FEマケドニアから始まる転生物語   作:乾燥海藻類

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第09話 グルニア制圧

黒騎士カミュを降したアカネイア同盟軍は、意気軒高にグルニア城を目指し南下を始めた。

特にアカネイア貴族の盛り上がりようは異様なほどだったらしい。もしカミュの遺体が残っていたら、ヤツらは嬉々としてその遺体を辱めただろう。まあニーナが止めるだろうけど。

 

つうかなんで俺はあんなに張り切ってカミュを討ちに行ったのだろうか。戦場のテンションって怖ぇわ。

オレルアンでハーディンとやり合ってた時は護るべき者(部下)がいたから、そっちにリソースを割いてたんで昂揚とかはあんまりなかったんだけどな。

 

「次はグルニア城を攻めるんだよね。大丈夫?」

 

マリアが不安気な顔で見つめてくる。

 

「はい。おそらくグルニアは降伏するでしょう」

 

俺がそう言うと、マリアは目をぱちくりさせた。

 

「どうして? 王様のお城だよ?」

「グルニアのルイ王は小心なお方です。ドルーアに与したのも、メディウスの圧力に屈したからです。グルニアはドルーアの隣ですからね。マケドニアもすでにドルーアと同盟していました。これを断れば、真っ先に滅ぼされると思ったのでしょう」

 

当時の事を思い出したのか、マリアの目が伏せられた。

膝の上で眠るチキの髪を撫でながら、続ける。

 

「またグルニアはその成り立ちから反アカネイア感情が強い。アカネイア貴族の横暴はマリア姫もご存知でしょう?」

 

マリアがコクコクと頷く。こんな少女にも察せられるくらいなのだ。

やっぱアカネイア貴族ってクソだな。

 

「でもそれなら、なんでカシミア大橋で停戦に応じなかったの? マルス様がお手紙書いてたんでしょ?」

「カミュ将軍がいましたからね。彼はグルニアにとって間違いなく英雄で、()の騎士の求心力は絶大でした。故にルイ王もグルニアの貴族たちも、停戦に踏み切れなかった。敗戦が続く中に残された唯一の希望。カミュ将軍なら、黒騎士カミュなら何とかしてくれる。国を救ってくれる。そう思っていたのでしょう」

 

正直あそこでカミュが出てくるとは思わなかった。本土決戦で出てくるものだと思い込んでいた。原作ではカミュはニーナの説得にも応じなかったが、その理由の一つとして、ユベロ王子とユミナ王女が人質に取られていることが挙げられている。

グラを制圧した後、マルスがカダインへ向かったのはガーネフの持つファルシオンを奪還することが目的だ。だからガーネフに逃げられたとあっては、カダインに長居する理由はない。一刻も早く祖国奪還(アリティア)に向かいたかっただろう。

そういう理由もあって幽閉されているユベロとユミナを見つけられなかった。

 

だから俺はさりげなくそれを告げた。マルスはハッとなってカダインに人を派遣した。だが間に合わなかった。俺が思い出すのが遅かったというのもある。けど俺だってキッチリカッチリ覚えているわけじゃない。俺はそこまでガチ勢じゃないんだ。全てのイベントや設定を把握していればもっと上手く立ち回れてたさ……たぶん。

 

でだ、カミュに二人を保護したことを伝える? 証拠もないのに? あの時点では保護するために手勢を向かわせただけで、保護をしたという報告は届いていなかったはずだ。

俺の報告も、カダインにグルニアの王子王女が幽閉されているという噂を耳にした、といった曖昧なものだ。断言するのもおかしな話だからな。それに、もしかしたらいない可能性だってあるのだ。だからマルスも半信半疑だったのかもしれない。

 

カミュ相手に時間を稼ぐ? 何人の犠牲が出ると思う? マルスがそれを許容するか?

そもそもマルスがグルニアに宛てた手紙に二人のことを記した可能性もある。その上で戦う決断をされたのなら是非もない。

いや、最初の睨み合いの時点ではおそらくカミュはいなかったはずだから、スターロンがカミュに報告しなかった可能性もあるな。あいつは戦いたがっていたし。

まあ今となっては分からん。興味本位でマルスに手紙の内容を訊くわけにもいかないしな。なんにせよ、カミュの参戦は急すぎた。

 

「……なんだか悲しいね」

 

そう、全てはすれ違いだ。ニーナとも、ルイ王とも。悲しい、哀しい物語なのだ。カミュの生き方は、美しすぎた。もっと我が儘に生きていれば、未来は変わったかもしれない。

民衆の期待に応えるために、カミュは完璧で究極の騎士という偶像を演じ続けなければならなかった。

 

――これでは道化だよ

 

もしかしたら、そんなことを思っていたのかもしれない。ニーナを救ったのも、無責任に"死"へと逃れようとした彼女に対して示した騎士道だったのだろう。

それにあれは、政治としては間違いなく悪手なのだが、民衆には意外と受けが良いんだ。敵国の姫一人を救うために、自分の功績を全て返上するなんてなかなか言えることじゃない。ロマンスだよロマンス。時代が変わろうと世界が変わろうと、民衆はロマンスが大好きなのだ。ロマンティックが止まらねぇ。

 

見ればレナも涙ぐんでいる。

そういえばレナはカミュの生き方に薫陶を受けたのだったか。

無事に保護できたユベロとユミナの説得もあって、俺の予想通りルイ王は戦わずして白旗を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

国主が同じ竜騎士という理由もあって、マケドニアは後発作品のトラキアと比べられたりもするが、トラキアほど詰んではいない。

旧領のドルーアも含めると、北方と東西に峻険な山がそびえるため、外敵の侵攻ルートが南側に限定される。それ故に防衛は容易い。

 

国土も山岳から土砂を運ぶ肥沃な平原があり、トラキアと違って生産性も非常に高い。軍事力も高く、アイオテの時代からはぐれ飛竜を管理下に置き、代々交配を繰り返して、遂には精強な竜騎士団を作り上げた。

あのガトーをもってして、いずれはアカネイアを凌ぐ大国になるかもしれない、と言わしめたくらいだ。まああの爺さんの評価は意外と当てにならないが。

 

元々マケドニアはアカネイアの支援を受けて興された国だ。アカネイアの思惑はグルニアに対するけん制、いざという時の盾だ。だからマケドニアがグルニアに対抗できる国力を持つことは、アカネイアも歓迎だったのだ。

しかし、マケドニアはアカネイアの予想を超えて力をつけ始めた。

 

理由は明白だ。マケドニアの国民は元奴隷が多い。国王のアイオテからして元奴隷だからな。奴隷というのは頑張っても報われない。そんな境遇が一転した。頑張れば頑張るほど豊かになるというのは、元奴隷からすればこの上ない幸福だろう。

 

要するに、頑張りすぎたのだ。それがアカネイアの警戒心を強めることになった。アカネイアの介入はどんどん増していった。

つまり、マケドニアもグルニアもグラも、アカネイアを裏切る理由は十分にあったわけだ。その絵図を描いたガーネフはさすがだと言わざるを得ない。

うーん、やっぱアカネイアってクソだわ。

 

メディウスにもう少し理性が残っていたらドルーアについていたかもしれない。

さて、マケドニアとの決戦が間近になり、俺もそろそろ覚悟を決めねばならない。

 

「マリア姫。今日はお願いがあって参りました」

「お願い? なになに?」

 

マリアは頼られたことが嬉しいのか、キラキラした瞳で俺を見つめてきた。

 

「飛竜を一頭拝借したいのです。お力添えをお願い致します」

「飛竜を? ならミネルバ姉さまの方がいいんじゃない?」

 

まあそうなんだけど。実際ミネルバを通した方が話は早い。けどあんまりあいつに借りを作りたくないのだ。

 

「私の主君はマリア姫ですので」

「主君? わたしが主君? そっかぁ、えへへっ」

 

マリアの嬉しそうな声が部屋に響く。続けて、彼女は疑問の表情を浮かべた。

 

「でも飛竜に乗ってどこに行くの? 危ないことはダメよ」

 

兵士に危ないことをするなというのもどうかと思うが、まあいい。

 

「御心配には及びません。少々実家を訪ねてみようかと」

「……実家……に?」

「はい。我が領地はマケドニアの南西にあります。規模としては小さいですが、ここを確保できれば安心して上陸が果たせます。父は分別のある男です。私が話をつければ、こちらについてくれるでしょう」

 

俺が一息に説明すると、マリアは何故か悲しそうな表情を浮かべた。

 

「……あなたのお(うち)はね……。もう……ないの」

「ない……とは?」

 

ちょっと何言ってるのか分からない。

 

「わたしもね、最近知ったの。ミネルバ姉さまに教えてもらって……あなたはとっくに知ってると思って……」

 

おずおずと、そして涙を浮かべながら、マリアは語りだした。

ハーディンのオレルアン城攻めが開始される少し前、親父が反乱を企てていると、ある侯爵が訴え出た。

マルスの蜂起に合わせることで信憑性を持たせたのだろう。

もちろん虚報だ。親父がそんな大それたことをするはずがない。そんな度胸がある男ではないのだ。

 

その侯爵の名前には覚えがあった。マリアの誕生祭で論破した貴族の一人だ。たぶん、親父を誕生祭に招待するように仕向けたのもこいつだろう。

そうか、あれが事の発端か。つまり、俺が両親を殺したようなものか。

 

マリオネスは知っていたか? ベンソンは知っていたのか? タイミングとしては微妙なところだが、知っていた上で俺をこき使っていたというのなら、随分と嫌われたものだ。

順序は逆か。俺が離反したから、親父が責められたのではなかった。

しかし、両親は処刑され、領地は王家の直轄領となった。

 

我が身を休めることのできた親の(ひさし)がなくなった……か。

ミシェイルを恨むのは筋違いか? だが侯爵を抑えることができなかったのはおまえの落ち度だ。

いや、侯爵は領地を王家の直轄領とすることでミシェイルを抱き込んだのかもしれない。急速に発展した男爵領の経済基盤をそのまま獲得できるのはミシェイルにとっても旨味がある。

 

「辛いよね。悲しいよね。わたしは、ずっと一緒にいるから……」

 

マリアの温もりを感じる。

ああ、そうか。

俺は今、泣いているのか。

 

 

 





ロレンス(の出番)は犠牲になったのだ……。
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