メディウスが竜化した姿を見た者はいない。
これはメディウスの復活が不完全だったことを意味している。だからガーネフはマケドニア・グルニア・グラを同盟に引き込んだのだろう。
もしメディウスが完全に復活していれば、自分が先頭に立ってパレスを焼いたはずだ。
それを証明するように、同盟軍が目前に迫っても、ドルーアが攻めてくる様子はない。
メディウスが竜化できるのは復活した場所、つまりドルーア城内のみだと思われる。
「と俺は推察するが、どう思うチェイニー」
「ああ、まあ辻褄は合うな」
チェイニーが焼き菓子をボリボリ齧りながら答える。
「じいさんはどう思うよ?」
「そうじゃな。合っておると思うよ。メディウスの凶暴さはお主も分かっておるだろう」
「まあ、な」
ズズッと紅茶をすする。チェイニーはバヌトゥと面識があった。その正体はナーガやチキと同じ神竜族だ。だが今の姿を見ても分かる通り、若い竜らしい。
ちなみに、チェイニーは自分から神竜族とは名乗っていない。だがチキに構ったり、バヌトゥと旧知のように接したりと、察しの良い人間なら竜族だと気づくだろう。
変身能力も隠していないみたいだしな。いや、あれは竜族にしてもかなり珍しい能力な気もするが。
そんな俺たちの会話を、副長は無表情で聞いている。
「俺に言わせれば、メディウスもガトー様も極端だと思うけどな。人間にだって良いヤツもいれば、悪いヤツもいる。人類全体がどうのとか、人間がどうのとか、勝手に期待して勝手に失望して、そんなことで大陸を何度も騒乱させるなら、いっそ昔の戦争で人類を見捨てておけばよかったんだ」
俺がそう言うと、バヌトゥとチェイニーだけではなく、副長までもが呆気に取られていた。
「過激じゃのぉ」
「なんだおまえ、破滅主義者か?」
「終わりは来るってことだよ。森羅万象、諸行無常、全てに終わりがある。栄華を極めた竜族にさえ終わりの時は来た。人間が絶滅していないのは偶然の重なりにすぎない。この戦争だって最初にメディウスがニーナ姫をキッチリ仕留めていればここまでこじれることはなかった」
まあそれでも最終的にはメディウスvs人間になったと思うが。
「達観した考えじゃの」
「興奮しすぎだ。ちょっと落ち着けよ」
「チキを眠らせたのだって勝手な理屈だろ。理性を失って人間を襲うかもしれないから眠らせる。ナーガは自分の娘より人間を優先したんだ。だがそれを知らない人間は感謝なんかしやしない。ガトーだって同じことをするかもしれんぞ。またチキを眠らせるかもしれない」
やべ、ガトーに様つけるの忘れたわ。まあいいか。チキは自分の名前が出てきたことに驚いたのか、ハッとしてこちらを向いた。
「チキはもう長い間眠るのは嫌だよな?」
「イヤ! だってずっと長い間ひとりで眠ってたんだよ。おじいちゃまが連れ出してくれるまで、何度も何度もこわい夢を見たの。もう眠るのはイヤ! みんなと一緒に暮らしたい。眠りたくないよ」
涙を浮かべるチキの髪を優しく撫でる。
「大丈夫だ。俺がおまえを護る。バヌトゥ殿も護ってくれる」
「うむ。今度は誰にも渡したりはせぬ」
「ほんと? 約束だよ」
チキと約束の指切りを交わす。何故か副長も泣いていた。チェイニーは何故かムッとしている。
「なんかスゲー疎外感。つかおまえ、じいさんに比べて俺の扱いが雑じゃねぇか?」
「目上の者には敬意を払うさ」
「俺もおまえより年上だよ。気づいてんだろ、俺も竜族だって。チキだっておまえより年上だ」
いきなりカミングアウトしたな。まあいまさらだが。
「眠ってた期間はノーカンだろ。おまえの場合は、出会いが出会いだからな。自業自得だ」
「ノーカン? ちっ、あれは余興みたいなモンだろ、ったく」
チェイニーは不貞腐れたように焼き菓子を口に放り込んだ。
「ガトー様は人間に期待しすぎなんだよ。理想を押し付けすぎるんだ。人類全体が正しくなることなんてあり得ない。人間には欲があるからだ。そして欲があるから技術が発展した。競争という争いは歴史の必然なんだ。それとな、アカネイアの秘宝、マルス王子の持つ紋章の盾が封印の盾だと、ガトー様に教えてやれ」
ガトーは変化を嫌っているような感じがするんだよな。魔法があるなら世界はもっと変わっているはずなんだ。攻撃に限定せずとも、炎・雷・風なんていくらでも利用方法がある。
考え方が古いというか、頭が固いというか、だから"先"を見ているガーネフの考えを理解できなかったんじゃないかな。
ガーネフは真っ当に魔導を発展させたかったんだと思う。だが闇のオーブの影響で狂った。嫉妬と妄執に囚われ、進歩の名の下に狂気の夢を追った愚か者に成り下がった。
むしろこの世界の技術発展の速度が遅いのは、魔法があるせいだと思ったくらいだ。魔法なんて中途半端に便利で、中途半端に使える人間が限定されるモンがあるから、技術革新が起こりにくいのだ。
いくら天才が生まれても、何の下地もなしにヒラメキが降ってくることはない。一を知って十を知る天才でも、一を知らないならその才も埋もれたままになる。
だから識字率の向上や教育の普及が必要なのだが、一部の貴族たちがそれを良しとしない。なんせ奴隷がいるような世界だからな。
こういった根幹の部分をどうにかしないかぎり、この世界では千年経っても大規模な技術革新は起こらないだろう。
「……ホントに、何モンなんだよおまえは……」
おっと、思考の渦に沈んでチェイニーのことを忘れていた。チェイニーは半眼で俺を睨みながら、小さくため息を零した。
◇
マルスがテーベより帰還して七日が経った。遠征の疲労も抜け、陣容を整えた同盟軍はついにドルーアの地に足を踏み入れた。
そこには数多くの魔竜が戦闘態勢で待ち構えていた。
怯える兵士たちにマルスの檄が飛ぶ。
「アカネイア同盟軍の勇敢なる兵士たちよ! 臆してはならない! 大陸に平和を取り戻すために! 我らと我らの子孫のために! 我々は負けるわけにいかない!」
マルスの声が戦場に響き渡る。兵士たちから歓声が上がった。
「偉大なるアドラ一世よ照覧あれ! 勇者アンリよ
右手に持つ神剣ファルシオンを掲げる。日の光を受けたファルシオンは神の威光のように光輝いていた。
歓声がさらに強まる。士気が絶頂に達した時、マルスの剣が振り下ろされた。
「我に続けぇーーー!!」
マルスの合図で戦闘は始まった。
「では俺たちも行くか」
『ハッ!』
三人の声が重なる。バヌトゥは本陣に配置されていた。チキはメディウス戦を想定しての温存である。竜を相手にするのは初めてだが、なかなかの威圧感だ。だが臆するわけにはいかない。
「ロートとグリューンは後方から援護してくれ。副長は距離を取りつつ撹乱。ブレスの兆候を見逃すなよ。切り込み役は俺がやる」
『了解です』
一体の魔竜に標的を定め、距離を詰める。こちらに気付いた魔竜が鎌首をもたげた。あれはブレスは吐く時の予備動作だ。
「副長、横だ!」
副長が素早く横に飛ぶ。標的が分かれたことで、魔竜に一瞬の隙が生まれた。前方に突っ込んだ俺の頭上を闇のブレスが過ぎ去っていく。
懐に飛び込んだ俺は、手にしたドラゴンキラーを魔竜の下腹部に潜り込ませた。
「くらえッ!!」
斬り上げたドラゴンキラーが魔竜の腹部を切り裂く。溢れ出た臓物がビチャビチャと大地を濡らした。
力なく斃れてくる魔竜の首を両断し、第一戦は終了した。
「さぁ、次だ!」
苦戦している兵士たちの助太刀に向かう。少しずつ、しかし確実に、メディウスの待つドルーア城に近づいていた。
◇
多くの犠牲を払い、俺たちはついにドルーア城の最奥へと辿り着いた。
「みんな、行こう! 地の底からよみがえった暗黒竜メディウスを、永遠の闇に葬り去るために! そして、失われた光をこの世界に取り戻すために!!」
マルスが荘厳な扉を押し開く。その瞬間、暗黒の瘴気のようなものが全軍を包んだ。空気の重さが増したような、重力が倍化したような錯覚を覚える。
「ここから先は、選ばれし者しか進めぬようじゃ」
いつの間にかマルスの隣にいたガトーがマルスに向けて呟く。
「アルヴァお兄ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫……と言いたいところだが、こう身体が重くては、いつものようには動けんな」
まとわりつくような空気が身体の自由を奪っている。ゲーム的に言うなら、ステータスが半減しているような感じだ。
「アルヴァお兄ちゃんはここで待ってて! わたし頑張るから!」
ふんすとチキが拳を握る。
「わかった。任せるよ」
「まかされた!」
チキと拳を打ち合わせる。
「チキちゃん。無理しないでね」
「俺たちの分も頼むぜ!」
「メディウスをぶっ倒してきな!」
三人とも拳を交わし、チキはマルスのもとへと走って行った。
マルスを先頭に、伝説の武器を持つ勇者たちがメディウスへと挑んでいく。
最後の戦いが始まろうとしていた。
【悲報】主人公、最終決戦で戦力外通告!
まあ神器もないのにメディウスをバッサバッサやるのは、なんか違うよね。
デビルソードでワンチャン? マリアが泣いてとめそうだけど。