〖注意〗今回シーナは殆ど登場しません。
貴族街。大きな家が立ち並び、人通りは少ない閑静な街並み。その一角に、リッツバーグ伯爵邸はあった。
その建物の中で、リッツバーグ伯爵への事情聴取が始まった。
「ご子息のこと、心中お悔やみ申し上げます。……失礼ですが、奥様は?」
警備局の捜査官、オルト=リッカーマンは、慎重に一言目を発した。
「心労から寝込んでいる。私も寝込めるものなら寝込みたいが、そうもいくまい……始めてくれ」
「では……失礼を承知でお尋ね致しますが、ご子息は昔から横柄な性格だったのですか?」
「バカを言うな……!多少気位は高かったかもしれないが、“民は守るもの”という意識を持っていたはずだ!あんな態度……先日が初めてだった……!」
カート=フォン=リッツバーグを調べる中で浮かび上がってきたのは、中等部と高等部での印象の大きな変化だった。
中等部は
“気位は高いが民の事を思う貴族”
高等部は
“横柄な態度を取る愚か者”
考え方が数年で変化し過ぎだ。
警備局の誰もが違和感を抱いたことだった。
民からの搾取を何とも思わない態度、そこから、オルトはある存在を連想した。
「帝国貴族……」
「なに?」
「いえ、失礼。私がご子息の雰囲気に受けた印象です」
ブルースフィア帝国の貴族は、民に情報を与えず、搾取し、貴族でない者は人間ですらないとまで言う者達の集まり。
先日までのカート=フォン=リッツバーグには、それに近い言動が何度か見られていた。
「ご子息が、帝国の者と接触したことは?」
リッツバーグ伯爵は少し考える様子を見せた。
「そういえば、カートの通っていた中等部の魔法の教師が帝国の出身だったな。カートはその教師の研究室に通っていたはずだ。受験のため一時期は家庭教師もしてもらっていた」
そこでリッツバーグ伯爵は何かに気づいたようで、顔をしっかりと上げた。
「そういえば、カートが死んだ日の午前中にもその教師が来ていたと妻から聞いた」
「……伯爵。その教師の名は?」
「オリバー=シュトロームだ」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
オルトは件の教師“オリバー=シュトローム”が居るという中等学院に向かう道すがら、知り得た事を整理していた。
シュトロームがリッツバーグ邸に訪れたのは午前中、つまりカートの魔人化前のことだ。
証拠はない、根拠も強くない。
だが、ここで逃がしてはならないと、頭の中で警鐘が鳴り響いていた。
学園長に確認を取ると、今は自室にいる知り、教えられた部屋へと向かった。
「……シュトローム先生、失礼します」
扉の先に居たのは特徴的な目の装飾をつけた男性。間違いない。オリバー=シュトロームだ。
「お忙しいところすみません」
「いえ、構いませんよ。……紅茶でも?」
「いえ、結構です」
するとシュトロームは自然な動作で自らのカップに紅茶を注いでいく。
両目が見えないにしては正確かつ丁寧な所作……感知系の魔法で補助を?いやそれにしても……
「先生は帝国の出身だそうですね。失礼ですが、どういう経緯で我が国に?」
「私が王国に来た理由、ですか。それがお恥ずかしい話でしてね……私は帝国貴族の家に生まれたのですが」
帝国貴族、その単語にオルトの体が一瞬強張る。
「実家の跡目争いに敗れましてね。私を亡きものにしようとする親族から命からがら逃げ出したのですよ。この目もその時の襲撃によって……」
「なるほど、そうでしたか。失礼な事を聞いてすみません」
「いえ、それが貴方のお仕事ですからね」
当たり障りのないやり取り。ただシュトロームの言葉がどこまで正しいかも分からない。オルトは続けて質問した。
「ところで先生はこの学院で優秀な魔法使いを育成されているそうですね。帝国への意趣返しですか?」
「いえ、もっと俗な理由ですよ。私は帝国出身の新任教師ですからね。私をこの学院に認めさせるためには目に見える功績が必要だったんです。元帝国貴族への風当たりは結構強いですからね」
「それで研究会を……」
「そういうことです。お陰様で私の研究会に所属した子は皆魔法の実力を伸ばしてくれました。中には高等学院に合格してくれた子もいたんですよ……」
オルトは、先程とは別の意味で体を強張らせた。
「そうなると、先生にとっても今回の事は残念でしたね」
「そうですね、まさかカートがあんなことになるとは……」
「シュトローム先生。実は今魔人化した彼の遺体を専門家達が検分している最中なんです。出来れば先生にも意見をお聞かせ願いたい」
「……わかりました。伺いましょう」
「有益な話が聞ける事を期待しています」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
オルトはシュトロームを連れて警備隊の詰所へとやって来ていた。
「ここは?」
「詰所に併設された練兵場です。ここで検分を行おうと思いまして」
「こんな所で?」
「えぇ、貴方の検分をね」
オルトが合図すると、騎士、兵士、魔法使いが練兵場を囲むように現れた。
「私の?何故?」
シュトロームが疑問に思っていると、そこに新たな人物が現れた。
「よぉ、オルト。お前んとこの隊員に呼ばれたんだが、これはどういう事だ?」
現れたのはかつては軍務局局長を、今は魔法師団団長を務める男、ルーパー=オルグラン。
更には、現軍務局局長のドミニク。
「今から説明しますよ。ルーパー様」
「私は何故このような仕打ちを受けているのでしょうか。オルトさん。やはり元帝国貴族にはこのような扱いが相応しいと?」
「そのような理由ではありませんよ。シュトローム先生。貴方の証言は見事でしたが、1つミスを犯しましたね」
オルトは目を鋭くして言葉を続けた。
「ドミニク局長、魔人化したのは誰でしたでしょうか」
「そりゃあ、カート=フォン=リッツバーグだろう?」
「はい。その通りです。
……魔人化したのが、カート=フォン=リッツバーグだという事実は」
「……ほう?」
「ウォルフォードさんから話を聞いた陛下は、真っ先に箝口令を敷かれました。魔人化した人間の名を口外してはならぬ、と。
今回の魔人出現には不可解な点が複数あり、そのせいで彼の家族が不利益を被らぬように」
ざわめきが広がっていく。それに反してシュトロームだけが静かなまま。
オルトは言葉を重ねた。
「貴方に会う前にリッツバーグ邸に伺いましたが静かなものでしたよ。この国の魔人を恐れる国民性からして、魔人化したのがカートだと知れれば人が押し寄せたはずです。
……ですがリッツバーグ邸の周りは静かなものでしたよ。箝口令が機能している証拠です」
練兵場にいる、シュトローム以外の全員の間に緊張が走った。
「今王都に伝わっているのは、高等魔法学院に魔人が現れたこと、そして偶然居合わせた賢者の孫、シーナ=ウォルフォードが魔人を討伐した……これだけです」
「………………」
「さて、シュトローム先生。貴方は何処でカートの魔人化を知ったのですか?」
シュトロームに疑いの視線が集まる中、シュトロームは……
「クク……ハハハ……アハハハハ!」
嗤った。
「まさか箝口令が敷かれているとは思いませんでしたね……そうですか、騒がれているのはウォルフォード君だけですか」
一頻り嗤ったシュトロームは、魔力を纏った。
「舐めてんじゃねぇぞ!」
咄嗟に放たれたルーパー団長の魔法の矢は容易くシュトロームの魔力障壁に弾かれてしまった。
「チッ、これを防ぐか……テメェ何もんだ!」
「フフ、それに答える義務はないですね」
魔法による突風がルーパーとドミニクに迫る。
「ルーパー!」
「チィ……ギリギリだった……」
「さて、と……」
その言葉の後すぐに、シュトロームは
「こんな魔法、見た事も……」
呆ける騎士や兵士をドミニクが一喝する。
「絶対に逃がすな!奴を逃がせばまた犠牲者が出るぞ!」
矢が、魔法が、シュトロームに殺到する。だが、煙が晴れると……
「あれだけ食らって無傷かよ……」
シュトロームは自らに降り注ぐ数多の攻撃、その全てを魔力障壁で弾いていた。
「
「実験……?実験だと!?お前の身勝手な目的のために、未来ある命を犠牲にしたというのか!」
「そうですねぇ……私に目をつけられた時点で、彼は運がなかったんですよ」
頭に血を上らせたオルトは、剣を抜き放ってシュトロームに斬り掛かる。
「彼の家族がどれだけ傷つき苦しんでいるのか、それがお前には……」
「分かりませんよ、そんなもの」
「オルトぉ!」
「……ッ!」
暴風の如き魔法がオルトに迫る。
瞬間、轟音が響いた。
「大丈夫ですか?」
オルトの前に立つ少女は白い髪をたなびかせている。
「初めまして。シーナ=ウォルフォードです」
最も新しい英雄が、来た。
こんにちは、こんばんは。檜山俊英です。
第12話、どうだったでしょうか。
今回は魔人騒動の捜査にあたる裏方の人々の回でした。
自分語りになりますが、裏方の奮闘、大好きです。
しかし、書くのは苦手でしてこのような形となってしまいました。
次回は丸々シュトローム対シーナに出来たらいいなと思っています。
楽しみにして頂けると幸いです。
よろしければ、評価、感想よろしくお願いします。