お久しぶりです
「あれが新しい英雄様……」
「隣にいらっしゃるのはアウグスト殿下かしら」
「……やっぱりこうなるかぁ」
今の私は周囲の声に少し頭痛を感じるぐらいに疲れていた。
通学を始めた瞬間からこんな感じだったのだから、正直もう聞き飽きた。
男性からは視姦される事もあって精神衛生上、大変よろしくない。
しかも、一部の女性から刺さる嫉妬も痛い。
口では私を賞賛しているのに、目線で刺してくる人もいるというのが笑えない話だ。
「大丈夫か?シーナ」
「これが大丈夫に見える……?ぶっ飛ばすよ」
「シーナ、私たちもついてますから……」
「そうよ、ちゃんと私たちを頼りなさい!」
「ありがとう二人とも……」
途中からオーグと護衛のトール、ユリウスに男避けとして居てもらっているけど、早く学院に入りたい。
シシリーとマリアと話して活力を補給しながら私は登校した。
「おはよう皆んな」
「おはよう。シーナ」
「アリスもおはよう。皆も元気そうで良かった」
「シーナ。街の様子を見てきたけど、皆浮かれてたね」
「無理ないよ。
「っ……!そ、そうだね」
しくったな……疲れが溜まってたのか毒吐いてしまった……
「ごめん、空気悪くしちゃったね。何か楽しい話を……」
「皆、席に着け。ホームルームの時間だ」
話題を変えるところでちょうどアルフレッド先生が来た。私たちは指示に従って席に着いていく。
「昨日の件で学院中が浮ついている。ウォルフォード、1人で居るなよ。囲まれるぞ」
「了解です」
「シーナ、よく知りもしない相手に囲まれてみろ、面倒臭いぞ」
「ハハハ……オーグ。実感篭ってるね」
「安心しろ。叙勲を受ければもっと騒ぎが大きくなるからな」
「全く安心出来ないね。それは……」
面倒事が続く気配に私はため息をついた。
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「ウォルフォードさん!ぜひ、ぜひとも我が“攻撃魔法研究会”に!」
「何言ってんのよ!彼女はメリダ様から直々に付与魔法の指導を受けているのよ!彼女には“生活向上研究会”が相応しいわ!」
研究会の説明会が終わった瞬間、各団体の代表が一斉にこちらに詰め寄って来たので今走って逃げているところだ。
誰がこの歳になってこんな酷い鬼ごっこをしたいと思うか。泣きたい……
「アルフレッド先生……すみません……」
教室に逃げ込んだものの、前扉から人の顔が大量に覗いている異様な光景があった。集合体恐怖症だったら発狂してるね。これは。
一応代表たちは撒いてきたんだけど……
「今度は我々“究極魔法研究会”に入りたいという1年生が殺到してるでござるな」
ユリウス、辛い現実を解説してくれてありがとう。
「全員入れる訳にもいかんしな……」
「それでしたら先生、面接をお願いします。最低基準は“異空間収納”の魔法を使える事、として下さい」
異空間収納はその名の通り物体を入れておける別空間を保持する魔法だ。魔法に対する理解、イメージの強度、魔力操作の精度が一定以上でなければ安定した発動もままならない魔法。
これを条件にすればかなり候補を絞れると思った故の提案。
「何人まで採用するんだ?」
「そこは先生の裁量にお任せしますが……5人を越えると私の許容範囲を超過するかもしれません」
「分かった。……全員別室に移動だ!そして採用が決定するまでにこの教室に入ろうとした者は面接すらせんぞ!いいな!?」
アルフレッド先生の声が最後部まで届いたようで、全員が移動し始めた。改めて凄い人数だな……
「すごいさわぎだった……」
「語彙が消失してるぞ。シーナ。ただまぁ……この件が落ち着けば叙勲までは問題あるまい。明日からは通常の授業になるしな。後はお前が気をつけるだけだが……言うまでもないか」
「よく分かってるじゃん」
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「すまないな、お前達」
「いえ、陛下のお呼びとあらば直ぐに駆けつけます」
ここは国王私の執務室。執務室を挟んでこちらを見ている二人……デニスは国の警備局長。ドミニクは近衛騎士団の団長を務める私の信頼する側近だ。
「カート=フォン=リッツバーグの魔人化騒動で当事者のシーナ君に話を聞くことができた。曰く……今回の魔人化。人為的なものである可能性が高い。とな」
「魔人の人為的な発生……!」
デニスもドミニクも、最初はただ驚いているようだったが、直ぐに気を取り直してくれた。
「魔物、更には魔人の人為的発生……これは、とんでもない事になるやもしれませんな」
「あぁ、シーナ君も同じことを危惧しておった。魔人化の技術、それをみだりに振るえば“歴史上初めての大乱”になるとな……だが、そうはさせん。
ドミニク!デニス!軍務局と警備局は連携しこの一件にあたれ。何一つ見落とすな!」
ドミニクとデニスが私の執務室から退出していく。
歯痒いが、指示を出した以上私は待つしかない。私が選び認めた者達が、その者達が認めた者達が、良い結果を運んでくれる事を……
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あの研究会騒動から1日、我々『究極魔法研究会』は割り当てられた会室で雑談をしていた。
「さて、何しようか」
「先ずは方針の決定だろう。この研究会は何を目指しどうするのか決めねばならん」
私の呟きにオーグが答える。
まぁ、そこだよね……
「そこらへん、命名者のリンはどう思ってるの?」
「ノリで言った。後悔はしてない……ただ、シーナなら色々な魔法を極めそう。私もそれに協力したいし、極めたい」
「なるほどねぇ……」
私は、少し考えてから口を開いた。
「じゃあ、こうしよっか。私が課題の魔法を出すから皆んながそれを解析する実習と、魔法の技能向上を目指す練習の二段構えで行こう」
「いいんじゃないか?」
オーグを始め、皆んなの反応も上々。ならこの形式でいいかな。
「よし。じゃあ最初は……」
「失礼します!」
お……?
前扉の方から聞こえた言葉に振り向くと、男女が1人づつ居た。
後ろにはアルフレッド先生もいる。
という事は……この2人がAクラスからの加入メンバーかな。
「ようこそ、『究極魔法研究会』へ。……メンバーも揃ったみたいだし、改めて自己紹介でもしておこうかな」
一息ついた。
「『究極魔法研究会』会長のシーナ=ウォルフォードです。よろしくね。この研究会では講師役もやらせてもらうつもりだから、気になる事は遠慮せずに聞いてくれていいよ。
……んじゃ、加入組の2人も自己紹介をお願い」
「自分はマーク=ビーンです!家は鍛冶屋をやってます!『ビーン工房』ってご存知ないですか?」
ビーン工房とは王国に名の知れた鍛冶工房。私は剣は苦手でステゴロになりがちだから関わりは薄いけど、いつか行ってみたいと思っていた。
騎士家系のトニーも絶賛する通り優れた鍛冶師達の揃う工房だ。
「えと……オリビア=ストーンです。マークとは……幼なじみです。家は『石窯亭』という料理屋を営んでいて……家の手伝いのために魔法を覚えました」
それでAクラスまで行ったのか……凄い逸材だ。
アリスが補足してくれたけど、『石窯亭』は王都の有名店らしい。アリスはそこで学院の合格祝いをしたとか。
「やったねシーナ!これは凄い人材だよ!」
「やめんさい」
一頻り談笑して顔合わせを済ませたら、遂に課題を発表する時間だ。
「究極魔法研究会最初の課題は……“異空間収納”だね」
「……あれ?異空間収納はここにいる皆んなが使えるよ。シーナ」
「確かにそうなんだけど……シシリー、ちょっとごめんね」
確かに皆んなは現時点でも優れた魔法使いだ。マリアとオーグなんて特に。でも、こういう“搦手”を知らないんじゃないかな。
異空間収納を開いて、混線させる。
私が取り出したのは……
「え?シーナから貰ったブローチ!?私の異空間収納にあるはずじゃ……!」
「そう。これは確かにシシリーに渡したブローチで、シシリーの異空間収納の中にあった。でも、こうやって私が取り出す事が出来た。皆んなはどうしてだと思う?考える時間は……15分くらいにするよ。はい、考えてみて」
見ていると皆んなが頭を抱えているのが分かる。ただ、魔法を極めると言うならこれは一歩目ぐらいになる。そう思ってこの課題を出すことにした。ただ、少し飛ばし過ぎたかもしれないな……
そう思っていると、6分経過した辺りでリンとマリアがほぼ同時に顔を上げた。
ここは僅かに速かったリンに回答権を回してみる。
「自分で考えてもあまり実感が湧かない。だけどこれしか考えられない……異空間収納同士を繋げたんだと思う」
「リン正解。これ大事なことだから覚えておいてね、空間に干渉する魔法は混線する事があるんだ」
「混……線?」
「言い換えると、魔法によって生み出された空間同士は、意図せず繋がる事があるんだ、今回のは意図的にそれを引き起こした感じになるね」
「そんなこと、初めて知ったわぁ……」
ユーリの言葉に私は頷く
「そもそも、空間に干渉する魔法自体少ないからね。私も気づいたのは8歳の頃になるかな」
「え、8歳……?」
「あの頃は空間干渉の魔法ばっかり研究しててさ、その副産物だね」
ふと懐かしくなった。魔法に邁進すれば望みが叶うと思ったあの頃が。
結果は散々だったけどね。
まぁ折り合いつけて諦めて、今に至る訳だ。
「シーナ……?」
「あぁ、ごめんね。ちょっと考え事をしてた。
じゃあ、空間干渉の魔法に対する理解度を上げてもらうために、皆んなにはこの魔法を覚えてもらおうと思います」
そう言って、私は天井に掌を向けて指を握りこんだ。
瞬間、天井付近で爆発。
「今のは……?爆発したのは分かったんだけど……無色の爆発魔法?」
「ちょっと違うかな、空間歪曲魔法だよ」
「空間歪曲……!?」
まぁ皆んな戸惑うよね。言ってること結構ヤバイし。
「魔力で空間を捩ると、空間が正常な位置に戻ろうとするんだ。その勢いで空気が押しのけられて、それが爆発したみたいに見えるんだよ。だから厳密には魔法は空間を捩るところまでだね」
皆んな呆気に取られているみたいだ。いきなり過ぎて着いて行けないのかもしれない。
「はいはい、皆んな戻ってきて。実は、この魔法は3つの要素の訓練になるんだ」
指を立てていく。
「1つ、魔力制御。これは全ての魔法の根幹だからね。訓練をし続けて欲しい」
「2つ、イメージ強度。魔法を扱うなら曖昧な魔法をしっかりと理解して確固たるイメージの形を持たせる事が出来る者ほど有利になる。魔道具を作ったりするにしてもね」
「3つ、空間把握。今までは視線とかに頼って魔法を操ってたと思うんだけど、魔力で空間を読み取って魔法を使うと、弾道制御とかが格段に成長するから是非頑張って欲しい。
……こんなところかな」
「これが……」
マリアを始め、皆んなが絶句している。私は皆んなに向けて微笑んで見せた。
「改めてようこそ、『究極魔法研究会』へ」
こんにちは、こんばんは、檜山俊英です。
10話の投稿以降、更新が滞ってしまいすみませんでした。実はデータが吹っ飛び、復旧する間に受験が迫ってしまったためこの時期まで更新ができませんでした。
後期で滑り込めたので、更新を再開していこうと思います。
さて今回は究極魔法研究会の発足でした。
次回からは本格的に話を動かしてシーナと黒幕を正面衝突させたいな……と思っております。
よろしければ、評価、感想よろしくお願いします。