ノレアたち六人は、あてがわれたコンパートメントで一時休息を取っていた。キラは先の戦闘で疲れ果てたのか、上段で壁に背中をもたれかけて眠り込んでしまった。
それを見たカズィは、労わるような口調で言った。
「この状況で寝られちゃうってすごいよな」
「疲れてるのよ、キラホントに大変だったんだから」
「そっちも良く無事でしたね」
ミリアリアにノレアは、自分が別れた後の状況を尋ねた。
「ええ。結局避難が間に合わなくて、キラが助けてくれたの。本当、大変だったのよ」
「そうそう。キラ、あの機体のOSいじったんだってさ。いついじったんんだろうな」
「何が言いたいんだよ」
カズィのもったいぶった発言に、サイが焦れたように尋ねる。ノレアはカズィの発言の意図を悟って、目を細めてカズィを見つめた。カズィは少し気おされながら、自分の考えを続けて述べる。
「戦闘中に書き換えたってことだよ。……キラのことを悪く言う訳じゃないけど、キラみたいな遺伝子書き換えたコーディネイターはそういうのを大変だった、で済ませられるんだぜ。そんなのがわんさか居るザフトに、地球軍は勝てるのかよ……」
ノレアはカズィの発言を受けて少し考え込んだ後、四人を励ますように口を開いた。
「……地球軍が勝てるかどうかは兎も角、私たちは生き残りますよ。……そのために、私も戦いますから」
「おいノレア、それって……」
トールがノレアが言わんとしていることに気づいて声をかけた。……彼らの中には、まだ楽観的な観測があったのだろう。―もう安全だ、ザフトは攻めてこない、と。ノレアはその淡い希望を砕いてしまうことに申し訳なさを感じながら、現実を告げた。
「ザフトは必ずまた攻めてきます。キラの機体と私の機体、それにこの
「そ、そんな……」
ミリアリアは怯え、両手で口を塞ぐ。他三人の顔にも恐怖が浮かぶ。ノレアはそんな彼らを安心させようと、優しく言った。
「大丈夫、私が戦って守りますから。……申し訳ないけど、キラにも手伝ってもらいますよ」
発言の後半は、キラに向かって告げたものだ。キラはノレアの話を聞いていたのか、そっと瞼を開けてノレアと目線を合わせた。ノレアは梯子を上ってキラと同じ段に入ると、真正面から向き合った。
「……僕らが戦わなきゃダメってことだよね」
「ええ。キラが優しいのが分かっています。戦いに向かないってことも。……だけど、今はそんなことを言ってる場合じゃないんです。モビルスーツに乗って戦えるのは私たちだけです。私たちが戦わなければ、皆死ぬ。生き残るためには、戦うしかないんです。
「……僕は……」
苦悩するキラ。ノレアはそっとキラの右手を両手で包むと、何かを決意した表情でそっと告げた。
「分かっています。無理に敵の命を奪えとまでは言いません。援護だけでも構いません。手を汚すのは、私が引き受けます」
「ノレア……」
キラは目を見開いた。ノレアは微笑み、言葉を紡いでいく。
「私は今まで、多くの人の命を奪ってきました。誰かを傷つけるだけだったこの手で貴方たちを、友達を守れるなら私は喜んでモビルスーツで戦います」
キラははっとした表情を浮かべた後、何かに耐えるように両目を閉じた。脳裏に、先程戦場で遭遇したアスランの顔が浮かぶ。ザフトと戦うなら彼と戦わなければならない。だけど……
「……皆を死なせたくないって気持ちは僕も同じだ。戦うのは嫌だし、怖い……だけど、自分よりも下の友達だけに戦わせるのだけはもっと嫌だ!」
目を見開き、キラは決意をノレアに告げた。ノレアも目を見開いて驚いた後、微笑んだ。
「……分かりました。じゃあ、まずOSの書き換えからお願いできます?私の機体、OS初期のままで無理矢理戦ったので……」
「あのOSで良く戦えたね……」
「無我夢中で戦っただけなので。機体の性能に助けられました。もう二度とやりませんけど」
「……そっか、じゃあ出来る限りやってみるよ」
ノレアは手を放すと、梯子から床に降りた。キラもその後に続くと、四人に向き合う。サイたちは何か言いかけたが、二人の決意を悟って見送ることに決めた。……今の自分たちには、それくらいしかできないから。
「キラ、ノレア……がんばれよ」
「必ず帰ってきてね!」
「!分かりました!」
「ミリィたちはここで待ってて!」
二人は部屋から飛び出し、ハンガーに向かって走り始めた。
所変わってブリッジ。ムウ、ナタル、マリューはノレアたち六人への今後の対応を話し合っていた。ストライクをどうするか頭を悩ませた後、マリューが思い出したようにストライクダッシュの処遇についてムウに尋ねた。
「ストライクと言えば……二号機、ストライクダッシュはいかがされますか?あれはフラガ大尉用に開発されていたものなのですが」
「ん?……俺はゼロで手一杯かな。あの嬢ちゃんが良ければ、そのまま任せちまおう」
「よろしいのですか?」
表情を厳しくしたナタルの問いに、ムウは何か得心した表情で己の考えを告げる。
「ああ。今から完熟訓練しても間に合わんし……それに、あの嬢ちゃんは未完成のOSでジンを墜としてクルーゼのモビルスーツとやりあえる実力だ。何処で操縦技術を身に付けたのかは知らんが、上手く扱える奴に任せた方が得だろ」
キラとノレアがハンガーに向けて駆けていると、結論として二人に協力を依頼するしかないと判断して説得に向かっていたマリューと遭遇した。
「あなたたち、どうしてこんな所に?」
「ラミアス大尉、でしたよね?私たちをモビルスーツに乗せて下さい」
少なくとも一度は拒否されると思っていたマリューは、ノレアの発言に驚き、躊躇いがちに尋ねた。
「ノレアさん、キラ君は……それで良いの?」
「良いも悪いも……僕らに戦う以外の選択肢がないのは分かってますから……」
苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべながらそう返すキラ。ノレアは苦笑しつつも、続けて補足する。
「あくまで自分たちが生き延びるためですので……そこはお間違え無く。後、先程のようにキラを差別するようなことがあればそれ相応の対応を取りますから」
「……分かったわ。少なくとも幹部士官たちには徹底させます」
「ありがとうございます。じゃあ、行ってもいいですか?私の乗ってた機体のOSの調整してもらわなきゃいけないので」
ノレアがそう言い切るかどうかの時に、通路の通信機が鳴った。
『ラミアス大尉、ラミアス大尉。至急ブリッジへ』
「どうしたの?」
『モビルスーツが来るぞ。早く上がって指揮を取れ!君が艦長だ』
「私が?」
『先任大尉は俺だが、この艦のことは分からん!』
マリューは顔をしかめた後、仕方ないという形で応えた。
「……分かりました。では、アークエンジェル発進準備。総員第一戦闘配備。大尉のモビルアーマーは?」
『だめだ。出られん』
「では、フラガ大尉にはCICをお願いします」
マリューがそう言って通信を切ろうとした所に、ノレアが割り込んでムウに問いかけた。
「フラガ大尉、ノレア・デュノクです。ストライクダッシュ、大尉が乗るつもりはないんですか?託された時に貴方の機体だと言われたんですけど」
『俺にはまだ無理だ。それに、君が乗った方が良いって俺の勘が言ってる。……お前さんたちが頼りだ。頼んだぞ!』
「……了解!」
ムウの有無を言わせぬ口調に気押された後、ノレアは表情を引き締めて返事を返し、通信を切った。
「……あ、すみません。割り込んでしまって」
「……良いのよ。それより二人とも、聞いての通りよ。……頼めるかしら」
マリューの問いに、二人は顔を見合わせた後、頷き返した。そのまま二人はマリューと別れ、ハンガーまで走り抜けると慌ただしくなるメカニックたちの間を通り抜け、ストライクダッシュのコクピットに飛び込んだ。キラはキーボードを引き出すと、先程やった書き換えを参考にしつつ可能な限りナチュラル仕様にOSを書き換えていく。とはいえすぐに出撃しなければならない状況では完ぺきに仕上げるには時間が足りず、一応形にはなったが所々粗のある急増品のOSとなった。
「ごめんノレア、最低限形にはできたんだけど……」
「とりあえず今はこれで大丈夫です。修正はまた後で」
「ありがとう。じゃあ、また後で!」
キラはそう言ってストライクダッシュのコクピットを飛び出すと、一号機のコクピットに向かっていった。ノレアはコクピットのシートに座ると、体を固定して機体のシステムを起動し、動作チェックを行っていく。先程動かした時よりも格段に操作性は向上し、レスポンスも時々反応が遅れることはあれどほぼ良好だ。確かに100%とは言えないだろうが、それでもここを乗り切るには十分だ。
やがて発進準備が整い、キラの乗る一号機が出撃していく。装備しているのは三番コンテナ、ソードストライカーだ。続いてノレアの乗るストライクダッシュがカタパルトに移動し、発進シークエンスに移る。フェイズシフトをオンにし、ストライクダッシュが鮮やかに色づいた。
『二号機は一番コンテナだ!』
今回装備するのは最初に装備していたガンバレルストライカーではなく、エールストライカーだ。高機動戦闘用の装備で、大型スラスターとビームサーベル二本が追加されたシンプルなものだ。
(シンプルでいいね。まだこっちの機体に慣れてないからちょうどいい)
両腕にはそれぞれビームライフルとシールドが装備され、発進準備が整う。
「ノレア・デュノク。ストライクダッシュ、行きます!」
カタパルトから射出されると、視界にこちらに向かってくる敵モビルスーツが入る。三機のジンと、一機のストライクと同じようなガンダム。識別信号は、X303―イージス。
「奪った機体をもう投入してきたのか……」
アークエンジェルから発射された主砲を二手に分かれて回避し、大型ミサイルを装備したジン二機がこちらに、大型ライフル装備のジンとイージスがキラの乗る一号機に向かう。
「キラ、こっちは任せて!すぐ片付けて援護に行くから!」
『りょ、了解!』
二機のジンが両脚部に装備されたミサイルポッドからミサイルを発射し、弾幕となってこちらの機体に殺到してくる。
(こっちにはフェイズシフトがある。だったら……!)
ストライクダッシュはビームライフルを腰部後方のマウントラッチに装備すると、被弾覚悟でそのまま突っ込んだ。フェイズシフトを起動した装甲に次々ヒットし、爆発が起きるがエネルギーが減っただけで機体自体は無傷だ。スラスターを全開にし、その勢いのまま左脚部のビームサーベルを抜刀し、爆炎の中から姿を現したストライクダッシュはビームサーベルを振りぬいてジンを斜めに真っ二つにした。
ジンは爆散しようとしたが、死に際に発射された大型ミサイルが軸線上にあったコロニーのシャフトに直撃してしまう。
「しまった……!」
ノレアが己の失敗に動揺し、動きを止まった隙を突いてもう一機のジンがアークエンジェルに向かう。
「行かせない!」
ストライクダッシュはビームサーベルをマウントしてビームライフルを構えて追撃するが、軸線上にアークエンジェルとコロニーのシャフトが入ってしまい撃つことができない。
『二号機、射線上から退避しろ!主砲で沈める!』
「りょ、了解!」
アークエンジェルのフラガ大尉からの指示に従い、ストライクダッシュは一旦退避した。アークエンジェルはそれを確認して主砲を回頭させ、ジンに直撃させて上半身と下半身を真っ二つにしたが、また死に際に放った大型ミサイルが制御を離れて射出され、コロニーのシャフトに直撃した。
「あ……!」
これが最後の引き金となり、コロニーが崩壊していく。コロニーを構成していたパーツがバラバラになり、空いた亀裂からコロニー内の空気が吸い出されていく。
『……うわあああああああ!』
「!キラ!」
開きっぱなしにしていた通信回線からキラの声が聞こえ、一号機の方を向くとイージスと対峙していた一号機がコロニー外部の宇宙空間に吸い出されていく所だった。
ノレアはそれを追って救出すべくストライクダッシュを操縦し、宇宙に飛び出していった。
ヘリオポリスは崩壊し、ノレアたちはアークエンジェルに乗って逃避行を余儀なくされる。
だが、クルーゼ隊は逃がしてくれるはずもなく、ノレアはストライクダッシュで再び戦場に立つ。
次回、機動戦士ガンダムSEED~片翼の再生~
”相対する者”
再び敵を穿て、ガンバレルストライク!