どうしよう、どうしよう……っと楓は頭をフル回転させていた。
①逃げる→捕まってボコられる。BAD END
②ライダーである事を明かす→戦いになって即殺される。BAD END
③須藤か北岡に連絡する→二人が来る前に殺られる。BAD END
どう想像を駆け巡らせても良い未来が思い浮かばない楓は頭を抱えたくなる。なんで、こんな所で会っちゃうかなぁ!と叫びたいがそれをしたら浅倉の機嫌は急降下して襲いに来るだろう。
そんな楓の悩みは意外な形で収束した。
「見ず知らずの男に飯を奢る……とんだお人好しのバカだな、お前……いや、全く知らない訳じゃなさそうだがな」
「ひっ……」
オニギリを三個食べ終えた浅倉はゴミをポイ捨てすると楓を品定めするかの様な視線を送った。比喩ではなく蛇に睨まれた楓は小さな悲鳴を上げた。浅倉が顎でクイっと街頭に映る緊急速報を指した。そこには『殺人犯、浅倉威脱獄』のニュースが流れている。
ライダーである事はバレていないが楓が浅倉に怯えている理由はバッチリとバレていた様だ。
「お、お腹が空いていた様だったので思わず……」
「それで俺に飯を寄越したのか……ククッ……」
先程の楓がオニギリを渡したのは打算関係なく、空腹の人を見過ごせなかったからだ。尤も破滅フラグを立ててしまったと後悔はしていたが。
「まあ、いい……俺はこれからやる事がある。お前は邪魔じゃなけりゃイライラもしてない。じゃあな」
「………へ?」
浅倉はそう言うと立ち上がり、北岡の事務所の方へと向かって行った。去り際に浅倉は楓の肩を裏拳で軽く叩いた。痛さはなく寧ろ友人が戯れ合う程度の力加減だった。
予想外の出来事に楓は立ち尽くし、浅倉の姿が見えなくなった所で腰が抜けたのか、ペタンとその場に座り込んだ。
「助かった…‥見逃された……?」
心臓がバクバクと音を立てていた。まさか浅倉威に絡まれて無事に済むとは思っていなかったからだ。
浅倉が楓を襲わなかったのには二つの要因があった。
一つ目は浅倉はイライラしていれば誰であろうと襲い掛かる。だが楓は浅倉を刺激しなかった。それどころか悲鳴も抵抗もしなかったのが功を奏した。もしも楓が脱兎したら浅倉は獲物を追う様に楓を追っただろう。
二つ目に浅倉の腹が多少満たされた事である。人は空腹時にイライラやストレスが募りやすい。逆に満腹になり満たされれば、イライラやストレスも軽減される。それは浅倉も例外ではない。浅倉は楓が差し出したオニギリで多少腹が満たされた事で楓を襲う気にならなかった。浅倉自身も気付いてはいないが食事に多少の恩義も感じたのだろう。
この二つが重なり浅倉は楓を襲わなかった。
奇跡的な事態と腰が抜けた事で楓は数分間、座り込んだままだった。
正気に戻り、北岡と須藤に連絡を入れた時には浅倉は北岡事務所を襲撃した後だった。
◇◆
城戸は浅倉脱獄の話を聞き、新宿方面へとバイクを走らせていた。
初めてジャーナリストらしい仕事が出来ると浮かれていたのも束の間。
キィーンとミラーモンスターの出現を知らせる耳鳴りが鳴り響いたのだ。
「やっぱ俺……一生ジャーナリストになれないかも」
そう言いながらミラーモンスターが現れた方へと今走ってきた道をUターンしてバイクを走らせた。
◇◆
北岡事務所を襲撃した浅倉は北岡への復讐が失敗に終わった事にイライラしていた。先程、多少は満たされた腹だったが今現在は虫の居所が悪い。
そんな中、逃亡しようとした先のファミレスでキィーン、キィーンと耳鳴りの様な音が浅倉の耳に鳴り響く。
「アンタ、ライダーなのにモンスター知らないの?あ、もしかしてライダーになったばかり?」
「お前もライダーか?ライダー同士は戦うんだったな……」
耳障りだと思っていた浅倉に話しかける生意気そうな青年。芝浦は浅倉に怯えることも無く話し掛けた。
浅倉は芝浦の言動からライダーだと察するが芝浦はニヤッと笑みを浮かべた。
「いや、そーなんだけどさ。最近、そのルールを守らない奴が沢山いるんだよ。あの中にライダーが居る。デビュー戦は大事だから頑張りなよ。それとアンタが恨んでる弁護士やアンタを逮捕した刑事とかもライダーだよ。頑張れば倒せるんじゃない?」
「ほぅ……奴等もライダーか……」
芝浦の発言に浅倉は歓喜した。自身の獲物だと定めていた男二人がライダーだった。奴等を殺る理由が増えたとなれば浅倉にライダーになった価値はあると言えるだろう。
芝浦は車でその場を後にしたが浅倉はファミレスで戦う龍騎をジッと見つめた後、カードデッキを取り出してファミレスへと走った。
だが、その直後にパトカーが大量に押し寄せ、浅倉を囲んだ。
「動くな、浅倉!逮捕する!」
「なんで警察ってのは……俺をイライラさせるかねっ!」
「う、うわ……ぎゃあっ!!」
拳銃を構えた警官が二人前に出て浅倉を捕まえようとするが浅倉は前蹴りで拳銃を蹴り飛ばすと一人の警官を殴り飛ばし、もう一人の警官は頭を掴んでパトカーの窓へと頭を叩きつけた。
「あのガキみたいに……俺をイライラさせない奴はいないもんかね」
そう言いながら他の警官を殴り飛ばす浅倉。思い出すのは先程の名前も知らない女子高生。自身に怯えていながらも飯を差し出し、イライラさせなかった存在を浅倉は妙に関心を抱いていた。
当人がそれを聞いたらストレスで胃に穴が開くだろうがそれはどちらも知る由もなかったりする。