FEマケドニアから始まる転生物語   作:乾燥海藻類

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第11話 ミネルバから見た白騎士

私は恐ろしい男を宰相にしてしまったのかもしれない。

自分の額に冷たい汗が流れていくのを実感した。彼が自分の領地を失うことになった原因である侯爵に対して、何かしらの処罰を与えることは予想できた。

 

むしろそれをやりやすくするために宰相という地位を与えたのだ。あの侯爵の力を削ぐことは、私にとってもありがたい。

だが私が予想していたのは、領地を削るとか、財の一部を供出させるとか、その程度のものだった。

 

だが彼の処罰は苛烈だった。侯爵をギロチンにかけたのだ。

ギロチン。彼の説明によれば、二本の柱の間に吊るした刃を落とし、柱の間にうつ伏せ状態にさせた被処刑人の首を切断する斬首刑の執行装置らしい。

口頭説明ではいまいち要領を掴めなかったが、一目見た瞬間、衝撃を受けた。

斬首という意味では同じだが、人の手を介しないため、より無慈悲に感じられる。ギロチンの刃が落ちる合図、鈴の音は今も耳に残っている。

 

彼は宰相に任命された翌日、朝駆けで侯爵を捕らえ、民衆の前で罪状を読み上げ、昼には刑を執行した。まるで流れ作業のように。

おそらくは任命される前に、下調べはすでに終わっていたのだろう。

あんなもの(ギロチン)をいつ作ったのかと問えば、彼はにこやかな笑顔を浮かべて「部下たちが一晩でやってくれました」と答えた。

あの兄でさえ、貴族たちには気を遣っていたというのに……。

 

当然、他の貴族から詰め寄られた。侯爵の腰巾着ども。民を苦しめ、甘い汁を吸ってきた愚物どもが、口汚く彼を罵った。そんな不届き者どもも、彼によって首を刎ねられた。

いつ調べたかも分からないが、侯爵の時と同じように罪状を読み上げ、ギロチンにかけた。

 

そこで初めて、侯爵とは関係のない貴族たちも私に泣きついてきた。おそらくは、後ろ暗いところのある者たち。私が調べたところでは、確かに税が重くはあるが、侯爵たちに比べればまだマシだった。少なくとも、すぐさま処刑するほどではないと判断した。

 

そもそも王家といえども、軽々しく貴族を処罰するわけにはいかないのだ。見方によっては彼の独断専行とも取れる行動だ。いや、事実その通りではあるのだが……。

ともかく、私は彼に慈悲を求めた。

すると彼は、驚くほど素直にそれを受け入れた。

恐怖の象徴であったギロチンも、即日の内に解体された。

 

ようやく私は理解した。彼は私を飴とし、自身を鞭とすることで、統治を行いやすくしているのだ。

そこで私は彼に相談した。民を苦しめた将軍らを追放したいと。無論、今ではない。ドルーアを打倒した後だ。

大陸に平和が訪れれば、アカネイアに要らぬ警戒心を持たれぬためにも軍縮は必要になる。どうしても必要なことだった。

 

そう説明すると、彼は驚くべき行動に出た。

私が追放を考えている将軍の名を記した書類をさらに精査し、五人の将軍を王城に出頭させたのだ。

後は同じだ。民衆の前ではないが、私の前で罪状を読み上げ、斬首の刑に処すと宣告した。

当然将軍らは激昂し、彼を糾弾した。

そして彼は言ったのだ。

 

「卿らは武によって将軍の地位を任されるに至った。ならばその武威を示してみよ。その武が我が国に必要だと判断できたなら、一切の罪を不問にする」

 

と。

斯くして、一騎打ちが始まった。

勝敗は最初から分かっていた。

彼は強い。飛竜を駆ってでの勝負ならともかく、地に足つけての勝負なら私とて危うい。将軍たちに勝てる道理はなかった。

 

一人目の将軍が嘲るような笑みを浮かべて前に出る。馬鹿正直ともいえるほどの突撃を敢行するが、彼は目にも留まらぬ速さで穂先を斬り上げると、返す一閃で将軍の首を刎ねた。

 

二人目の将軍の獲物は斧だった。煌びやかな装飾を施された銀の斧。一目見て、使い込まれていないのが分かる。彼は大上段から振り下ろされた斧を半身になってかわすと、流れるような動きで首を刎ねた。

 

三人目。ようやく将軍たちの目が本気になった。とはいえ、何が変わるわけでもない。動かない将軍に対して、彼は無造作に歩を進めた。将軍が槍を突き出すのと同時に踏み込み、距離を縮める。首が飛んだ。

 

四人目。さすがに、実力差に気づいたのだろう。しかし命乞いはしなかった。将軍としての矜持か、それとも一回り以上も年下の若造に下げる頭はないと言いたいのか。

気づけば首が飛んでいた。

 

五人目は、この中では一番の実力者であるリュッケ将軍だ。これまでの四人とは違う。使い込まれた銀の槍を構えて彼を威圧する。

だが私の目には、腹回りの肉が如何にも頼りなく映った。

結局、リュッケ将軍すら彼に一太刀も浴びせられずに首を落とされた。

 

「リュッケ将軍は、まだ使い道があったのではないか? ドルーアとの戦いも残されているのだ」

「あの男がドルーアとの戦いで何の役に立つとお思いですか?」

 

にべもない言葉だった。だがリュッケ将軍にはこれまでの功績もあった。やはり止めるべきだったのだろうか。分からない。

半ば呆けていた私に向かって、彼は血に塗れた剣を拭きながら、言った。

 

「兄君のご容体はいかがですか?」

 

私は……恐ろしい男を宰相にしてしまったのかもしれない。

 

 

 





ミネルバはギロチンを無慈悲と言っていますが、実際は死刑執行人が未熟な場合、一撃で斬首できず多大な苦痛を与えることが多かったため、実は優しい処刑器具とも言えます。
まあ、主人公なら普通に一刀両断できますが、民衆に与えるインパクトが違いますよね。
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