「ここがお前達Sクラスの教室だ」
入学式を終えた後、引率の先生について行くと着いたのは教室だった。これからはここで勉強していくらしい。
Sクラスの定員は10名。ちょうど俺含めここにいる生徒も10人だ。
次席 アウグスト=フォン=アールスハイド
三席 マリア=フォン=メッシーナ
四席 シシリー=フォン=クロード
五席 アリス=コーナー
六席 トール=フォン=フレーゲル
七席 リン=ヒューズ
八席 ユーリ=カールトン
九席 トニー=フレイド
十席 ユリウス=フォン=リッテンハイム
そして、首席シーナ=ウォルフォード。
「入学おめでとう。担任のアルフレッド=マーカスだ。元魔法師団所属だ。宜しくな」
ほへぇ…知り合いにも魔法師団の魔法使いがいるけど、この人はあんなにおちゃらけた感じでは無い。真面目そうな人だな…
「今日は授業もないから、学院を見て回るなり、他の生徒と交流するなり好きにしろ。明日の午前中は学院の案内。午後からは実技指導に入る。……では解散!」
ま、始業の日はこんなもんか、と思っていると、
「ねぇ、シーナ。ちょっといい?……シシリーの事で相談があるの」
マリアが相談事……しかもシシリーについてか……
「なにか困り事?」
マリアがコクリと頷いた。
……よし。
「分かった。今行くね」
マリアについて行く形で俺は廊下に出た。
すると、マリアが少しづつ話し始めた。
「実は…シシリーに付き纏っている男がいるの」
それがマリアの言う“困り事”か……
シシリーはかなり整った顔立ちをしている。
それを見て狙われた、ということかな……?
「シーナに初めて会ったすぐ後くらいかな…ずっと言い寄って来てて……シシリーは何度も断ってるのに、そいつ、実家の権力を傘に着て脅しまで掛けて来てるの」
……話を聞く限り、クロード子爵家より格上の爵位を持つ家の嫡男……か。しかもかなり横柄な性格と見える。
「シシリーが自分の思い通りにならないのが相当頭にキテるらしくて、そろそろ無茶な手段に出て来そうなのよ」
かなりマズくないか、それ……?
ストーカー男の暴走とかシャレにならないぞ……
「しかも、その男がこの学院に居るの」
それならどこで出くわしてもおかしくない。
……肉体的には同性の、危機。一般通念に照らし合わせても、自らの良心に問いかけても手を貸すべき案件…
久しぶりに“眼”を使うか…?
自己保身とクラスメイトの危機を天秤に掛けるクズな思考をしていると、シシリーとマリアの後ろから声がした。男の、しかも聞いた覚えのある声。
「おい!シシリー!貴様そのような女などと……!」
「カート=フォン=リッツバーグ……」
またお前か、と言いたくなったが、ふと見たシシリーの様子が尋常では無い。そうか、彼女に付き纏っている男というのは…
「シーナ!あいつよ!あいつがずっと付き纏って、勝手に自分の婚約者だって言いふらしてるの!」
やはり……シシリーのストーカーはカートだったのか。
今も般若の形相でこちらを見ている。
その目線から分かるが、恐らくカートの言った“そのような女”とは、マリアではなく俺のことだろう。公衆の面前で恥をかかせた俺への敵対意識がそうさせているに違いない。
つくづく縁がある。悪い意味だが。
横を見ると、シシリーが少しづつ後ろに下がっている。
直ぐさまシシリーを俺の後ろに庇う。
カートは、それを見て激昂した。
「こっちに来い!」
怒りの形相でシシリーに伸ばした手は俺がカートの腕を掴んで阻止する。手に直接触れて、一ヶ月前にシシリー達をナンパした魔物ハンターの二の舞にしてやらないだけ有情なんだが…分かる筈もないか。
「懲りないね……君も……」
「無礼者が……!いいか……!そこの女はオレの婚約者だ。貴様なんぞに話をする権利はない!」
「んな無茶苦茶な……」
後ろのシシリーは酷く怯えている。俺とマリアが庇わなかったら崩れ落ちて泣きそうな程に。
だから……
「シシリーの本音が聞きたい」
「え……?」
「君は何を望む?抑圧のない。シシリーの本音が聞きたい」
追い詰めるようで悪いが、結局ここに尽きる。
「大丈夫。入試首席の“賢者の孫”を信じて。絶対守る」
「シーナ……」
シシリーの瞳は決意を固めていた。
「私は貴方からの求婚はお断りしました。……勝手に婚約者と言われるのは迷惑です!」
これがシシリーの本音。
彼女が震えながら、それでも絞り出した本音だ。
「貴様、このオレに逆らうというのか……!」
「さ、逆らいます!私は貴方の言いなりになるつもりはありません!」
このシシリーの言葉にカートの怒りが一段上がった。
「……何様のつもりだ…!貴様ら女は男の側で愛嬌でも振りまいてりゃいいんだ!しかもこの俺の傍に侍らせようというのに…!ふざけるな馬鹿女が!」
カートの言葉に自分の心が冷えるのを感じた。
奴の顔面に直接手で触れようとして…
「そこまでだ」
その言葉で、我に返った。
「助かったけど、遅すぎない……?オーグ……」
「ア、アウグスト殿下……」
「シーナ。分かるだろう。学院において権威を使ってはならないのは、王族の私といえども同じことだ。“貴種が動くには言い訳が必要”というのは、昔のお前の言葉だぞ?
そして……カート=フォン=リッツバーグ。今の発言は、何を意図したものか、是非私に教えて欲しい。
私は、王国貴族にあるまじき発言であると認識したが…そうでないと弁明してみせろ。貴様がこの国の貴族としての、矜恃と誇りがあるのならばな」
「う……ぁ……」
「貴様のお父上は財務局の事務次官であったな。この一件は財務局長を通じて伝えておく。頭を冷やせ」
「そ、それは!」
「異論は認めん。行け」
カートは悔しそうにこちらを睨んだ後、走り去った。
あっぶないなぁ……
「ごめんオーグ。助かったよ」
「お前がキレると学院が崩壊するのでな。事前に手を打ったまでだ」
「素直じゃないなぁ…まぁ、そういうことにしておくよ」
「一応礼を言っておこう。ただ、気掛かりなのは……」
オーグの懸念は分かる。
「そうだね。あそこまでシシリーに執着していたのに、この程度で諦めるとは思えない。まだ、何かしてくる前提で動きたい」
シシリーとマリアが苦い顔をする。
それもそうだろう。本来、王族の言葉はかなりの強制力を持つ、それを2度突き抜けて未だ諦めないなんて、並の執着では無い。
「そこで、一つ思いついた事があるんだ。シシリー、マリア、私の家に来ない?」
こんにちは、こんばんは、檜山俊英です。
第五話、どうだったでしょうか。
オーグには原作より比較的真人間になってもらっています。何度原作を見直しても、「そこもっと早く介入しろよ」とか、「そうじゃないだろ」という感情が私の中で大量発生したためです。