緑谷出久は無個性だ。この折寺中学校で無個性なのは緑谷と紫炎龍牙の2人だけだ。
しかし社会的地位が低い2人であるが学校内で評価は真逆だ。緑谷は卑屈になりがちな事もあり、しょっちゅう馬鹿にされている。
一方の龍牙は……
「やっぱ紫炎って強すぎだろ……」
「俺、個性を使っても勝てる気しねぇよ」
「紫炎先輩、かっこいい……!」
「本当に史上初無個性ヒーローが誕生するかもね」
体育館の上にある通路にてそんな声が聞こえてくる。体育館の床で龍牙がタオルで汗を拭いていて、その近くでは爆豪が床に這いつくばっている。
昼休み、朝の苛立ちから爆豪が龍牙に総合格闘技の勝負を挑んだ。
しかし爆豪の惨敗で終わった。龍牙は爆豪の拳や蹴りを全て受け流して、反撃の一撃は全て爆豪を悶えさせて、最終的に爆豪は顎に突きをくらってよろめきながら床に倒れて敗北した。
当然のような表情を浮かべながら汗を拭く龍牙には賞賛の声が聞こえてくる。中には嫉妬などの感情も見えるが、緑谷自身によく向けられる嘲りの色は無かった。
そんな光景を見て緑谷は惨めな気分になる。朝のHRを思い出したからだ。
雄英志望と知られてから爆豪や周りの皆から笑われた際には何とか反論しようとしたが……
「本当にヒーロー目指して努力してるなら、今ので倒れて涙目になってるんじゃねぇよ。お前の鞄を見る限り、オールマイトに憧れているみたいだが、オールマイトはヴィランを前にそんな無様な姿を見せねぇ」
「そんなのは趣味で努力じゃない。本気でオールマイトみたいなヒーローを目指すなら無個性と判断されてから直ぐに勉強と運動をするべきなんだよ」
「別にお前がどこを受験しようがお前の人生だから文句は言わない。が、俺の前で本気とかやってみないとわからないみたいな戯言を2度と口にするな。不愉快だ」
龍牙に否定された時には何も言おうと出来なかった。同じ無個性でありながら周りの評価を一切気にしないで、頭と身体を鍛え抜き運命に抗おうとする龍牙の言葉には重みがあった。あそこで否定したらますます惨めになるのがオチだ。
そんな風に考えていると予鈴が鳴るので皆が教室に戻ろうとするが……
「デクゥ!何見てんだ?!ぶっ殺すぞ!」
爆豪の叫び声が聞こえてくる。爆豪は龍牙に負けると機嫌がものすごく悪くなり、周りの人間に当たり散らすが、大抵の場合は緑谷に矛先が向けられる。
緑谷は爆豪の叫びを背にそそくさと体育館に後にするのだった。
「じゃあ進路調査票は来週の月曜日までに出せよー。紫炎は朝言った志望で良いんだな?」
「大丈夫です。宜しくお願いします」
帰りのHRにて先生の質問にそう返して帰りの支度をする。他の皆も同じように帰りの支度をする。
そして教室を出るが、直ぐにノートを忘れたことに気付き、教室に戻ると……
Bomb!
何か爆豪がノートを爆破していた。緑谷が震えてるあたり緑谷のノートか?
「何やってんだお前?俺に負けた八つ当たりを他人にするあたりみみっちいな」
「あぁ?!殺すぞカスが!」
「はぁ……あまり強い言葉を使うなよ……」
俺は即座に爆豪との距離を詰めて、反応する前に足払いをかけて倒して頸動脈を指で優しく撫でる。
「……っ!」
「俺がヒーロー志望で良かったな。ヴィランだったら今死んでたぞ」
「テメェ……普段から手ぇ抜いてやがったな……!」
「当たり前だ。本気出してお前に後遺症を残したら内心に響くかもしれないしな」
会得した技術の中にはナイフや古武術もあるが、簡単に人を殺せる技だ。そんな技を学生の喧嘩で使うなんて論外だ。
俺はそう言ってから爆豪から離れて、立ち上がろうとするとボロボロになったノートが足の上に落ちているのに気付く。
(将来の為のヒーロー分析……アホか。ヒーローを目指すならまずは己の分析からだろうが。しかもNo.13って……そんなもん書いてる暇があるなら筋トレの1つをした方がマシだ。消太さんが聞いたら非合理的だって蔑んだ目を緑谷を向けそうだな)
そんな事を考えながら俺は自身の机からノートを取り出して鞄にしまい、床に落ちてる緑谷のノートを緑谷に投げる。
「ほらよ」
「あ、ありがとう……それとちょっと良いかな?」
「15分後にバスがある。5分だけだ。で?何だよ」
「う、うん。紫炎君は普段どんなトレーニングを「聞いてどうするんだよ?お前もそのトレーニングをするのか?」う、うん。やれたれ僕だって……」
本当にコイツは現実を見れてないな。話していてイライラする。俺が今やっているトレーニングは10年間身体を虐めたから出来ているが、碌に鍛えてない緑谷がやっても途中でギブアップするのがオチだ。つか筋トレは兎も角、パルクールは素人がやったら事故るぞ?
……まあ良い。教えてやるか。
俺は鞄からトレーニングメニューの書かれた紙を渡す。
「その紙に書かれてる内容をこなせれば爆豪程度なら余裕で沈められるぞ」
紙を見た緑谷は読むにつれて暗い表情になるが、そこは知った事じゃない。
「……紫炎君はこれを毎日やってるの?」
「土日は倍やってる」
「これくらい、やらないと合格は無理なのかな……?」
「知らねぇよ。そもそもヒーロー科合格は通過点であって、ゴールは資格の習得だから努力のし過ぎに越したことはない」
やっても受かるとは限らないが、やらない人間は間違いなく落ちるだろう。才能のない無個性なら絶対だ。
仮に今の実力でも合格出来るとしても貯金は大切だからな。鍛錬を止めるつもりはない。
「そろそろ時間だ。俺はもう行くが、死んでもヒーローになるって気概がないなら目指すな。動機はどうであれ雄英に受かる人間は大抵強い個性を持っているが、そいつらと対等でいたいなら、気を強く持って努力を重ねる必要がある。お前から気概も努力も見えない」
爆豪はみみっちいから緑谷に雄英に行くなって思っているだろうが、緑谷がヒーローを目指しているのを気に食わないのは俺も同じだ。
緑谷からは「なりたい」って憧憬を感じても「絶対になる」って意思を感じれないし、挙句俺が10年近く身体を虐めた事で作ったトレーニングをやれば……みたいな事を考えているし。
爆豪とは別ベクトルで苛立つ存在だ。これ以上ここにいても苛立つだけだし、さっさと帰って鍛錬だ。
俺は項垂れる緑谷と身体を起こしながら睨んでくる爆豪を一瞥してそのまま教室を出る。
そして靴を履き替えて校門を出て、ジャストタイミングで来たバスに乗って家から最寄りのバス停で降りる。
夕日が見える中、自宅に入り自室に戻る。鞄をベッドに投げて、そのままジャージに着替えて修練場に入ると……
「あ、龍牙君おかえり〜、お邪魔してるよ」
俺の幼馴染にして雄英高校2年生の波動ねじれが修練場の隅でベンチプレスをしている。
「ただいま……って、80キロの壁を超えたな」
見れば80キロのウェイトを持っている。昨年度は75キロだった筈だが、伸びたな。
「まだまだだよ。私も早く龍牙君みたいに100キロオーバーを目指したいな〜……って、何か不機嫌そう。学校で嫌な事あった?」
流石幼馴染、考えている事は丸分かりのようだ。
「実は……」
俺は学校であった事を話す。
「そっか……まあ龍牙君の立場なら嫌な気分になるかもね。こういう時は庭の岩場でパルクール鬼ごっこしない?思い切り身体を動かせばスッキリするよ」
そんな風に提案してくる。折角俺を気遣ってくれるのだから好意を受け取ろう。
「わかった。ちょっと付き合ってくれ」
「オッケー。じゃあ私が勝ったら久しぶりに一緒にお風呂に入ろうね?」
「却下します」
俺が中学に上がる前はよく一緒に入っていたが、今のねじれって身体つきがエロくなっているので思春期の俺には恥ずかし過ぎる。
俺は膨れっ面を浮かべるねじれを尻目に広大な庭に足を運ぶのだった。
キャラ紹介
波動ねじれ
プロフィール
身長 161cm
体重 56kg
誕生日 10月6日
個性 波動
好きなもの 龍牙 百合の花 ジャスミンティー 鍛錬
嫌いなもの 龍牙を無個性と馬鹿にする人
特徴
龍牙の幼馴染で、無個性故に迫害されていた龍牙を救った龍牙の恩人
龍牙に倣って格闘術、パルクールなどを習得して、高い身体能力を持っている。個性抜きでも学年最強レベル。
雄英高校所属で現在は仮免取得目指して個性の精度の強化中。
龍牙の家にはよく泊まるが、最近龍牙が一緒に風呂に入ってくれなかったり、お休みのキスを唇同士でしなくなり額や頬にするようになった事を不満に思っている。