素人に毛が生えた程度の強さである。楓は格闘技を学んでいたが北岡は生身での強さは寧ろ弱い部類だ。対する須藤は警察官として訓練を積んでいるし、刑事である以上素手で犯人を取り押さえる強さを持っている。
それを覆すのがライダーバトルなのだがライダーのスペック事情もあるが本質的な強さはそう覆らない。
その証拠に原作においてナイトとシザースの戦いでカードのスペックの強弱の差と運の悪さで敗北したシザースだったが肉弾戦においてはシザースはナイトを圧倒していた。つまりシザースは肉弾戦でカードの強さに勝るナイトに勝つ事も可能だったのだ。
それは言い換えればカード抜きでの戦いにおいてはシザース(須藤)の強さが際立つと言う事である。
そもそもシザースが最弱ライダーと呼ばれる所以はカードの弱さであり、実はライダーとしてのスペックは龍騎や王蛇と並ぶ程の高スペックなのだ。それに須藤の強さが加わるから本来であればシザースは強いと言える。
勿論、北岡は原作での戦いは知る由もないが冷静に強さの検証をすれば須藤は警戒すべき相手だと言う事になる。
「ま、裏取引とは言っても楓ちゃんと須藤さんと共闘出来るのは有難いよ。雑魚ライダーは放っておいても消えてくだろうからね。それにさ、俺の正式な助手はゴローちゃんだけだよ。楓ちゃんはあくまで臨時」
「はい……ありがとうございます先生」
北岡はそう告げると吾郎は嬉しそうに笑みを溢した。吾郎は吾郎で北岡が楓を求めた際に自分だけでは先生のお役に立てないのだろうかと不安になっていたのだが北岡の言葉で安心したらしい。
その後、北岡が真司の弁護をして無事に無罪となった。
北岡は表向きには無償で弁護を行い、その事をOREジャーナルは『正義の弁護士、北岡秀一』の記事を書き上げ掲載したのだった。
楓の処遇も助手から臨時のバイトへと変更されて楓は晴れて自由の身となった。
楓は『何、この急展開?』と小首を傾げていた。
全ては須藤の主導で話が進んでおり楓本人には知らされぬまま物語は進むのだった。