「カートが自宅謹慎ねぇ……」
「あぁ。今朝学院に連絡があった。“カートは暫く自宅謹慎とし、反省を促す”……と」
初授業の翌日。そのホームルーム前の今、私達は会話に興じていた。ただ、内容は少し剣呑だ。
それにしても……
「オーグ……カートは昔からあの性格だったの?」
「いや、優秀で自信家ではあったが、あそこまで権力を傘に着る態度ではなかった。だから、我々も少々戸惑っている……というのが実情だ」
「……ふーん」
じゃあ、外的要因か。口には出さないが、一番有り得るのは“洗脳”。もしかしたら認知を歪められた程度の軽いものかもしれないけど……だとしてやったのは誰だ?どのタイミングだ?
「関係があるかは分かりませんが……中等学院で3年生の時、学院にやってきた魔法の教師に声を掛けられませんでしたか?」
「あぁ……居たな。我々は胡散臭かったから断ったが……確か“君には魔法の才能がある”と言って誘っていたはずだ」
話の流れが見えてきた。
「でも、カートは断らなかった……と」
「はい。実際、彼の魔法の実力は件の教師の研究室に通い出してから伸びています」
「……って事はそれなりに実力のある先生だったのね……」
「あぁ、それは間違いないだろう。人気もあった。……胡散臭い見た目だったがな」
マリアの言葉にオーグが軽く反応したけど、気になる言葉があった。
「見た目?」
「目が見えないらしくて、両目を覆う眼帯をしていたんです。日常生活に支障があるようには見受けられませんでしたが……」
へぇ……“目を隠す凄腕の魔道士”ねぇ……
「何者なんだろう、その先生」
「帝国……ブルースフィアから来たと聞いています。ただ、困窮した生活に耐えかねて亡命してくる平民の例は聞きますが、実力者だけにそうとも思えず……」
「だから胡散臭いんだ」
オーグの言葉を最後にこの話は一旦終わりになった。
ホームルームを終えて、そのまま午前中は学院の座学を楽しんでいた。一番楽しかったのは魔法史学。
魔道具でもある身分証の由来なんかの小ネタを聞いて次回も楽しんで受講できそうだと頬を緩めたものだ。
そして午前の授業が終わって、昼食休憩の時間。私たちは食堂で思い思いの昼食を食べている。
そこでオーグが尋ねてきた。
「登下校の送り迎えはどうするんだ?シーナ。カートは自宅謹慎になって一先ず危険は無くなった訳だが……」
「そうだね。護衛の必要性はなくなった。だけど……」
オーグの問いかけに食べる手を止めて返答する。
ただ、シシリーが寂しそうにしていたのを見て、言葉を続けた。
「家の方向は同じだし、一緒に通う分には問題ないでしょ。別に護衛じゃなくなっても」
するとシシリーが静かに微笑んだ。
これで良かったらしい。私も少し頬が緩んだ。
Sクラスの面々の目が生暖かいのが少し照れるけど。
シシリーとお互い目を合わせて軽く笑った。
そのまま談笑しながら昼ご飯を食べていると、午後からの研究会の説明会の時間が近づいて来た。
皆ちょうど食べ終わった頃だったから食器を片付けていく。
入る研究会はもう決まっているのだから無駄な時間だとボヤくユーリさんに、我々だけ参加しなければ反感を持たれると諭すユリウス。
会場どこだっけ?なんてオーグに聞いた瞬間、私は気づいてしまった。
小規模ならまだわかる。しかし魔力の“揺らぎ”からしてかなりの詠唱を要求する破壊力の高い魔法だ。
「シーナ、どうした?」
オーグの言葉すら無視して探すと、見つけた。
詠唱をしているのは……カート!?
おま、まだ自宅謹慎中じゃ……
私が戸惑う間に詠唱は完成。
圧縮された魔法の炎がこちらに迫ってきた。
「シシリー!ブローチに魔力を!残りは私の後ろに!急いで!」
シシリーが呼ばれて気づいた。次にオーグが。それに釣られて残りのSクラスの皆も。
悲鳴も聞こえるけど……ごめん、そちらに構っていられない。
代わりに絶対守るから。
迫り来る魔法に右手を向けて魔力障壁を三重展開する。
一層目が少し拮抗した後に壊れ、カートの魔法は二層目で弾く事はできた。
「アレはカートか!」
「なんで!?アイツ自宅謹慎なんじゃなかったの!?」
「多分抜け出して来たんだよ。理由は分からないけどさ……それよりも」
私はオーグに視線を向けた。
指差すのは抉れた地面。今防いだ魔法の軌跡だった。
「これ、もうダメでしょ?完全に殺すつもりの魔法だった」
「あぁ、立派な殺人未遂だ。到底見過ごす事は出来ん……!」
するとカートが発狂し始めた。「貴様」って連呼してるのか。
多分、カートの発狂とも絶叫とも見えるアレは自分の思い通りにならない
物の括りに私とシシリーが入ってるのが嫌な気分ではあるけれど。
んでもってマズいのは……
「ねぇ、オーグ。アレ、魔力の制御できてると思う?」
私はカートが放つ魔力を指差した。
「思わないな」
「マズくない?」
「マズいな」
「オーグ、皆を避難させて。私がカートを抑える」
「分かった!」
この量の魔力が制御出来ずに暴発なんて事態になれば学園は壊滅だ。
後ろの皆が避難を始めたのを探知魔法で確認しつつ、カートに近づくつもりで地を蹴った。
そんな私に地を抉り迫るカートの魔法がぶつかる。一人ならこのくらいの魔法を防ぐのに障壁もいらないけど、心配そうなシシリーの顔を思い浮かべてしまった私は、咄嗟に障壁を張った。
二つの魔法の衝突によって私は僅かながら後ろに押し戻された。
カートの魔力はどんどん膨れ上がっている。このままではマズいと数年ぶりに“眼”を開いた。
そのままカートを見た私は、その体に起きている現象に目と眼を見開いた。
赤い。カートの魔力が段々と赤く禍々しくなっている。
カートが“とある存在”に変質している事を物語る姿。
私は周りの視線を遮るように魔力障壁をドーム状に展開して、外から見えないようにした。
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…………魔力は魔法や魔道具という恩恵をもたらす一方で、厄災を招く要素でもある。
その厄災こそが魔物。魔力によって変質した野生動物の成れの果て。だが、何も野生動物だけが魔力の影響を受けている訳では無い。
魔力を操り魔法を扱う人間が魔物化する……その状態の事を【魔人】と言う。
数十年前に王都に現れた魔人はアールスハイドという国の存亡に関わる程の被害を出した。
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数秒経った。
叫び声を上げ、魔力を昂らせていたカートの魔力暴走は一旦止まった。戻れない一線を越えてしまったからだ。
私の眼に映る灰色の世界の中で、赤い瞳だけが禍々しく輝いていた。
こんにちは、こんばんは。檜山俊英です。
大変長い間更新が止まっていました。
すみません。
毎日投稿は難しいですが、一週間に2、3話のペースを目指して更新を再開していくつもりです。
そして、カート戦に入ると言ったのに入れませんでした。
魔人化のところで終わってしまったので、急いで続きを書きます。