「シーナ。忘れ物はないかい?」
「ちょっと待ってね……」
高等魔法学院の入試当日、俺は婆さんと一緒に忘れ物の確認をしていた。
筆記具、受験票……事前に作った持ち物リストに記載した品が全てある事を確認していく。
よし、全部あるな。
持ち物と言っても色々あるがその中で一際異彩を放つのは“市民証”だ。
王都に入ったタイミングで発行されたこの証明書は、様々な機能を持つ。しかも登録された魔力パターンの持ち主以外起動できないという規格外の精密さを誇る魔道具だ。
これを作る魔道具と共に現存しており、初回発行であれば大して手間も掛からない。
これが爺さんや婆さんの生まれる前からあるというのだから中々に驚きだ。
っと……少し思考が脱線したな。
俺は婆さんに見送られ家を出ると、暫く歩いて学院の正門前までやって来た。
受験生が多くいる中を掻き分けて進んでいく。
……お、受験教室の割り振り見っけ。
試験前だが、緊張はない。
道中は来週の商談の事を考えているぐらいだ。
そもそも、幼い頃から各分野の頂点に近い人達から様々な事を教わってきた。
「おい、貴様、そこを退け」
油断しなければ成績上位での合格は固いと思っている。
ま、弛まず、力まずに頑張るとしよう。
……ん?今なんか……
「おい!聞こえないのか!この無礼者が!」
誰かに肩を掴まれたと気づいた時には身体が動いていた。
腕を掴み返し、後ろ手になるよう捻り上げた。
「ぐあっ!貴様何をする!離せ!」
「いやいやいや……いきなり人の肩掴んでおいて離せはないでしょうに……」
なんというか、面倒臭い奴が現れたな……
あと少しでどいたんだが……
「貴様!オレはカート=フォン=リッツバーグだぞ!」
「あぁ……リッツバーグ事務次官の……初めまして」
リッツバーグ事務次官……彼には昔会った事がある。まぁ……商人としての名義でだけど…
なんというか、公正明大、実直な人物だったのだが……育児は苦手だったのだろうか……?
「そうだ!俺はリッツバーグ家の嫡男だぞ!」
「はぁ」
なんか相手するのが面倒になって来たな…商人としての仮面も被らなくていいから、気の抜けた返事しかできない。
「オレに逆らってただで済むと思ってるのか!?」
「はぁ………その言動では
一応アールスハイド王国は封建国家だ。
そんな国の貴族に英雄の孫とは言えこうやって表立って歯向かう事が出来るのは理由がある。
王家の定めた法にこんな物がある。
「“学院に於いて権威を振りかざし他人を害する事は優秀な魔法使いの芽を刈り取る行為であり、これを破った者は厳罰に処する”」
おぉ、知り合いが話を引き継いでくれた。
これは楽だ。なんせこの国で“コイツ”に権威で勝てるのは国王のみなのだから。
「これは、学院の校則ではなく、王家の定めた法であった筈だ。それともまさか、先程の発言は王家に対する叛意か?」
「い、いえ!決してそんな事は!」
カートが頭を下げる。流石“第一王子”だ。
「ならばこれ以上騒ぐな。……ここは入学試験会場だ。皆の心を乱す様な事はするな」
カートは悔しそうにこちらを見てから去っていった。
何処か違和感を感じたが……学生レベルでは問題も起こらないだろうからな。一旦は静観だ。
「や、久しぶり。オーグ」
「そちらこそ久しぶりだな。シーナ」
“アウグスト=フォン=アールスハイド”
これがコイツの本名。親しい間柄の者が“オーグ”というあだ名を用いる訳だ。
そして、先程から言っているが、この国の第一王子でもある。
「さて、とりわけ話す事も無いかな」
「酷いな。数年は会っていなかっただろうに」
「じゃあ寂しかった?」
「多少はな。ただまぁ、偶には会いに来い。エリーが連絡手段が無いと愚痴っていたぞ」
「ほほう……?婚約者を出汁にするとな……?」
「そうでは無いさ。……シーナ。そろそろ試験開始の時刻だ。入学式の代表挨拶。楽しみにしている」
「まぁオーグもぼちぼち頑張りなよ」
「あぁ。お前もな」
そう言って、オーグは一足先に会場へと入っていった。
さて、私も……っと。
試験は、筆記、実技に別れて行う。
筆記試験は人数毎に各部屋に別れて行う。
(ふーん、一般教養で宗教の教義の一部が出てくる辺り異世界だな……答えは……っと。)
十分な手応えを感じてから、試験終了まで待つ。
勿論見直しもしてある。ただ…分からない問題は無かったから大丈夫だと信じたい。
そして実技試験は学院の室内練習場で各々の魔法を披露する。
「次の五人、中へ!では一人づつ自分の得意な魔法を見せて貰います」
「目標は設置してあるあの的!破壊出来れば良し、破壊できなくても練度が基準に達していれば良し!」
女性教官の示す先には、天井から吊るされた人型の人形がある。あれに魔法をぶつけるという事か…
「では一人目!」
その言葉と共に一人の男子が前に出る。
そして、手を構えてから詠唱を始めた。
「全てを焼き尽くす炎よ!この手に集いて敵を撃て!“ファイヤーボール”!!」
その詠唱と共に炎の魔法が的に着弾した。
威力は一般的。こういうのを見るとやはり自分が規格外な事を自覚させられる。
その後も他の受験生の試験は続いた。
「荒れ狂う水流よ!集い踊りて敵を押し流せ!“ウォーターシュート”!!」
「風よ踊れ!風よ舞え!全てを薙ぎ払う一陣の風を起こせ!“ウインドストーム”!!」
「母なる大地よ!力を貸して!敵を打ち払う礫となれ!“アースブラスト”!」
さて、俺の番か。
「君は……陛下の仰っていた……贔屓はしません。全力でやりなさい。」
ディセウムのおっさん、学院にどんな話をしたんだ……?
まぁ、いいか。ただ、全力は学院諸共木っ端微塵に吹っ飛ぶから……
このくらいか。
俺は指先に魔力を集めて……指を鳴らした。
瞬間、轟音が鳴り響く。
「詠唱無し……!?」
「いや、だとしても魔法の出力が速すぎる!」
「それより、なんだ今の威力は!」
ま、こうなるよな…
左手で待機状態だった爆散の魔法の威力を落として使ったんだが……確かにこれなら規格外の評価もやむなし、だな。
「……」
あれ、教官が少し呆けてるな…うーん教官までこうなるとは…少し見通しが甘かったか…?少しは耐えてくれると思ったんだが……
「すみませーん。大丈夫ですかー?」
顔の目の前でブンブン手を振ると、どうやら再起動したらしい。
「あ、あぁ……試験はこれで終了です。皆さんお疲れ様でした。」
俺はゾロゾロと学院から出ていく受験生達の集団に混じって帰路に着いた。
後日の合格発表で首席合格した事をここに付け加えておく。
こんにちは、こんばんは。檜山俊英です。
第3話どうだったでしょうか?
次回から学院での生活が始まります。オリ主と原作の『シン=ウォルフォード』との差違も少しづつ見せて行ければと思っています。