FEマケドニアから始まる転生物語   作:乾燥海藻類

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第10話 天空の王

マケドニアに攻め入るための船団が急ピッチで用意されている。

俺は足早にミネルバの私室へと急いだ。

ドアをノックする。応対に現れたのは碧髪の若い女性だった。

 

「アルヴァと申します。ミネルバ王女殿下へのお目通りを願いたい」

 

俺がそう名乗ると、パオラは少しだけまなじりを上げた。本来なら爵位やら家名やら名乗るべきだが、今の俺はそれを失っている。

 

「しばしお待ちください」

 

ドアが閉じられる。しばらくして、再びドアが開かれた。

 

「どうぞ、お入りください」

 

その部屋は、王族の居室としては簡素なものだった。ミネルバに用意された一室は、貴人用の部屋であったのだろうが、資金調達のために大半のものが商人の手によって換金されていた。

あるいは、アカネイアの貴族どもが接収したか。

 

「ミネルバ様。恥ずかしくもお願いに参りました」

「聞こう」

 

ミネルバが威厳を持って頷く。その脇を固めるのは二人の天馬騎士。パオラとカチュア。

アルヴァと名乗ったことについての追及はなかった。

 

「此度の戦のみ、竜騎士隊の末席に加えさせていただきたく」

「ふっ、この戦のみとは、身勝手なことだな」

「お望みとあれば、そのままお手前の部下として使い潰していただいて結構です」

「……ふむ。まあ後のことは後で話そう。良かろう、参陣を許可する。だが急場の参戦では連携も取れまい。単独で動く許可も与える」

「ご配慮くださり、感謝いたします」

 

こうして、俺はミネルバ隊に組み込まれることとなった。その際に下賜されたのは、一頭の飛竜と懐かしさすら覚えた白い鎧。聞けばハーディンが商人から買い戻し、ミネルバに渡したらしい。いつか必要になる時が来る、と。

まあ、今回だけは礼を言っておくか。

 

だがまだだ。これを着るのはまだ早い。

白騎士アルヴァには、まだ死んだままでいてもらう。

そして、同盟軍の船団がマケドニアに向けて出航した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

行く手には空を覆い尽くさんばかりの飛竜と天馬が舞っていた。ゲームだと増援でちょこちょこ出てきたドラゴンナイトやペガサスナイトが結集しているのだろう。この世界のミシェイルは戦力の逐次投入を避けていたからな。

ミシェイルは海上決戦を選んだ。上陸すら許さないつもりだ。

 

「頼むぞ、ティア」

 

下賜された飛竜の首を撫でる。ティアは小さく声を上げた。

さすがミネルバの選んだ飛竜だ。一目見て、よく訓練された飛竜だというのが分かった。

 

「行くぞっ! 総員、戦闘配置!!」

 

ミネルバの号令一下、竜騎士隊が機敏に動き出す。

本来なら開戦前の、大将同士の舌戦が繰り広げられるところだが、マルスは船団の中だ。代わりに、ミネルバが前へと進んだ。向こうから来るのはもちろんミシェイルだ。

 

「兄上! 時勢が読めぬわけではありますまい。降伏か、停戦でも良い。我らと共に新たな道を歩むことはできないのか!」

「ミネルバよ! 愚かな妹よ! 俺たちは違う生き方を選んだのだ。その道が再び交わることは決してない!」

 

ミネルバにミシェイルの想いは分からんだろうな。マケドニアは最初にドルーアに与し、戦端を開いた国だ。降伏したとしてもミシェイルは処刑されるだろう。

そして、ミシェイルはアカネイア貴族の性格をよく知っている。自分が処刑されて終わりではなく、国民も苦しめられると予想している。

要するに信用していないのだ。アカネイアを。

それならば、たとえ負けても自分がミネルバに討たれることで、ミネルバに戦功を与える。その方がマケドニアを救えると判断したのだろう。

 

ミネルバはパレス奪還にも尽力しているし、すでに戦功大なのだが、「おまえらが奪ったのだから取り戻すのに協力するのは当然だ。恩着せがましく言うな」と言いかねないのがアカネイアクオリティなのである。

やっぱアカネイア貴族はクソだな。

 

ともあれ、交渉は決裂した。両軍の飛竜・天馬が盛大に吼え始める。

まったく不器用な男だ。だが最期の願いくらいは聞いてやる。

ミシェイルは鶴翼の陣を展開した。対するミネルバは魚鱗の陣で迎え撃つ。両軍ともよく訓練された動きだ。洗練されている。

新参の俺はついて行けないので、ミネルバの後方に位置取っている。

 

ミネルバの動きを察知したミシェイルは少し陣形を変えた。それに対応してミネルバもまた、自軍が有利に展開できるように陣容を変える。

後方に船団が控えているとはいえ、竜騎士・天馬騎士の数はこちらが劣っている。制空権を奪われれば、船団にいる弓兵部隊だけでは対処しきれまい。

 

ミネルバの狙いは短期決戦でミシェイルを仕留めること。

地上での戦いと違って、空中戦ではそれができる。空は無限に広がっているのだから。

ミシェイルもまた、逃げるような性格ではない。間違いなく迎え撃つだろう。そこに勝機が生まれる。

 

先にしびれを切らしたのは、やはり攻撃的な性格であるミシェイルだった。圧倒的に優位な状況でこれ以上時間をかければ、士気が低下すると判断したのかもしれない。

第一陣が激突した。

 

両軍の飛竜が入り乱れる中に、一条の光が駆け抜けた。この距離で届く強弓は一つしかない。そして、この距離で正確に敵だけを射抜ける技量を持つ弓兵もごく少数だろう。

振り向けば、船の舳先に聖弓パルティアを構えた大陸一の弓騎士が金色の髪を風にたなびかせていた。

 

炎の尾を引く聖弓の一撃が敵を射抜いていく。しかし敵の竜騎兵もただ手をこまねいているわけではない。翻弄するような動きで船団へと距離を詰めるが、やはり聖弓の一撃に落とされ、あるいはミネルバ隊の槍撃によって海へと落とされていく。

 

少しずつ、しかし確実に敵の数は減って行った。そしてついに道ができた。風が吹き抜けるような速度でミネルバが進む。

俺もその背を追った。

 

故国マケドニアの空で、兄妹が激突する。

突撃するミネルバの一撃を、ミシェイルは天地返し(バレルロール)で回避する。そしてすれ違いざまに、ミネルバの肩を斬りつけた。

 

「――くっ!」

 

鮮血が宙に舞う。だがその量は決して多くない。致命傷ではない。そして、ミネルバの後ろには俺がいる。

 

「アルヴァ! やはり生きていたか!」

「ミシェイル! 俺にもおまえを討つべき理由がある! 分かっているはずだな!」

「……ならば来い!」

 

俺の渾身の突きを、ミシェイルは盾で防いだ。そして、右手に持った斧を振るう。辛うじて防ぐことができたが、膂力はミシェイルの方が上か。

さすがに手強い。アイオテの再来と呼ばれるだけのことはある。

飛竜を操る術はミシェイルに一日の長があることは認めざるを得ない。マケドニアの至宝、オートクレールとアイオテの盾を巧みに操り、俺とミネルバの二面攻撃を難なく防いでいる。

 

「兄上! もう一度思い直してもらえまいか! 私はマルス王子の描く未来に希望を見た! この大陸の――」

「くどいぞミネルバ! 大陸の未来は俺が決める! そこにはアカネイアもマムクートも必要ない! 俺は許せなかったのだ! 惰弱な父も! 傲慢なアカネイアも! 薄汚いマムクートも!」

「それでは……それでは何も変わらない! 憎しみの連鎖は終わらない! 力だけでは、何も!」

「想いだけで世界は変えられん! 戦争を終わらせるためには、敵であるものを全て滅ぼすしかない! 甘い毒に踊らされたな、ミネルバ!」

「――貴方という人は!」

 

二人の気勢が高まり、戦いは危険な領域へと突入する。いいぞ、ミシェイルの注意がミネルバに行っている。

位置関係の把握を怠るな。頭を動かせ。自分の位置、ミネルバの位置、ミシェイルの位置。ミネルバはどう動くか。ミシェイルはどう動くか。どの軌道で交差するか。

 

威力は要らない。破壊の力を込めすぎれば、ミシェイルは確実に気づく。必要なのは最大の威力ではない。針の穴を通す精確さだ。

殺意も要らない。過剰な殺意はあの男の感覚を鋭敏にする。

カミュも殺意に対して敏感だったが、下方には若干鈍くなっていた。だがこいつは逆だ。竜騎士が最も恐れるのは、弓や魔法による下方からの攻撃。

かといってあからさまに上方を取るわけにはいかない。今のミシェイルの警戒度は八割方ミネルバに傾いている。この隙を突く。

チャンスは一度しかない。しくじればこちらへの警戒度があがる。

 

――見えるはずだ、俺にも! そこ!

 

ミシェイルの軌道を予測してクナイを置いてくる(・・・・・)

傍目からはミシェイルが自らクナイに向かっていったように見えるだろう。

俺の投擲したクナイがミシェイルの大腿部に突き刺さった。

 

「――なにっ!?」

 

体勢の崩れたミシェイルに、一条の閃光が襲い掛かる。

 

「ミシェイルーーーッ!!」

「くっ、ミネルバァーーーッ!!」

 

上昇してきたミネルバの刺突が、ミシェイルの右肩を捉えた。飛竜から投げ出されたミシェイルが海へと落ちていく。

 

「マケドニア王ミシェイル、このミネルバが討ち取った! マケドニアの兵たちよ! 我が同胞たちよ! これ以上の戦いは無意味である! 槍を捨て、投降せよ!」

 

次々とマケドニア兵たちが手にした槍を海に落としていく。

マケドニアの海上で行われた決戦は終わり、マケドニア王ミシェイルは故国の海へと沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マケドニアを制圧した同盟軍の盟主マルスは、ガトーのもとを訪れ、ガーネフに対抗するための魔導書、スターライト・エクスプロージョンを授かった。

そしてマルスは精鋭を選出して、ガトーの強力な移動魔法(大ワープ)によって古代都市テーベへと旅立って行った。

 

俺はマケドニアを慰撫するために残された。たぶんミネルバが配慮したと思われる。

ちなみにミネルバも残っている。マケドニアをまとめ上げなきゃいけないからな。

そして俺は今、玉座の間でミネルバに膝をついている。

だがミネルバは玉座に腰かけてはいない。

そういえばゲームだと王位を継がなかったんだっけ。

 

このあたりはちょっと面倒な理由がある。まずアカネイア王国が女性の王位継承を認めていないのだ。だからニーナは最後の王族にもかからわず、女王にはならなかった。

盟主国がそれだから、他の列国もそれに倣うのが暗黙の了解になった。

 

「マリアは貴公の事を好いているようだ」

「そのようですね」

 

直球すぎないか? もっとこう、憎からず思っているとか、王侯貴族ってそういう婉曲的な表現をするモンだよ。

 

「気づいていたのか」

「私とて木の股から生まれたわけではありませんので」

「ならば聞く。マリアを娶り、マケドニアの王となるつもりはあるか?」

 

なに言ってんだこいつ。

 

「娶るのは(やぶさ)かではありません。しかし降嫁でよろしいかと。王位はミネルバ様がお継ぎください」

「王位欲しさにマリアを篭絡したわけではないようだな」

「ひどい侮辱ですね。抗議させていただきます」

「ふっ、許せ。本気で言ったわけではない。だが私は、貴公に国を任せても良いと思っている。貴公には領地を発展させたという実績がある。私は武人だ。治世の才が貴公に及ばぬことを自覚している」

 

やだよメンドくさい。絶対反発あるだろ。こちとらしがない元男爵の今平民だよ。下手すりゃ国が割れるぞ。

だがさっきも言ったようにミネルバ(女性)が王位を継ぐとアカネイア貴族が騒ぐ可能性がある。おそらくニーナは援護してくれるだろうが。

誰かを婿入りさせるというのもなぁ。自らの力で国を正したミネルバに婿入りするって、相当の度胸と格がいるぞ。今のマケドニアの事情を考えると、さっさとミネルバが王位を継ぐ方が良いんだ。国内で騒ぐやつも少ないだろうし。

 

しかしミネルバはアカネイアを刺激しないように、通例通り男を国王にしたかったんだろう。そこで俺に白羽の矢が立ったというわけだ。

さては俺に玉座を押し付けて自分は武に生きようとか思ってるな? 自分の適性を正しく理解できているの良いことだが、王族としての責任から逃げているようにも見えるぞ。傭兵になって出奔した砂漠の国の王子よりはマシだが。

 

「きっぱりとお断りさせていただきます」

「……そうか。しかし、私を助けてはくれるのだろう?」

「はい。それは間違いなく」

「良かろう。ならば貴公を宰相に任命する」

「いや、それはさすがに……」

「なんだ。舌の根の乾かぬ内に前言を翻すつもりではあるまいな」

 

くっ、やるじゃないか。だがまあ宰相なら……いやまて、これ完全にドアインザフェイスじゃねぇか。

いまさら絶対にノゥとも言えないし、まあマケドニアの発展は俺も望むところだし、宰相という立場があれば……やりやすくはなるな。

 

「いえ、失礼を申しました。謹んでお受けいたします」

「うむ。期待している。私を支えてくれ」

 

器の違いというべきものを見せつけられ、俺は頭を垂れた。

 

 

 





ガトーは人間の中でマルスとミシェイルの二人を特別視していたようです。どちらもアンリ、アイオテという英雄の末裔だからかな。
カミュは違うっぽいです。王族(オードウィンの子孫)ではないから?
ファルシオンに使用制限(プロテクト)をかけたのはガトーなので、もしマルスが戦死したらミシェイルが使えるようにしたのかもしれない。
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