俺が思うに、大陸がここまで乱れたのはアカネイアの強すぎる選民思想が原因だと思う。あいつらは他国を見下している。他国の人間を見下している。
平家にあらずんば人にあらずを地で行っているのだ。
マケドニアを奴隷が興した国と蔑み、タリスを蛮族の興した国と嘲り、グルニアを辺境の地と侮る。
実際グルニアは大陸南西にある辺境の地であるが、ドルーア戦争時代の三英雄の一人、オードウィン将軍が興した国だ。
オードウィン将軍はアカネイアの貴族だったのだが、オードウィンの人気を妬んだアカネイアのカルタス王によって辺境のグルニアに左遷されたのだ。
この頃からアカネイアは色々とアレだった。
そもそもアカネイアが偉そうにしている理由は、最初に興った国であるからだ。つまり絶対盟主国なのである。
伝説では、建国王アドラ一世は神から遣われし聖なる三種の神器を以って大陸統一の聖戦に挑んだと言われ、それ故王家の血筋は貴いものとされ、国自体が神に守られし国「聖王国」と崇められている。
だがその出自は盗賊であり、当時ラーマン神殿の神官長を務めていたメディウスを騙した上で、他の神官たちを皆殺しにし、三種の神器と封印の盾を盗み去った。
そして封印の盾にはめ込まれていた聖玉を売り払って得た大金を元手に軍隊を組織し、周辺の都市国家を統合してアカネイアを建国した。
また竜族を蔑む表現である「マムクート」を考案したのも彼である。
ロクなヤツじゃねぇな。そりゃメディウスもブチギレるわ。
もちろん歴史書にこんなことは一切かかれていない。アドラ一世の美辞麗句が並びたてられているだけである。
そりゃメディウスもブチギレるわ。大事なことなので二回言った。
最初にゲームをプレイした時は、メディウスのことは世界征服を企むラスボスだとしか思っていなかった。当時のゲームって大体そのパターンだったし。
けど設定を知っていくうちに、実はメディウスって良いヤツなのでは? と思うようになったのだ。
そんな善良な竜族を歪ませてしまったのが人間だ。
真面目なヤツは極端から極端に走りたがるってどっかの主人公が言ってたけど、メディウスはまさしくその通りだと思う。
遥か昔のことだ。地上で栄華を誇っていた竜族たちが、ある日を境に子供が産めなくなり、徐々に理性を失うという現象に襲われた。
このままではいずれ滅んでしまうと考えた竜族の長老や神竜王ナーガが、自分たちの竜としての力を竜石に封印し、姿を人間に変えれば理性を失わずに済むと提案する。
だがこの提案に異を唱えたのが、地竜族を筆頭としたプライドの高い竜族である。
こうして竜の力を封印した者は生き延び、提案を拒んだものは知性を失い獣になった。そして知性を失った竜族は人間を襲うようになり、人間は大陸の片隅に追いやられ全滅寸前の危機に立たされた。
それを哀れんだ神竜王ナーガは人間を救うための戦いを始めた。
メディウスは地竜族の王族でありながら、部族の決定に逆らい、神竜王ナーガの下で人間のために同族と戦ったのだ。
戦いは熾烈を極めたが、何とかナーガ率いる神竜族が勝利した。
メディウスはその後もナーガの言いつけを忠実に守り、墓守として地竜族を封じた竜の祭壇で穏やかな時を送っていた。
しかし、人間は力をつけるに従って横暴になり始めた。
弱体化して平和に暮らしている竜人族を蔑み、虐げるようになり、マムクートという蔑称まで付けるようになった。
メディウスは思っただろうな。こんなヤツらを護るために、同族を裏切り滅したのかと。
怒りと絶望にかられたメディウスは人間を信じることをやめ、ドルーアの地に同胞を集めてドルーア帝国を興した。
ドルーア帝国の皇帝となったメディウスは、怨敵でもあったアドラ一世の興したアカネイア聖王国を滅ぼし、人間達を奴隷のように虐げるようになった。
その後は歴史書の語る通り、神剣ファルシオンを手にした英雄アンリによってメディウスは討伐された。
めでたしめでたしである。
当然、アドラ一世の悪行やメディウスの悲哀などは記されていない。歴史ってのは都合の良いように改変されるものだとつくづく思ったものだ。
「こんな話をしたのは、初めてだよ」
バヌトゥなら、この顛末も知っているはずだと思って話したのだ。
もしかしたら俺の知識は、この世界の歴史と違っている可能性もあったからな。
「大筋は合っておると思うよ。わしも全てを知っているわけではないからの」
バヌトゥは昔を懐かしむように呟いた。
「メディウスを説得できると思うか?」
「……難しいじゃろうの。メディウスは変わってしもうた。目がの、狂っておる。理性を失った竜族と同じ目をしておるのじゃ。もはや人間を滅ぼすまで止まらんじゃろう」
「……そうか」
同じ竜族のバヌトゥが言うなら、そうなのだろう。俺みたいな上っ面の知識と違って、バヌトゥにはその時代を生きた実感がある。まあ、王族でもない俺が人間の代表面してメディウスを説得するってのも、相手からしてみれば、なんだコイツって感じだよな。
ワンチャン和解ルートもあるかなって思ってたんだけど、無理っぽいね。
にしても狂っている……か。確かにな。冷静に狂っているって感じだ。
「しかし、なぜお主はそんなことを知っておるのじゃ?」
「夢で見たのさ。もしかしたら、ナーガ様の神託かもしれないな」
「ふむ。ナーガ様がの」
あれ、信じたのか? 人が良いというかなんというか。ナーガなら可能だとでも思ったのかね。まあできそうではあるが、やる意味はないよな。
というか故人だし。思念だけは残っているというパターンはありそうだが、さすがに無理じゃね?
それでもやるなら、一般人の俺じゃなくてマルスだろ。あいつならメディウスを説得できそうな気がする。
いや無理か。自分を滅ぼしたアンリの末裔だもんな。
やっぱメディウスの説得は無理筋か。
そういえば神剣ファルシオンってアリティアの王族しか扱えないようにプロテクトがかけられてるんだよな?
まあかけたのはガトーだからどうとでもなるんだろうけど。
「そろそろ寝るか。明日から砂漠越えだからな。無駄話に付き合わせて悪かったよ」
「いや、なかなか興味深い話じゃった。では休ませてもらうとしよう」
俺たちはそれぞれの寝床へと戻って行った。
◇
確か暗黒戦争ってアカネイア歴六〇〇年から五年間の出来事なんだよな。
マルスがタリスで蜂起したのが今年、六〇四年だから、後一年ほどで戦争は終結する。まあその二年後に英雄戦争が始まるんですけどね。
それはともかくとして、俺たちはダウジングをしながら砂漠を横断している。
砂漠に埋もれたお宝なんて眉唾だと副長たちは呆れていたが、バヌトゥは違った。かつてここで大戦が行われたことを知っているからだろう。
カダインはもちろんスルーだ。あんな魔王の都に立ち寄っていられるか! 俺は帰らせてもらう!
というか、ガーネフの最終目標ってなんだっけ?
ガーネフは元々真面目で正義感に溢れる男だったが、心の弱さを見抜かれてガトーの後継者候補から外されたはずだ。
それに納得できなかったガーネフは、もう一人の後継者候補であったミロアを殺害して闇のオーブをくすねてカダインを出奔した。
ガトーとは魔導の在り方において対立していたと聞いたことがある。たぶんガーネフは魔導をもっと普及させたかったんだろう。
それ自体は良いことだと思うが、ガトーは魔導の価値が下がると考えたのかもな。
ガーネフがまともなら組む価値もあったかもしれないが、闇のオーブに負の心を増幅されて正気を失っている。
正直まともに会話が成立するかどうかも怪しい。ちょっとリスクが高すぎる。
てなわけで、カダインをスルーして砂漠でダウジングをしながらラーマン神殿に向かうことにした。
これまでに発見したお宝は以下の通りだ。
一つ目、錆びた剣。
二つ目、腐った傷薬。
三つ目、魔導書の切れ端。
四つ目、朽ちかけた女神像。
本来なら女神像は幸運がアップするドーピングアイテムなのだが、その朽ちかけた女神像は効果を発揮したとは思えなかった。
副長の視線が突き刺さるようなものに変わっていくが、気にせず続ける。魔力を流して感度三千倍(当社比)にしたのがあだとなったか? いらんものまで引っかかるな。だが無反応よりはマシだと思おう。
そしてついに、五つ目にして当たりを引いた。
この特徴的な形状。間違いない、ドラゴンキラーだ。
「まさかドラゴンキラーを発掘するとはのぉ」
バヌトゥが感心したように呟く。
ドラゴンキラーはその名の通り、竜特攻を持つ剣だ。ナーガの牙の欠片が使われており、ファルシオンの廉価版とも言える。
廉価版だけあって、竜族としては格の高い地竜族に対しては特攻効果を持っていない。だが武器としては間違いなく上等だ。
「これで戦力の強化ができたな。さすがに鋼の槍でドラゴンの相手をするのは不安だったからな」
「隊長なら鋼の槍でも勝てそうですけどね」
「冗談はよせ。所詮はハーディンにも勝てない男さ」
「いえ、あれは集団戦だったからです。一対一の勝負なら間違いなく隊長が勝ちます」
それって俺の用兵術がハーディンに劣るって意味だよな。褒めてるつもりなんだろうが、微妙に褒めきれていないのがコイツらしいよなぁ。
その後はまた微妙なアイテムを挟み、今度は銀の斧が出てきた。ロートとグリューンが話し合った結果、それはロートが持つことになった。
やっぱコイツら、軍に入る前は
そんなこんなで砂漠を踏破し、俺たちはラーマン神殿にやってきたのだ。
ラーマン神殿は神竜王ナーガを祀る神殿で、グルニア領の最北、カシミア大橋の袂にある。バヌトゥによれば、ナーガの手により神竜族以外の竜族は立ち入ることのできない強力な結界が施されているらしい。
ならどうやってアドラ一世は侵入したのかと思ったが、入ることができないのは「神竜族以外の竜族」なので人間は普通に入れるのだそうだ。
なんかガバガバだなぁ。それだけ人間を信じていたのだろう。
またナーガの加護を得た者は神竜族でなくてもOKらしい。地竜族のメディウスとか、火竜族のバヌトゥとか。
見張りの兵とかがいるかなと考えていたが、誰もいなかった。やっぱグルニアって人が足りてないんだな。分散しすぎなんだよ。特に今はパレスが攻められて、てんてこ舞いしている頃だろう。
カミュもドルーアに幽閉されてるしな。
まあそのカミュもグルニア貴族にかなり疎まれているんだが。
カミュが重宝されているのは、その武力と愛国心ゆえだ。他の貴族からすればうざったいのだが、カミュ率いる黒騎士団はグルニアの貴重な精鋭である。
だから
やっぱ貴族ってクソだな。
個人的にカミュは好きなキャラだ。ニーナに想いを馳せながらも、祖国のために戦い、殉じている。生き方に一貫性がある。フラフラして主義主張の薄い俺とは大違いだ。そこに痺れる憧れる。
恋人を人質に取られたくらいで主君に剣を向ける勇者とか近衛騎士よりはよほど好感が持てる。
ニーナを逃がしたのは完全な利敵行為だろって意見もあると思うが、まあそれはそれってことで。
さて、ようやくラーマン神殿に辿り着いたわけだが、竜族の神殿だけあってかなりでかい。天井は見上げるほどだし、横幅も相当なものだ。
「隊長、本当に入るんですか?」
副長が不安気な表情を浮かべている。そういえばコイツ、意外に信心深いんだった。ラーマン神殿は、言わば聖域である。大陸中に跋扈している賊であっても、侵入するのを躊躇うくらいだ。
ゲームだと盗賊がオーブ盗んでたけど。いやよそう、ゲームの話は。
それにあの盗賊がガーネフの手下で、オーブを回収していたという可能性もあるわけだし。
「荒らしに入るわけじゃないんだ。だが無理強いはせん。どうしても抵抗があるなら、ここで待っていても構わん」
「……いえ、お供します。そうですよね。盗掘目的じゃないし、大丈夫ですよね」
自分に言い聞かせるように、副長はつぶやいた。
とりあえず奥に向かって歩いていく。
罠などはないようだった。敵もいない。なんだかこの静けさが逆に不気味だ。まあチキが守っている限り、他の兵など不要と判断したのかもしれない。
「クンクン。隊長、お宝の匂いがしま……って副長、冗談です冗談!」
「ロート。俺たちは盗賊じゃないんだ。そういうことを言うな。副長もそれくらいにしておけ」
アドラ一世と同じ扱いにされてたまるか。大体ここはナーガを祀る神殿だぞ。バヌトゥが気を悪くしたらどうするんだ。
チキの説得はバヌトゥありきなんだぞ。まあ居るかどうかは分からんが。
最奥まで辿り着くと、祭壇があった。そこには二つの輝くオーブが安置されており、それを護るように小さな少女が瞑目したまま静かに座していた。
バヌトゥが近づくと、ゆっくりと目蓋が開く。その瞳は虚ろだった。
「おお! チキよ、探しておったぞ」
「だめ……わたしに……ちかよらないで……」
「……ガーネフに術をかけられておるのじゃな。かわいそうに……それ、目を覚ますのじゃ」
バヌトゥの手のひらから光が溢れる。
「う~ん。あっ! おじいちゃま! えっと、なにがあったの?」
「正気に戻ったようじゃの。よかった」
「おじいちゃま。わたし、ずっと怖い夢を見ていたみたい」
チキは自分の両肩を抱いて震えていた。
「すまなかったのぅ。おまえをこんな目にあわせてしまって。だがもう心配はいらん。これからはずっと側におるからの」
「うん。約束だよ、おじいちゃま。ひとりぼっちはイヤだもん」
そうだよな。ひとりぼっちは寂しいもんな。
そしてチキは俺たちに気付いたのか、バヌトゥに隠れるような体勢でこちらに視線を向けた。
「おじいちゃま。あの人たちはだれ?」
「おまえを助けるために協力してくれたのじゃ。おまえの友達になってくれるかもしれんぞ」
「……ともだち?」
チキは目をぱちくりさせて、おずおずとこちらに近づいてきた。
「わたしチキっていうの。みんなわたしのともだちになってくれる?」
「もちろんだ。俺の名はアルヴァ。よろしくな」
「私はレシアよ」
「俺はロート」
「グリューンだ」
「よろしくね! アルヴァお兄ちゃん。レシアお姉ちゃん。ロートおじちゃん。グリューンおじちゃん」
チキは花の咲いたような笑顔を浮かべ、俺たち一人ひとりと握手を交わした。
メディウスがどうしてこんな酷いことをするか、分かるか?
それはな、人間なんてバカ野郎を信じたことを、後悔しているからさ。