同盟軍と合流した俺はリーザ王妃の仲介でマルスに挨拶した。マルスは見た目通りの好青年って感じだった。隣にいたハーディンはギョっとしていたな。しかし俺が名前を変えたことには追求してこなかった。
察してくれたんだろう。ありがとうハーディン。まさかおまえにお礼を言う日が来るとは思わなった。まあ言ってはいないんだけど。
マルスはすでにガトーの啓示を受けていたらしく、俺が光と星のオーブを持っていたことに驚きはしなかった。
俺はただの運び屋かよ。ガトーも一言声を届けるとかなかったのかね。いや、やっぱいいや。俺は別にあいつのこと敬っているわけでもないし。
俺たちは独立遊軍という位置に収まることになった。たぶんハーディンが何か吹き込んだんじゃないかなーと思わなくもない。
「では部隊名は
と、副長が自信満々に告げる。その後ろを見れば、ロートは無言で視線を外し、グリューンはブンブンと首を横に振っている。
なるほど。
「素晴らしい。採用だ、副長」
「ありがとうございます。一晩かけて考えた甲斐がありました」
副長は嬉しそうにそう答えた。
とりあえず俺の目的はマケドニアのためということにしておいた。素性は隠したがマケドニア出身くらいは言ってもいいだろう。
実際、ミネルバを慕って同盟軍に参加したマケドニア人もそれなりにいる。
ゲームでもマケドニアは敵だが、ミネルバが味方していたため、戦後アカネイアからの接収を免れている。
まあ戦国時代じゃよくあることだよ。那須与一とか真田兄弟とかな。
話を戻そう。マルスと合流した俺たちは電撃作戦でアリティア城へと向かった。俺たちのゲリラ活動でグルニア騎士団はズタズタにされており、食糧不足や病気の蔓延などもあって士気がだだ下がりしていたのだ。
アランとサムソンもこれまでの鬱憤を晴らすかのように暴れまわっていた。そんなにイヤだったのかよゲリラ活動。
そんでマルスが大将首のホルなんとかさんを討ち取って、見事アリティアは解放された。
スターロード・マルスの誕生である。
◇
アリティアが解放され、国内は賑わいを取り戻した。
そして俺も同盟軍の兵たちと交流を深めている。
だが全員と仲良くしたいわけではない。中には深く関わりたくはない人間もいる。アカネイアの貴族とかな。
まあ今の俺はマケドニアの下級貴族ではなく、そこそこ腕の立つ平民の傭兵みたいな扱いなので、こちらから関わらない限り向こうから声をかけてくることはないだろう。
リーザ王妃にもことさらに英雄扱いするのはやめるように念押ししてあるし。
リーザ王妃は最初「恩人に対してそのような……」と渋っていた。だが俺の活躍が大きくなるとマルスの統治に問題が出ると言うと不承不承、了承してくれた。
だから俺はマルスがやらないようなクソ汚いゲリラ戦をやっていたのだ。好きでクソなんて投げてたわけじゃない。
同盟軍にいるアカネイア貴族の代表格は、五大侯爵家のミディアとかジョルジュなんだが、こいつらどうも信用できないんだよな。
同盟軍に加入してから気づいたんだが、
いや、だからって別に悪いやつらなわけじゃない。ただ二部に繋がるストーリーを考えると、ハーディンの助けにはならなさそうなんだよな。ミディアは頭が固いし、口が回るタイプじゃない。簡単に他の貴族に言い負かされそう。ジョルジュは政務より軍務よりだし。
結局アカネイアの貴族たちは国をどうしたかったんだろう。いまだに理解できねぇわ。自分の権益しか考えていなかったのか、ハーディンが力を持つことを気に入らなかったのか。
政治なんて足の引っ張り合いが日常茶飯事なのは普通のことだが、だったらアカネイア貴族の中からニーナの婿を選べばよかったんだ。なんでマルスとハーディンの二択なんだろ。
人は二択を突き付けられると、そのどちらかを選ばなければいけないという強迫観念が生まれる。だからニーナの思考が狭まったとはいえないが、ボアがそう誘導した可能性もある。となると引き金を引いたのはガーネフでも、拳銃を用意したのはボアと言えなくもない。まあそれは結果論にすぎるか。ボアにしてみれば最良の選択をしたつもりだったのだろうし。
やはりアカネイア貴族はクソだな。アカネイアは滅びた方が良いのかもしれない。ああ、二回滅びたのか。それで学習しねぇってのも凄いよな。
というかメディウスも詰めが甘いんだよ。最初はアルテミスを取り逃がしてるし、二度目はニーナを仕留めきれなかった。
それでアカネイア王家は命脈を保ったのだ。
うーん、メディウスくんさぁ。
「あっ、やっと見つけた! ねぇアルむぐぐぐっ!」
「
俺がそう自己紹介すると、マリアはコクコクと頷いた。それを確認して口を覆っていた左手を離す。
というかよく覚えてたな。マリアと会ったのは一度だけ、とある年の彼女の誕生祭だった。
王女の誕生祭に木っ端の貴族が呼ばれることなんてまずない。だから親父は小躍りして喜んでいた。俺もそれについていったのだが、それは田舎貴族を笑うために仕掛けられた上級貴族たちの罠だったのだ。
当時は俺が領地の発展に全力だったから、男爵領とは思えないくらいの発展を遂げていた。当然それは親父の評価になる。それが面白くなかったのだろう。
親父は貴族たちの刺々しい態度に、ようやく嵌められたことに気付いたらしい。そして矛先は俺にも向いた。最初は適当に相手をしていたのだが、敵意を隠さなくなってきたので俺の舌鋒も鋭くなり、徹底的に叩いてやった。
だが後から思えば、これは悪手だった。相手を論破したところで得られるのは一時の満足感だけだ。無能を装って相手を油断させた方が良かったのかもしれない。
認めたくないものだな。自分自身の、若さゆえの過ちというものを。
いけ好かない貴族をやり込めた俺は、マリアに挨拶してもう帰ろうと思った。贈り物自体は王宮に届けられているので、俺は挨拶するだけだ。
ポエム的な祝辞を述べて、赤いハンカチを使って即興で作った薔薇を贈った。
その一回だ。マリアも子供だったし、俺もただの若僧だった。
「ちゃんと約束、覚えててくれたのね」
「……もちろんですよ」
やべぇ、全然覚えてねぇ。何を約束したんだ俺。誕生日コメントでなんか言ったんだよな。だってそこしかないもの。
けど覚えてないなんて言ったら絶対に怒る。王族を怒らせて良いことなんか一つもない。ここは全力で誤魔化すしかねぇ!
「名を変え、素性を偽っても、我が心はマケドニアに、我が忠誠はマリア姫に」
王家と言うと後々面倒になりそうなので止めておく。あくまでマリア個人への忠誠ですよってことで。
膝をついてマリアの手を取り、手の甲に口付けする。
とそこで、草を踏む音が聞こえた。視線を向けると、そこにはレナがいた。そういえばレナはマケドニア貴族だもんな。マリアの女官を任されているのかもしれない。
というかなんでそんな呆けたような表情をしてるんだ?
「初めましてシスターレナ。ヴァンと申します」
レナとは正真正銘、初めましてだ。男爵の子と伯爵の令嬢が会う機会なんてないもの。あの誕生祭にもいなかったし。たぶんグルニアに行ってたんじゃないかな、知らんけど。
顔は知ってるよ。レナは同盟軍の中では割と有名だし、見かけたこともある。会話するのが初めてってだけで。
「レナは伯爵令嬢だから手を出したらダメよ!」
「重々承知しております。そのような身の程知らずではありません」
なんでいきなり釘を刺されたんだ?
というかジュリアンがいるだろ。え、いるよな。まだ見てないけど、もしかしてナバールに斬られたとか?
「分かればよろしい。レナにはジュリアンっていう恋人がいるんだから」
「ひ、姫様!? ジュリアンとはまだそんな関係ではありません!」
あ、いるんだ。この反応からしてまんざらでもなさそうだな。しかし盗賊と伯爵令嬢はかなりハードル高いと思うがねぇ。ゲームだと一緒になるまで二部終了時までかかったんだっけか。ジュリアンが遠慮したのか、レナの家が認めなかったのかは分からないけど。
まあレナの性格なら反対されたら家を飛び出しそうだけどな。そう考えるとジュリアンが告白できなかった可能性が高いな。
「かがんで!」
なんで怒ってるの? よく分からんが、仕方ないので俺は膝をついた。そして、マリアの唇が俺の頬に触れた。
「おまじない! 死んじゃダメだからね!」
そう言って、マリアは駆けて行った。レナはペコリとお辞儀して、マリアの後を追いかけて行った。
死なないお守りといえば女性の髪の毛だと思うんだが、マケドニアにはそんなおまじないがあったんだな。知らなかった。
「おーいレナ! おかしいなぁ、こっちに行くのが見えたんだが……あれ? おまえアルぶぁふぇっ!?」
急にマチスの顔が見えたので横っ面を引っ叩く。
「初めましてマチス殿。今の私は傭兵のヴァンです。それ以上でもそれ以下でもありません」
「はっ!? 何言ってんだ? おまえはアルばぁふぇっ!?」
察し悪いなこいつ。マリアは瞬時に察したのに。
「二度もぶった!? 親父にもぶたれたことないのにっ!?」
「殴られもせず一人前になった男なんていませんよ。というのはさておいて、マチス殿もこちらに来ていたのですね」
「ん、ああ。悩んだけどな。レナがこっちにいるんだから、俺が来てもいまさらだろ」
う~ん、そうかなぁ。兄妹揃ってってのはちょっとマズい気がしないでもないが。ゲームでも特に戦後、問題になってなかったはずだからいいのか。言及されてないだけで領地くらいは削られてるのかもしれんが、こいつそういうのも気にしなさそうだしなぁ。
「部下の方々もご一緒に?」
「まあ何人かは」
「では彼らにも言っておいてください。白騎士アルヴァはオレルアンの戦いで戦死したと」
「その噂はもう広まってるぞ。ハーディン殿も否定してないしな。でも部下たちは誰ひとり信じちゃいない」
「……なぜ?」
「だっておまえ、死にそうにないもの」
なんでやねん。
「あとおまえさ」
「なんでしょう?」
「髪切った?」
いまさらか!
「あの方が姫様の運命の人……なのですか?」
「そう! 私が困った時、何をおいても駆けつけるって言ってくれたの!」
「ですが姫様がディール要塞に軟禁されていた時には、助けに来てくれなかったようですが……」
「それは仕方ないわ。だって私が望んで行ったんだもの。ミシェイル兄さまもそう説明したはずよ。だから私の意志を尊重してくれたってことね」
「……なるほど」