楓は花鶏とは別の喫茶店で霧島美穂とお茶をしていた。あの一件以降、お茶飲み友達の間柄となっており互いの近況を話し合っていた。
「美穂さんのお姉さん……まだ意識が戻らないんですね……」
「うん。でも前よりも血色が良くなって来てるから良くなってる!……とは思いたいかな」
楓は美穂の話を聞きながら今後の展開も考えていた。劇場版において霧島美穂は殺された姉を生き返させる為にライダーとなった。今のまま姉が生きていれば最低限、ライダーになる可能性は低いと考えていた。
(妙な所で原作に沿った世界だけど、変えられる所は変えられるよね……今の美穂さんからライダーになりそうな気配は無いし……)
散々な目にあってきた楓だったが、ライダーの運命は変えたいと思っている。特に霧島美穂の様にまだ救いがある状態なら悪化しない様に注意していれば最悪の展開は免れるのではと思っていた。
『冤罪で逮捕されていた青年を北岡弁護士は無償で弁護し無罪を勝ち取りました。北岡弁護士は「未来ある若者を冤罪で誤認逮捕させる訳にはいかない」とコメントしており、過去に極悪犯の浅倉の懲役を10年に引き下げた事に関して……』
「………っ」
「あっ……北岡先生の……」
思考の海に沈みかけていた楓だったが喫茶店のテレビから流れていたニュースに意識が戻る。そのニュースの内容に美穂は顔を歪ませ、楓は真司が釈放された時の事を思い出していた。
北岡が須藤と釈放された真司を引き連れて花鶏へと来たかと思えば先日の助手の条件を撤回し臨時バイトとして雇う事を提案したのだ。
真司や蓮が北岡に何を企んでいるのか抗議の声を上げたが須藤が間に入った。
須藤は北岡の弁護をしたのだ。
弁護士は弁護士の仕事があり、誇りがあると。だからこそあの極悪犯の浅倉でさえ弁護したのだと。そして誰の弁護でもする為にどんな手でも使うのだと。その為に楓を臨時バイトとして雇う事を望んだのだと。
そして最後に北岡は懐からカードデッキを取り出して真司、蓮に見せ付けた。
「なっ……アンタもライダーだったのか!?」
「どう言うつもりだ?お前がライダーならコイツが逮捕されと段階で見捨てていればライダーを一人脱落させられた筈だ!何故、敵に塩を送る真似をした!?」
「さっき須藤さんが説明してくれたでしょ。俺は弁護士として私情を挟まずに城戸の弁護をした。カードデッキを見せて正体を明かしたのも楓ちゃんや須藤さんに筋を通す為だ。そんでコレで貸し借り無し。ライダー同士の戦いになったら手加減しないから、そのつもりで」
「彼は立場的に不意打ち出来るアドバンテージを捨てたのも誠意を見せたと言う事です」
「北岡先生……」
裏のありそうな北岡が優位な立場を捨てても城戸の弁護をしたのは弁護士としての誇りであると須藤が説明すると今回の件で貸し借りはチャラとなり、今後は正々堂々とライダーバトルを……となったが実は須藤と北岡は裏で繋がっている。これは楓も知り得ぬ事だが須藤と北岡は結託して楓の害をなす者を葬るつもりである。
そんな事は露知らず、楓は『北岡先生も良い人になってるんだ』と盛大に誤解していた。
「浅倉の罪を軽くした奴が……若者の未来の為に?ふざけ……」
「美穂さん、落ち着いて!?北岡先生も……浅倉の事に納得してなくてもプロの弁護士として仕事したって……」
「見ーつけた」
荒ぶる美穂を楓は落ち着かせようと説得しようとしたが直後、何者かに肩を組まれた。
「………え?」
「な……アンタ誰よ!?楓ちゃんに何をする気!?」
「お姉さんは黙っててよ。俺はコイツに用事があるんだからさ」
楓が肩を組んできた人物に視線を向けて固まった。其処に居たのは楓が会いたくないと思っていた龍騎系ライダーの一人である芝浦淳だったのだ。
(な、なんで!?まだ手塚さんとも会ってないのに、なんで芝浦と先に出会っちゃてんの!?いくらなんでも展開変わりすぎてない!?)
何故か芝浦とエンカウントした事に混乱の極みだった。
しかし楓は思い違いをしていた。楓は忘れている事だが北岡との出会いの段階で話にズレが生じているのだ。
それは北岡が既に浅倉の懲役を10年にしたタイミングである。本来ならば浅倉の懲役が10年になったのは城戸真司が手塚と出会い、芝浦との戦いを経て、芝浦が警察に逮捕された頃に北岡が浅倉との面会で懲役が10年になった事を告げていた。
つまり楓が北岡と出会う前の段階で本筋のストーリーに既にズレが生じており楓の予想の範疇を超え始めていたのだった。そして芝浦が楓に絡んだ事で物語に更なる拗れが生じる事を楓は知る由も無かった。