試作品・練習作品置き場   作:緑茶わいん

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男女比1:100の世界に入れ替わりTS(2/5)

 燕条(えんじょう)(みなと)

 学校の成績は可もなく不可もなく。帰宅部。友達付き合いのために趣味はマンガやゲーム、音楽にアニメなどを広く浅く。女の子と付き合った経験はなし。

 美桜になる前の僕はそんなどこにでもいる男子だった。

 小学校で女の子にモテた経験もない。なのに、こっちの僕は目をきらきらさせた女の子たちに取り囲まれている。

 

「……羨ましい」

「?」

 

 男が少ないだけでこんなに違うなんて。

 リア充している少年の背中を思わず睨みつけると、殺気を感じたのか、(こっちのぼく)が振り返った。

 目が合う。

 

「うわ、香坂」

 

 次の瞬間、彼は「しまった」という顔をする。……うん、美桜(ぼく)、やっぱり嫌われてるんじゃないだろうか。

 でももちろんこれ以上関わる気はない。

 僕は今日までの約一週間、鏡の前で練習してきた笑顔を作って、

 

「おはよう、燕条君」

 

 挨拶だけ済ませたらさっさと彼の横を通り過ぎた。

 後ろから「あれ?」とかなんとか聞こえたものの、僕もすぐ(美桜の)友達に声をかけられてそれどころじゃなくなった。

 早めに交友関係を把握しておかないと後で絶対困る。

 

 

      ◆     ◆

 

 

 なんだ、あれ。

 

 澄ました顔で横を通り過ぎて行った香坂を僕はぽかんと見送った。

 香坂美桜はうるさい。

 女子はだいたいそうだけど、あの子は特にそうだ。毎日のように「デートしたい」とか「キスしよう」とか言ってくるのでできればあまり話したくない。

 事故でしばらくお休みするって先生から聞いた時は可哀想だと思いながらも心のどこかでほっとした。

 

 なのに。

 

 今日の香坂はまるで僕に興味なんてないみたいに落ち着いていた。

 女子の話に相槌を打ちながら目で追うと友達とは普通に(?)話している。いや、ちょっと変かもしれないけど、香坂が僕に話しかけてこないのはもっと変だ。

 気になった僕は朝のHRが始まっても香坂のことを目で追ってしまった。

 

「美桜ちゃんが今日からクラスに戻ってきました。事故のショックでいろいろ忘れちゃってるそうなので、みんな、助けてあげてください」

 

 みんなと一緒に「はーい」と返事をしながら、僕は「そういうことか」と納得した。

 頭を打ったせいで変になったんだ。

 謎が解けるとすごく安心した。思い出したらまたうるさい香坂に戻るのかもしれないけど、どうせならこのまま静かでいて欲しい。

 警戒のためにしばらくこっそり見守っていようと思う。

 

 

      ◆     ◆

 

 

 なんか見られてる気がする。

 ちらちらと湊がこっちを見てくるのにはすぐに気づいた。

 小学生だから隠すのが下手なのか、それとも「男子の視線なんて女子はお見通しなんだからね!」みたいな奴か。後者だとすると昔の僕の行動もバレバレだったことになるのですごく恥ずかしい。

 

 ただ、向こうも僕もクラスメートに取り囲まれていたので特に会話はない。

 

 友達相手に談笑し、一人一人の顔と名前を覚えながら僕は「怪しまれたのかな?」と思った。

 付きまとわないであげたんだから感謝してくれればいいのに。

 

(……それにしても)

 

 どうして美桜(ぼく)と同じクラスに(ぼく)がいるんだろう。

 授業中、板書のメモを取りながら考えるのはそれだった。

 偶然にしてはできすぎだ。

 

 なにか原因があるとしたら、やっぱり入れ替わりの儀式だろうか。

 

 美桜は儀式を使って僕になろうとしていた。でも儀式が一部失敗して別世界の僕と身体を入れ替えてしまった、とか。

 美少女がなんで平凡な男子なんかに、と思うけど、こっちの僕は百人に一人しか生まれない男子だ。

 男子というだけで勝ち組。なりたい、と考えても不思議じゃないし、もしかしたら秘密を共有して弱みを握るつもりだったのかもしれない。

 湊の身体に入った美桜が「美桜ちゃんと付き合う」とか言えば周りはそういう風に認識するだろうし、美桜になった湊が抵抗するのも難しい。……自分で言っててえげつなさにドン引きする作戦だけど、ありえないとも言い切れないから怖い。

 

 年齢に差があるのは別の世界だし、これだけ世界の状況が違えば生まれてくるタイミングが違っても全然おかしくない。

 むしろ、僕と入れ替わったのはこっちの僕にとって幸せな結果だったかもしれない。

 せいぜい末永くリア充爆発してくれ。

 

 ──と、思っていたんだけど。

 

 湊はほとんど丸一日、僕にちらちら視線を送り続けてきた。

 

「湊くん、ずっと美桜ちゃんのこと気にしてるねっ?」

「美桜さんが大人しいから寂しいんじゃないかしら?」

 

 クラスメートの(れん)ちゃん(ゆるふわ系お洒落さん、以下恋)と玲奈(れな)ちゃん(ちょっと気の強いお嬢様、以下玲奈)が口々に言う。

 僕は「そうかなあ?」ととぼけながら「ほら、バレてる」と心の中で思った。

 恋と玲奈は美桜(ぼく)と特に仲のいい二人で、僕たち三人を中心としてさらに二、三人の取り巻きを加えたのがクラスの恋愛急進派、普段積極的に湊へアプローチをかけている女の子たちらしい。

 今日は中心人物の一人である僕が事故(ということになっている)から復帰してきて、しかも部分的な記憶喪失(!)ということでアプローチはほとんどお休み。その代わりに湊には他のクラスメートがちょっかいをかけている。

 

「美桜さんはいいの? 休み中に湊さま成分が不足しているんじゃ?」

「わたしは大丈夫。休んでる間にちょっと、心境の変化もあって?」

「心境?」

 

 不思議そうに首を傾げる恋に「格言があるじゃない」と答えて、

 

「押して駄目なら引いてみよ。燕条君の気を惹くために敢えて距離を置いてみるのもいいんじゃないかって」

 

 嘘である。

 僕には湊の気を惹くつもりなんか微塵もない。さっさと他の女子とくっついてしまえばいいと思っている。これは単に彼から距離を取るための適当な口実だ。

 けれど、恋は感心したように、ほう、と息を吐き出してふにゃり、と笑った。

 

「美桜ちゃんのお母さんから教えてもらった新しい恋のテクニック!?」

「え? う、うん。そう。お母さんはお仕事の関係で男の人と知り合うことが多いから、その場で口説くわけにはいかないでしょ?」

 

 適度な距離感が大事なんだ、とこれまた嘘を並べる。

 と言っても母の体験談については当たらずとも遠からずのはずだ。てきぱきと仕事をする美人から優しくされたらたいていの男は落ちる。

 これには玲奈も関心したように頷いて、

 

「いいかもしれませんわね。しばらく、作戦を変えてみましょうか」

「二人も付き合ってくれるの?」

 

 尋ねると玲奈が微笑み、恋が「もちろんっ」と答えてくれる。

 

「友達だもん。それに、病み上がりの美桜ちゃん放っておくのは不安だし」

「わたし、そんなに危なっかしい?」

「うーん。前よりなんだかクール? になった感じで格好いいけど。美桜ちゃん、トイレの場所も忘れてたでしょ?」

「……そう言われると弱いなあ」

 

 僕は友人たちに甘えることにして、クラスの恋愛急進派メンバーは「押して駄目なら引いてみよ」作戦を発動させた。

 だから安心しろ、という意味を込めて湊のほうを見ると、彼は目が合ったのに気づいて慌てて目を逸らした。

 露骨というかなんというか。

 恋に恋する女の子たちはあんな態度でも「湊くんがこっち見たっ」とか喜ぶんだろうと思うとなんとなく釈然としない気分になった。

 

 

      ◆     ◆

 

 

 僕は騙されないぞ。

 

 香坂が「押して駄目なら引いてみよ」作戦を他の女子と話あっているのは僕にも聞こえた。女子は良く通る声をしている子が多いし何人かで集まると声が大きくなるから簡単に会話が聞き取れる。

 いつもなら一番はしゃいでいる香坂が今日は落ち着いていて、確かにクールな感じだったけど、それも作戦だったらしい。

 聞いたからには引っかからない。

 

 今日の香坂は大人しくてなんだか別人みたいだったけど。

 授業中に手を振ってきたりもしなかったし、久しぶりの学校なのに先生の質問にもしっかり答えてた。真面目な顔をしていると可愛い顔をしているのがわかって変な気持ちになりかけたりもしたけど、僕は絶対に作戦なんかに騙されたりしない。

 明日からは香坂のことは無視する。

 一番うるさい奴らが静かになれば少しは落ち着いて授業を受けられるし、僕としてもいいことだらけだ。

 

 香坂に振る舞わされてばかりじゃ割に合わない。

 たまには向こうが悔しい思いをしてくれないと困る。

 よし、この作戦でいこう。

 

 

      ◆     ◆

 

 

「……ふう」

 

 無事、初めての登校を終えて家に帰りついた僕は自分の部屋に戻ると息を吐いた。

 美桜(ぼく)や姉妹にはそれぞれ一人部屋がある。

 美桜の部屋はいかにも女の子らしく可愛い感じ。壁紙はほんのりピンク色で、ベッドや机の上にはぬいぐるみが何体もいる。

 男子としては落ち着かないけど慣れるしかない。十分な広さの部屋がもらえて一人になれるだけでもすごくありがたいわけだし。

 

 ひと息ついたところで制服の上着を脱いでベッドの上に放り出──そうとして思いとどまる。雑に扱ったら高そうな制服が皺になってしまう。

 ちゃんとスカートと一緒にハンガーにかけてクローゼットの扉のところに吊るした。

 うん、マンガとかでよく見る女の子の制服だ。可愛い子が身に着けてる服が丁寧だけど無造作にそこにあるのってちょっとドキドキしてたんだけど、自分が着る側になってみるとなんだか不思議な気分だ。

 

 制服を片付けたら首のリボンも外す。

 自分で結ぶタイプじゃなくてリボンの形になってる飾りをつけるだけのタイプだったのがありがたい。これならネクタイを結ぶよりずっと楽だ。

 ブラウスは肌触りがいいし可愛い刺繍がされていたりはするけどワイシャツとそんなに変わらない。これは後で洗面所にある洗濯かごに入れないといけない。

 ちなみに、この家には男子がいないのでかごの中は女ものの服や下着だらけ。

 姉や妹はもちろん母の分まで当たり前のように入っているので最初は戸惑った。やろうと思えば感触を確かめたり匂いを嗅いだり簡単にできてしまう。変態みたいなのでやってないけど。

 

「着替え、っと」

 

 楽なジャージとかは「可愛くないから」部屋着としては用意されていない。

 果たして男子が見ていないところでまでお洒落は必要なのか。釈然としない思いを抱きつつもひとまずは私服に着替えた。

 運動するわけじゃないので下はスカート。人目がないところなら「締め付けられている感」が少ないのでむしろスカートのほうが楽だったりする。

 下着は変えない。

 キャミソールにショーツ。もうちょっと胸が大きくなったらブラに替えないといけないんだろうか。さすがにあれは少し恥ずかしい。ショーツのフィット感は邪魔なもののない女子の身体にはぴったりでけっこう落ち着くんだけど。

 ブラもキャミソールに慣れておけばそんなに違和感なくつけられるようになるのかも。

 

 着替えを終えた後は宿題を済ませてしまうことにした。

 

 今日一日授業を受けてみた感想として、私立だけあって小学生五年生にしてはかなりレベルが高かった。

 もちろん高校生だった僕には余裕だけど社会科の内容は元の世界とかなり違っているので気をつけないといけない。

 あと、余裕だからって馬鹿にして宿題を後回しにしていると絶対面倒臭くなってやらない気がするので極力先に済ませておきたい。

 集中すればあっという間に終わったので後は自由時間だ。

 

「マンガでも読もうかな」

 

 美桜の本棚には子供らしくけっこうな数のマンガがある。

 お小遣いは電子マネー。なので電子書籍で揃えても良さそうだけど、美桜は現物を所有したい派だったのかもしれない。

 紙の本のほうが目が疲れにくいというメリットはあるし、本棚にずらっと並んでいると満足感もある。

 

 コレクションは基本、少女マンガだ。

 

 僕が疎いからか、それとも元の世界にはない作品が存在するのか知らないタイトルも多い。少年マンガはあまり読まないのか。

 っていうかこっちだと少年マンガってどういう扱いになっているのか。

 男子の数が少ないってことは売れる数も少ないし、マンガ家になる男子も少ないわけで。

 

 気になり、スマホを使って検索してみるとやっぱり向こうとはだいぶ状況が違った。

 

 男子の数が減り始めたのが百年前。

 初期の頃、昭和にアニメやマンガが出始めた頃の作品はほとんどこっちにもある。ただ新しい作品になるにつれて僕の知っている作品がどんどん少なくなっていく。最近の作品はほとんど全滅だ。

 少年マンガ自体はあるけど、多くは男子向けに女性マンガ家が描いているもので、電子書籍版を試し読みしてみた感じ「面白いけどなんか違う」という感じのものが多かった。

 やっぱり男に受けるものは男のほうが描きやすいのかもしれない。

 男の読むマンガを描きたい! という数少ない男性マンガ家が頑張って作品を生み出していて、それを数少ない男子が買い支えている。人気の少年マンガに関しては男子と話を合わせたい女子も買うので意外と売れているようだった。

 

「せっかくだから買ってみようかな」

 

 お小遣いはけっこうな額が残っていたので、僕は大手の電子書籍アプリをダウンロード。人気の少年マンガを試しに一冊買って読み始めた。

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