ユーブロンさん。高評価ありがとうございます。
「殿下……これは……」
「魔力からしてシーナのものだな」
アウグスト=フォン=アールスハイドは護衛の少年トール=フォン=フレーゲルと突如ドーム状に展開された魔力障壁を見ていた。
「中が見えないように魔力障壁を調整するとは……相変わらずの器用さだ」
トールが中から聞こえる爆発音と、足から伝わる大地の揺れに怯えているのに対し、アウグストは何事もないように泰然としていた。
「殿下!シーナは……!」
「落ち着けクロード。相手がなんであれシーナには傷一つつけられん。シーナ=ウォルフォードは当代最強の魔道士だ」
アウグストはそう言ってシシリーを宥めた。
アウグストには信頼する友人が居る。
アウグストはその友人の強さに絶対の信頼がある。
例え相手が【魔人】であろうとも勝利してしまうだろう。
そう確信していた。
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【魔人】……話に聞いてはいたけど実物を見るのは初めてだ。
魔力に呑まれた命は例外無く魔物だ。
多分、殺しても何も言われない。むしろ相手が魔人なだけに賞賛すらされる……そう思った。
それでいいのだろうか。
魔人だから、殺してもいいのだろうか。
「私はまだ、諦めてないよ」
獣のような体勢と形相でこちらに迫るカートに、そう宣言した。
パチン
指を鳴らすと待機状態の爆散の魔法が炸裂する。
カートはそれを脚に受けて動きを止める。
「グゥァァァ……」
妙だ。
そもそも爆散魔法は炸裂する距離と方向を事前に固定してから指を鳴らす。その時一緒に込めた魔力によって威力が決定するように組み上げた魔法だ。
国を滅ぼすとまで言われた【魔人】に、牽制のための魔法が思った以上に効いていた。
聞いていた話と少しちが……
「ウォルフォードォォ……キサマァァァ……!コロス……コロシテヤル……!」
「喋った……!?」
魔力に呑まれた状態で言葉を話せる……?
もしかしたらだけど、まだ人格があるのかもしれない。
カートの魔法を時に爆散魔法で相殺、時に魔力障壁で防ぎながら、対応策を練る。
考えられるのは二つ。
まだ完全な魔人になっていないか。
それとも今までにない新しい形態の魔人になったのか。
「もし前者なら……少し我慢して、ね!」
カートに向けて両手の爆散魔法を炸裂させて動きを止める。
その隙に身体強化を使ってカートに肉薄する。
カートの腹部に触れて、魔力を直接流し込む。
【魔人】の魔力と私の魔力での中和を狙った試み。
しかし、魔力を注入するとカートは血を吐いて苦しみだしてしまった。
「やっぱりこれじゃダメか……でも触れて分かった。恐らく前者。カートは【魔人】として不完全なんだ」
私の魔力にカートの肉体が耐えきれてない。どっちつかずの状態だからこその反応だった。
つまり、元に戻す方法は必ずある。
今はただ、時間が足りないだけ。
ただ、時間を与えればカートは破壊を振りまく。
魔物とは……魔人とはそういうものだ。
私が抑え続けるのも現実的じゃない。
そもそも、魔人を人間に戻そうなんて誰もしようとしない、か。
カートが収束させた魔力を爆散魔法で散らす。
すると、カートは魔力を増幅させ始めた。
狙いはすぐに分かった。
自爆だ。
カートめ、理性も消えかけの癖に変に悪辣な策を……!
この量の魔力が暴発したら被害は学院だけに留まらない。
ただ、暴走状態の魔力が沢山あるこの状況は私にとって都合は良かった。
丁度、自前の分じゃ魔力が足りないと思ってたから。
この魔法を使うのは久しぶりだけれど、問題無い。
それに、“眼”の調子も悪くない。
「おやすみ。カート=フォン=リッツバーグ」
封印魔法『
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全てを終えて、障壁を解いていく。
そこには見知った顔が並んでいた。Sクラスの面々だ。
「避難しろって言ったのに……オーグ、君の仕業でしょ」
「お前が負ける事など有り得ないだろう。私はお前を信じたまでだ」
「ああ言えばこう言う……それで「心配したんですよ!」……シシリー」
シシリーは私の言葉を遮るように泣き顔でこちらにやってきた。
「何も見えなくて、でも戦闘の音だけは聞こえたから、最後音が途絶えて障壁が崩れ始めた時……私は……!」
その先は言われなくてもわかってしまった。
「ごめんシシリー。心配かけたね。この通り、私は五体満足だよ。」
シシリーが泣き止むのを見計らっていたオーグがこちらに寄って来た。
「カート=フォン=リッツバーグは?」
「【魔人】になったから
「【魔人】!?賢者様と導師様が討伐した……あの【魔人】!?」
「ではシーナさんは【魔人】の討伐を成し遂げた事に……これは偉業ですよ!」
やけにワイワイ騒がしい……人が死んだのに。
いや、だからこそ忘れたいのかもしれない。彼ら彼女らは幼い頃から魔人の恐ろしさと賢者と導師の偉大さを教えられてきた人たちだから。
魔物に対する価値観と魔人への恐ろしさ、英雄への敬意ががこういう景色を形作っている。
気持ち悪い。
「お前たち!大丈夫か!」
「アルフレッド先生。私たちは大丈夫です。」
「良かった。少し待ってくれ、今騎士団が来て……」
「それでは遅いですね。……オーグ。お願い。」
「いいのか?」
「こっちから譲歩してるんだからさっさとしなよ。」
もう野次馬が集まっている。隠蔽するのは無理だ。なら、こうするしかない。
「皆の者、よく聞け!先程魔人が現れた!」
オーグの言葉を聞いた瞬間、グラウンドに集まった学生や教員達に緊張が走る。彼ら彼女らが逃げ出さないのは第一王子であるオーグの言葉を聞く余裕と理性が残っているからだ。
「だが……その魔人は討伐された!他ならぬ賢者殿の孫、シーナ=ウォルフォードによって!」
その言葉が染み渡り、人々の中で噛み砕かれて……
群衆の中で興奮が爆発した。
歓声を上げる人がいる。拳を突き上げる人もいる。私を称えて叫ぶ人がいる。
私からそうするように言ったとはいえ、あまりいい気分では無かった。爺さん達は、“これ”に嫌気がさしたのかもしれない。
色の無い
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私たちはアルフレッド先生について行く形で教室に戻ってきた。
「シーナ、1つ質問していいか?」
「別にいいけど、じゃあ教室に防音魔法を掛けようか」
私は魔法を使って教室の外に音が漏れないようにした上で、ついでに、面倒な視線を遮るように魔法障壁を展開した。
「シーナ。先程言っていたが、本当にカートを
私は、オーグの質問に目を細めた。
「信じてるって言ったのに?」
「あぁ、お前の強さを信じてるさ。ただ、お前は先程、一度として“殺した”とは言わなかった。そこが気に掛かってしまってな」
「ハァ……カンのいい第一王子は嫌いだよ、私は」
「な……!でも、カートが逃げた様子もなかったし……え?」
マリアを初めとしてオーグ以外のSクラスの皆とアルフレッド先生が訳が分からないと言った表情をしている。
だからタネ明かしをする事にした。
「封印魔法『天龍雪獄』。生物を雪と氷の縛りで拘束、封印する魔法だよ。拘束された対象は私が許可を出さない限り永遠に眠り続ける。老いる事もない」
つまり、相手を強制的にコールドスリープさせる魔法だ。
「つくづく凄まじいな、お前は……魔人を生きたまま捕らえたか」
「でも、なんで……」
「マリア、魔人だから、悪人だから、カートは死んでも良かったのかな?……私には、そうは思えない。最悪な性格のやつだったけど。殺す事はいけないと思う。何より……」
「何より?」
「まだ、シシリーがカートから謝罪されてない」
「……!」
シシリーが目を見開いた。
「ごめん、シシリー、これは私のエゴ。だから……」
「ありがとう。シーナ」
「……え?」
シシリーの言葉に弾かれたようにそちらを見た。
「私のこと、考えてくれたんだよね」
「いや、でも」
「でももだってもないよ。シーナが私の事を思ってくれたんだから。それが一番大事なの。だから、ありがとう。シーナ」
「シシリー……」
「おほん。甘ったるい空気を形成しているところすまないが、話を続けてもらってもいいか?」
「オーグ……甘ったるいって何さ……」
ただ、オーグのお陰で空気が変わったのは事実だ。有効活用させてもらう。
「オーグ、この一件。裏があるよ。」
こんにちは、こんばんは檜山俊英です。
2日ぶりに更新出来ました。
今回はカート魔人騒動中編です。次回の後編で締めて、次の話に移りたいと思っています。
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