艦内にあった空いている会議室を借りて、フラガ大尉と共に奪われたG4機と予想される敵艦隊の戦力データを閲覧するノレア。
「うーむ……味方だと頼もしいが、敵に回るとこりゃ厄介だな……」
フラガ大尉は今までジンと戦ってきた経験と、『G』の開発に関わっていた経験から、敵に回った四機の厄介さを感じ取っていた。だが、ノレアは―
(思ったより厄介じゃない。四機全ては兎も角、半分ならいける!)
アド・ステラのモビルスーツを駆り、対峙してきたノレアにとって奪われた四機の武装はかなり少なく、またバッテリー駆動のため稼働時間が短い機体相手ならばやりようはあると感じていた。
「そうですか……私は何とかなると思います。ストライク二機と大尉のメビウスゼロがあれば、数の不利はひっくり返せるはずです」
「……!言うねえ、嬢ちゃん」
「私が思っていたよりも、他四機の武装は少なくてオーソドックスなものでした。隙を突けば、行けます」
ノレアは自信を込めて、フラガ大尉に真っすぐ向き合って告げた。フラガ大尉は驚きで目を見開いた後、ノレアに向かってニヤリと笑った。
「なら、そっちは頼むぜ。俺のゼロの武装じゃ『G』に決定打を与えられないからな。嬢ちゃんと坊主に任せて……俺はナスカ級を狙う。足が速い艦の動きを止めれば追っ手を撒く時間は稼げる」
「了解です。こちらでそれまで責任を持って抑えます」
◇
ブリッジに作戦の具申に向かうフラガ大尉と別れ、ノレアはキラ達にあてがわれた居住空間の一室に向かった。ノレアが辿り着くと、フレイを含めた六人は何やら深刻そうな表情を浮かべて話し込んでいる様子だった。ひと段落した様子だったので、ノレアはキラに話しかけた。
「キラ、今大丈夫ですか?」
「……ノレア?」
「ミリアリアたちも、聞いて下さい」
「どうしたの?」
こちらを覗き込んでくる六人の顔を見ながら、ノレアはキラに現状を伝える。
「私たちは今、ザフト部隊の追撃を受けています。味方と合流するためには、一度交戦して追撃を振り切らなきゃいけないんです」
「……まだ、終わってないんだね」
それを聞いたキラの表情がさっと曇る。心優しいキラに戦わせるのは心苦しいが、今はそれで躊躇っている訳にはいかない。
「はい。もしまた戦うことになったら、フラガ大尉が母艦を叩くまでの間、私たち二人で奪われた四機を抑えます」
「四機、か……」
キラの表情が更に曇る。ノレアは先の戦闘時キラの方を見ている余裕が無かったが、X303と交戦している時通信回線がオープンになっていたのを降りる前に確認している。あの機体のパイロットと、何かあったらしい。……ノレアはそれについては終わったら追及しよう、と決めて話を続ける。
「半分だけでも、抑えて欲しいんです。私の方のモビルスーツの対処が終わったら直ぐに応援に行くので、それまで……」
、と続けようとした所で、今一つ呑み込めていない、という表情のフレイが割り込んできた。
「ちょ、ちょっとどういうこと?貴女とこの子がどうして……」
「……キラはコーディネイターだよ。ノレアはナチュラルだけど」
「えっ……」
ボソッと呟いたカズィの言葉に、フレイの表情が分かりやすく変わる。……フレイはどうやら、前の自分と同じように人種差別的な考え方の持ち主らしい。ノレアはため息を吐いてカズィをひと睨みした後、フレイに諭すように話しかけた。
「はあ……カズィは黙ってて下さい。……フレイさん、コーディネイターは化け物だって思っているんですか?」
「そ、そうだけど……」
「悪いことは言いません。その考えは捨ててください」
ノレアは一呼吸入れると、部屋に居るキラ以外の顔を見渡し、告げる。
「能力が高いから、自分よりも強いから、遺伝子を弄られているから。……それは、コーディネイターの”身体的特徴”に過ぎません。生まれだけで、人を化け物だと決めつけるのは悲しいことだと……私も最近知りました。……私も、貴女と同じような考え方を少し前までしていました。憎んですらいた。だけど……」
ノレアは目を閉じ、脳裏にある一人の面影を思い浮かべた。自分の本名すら知らず、それでいて生きようとあがき続けた人。自分を肯定してくれた人を。
「そうじゃないって、ある人が教えてくれたんです。知ろうとしなければ、分からないことがあるって。知れば、少しでもお互いを理解出来るんです。……フレイさん、今すぐに変われとは言いません。知ってみて下さい、キラのこと」
「……」
フレイは複雑そうな表情をして黙り込んだ。今まで自分が学んできたことと、余りにも異なるからだろう。他四人、特にカズィも複雑そうな表情をして考え込んでいる。ノレアはそれでいい、と静かに微笑んだ後、話を本題に戻した。
「さて、と。……キラ、私と一緒に戦ってくれますか?」
「……うん」
ノレアは振り向き、キラと向き直った。キラはノレアが話していたことを聞いて幾らか表情が和らいでおり、ノレアに頷き返した。二人は部屋を後にして、自分たちの乗る機体の所に向かう。残った五人は……。
◇
キラがノレアの機体のOSの調整をしていると、緊急のアラートが鳴り響いた。
『敵影補足!敵影補足!第一戦闘配備!軍籍にある者は、全員直ちに持ち場に着け!』
「もう来た……!」
「キラ、OSの調整は!?」
「大体終わった!残りは……」
「後で良いです、今はパイロットスーツに着替えないと……!」
二人は慌ててコクピットから飛び出し、パイロット用の更衣室に向かう。その道中、軍服姿のトールたち四人を連れたチャンドラーと出くわした。
「トール!?」
「ミリアリアたちも……」
「よ、キラ」
「ノレア、良かった、二人に会えて」
「その恰好、もしかして……」
ノレアの言葉に、四人は頷いた。
「僕たちも、艦の仕事を手伝おうと思って。人手不足なんだろ?」
「……ブリッジに入るなら、軍服着ろってさ」
「軍服は、ザフトの方がかっこいいよな~。階級章もねえから、なんか間抜け」
「生意気言うな!」
チャンドラーにどやされた後、四人は姿勢を正して二人に向き合った。その表情はひどく真剣で、四人の想いが伝わってくる。
「二人にばっか戦わせて、守ってもらってばっかじゃな」
「こういう状況なんだもの、私たちだってできることをやらなくちゃ」
「……ありがとうございます」
そこで時間だとばかりにチャンドラーに背中を押され、四人はブリッジに向かった。チャンドラーは言い忘れたとばかりに立ち止まり、振り向いて
「二人とも、これから出撃するなら……」
「大丈夫です。今着替えに向かってますから」
とキラに先回りされ、苦笑いした後、
「なら、気を付けて行けよ」
と言い残して四人の後を追って行った。それを見届けた後、二人は更衣室に向かう。更衣室に入り、クローゼットを開けてパイロットスーツを探す。キラは直ぐに合うサイズのパイロットスーツを見つけたが、ノレアは小柄なため中々見つからず、キラが着替えているのを他所に散々探し回った後ようやく小柄な人向けのパイロットスーツを探し当てた。キラのパイロットスーツは水色と白の明るいカラーリングだが、ノレアのは黒と白という暗いカラーリングのものだった。急いで着替え、ほっと息を吐いていると扉が開き、ヘルメットを左わきに抱えたフラガ大尉が入室してきた。
「二人とも、準備は万端だな?」
「は、はい!」
「何時でも」
「よし、じゃあ改めて作戦を説明するぞ。俺が隠密行動でナスカ級に取りつくまでの間、坊主と嬢ちゃんで敵機を抑えてもらう。嬢ちゃんは兎も角、坊主はまだ素人だ。自分が墜とされないよう、敵機を抑えるだけでいい。頼んだぜ」
三人はヘルメットを着用すると、それぞれの愛機のコクピットへと入った。フラガ機がまず発進し、まだ待機の二人が機体のシステムチェックを行っていると、キラとノレアの機体に通信が入る。
『はあい、二人とも』
『ミリアリア?』
『以後、私がモビルスーツ及びモビルアーマーの戦闘管制となります。以後、よろしくね』
そう言ってウインクしたミリアリアに、少し緊張がほぐれる。その後、
『よろしくお願いします、だよ』
と軽く注意されてはいたが。その後、カタパルトが開いてエールストライカーを装備したキラの一号機が発進し、続いて再びガンバレルストライカーを装備したノレアのストライクダッシュが発進する。
『続いて、ストライク・デュノク機、発進どうぞ!』
「了解、ストライクダッシュ、ノレア・デュノク。行きます!」
ノレアは操縦桿を握りしめ、カタパルトからの射出のGを感じ取りながら宇宙空間に飛び出す。ストライクダッシュはそのまま前進するのではなく機体を急旋回させて反転させ、後方から接近する三機の迎撃に向かう。
『二号機、やはりローラシア級からはXナンバーの三機が向かってきている。迎撃、頼むぞ!』
「了解、アークエンジェルはミサイルで援護射撃を!」
ストライクダッシュにビームライフルを構えさせるノレア。脂汗がにじみ、思わず操縦桿を強く握りしめた。
(相手は三機、狙うは……!)
ノレアが狙いを定めたのは―バスターだ。デュエルとブリッツはシールドがあり、仕留める難易度は決して低くはない。だが、バスターは両腕で保持するロングライフルが主武装でシールドを持たず、火力のある機体を残せば厄介になるためこの機体をターゲットに選んだのだ。
アークエンジェルから次々ミサイルが発射され、それを迎撃した隙を狙ってビームライフルを一射した。だがバスターに慌てて回避され、ブリッツが援護射撃でストライクダッシュを狙ってきたため回避行動を取る。
(もう一機は……!)
ノレアは割り込んできたブリッツと撃ちあいを演じながら、デュエルに注意を向ける。―だがデュエルはアークエンジェルからの砲撃を回避すると、キラの一号機の方に向かってしまった。
「そっちはまずい、イージスも居るのに……!やばっ!」
焦るノレア。だが意識が一瞬逸れてしまい、バスターからのビーム射撃に気づくのが遅れて慌てて回避行動を取る。その先にミラージュコロイドで姿を隠していたブリッツが姿を現し、振りかぶってきたビームサーベルをシールドで防御する。勢いに押された後シールドで振り払い、ビームライフルで反撃に転じた。
二機を相手に攻防を繰り広げていると、敵ナスカ級から爆炎が上がり、損傷を負った艦の向きが傾く。
「フラガ大尉!」
『やったぜ、嬢ちゃん!そっちに援護に向かう!』
「こっちはいいんで、キラの方に行って下さい!私も直ぐ!」
『了解!』
通信を切った後直ぐ、特装砲発射の警告がアークエンジェルから届く。それを聞いて、ノレアは―
(決着を付けるなら、今……!)
ここでけりをつけるべきだと判断した。バスターとブリッツの動きも浮足立っている。隙を突くなら―今だ。
ノレアは初めて、ガンバレルストライカーの機能を使うことを決断した。自分に素質があるかはわからないが―
「やってみせる!―パーメット、スコア!」
次の瞬間、GUND-ARMに乗っていた時と同じように頬が赤く発光し、ガンバレルストライカーのガンバレルが起動してブリッツを狙う。ブリッツが不規則な軌道のガンバレルに翻弄されている間に、ノレアはバスターに狙いを定めた。ビームライフルを連射し、バスターに回避行動を取らせた後、今まで敢えて使わなかったレールガンを取り外し、バスターの右ライフルを狙い撃った。回避したばかりで避けられなかったバスターの右ライフルに直撃し、右手首ごと吹き飛ぶ。バスターの体勢が崩れ、それに気づいたブリッツがガンバレルの包囲網から無理矢理抜け出して左腕のアンカーを発射してきた。
「やらせるか!」
ストライクダッシュはシールドを投げつけてアンカーにぶつけると、レールガンをバスターの脚部に直撃させて衝撃で動きを止め、今度はビームライフルでバスターの残っているライフルを破壊した。それと同時に残っていた左手首も吹き飛び、バスターは両肩のミサイルを乱射してストライクダッシュの接近を防ごうとした。
「流石にそれは勘弁ですね!」
ノレアはブリッツを狙っていたガンバレルを引き戻すと全火力でこれを迎撃し、その爆炎に紛れてストライクダッシュを反転させ、キラの援護に全力で向かった。
ブリッツはストライクダッシュを撃つことはなく、損傷を負ったバスターをローラシア級に送り出し、それを見届けた後再び戦場に向かった。
発射されていた特装砲でナスカ級は損傷し、宙域を離脱する構えを見せていた。
(後はキラだけか……!)
だが、レーダー上ではキラの方の二機が離脱し、キラの一号機も一緒に移動していた。と、いうことは……
(鹵獲された……!)
ノレアは歯噛みし、操縦桿をきつく握りしめた。脳内に、相棒の死にざまが蘇る。
「同じことを繰り返させてたまるか……!」
スラスターを全開にし、敵機を追撃していると、そこにフラガ大尉のゼロが合流した。
「大尉!」
『すまん、遅れた!挟み撃ちにして坊主を救い出すぞ!』
「はい!」
そのまま二手に分かれ、ストライクを鹵獲しているイージスにガンバレルで射撃したゼロに続き、ビームライフルを発射し、イージスはたまらず変形して一号機を放す。そのままイージスを狙いながら、ノレアは一号機に通信を入れた。
「キラ!」
『無事か、坊主!』
『大尉、ノレアも!』
『アークエンジェルからランチャーが射出される!装備を換装して来い!まだでかいのが後ろに居るんだぞ!』
『……了解!』
アークエンジェル方面に離脱していく一号機を援護すべく、ゼロとストライクダッシュはそれぞれイージスとデュエルを狙う。
「ブリッツ!?戻ってきたのか……!」
そこに戻ってきたブリッツも加わり、ストライクダッシュがそれを迎撃、アークエンジェルからの援護射撃も加わって三機を抑え込むが、デュエルが強引に抜け出して一号機を狙う。
「させない!大尉、こっちは任せます!」
『おい、嬢ちゃん!?』
ノレアはフラガ大尉にそう言い残すと、ビームサーベルを抜刀してきたブリッツの攻撃を躱し、返す刀で蹴り飛ばして一号機の方へ向かう。
「間に合え……!」
ストライクダッシュはデュエルに強引に追いすがるが、次の瞬間、ランチャーへの換装を終えようとしていた一号機にグレネードを発射した。
「あ……!」
爆炎に包まれる一号機。―だが次の瞬間、爆炎を払うように極太の赤いビームが発射され、デュエルの右腕が消し飛ぶ。煙の中から色が戻った一号機が飛び出し、次々アグニを発射してデュエルを狙う。
「そこっ!」
ノレアはその隙を見逃さなかった。ストライクダッシュの空いた左腕でビームサーベルを抜刀すると、アグニの砲撃をかいくぐってすれ違いざまにデュエルの両脚部を切り飛ばした。動けなくなったデュエルをブリッツが間一髪回収し、そのまま撤退していく。
「良かった……」
ほっと息を吐いた後、撃ち続ける一号機の左肩に手を置いてキラに優しく声をかけた。
「キラ、キラ!もう大丈夫です。終わりました」
『あ……』
ノレアに話しかけられて我に返ったのか、キラはゆっくりと操縦桿のトリガーから手を離した。そして、同時に赤くなっていたノレアの両頬も元に戻った。
―クルーゼ隊との戦闘は、一旦終結した。
敵は去った。だが、問題は一つではない。
アークエンジェルの補給問題を解決すべく、一行はユニウスセブンに向かう。
次回、機動戦士ガンダムSEED~片翼の再生~
”戦争の残火”
―その先に、何を見るのか。
遅くなり申し訳ございません。今後も不定期になりますが、よろしくお願いします。
ノレアが何故ガンバレルを使えたのかですが、彼女はGUND-ARMに乗った時にガンヴォルヴァを使っており、それにより空間認識能力を拡張され、それによりガンバレルを使えるようになった、という設定となっております。