試作品・練習作品置き場   作:緑茶わいん

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少年魔女の楽園追及(9/11)

「君の主観はいいとこ突いてるよ。現代魔法はプログラミングなんだ」

 

 龍姫が学院に転校してきてから数日が経った。

 時間割の組み立ては学期ごと(学院は三期制なので一学期は夏休み前まで)だから悩み過ぎなくても良い、ということで龍姫はひとまず魔法について知ること、魔法に慣れることを念頭に受ける授業を選んだ。

 三分の一くらいは補講なのだが、どんな教師が来るのかと思えば顔見知りのロリっ子(偽)だった。

 なんでも「こんな面白そうなこと他に譲れないでしょ」ということで、時間の許す限り彼女自ら教えてくれるらしい。いいのか学院長。

 

 ともあれ。

 

 静かな学院長室で二人っきり、豆から淹れたコーヒーが提供されるうえにふかふかのソファに座れるので学院長はいい人だと思う。

 授業を始める前に「いくら私が可愛くても襲っちゃ駄目だぞ」とか冗談言われたのがなければ満点である。龍姫は可愛い女の子ならわりと誰でもいいがロリコンの気は持ち合わせていない。

 

「プログラミングって……ええと、つまり術式とかいうやつをあらかじめ用意して、その通りの魔法を起動してるってことですか?」

「ご名答。お陰で最古の魔術師が『効果をイメージする』ところから始めていた魔法起動のプロセスが大幅に短縮されたわけだ」

 

 龍姫の使ったファイアーボールも「手のひらにリンゴ大の火の球を出して真っすぐ飛ばす」という術式をあらかじめ用意しておけば魔力を注いで起動するだけでいい。緊急時──特に戦闘において「速さ」はそのまま強さに直結する。

 

「でもそれだと正確に当てるの難しくないですか?」

「照準の付け方を工夫することで疑似的に制御するのが一般的だね。ほら、悠陽ちゃんも仮想デバイス出して補助してたでしょ?」

 

 ファイアーボールの例なら「右の手のひらが向けられた先に放つ」と決めておけばいい。これなら手の向きによって真後ろだろうが真上だろうが狙える。

 もちろん、他にも術式に自動追尾効果を組み込んでおく方法や、微妙に違う複数の術式を用意しておく方法、起動前に微修正して用いる方法などやり方はいくつもある。

 

「術式のプログラム化によって齎されたのは高速化だけじゃないよ。必要になってから魔法を編む必要がない──前もって自分にとってのベストな魔法を組み上げておけるようになったことで魔力効率も格段に上がった。だから古代の魔女より現代の魔女の方が格段に強いよ」

「それ、なんかおかしくないですか? プログラムとか余計なことしてるのにコストが下がるって」

「なにもおかしくないさ。そりゃ、プログラムされた術式並に美しい構成を素で実現できるなら古代魔法の方が強いけどね。そんなことのできる魔女は超一流のごくごく一握りだけだ」

「……なるほど」

 

 ぐうの音も出なかった。

 

「じゃあ、そのプログラミングってどうやってやるんです?」

「仮想じゃなくて実体のあるデバイスを使うよ。一番身近なもので言うとスマホだね」

「え、これでできるんですか?」

 

 制服のポケットに入っていた黒い板を取り出して尋ねる。女子の制服は男子に比べてポケットが小さくて若干持て余し気味である。

 と、小っちゃい学院長は「だめだめ」と首を振った。

 

「魔女用のモデルじゃないとスペックが全然足りない。一般流通してるアイテムでなんとかしたかったらせめて高級なデスクトップPCでも持ってきなさい」

「それ、デスクトップPC抱えて戦うってことですよね? 駄目じゃないですか」

 

 つまり、魔女用のスマホを買えということだ。

 

「ちなみにお値段は?」

「想像してるほど高くはないと思うよ。トップクラスの魔女たちがばんばん投資して開発してるから超高額にしなくても十分ペイできるんだよね」

「金はあるところにはあるんですね……」

「龍姫くんも好きなの買っていいよ。必要経費として学院で払うから。デバイスショップは学内にあるし」

 

 なんでもあるなこの学校。

 

「じゃあ、ちょうど明日から土日ですし見に行ってみます」

「そうだね。ついでに悠陽ちゃん誘ってデートしてきたら?」

「学内じゃ『噂してください』って言ってるようなものじゃないですか……」

「人前でキスしておいてなにを今更」

 

 龍姫は聞かなかったことにして目を逸らした。

 

「とりあえず今日のところは術式の基礎構造について解説しよっか。起動しない前提なら練習用アプリも軽いのがあるから適当なノートPC貸してあげられるし」

「お願いします」

 

 なお、かなり意気込んで臨んだものの、一回の授業ではとても練習するところまでは行きつかなかった。知らない言語を一から勉強し始めたに等しいわけなのでそんなに簡単にはいかないのである。

 

「道のりが遠いっす……」

「まあまあ、気を落とさない。デバイスの取り寄せに時間かかるかもしれないし、そんな焦る必要ないって」

 

 学院長が軽いノリで慰めてくれたのがせめてもの救いだった。

 

 

 

 

 

 

 というわけで。

 

「わざわざ来てもらって悪いな、二人とも」

「いいえ。龍姫さんのお世話は私の役目ですから」

「あたしもついでにデバイス見たかったから気にしなくていいよー」

 

 翌日の土曜日。龍姫は悠陽と衣与理の二人と共に学内にあるデバイスショップへ出かけた。

 昨日の昼食時に話をしたところ「自分たちも行く」と言ってくれたからだ。一人でちゃんと選べるか心配だったので正直ありがたい。

 学院長の言うようなデートではなくなってしまったが、悠陽と二人だと必要以上に緊張しそうなのでちょうど良かった。

 

「本当助かる。ネットで調べて情報が出るなら一人でなんとかするんだけどさ」

「デバイス以外からだと魔女関連の情報は制限されてるからね」

 

 デバイスを買うための情報を得るのにデバイスが必要。微妙に理不尽である。まあ、知り合いに借りるという手はあるだろうが。悠陽なら快く貸してくれそうだとはいえ、女の子の端末を貸してもらうのはなんとなくやましいことをしているようで気が引けた。

 ともあれ。

 衣与理はなんだか妙に楽しげに笑顔を浮かべて龍姫の顔を覗き込んでくる。

 

「で? どんなの買うつもりなの?」

「そうだな……売ってる範囲で一番高い奴」

「なにそれ。基準が超ひどいんだけど」

 

 けらけらと笑われた。しかし、代金が他人持ちである以上、なるべく良いやつを買いたくなるのが人情である。どうせ学院はたんまり儲けているのだろうし。

 悠陽はそのあたりの事情を考慮してか首を傾げるにとどめて、

 

「龍姫さん。高級モデルは性能以外の部分に凝っている場合も多いので、使いやすいデバイスが必ずしも最高級とは限りませんよ」

「それもそうか。本体にダイヤとかちりばめられても困るしな」

 

 じゃあいちばん使いやすそうな奴にしようと思いつつ、何気なく周囲を眺める。

 休日の学園内は思った以上に賑わっていた。内部だけで一つの街と言っていいほど多くの施設があるため、プライベートで遊ぶ生徒も多いようだ。

 もちろんトレーニングや勉強に勤しんでいる風の者も多い。休みの日でも多くの施設が開いているし、申請すれば開けてくれる施設もある。

 龍姫が制服で歩いていてもまったく目立たないのはとてもありがたい。

 ちなみに悠陽は清楚なワンピース姿、衣与理はTシャツにジャケット+ショートパンツという動きやすそうな服装である。どちらも良く似合っていたので出会い頭に褒めておいた。

 

「私服も欲しいな。実家から送ってもらえばよかったか」

「買っちゃえばいいじゃん。男装してるよりそっちの方が目立たないし可愛いよ。せっかく毛も剃ったんだしさ」

「男装って、俺はこっちが『女装』なんだけどな」

 

 苦笑している間に帰りの予定が追加され、学内の衣料品店に寄ることになった。昼食はこれまた学内のレストランかファーストフード店。本当に外に出る必要がほぼないんじゃないかと思えてくる。外で学院の制服着た子に会えたらラッキーなレベルだ。

 

「あ。ほら、あそこだよ」

 

 しばらくして衣与理が指さしたのは携帯ショップと小規模な家電量販店を足して二で割ったような建物だった。白ベースの清潔感のある外観で壁の一部がガラス張りになっているため入りやすい……と見せかけて、龍姫のようなモテない男は少々足踏みしたくなる感じだ。

 さりげなく歩くペースを落として自己主張してみたところ、衣与理も悠陽も全く気にした様子はなく「早く行こう」とばかりに龍姫を振り返ってきた。

 

「いらっしゃいませ。桜木龍姫さまですね。お待ちしておりました」

 

 さらに、入るなり店員に頭を下げられる。

 

「龍姫。予約とかしてたの?」

「いや、まったく」

「学院長より連絡をいただいておりました。土日に来店の可能性があるので在庫を確認しておくように、と」

 

 理由があっさり判明した。店側としても高額商品を売るチャンスなので手ぐすねを引いて待ち構えていたのだろう。日が当たって気持ちの良さそうな席に三人揃って案内され、見本やらパンフレットが次々に用意された。

 

「最もメジャーなデバイスはスマートフォン型ですね。機能性と携帯性のバランスが良く、戦闘時にも邪魔になりにくいのが特徴です」

「他の形だとどんなのがあるんですか?」

「他にも様々なタイプがございます。例えばスマートウォッチ型、眼鏡型、ノートPC型、変わったところではペットロボ型などでしょうか」

 

 要するに汎用的な電子機器のほとんどに魔女用のものが存在し、魔法行使の助けとして使用可能だということだ。若い魔女たちはこれを当然のものとして受け止め、スマホを選ぶのと同じ感覚で購入して生活や授業に役立てている。

 

「桜木さまはどういったデバイスをご希望ですか?」

「んー……。正直、自分が本格的に魔法を使うイメージがまだ湧いてなくて。だからスマホ型が一番わかりやすいかなって」

「でしたらそれがよろしいかと。他のタイプは必要に応じて購入される方がほとんどですから」

 

 というわけで買うのはスマホタイプに決まった。

 

「ちなみに耐久性ってどうなんですか? 戦ってる時に壊れたりとかは?」

「決闘においてデバイスを故意に狙う行為は禁止されております。流れ弾が当たってしまうことはどうしてもありますが、一般向けのスマートフォンに比べるとかなり頑丈ですので大きな心配はございません。ご不安であれば保護ケースに入れて使用されるとよろしいかと」

 

 ここぞとばかりにオプション品を薦められる。普段なら警戒するところだが、どうせ他人の金である。必要だと思った物は全て買う腹積もりだ。

 

「性能表みたいなのってありませんか?」

「はい、こちらに」

「ふむ。……じゃあ、このあたりかな」

 

 基本性能の数字が変わらなくなってきたあたりで見切りをつけ、それ以上の品は無視して指を差した。

 

「ちょっ!? 龍姫、なにそのさっぱりした決め方! もっと悩もうよ! 買い物を楽しもうよ!?」

 

 席を離れて展示品をにこにこ眺めていた衣与理が戻ってきて肩を掴んでくる。顔が近い。女の子の匂いには慣れてきた──少なくとも心の準備くらいはできるようになってきたが、軽々しくキスできる距離に寄ってこないで欲しい。

 

「いや、他にも寄るところあるんだろ? 予算があるならともかく好きなの買えるんならそんなに悩んでも仕方ないし……」

「いやいやいや、悩むでしょ! ねえ悠陽」

「え? ええと……そうですね、はい。私もその、これを買った時は一時間は悩みました」

 

 龍姫へ配慮してか控えめに、しかし口ごもることなく答える悠陽。女の子らしいピンクながら派手な色味ではなく「桜色」と呼ぶのが相応しい、どこか和の雰囲気も感じるスマホ、もといデバイスを手に恥ずかしそうに微笑んでみせる。

 物凄く可愛いので彼女を責める気は微塵も起きないが、それはそれとして一時間悩む気にはなれない。

 胡乱な表情を浮かべて衣与理を見て、

 

「なにをそんなに悩むんだよ。家電だぞ。性能と使いやすさが一番だろ」

「色とかデザインとか、形とか。アクセの種類とか。いくらでも悩むところあるよ!」

「いや、そんなの適当でいいだろ……」

 

 ねえ? と店員(女性)を見たところ、彼女は衣与理の意見にうんうんと頷いており、龍姫には全く同意してくれなかった。

 どうやら女子というものは家電を買うのに色やデザインを重視するらしい。

 

「いやまあ、俺もデザインっていうか機能美は重要だと思うけどさ……」

「機能美とかじゃないってば。可愛いかどうか! 超重要でしょ! シンプルな形で色が黒しかない家電とかテンション下がるじゃん!」

 

 なんでだよ超格好いいだろ、と思ったものの、他の店員(全員女性)も含めてみんな衣与理の味方だったので勝ち目がなかった。

 しまいには「本体もケースも黒とか絶対目立つよ」と実利面からも責められた龍姫はブルーの本体にクリアシルバーのケースを購入することになった。これには衣与理も上機嫌でうんうんと頷いて、

 

「でもどうしてその組み合わせ?」

「え? いや、悠陽の髪の色と目の色に似てるから綺麗だなーって」

「……龍姫さあ。そういうのさらっとやるの本当凄いよね」

 

 褒められているのか貶されているのか、なんだか遠い目をしてため息をつかれた。

 新しいデバイスには今まで使っていたスマホのデータを移せるというのでお願いし、用済みとなった本体は記念に持っておくことにした。

 魔女用のデバイスは女子向けなので前のスマホよりも幾分か小さめで片手で余裕を持って操作できるサイズ。そのくせスペックは比べるのもおこがましいほど高く、その気になれば魔力を流すだけで操作可能とかいう優れものである。

 店を出たところで衣与理と悠陽が「おめでとう」と笑顔で声をかけてきたので、こちらも「ありがとう」と笑顔を返しておいた。

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