「裏……だと?」
カートの言葉に頷いた。
「そもそもの話なんだけど……魔人ってこんなに簡単に現れるのかな?」
クラスが静まると、一番最初に再起動したのはアルフレッド先生だった。
「……!確かにおかしいぞ。かつて現れた魔人は長年鍛錬を積んた高位の魔道士だった。その魔道士が超高難易度の魔法の行使に失敗したことで魔人化したとされている」
まぁ私は……実際に魔人を見た今ではその説には少し懐疑的だけどね。
多分、真実はもっとドロドロしてて悲しいものだ。
ここで、アルフレッド先生の説明をトールが引き継いだ。曰く、学院に入学したばかりの新入生。もし魔力が暴走してしまっても、魔人になる事など有り得ない、と。
「そうなんだよね。ただの魔力暴走で魔人化するなら今頃魔人なんか珍しくない」
「確かに、魔法の暴発ぐらいなら見た事ある。……なんなら私もした事ある」
「え、えぇ……リン、気をつけなよ……?今のリンの魔力量で暴発なんかしたら大惨事になりかねないから」
「うん、分かった。これからは気をつける」
「だが、では何故今回魔人化したのか……だな」
「そう、そこだよオーグ。ただ、まぁ……」
「もう犯人の目星はついたという事か?」
流石第一王子、察しが良くて助かる。
「犯人……?まさか、ウォルフォード。人が魔人を作ったというのか!?」
「恐らく、ですけどね。先程、カートの肉体に解析魔法を走らせましたが、魔力そのものに干渉した形跡がありました。やったのは高位の魔道士でしょう」
高位の魔道士、とは言ったものの……絶対に
考えを巡らせていると、教室の外の魔力障壁がノックされた。学院の教員が来た事を確認して、急いで障壁と防音魔法を解く。
今はアルフレッド先生が応対してくれている。
「今日の予定だが……全て中止で即時帰宅になった。皆ゆっくり休んでくれ」
そうして私とシシリー、マリアとオーグと護衛のトールとユリウスの6人で喧騒冷めやらぬ街中を通って爺さんと婆さんの待つ英雄宅に向かった。
残りは爺さんと婆さんを交えてしようということになったのだ。
そしてそこには、ディセウム陛下もいた。
まぁ、予想はしてたけど。
国王として、魔人に打ち勝った“英雄”にアドバイザーをして欲しかったんだろうね。
「最初に……おい、例の通知を」
「シーナ=ウォルフォード殿!貴殿は魔人の出現という国難に際し自らの危険を顧みずこれを討伐するに至りました!つきましてはアールスハイド王国より感謝の意を表し“勲一等”の勲章を授与することとなりました!」
へぇ……
「ディセウム。わしらは取り決めていたはずじゃ。シーナを政治利用する事はせん、と。……なのにこの扱いはなんじゃ?」
「アタシも聞きたいねぇ……どういうことだい?」
賢者と導師、二人の英雄から放たれる圧に後ろの皆や、通知を伝えに来ただけの武官がたじろいでいる。
それを見て、私は爺さんと婆さんの肩を叩いた。
「大丈夫だよ。あとは私がやるから。疲れるでしょ?」
「シーナ、わしはまだ行けるぞ」
「年寄り扱いするんじゃないよ」
「いいからいいから」
ごねた二人に無理矢理離れてもらった。
二人は私が見ている飾り柱を見て察してくれたのか、Sクラスの皆を後ろに下げてくれたみたいだ。
瞬間、轟音が響いた。
軽く拳の横っ面でぶっ叩いただけなのに飾り柱が折れてしまった。
「シーナ君……」
私は音が止んでから口を開いた。
「はっきり言ってしまうと、勲章なんぞクソ喰らえです。でも、あの場で無理矢理隠蔽してもらう選択肢を潰したのは私です。自分のした選択に最後まで責任は持ちます」
「それは……」
「分かってますよ。王国にとって“魔人出現”がどれだけの一大事か、なんて事は。国の安定のために、賢者、導師と同じ功績を成した者に同じ勲章を与えなければ格好がつかない。という事も」
「ありがとう。」
「……為政者としての正しい判断をありがとうございます。ここで謝られてたら貴方をぶん殴ってましたよ」
自分の決断で割を食う人間に謝罪するのは優しさにはならないからね。その判断で成果が出る事が最も重要な事だから。
「そして、私は譲歩しました。相応の対価が欲しいですね」
「何が望みだい?」
「2つ望みます。1つ、私の政治利用をしない、と授与式で宣言して頂きます。2つ、これからも我が祖父母との変わらぬ付き合いを、お願いします」
「君は……」
「これが破られた際には、私はこの国と関わりを断ち、寄り付く事もしないでしょう。恐らく、祖父母も同様に。如何しますか?」
交渉は勢いだよ。兄貴。
「わかった。その条件を受け入れよう」
「ありがとうございます。……さて、ようやく本題に入れる。ディセウム陛下。お耳に入れたい事が……」
私は教室で皆にしたのと同じ説明を陛下にもした。
「人為的な魔人化……!それは確かなのかい!?」
「まだ推測の段階です。ただ、第三者の介入がなければ、カート=フォン=リッツバーグの魔人化が起き得なかった事は間違いありません」
「分かった。注意深く捜査するよう私からも指示を出す」
「ただ、問題なのは……今回の黒幕はカートを使った実験で魔人化のノウハウをかなり洗練させたと見て間違いないでしょう」
「それは……!」
ディセウム陛下は私の言葉から導かれる最悪の可能性に、顔を青ざめていた。
「ここで捕縛、或いはその研究成果を抹消しなければ歴史上初めての大乱となる可能性もあります」
「……シーナ君、アウグスト、シシリー、マリア、トール、ユリウス。君たちに命令する。この一件には箝口令を敷く。決してこの事は口外してはならない。……分かったね?」
「すみません。既にSクラスの教室でこの推論を話してしまっています。聞いていたのは教員のアルフレッド先生とこの場に居ないSクラスの面々だけですが……」
「ならばそれはこちらで対処しよう」
話はトントン拍子に進んでいく。
ただ私は、もう自分が賢者の孫ではなく“英雄”と見られる事に辟易とした感情を隠せずにいた。
話は終わり、私は皆を門まで送っていく事になった。
勿論シシリーの家には護衛として最後までついて行くし、途中まではマリアと一緒だ。
「リッツバーグ事務次官は……やはり辞職する事になるのかな」
「恐らく、そうだろうな。内容だけみればカートの暴走だが……」
保護監督責任を果たせなかった上に子息が魔人化した。恐らく責任は取らされる。
私から何かをする事ができないのが、もどかしい。
彼は今回の一件で自分にできる精一杯の対応をしていただけだ。それを黒幕に利用された。どうにか助けたいけど、今の私がリッツバーグ家に関われば、魔人が誰だったのかに気づく者も出てくるかもしれない。
それだけは一番避けなきゃいけない。
「ままならないなぁ……」
「シーナ……?」
暴力しかない私では、善人すら助けられない。
いっその事、全てのしがらみを壊してしまえたら、なんて考えてしまう程に。
シシリーの心配そうな声は、聞こえないフリをした。
こんにちは、こんばんは。檜山俊英です。
カート魔人化騒動後編でした。
次の話からは色々設定も明かしていけたら、と思っています。“眼”についてだとか、色々。
よろしければ高評価、感想よろしくお願いします。