競馬場に来たほぼ全ての人間の意に反しフォルモーントは後続を2馬身も突き放す抜群のスタートを切った。
このレースでフォルモーントは前走のレースっぷりを考慮に入れられつつもその勝利を評価されチョウノゾミ、ホーマンファラオ、ケージーツヨシ、キングプログレスらに次ぐ5番人気とそこそこ人気を集めていた。
あまりの出来事に虚を突かれた宮原は手綱を引くことができずフォルモーントは飛び出した勢いからさらに後続を引き離し1コーナーを通過する頃には2番手のトウカイエンゼルに6馬身も付けていた。
かかりながら追い込んだ馬が今度は暴走しながら逃げていると場内はドッと盛り上がるが事前建てた作戦で逃げは想定していたもののそれはある程度後続を引き付ける逃げであり今回の大逃げは完全に想定外であったため陣営は新馬戦の時とは比べものにならないほど真っ青になっていた。
それでも馬を自由に行かせることに定評のある宮原はなんとかスタミナ切れを起こし惨敗する最悪の結果を回避しようと引っかかった状態からマイペースに走れるように少しずつ手綱を引いてコントロールしようと試みるがそれに気づいたフォルモーントが俺の好きなように走らせろと嫌がりながら更にペースを上げてしまいやっと落ち着いたのは3コーナーの坂の頂上付近、後続には11、2馬身も付けてしまっていた。
もうこの時点で誰の目から見てもフォルモーントが体力を使い切っているのは明白であり鞍上の宮原はフォルモーントを坂を下りから惰性で走らせるしかなかった。
直線に入る頃には後続が進出を開始しセーフティリードと思われた10馬身以上の差はジワジワと削られ始めそれに必死に抵抗する宮原は目一杯フォルモーントに鞭を呉れるが手応えは薄い。
大逃げしたフォルモーントを除いて形成された馬群から前目に付けていたケージーツヨシ、エキサイトランらが抜け出しフォルモーントを目掛け脚を伸ばし後方からはチョウノゾミがいい脚で追い込んでくる。
残り200m、リードが5馬身もあるがフォルモーントが完全に失速しているため逃げ切れるかは微妙だった。
残り50mを切ったゴール直前の際どい攻防に観客も実況も白熱する中なんとかフォルモーントは迫るケージーツヨシをアタマ差封じ込め無傷で2勝目を飾った。
波乱という程の荒れ方ではなかったが観客は大いに沸いた。
検量室で顔を合わせた面々だが宮原が疲労困憊といった感じで肩で息をし、フォルモーントが不安そうに耳を後ろに伏せキョロキョロと忙しなくしている以外は皆どこかホッとした表情だった。
「おい宮原、あんなに暴走してたのによく勝たせたな」
「いや、今回は運が良かっただけですよ。最後の直線なんか完全にスタミナ切れを起こして危なかったですし……」
「それもそうだな。だが今回はお前とフォルモーントはよく頑張ったよ」
宮原とフォルモーントに労いの言葉をかけた調教師はこの時一旦フォルモーントを放牧に出し菊花賞へ条件戦を1つ挟みながらトライアルを経由して向かわそうと考えていたのだがその計画は数時間後に儚くも打ち砕かれた。
馬主の意向によりフォルモーントの中1週での青葉賞参戦が決まったのだ。