冬になりフォルモーントが放牧地から厩舎に戻ってきた。
馬主はフォルモーントを2歳重賞路線で使いたかったと嘆いていたがフォルモーントの父であるタマモクロスのデビューが3歳であったことを伝えるとこれは運命かもしれないと勝手に1人で納得した。
怪我なく帰ってきたフォルモーントだが厄介な問題も連れて帰ってきた。
「この馬体だと距離は長い方がよさそうですがどうでしょうか…」
「馬体的にはそうだが前に馬がいるだけで我慢が効かないようじゃ距離が長いと少し厳しそうだな。気性的にはマイル、むしろスプリントの方が合っているんだがいかんせんスピードが足りない」
馬主に調教師側でフォルモーントの出走する新馬戦を決めてくれと頼まれているのだがチグハグな気性と適性のせいで難航していた。
胴の長い馬体はフォルモーントがステイヤーであることを如実に表しているのだが気性的には1200mでも長そうに思える。
それに調教で見せる口を割り身を捩る姿がかかってしまいガス欠を起こして沈んでいく姿を連想させた。
「はっきり言って今の気性では危険すぎますよ。去勢してしまった方がいいと思いますよ」
「馬主に去勢の話はもうしたがそれだけは絶対にしたくないと言っていたから無理だ。地道に馬具や調教で気性を改善させていくしかない」
「わかりました……」
少しの沈黙の後に調教師がおもむろに口を開いた。
「ここは2000mの新馬戦を使って様子を見る。そこで負けたのなら次走は距離を短縮した未勝利戦、勝ったのなら条件戦を使おう」
「わかりましたそれでいきましょう。ではレースで使う馬具はどうしますか?」
「ブリンカーかパシュファイヤーを使いたいがメンコを付けることを極端に嫌がるからな……」
「そんなことを嫌がっているようじゃゲート入りをしなかった時に目隠しを付けられないじゃないですか」
「いや、付けれるには付けれるんだがその場から動かなくなるんだよ」
「ならチークピースはどうですか?ブローバンドやシャドーロールを併用してしまえばブリンカー同様視界はグッと狭まります」
「俺もそうしたいのが山々だが厩務員から聞いた話によるとどうもフォルモーントは額や頬を触られることも嫌がるらしいから付けれたとしてもシャドーロールくらいだろうな」
「ならシャドーロールにしましょう。それで肝心の騎手なんですが……」
「騎手ならもう決めてある」
「じゃあ一体誰を」
「馬主の方から宮原を乗せてくれと頼まれている」
調教助手はありえないといった顔で絶句した。