テンプルナイトは頑張んナイト!   作:ハチミツりんご

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エピソード1:辺境の教会騎士

 

 

 

「_______うぅむ…………」

 

 

 唸る様な悩み声。森の木々に響いたそれは、葉擦れと共に消えていく。

 

 

 王都より遥か外れ、ド田舎と称して差し支えない場所に生え繁る森林の中。

 凡そ人の手など入っていないであろうその場所は、背の高い木々の葉で光が閉ざされ、昼間だと言うのに闇夜を思わせる程に暗かった。

 

 

「地図ではここまで広がってはいないはずですが………流石は田舎のぼんやり役人、5年前から更新が止まっているとは思いもしませんでしたよ」

 

 

 手軽に地理を確認出来るような術なんて中々無いこの世界において、地図は非常に重要な役割を持つ。

 

 迷って連絡が途絶えたとしても、即座に調査隊が派遣されるのは高い身分の子息やご令嬢といった者達のみ。

 普通の市民にとって、森で迷う=死に直結する命懸けの旅路となる。それを支えるものこそ地図であり、管理者はなるべくこまめな更新を推奨されている。

 

 

 しかし店や人の移り変わりが激しい都会ならまだしも、代わり映えのしない長閑な田舎で逐一更新しようと思う奴も中々おらず。

 一応土地を測ったり地図の作成を補助する魔法なんかも存在するが、そんなクソニッチな魔法を修めている奴なんて稀だ。

 大体はそれを専門として扱っている家系に生まれ、両親から手ほどきを受けて『測量魔導師』『製図魔導師』として家を継いだり、個人として貴族家に雇われたりといった具合だ。

 

 そんな希少人物がド田舎にいる訳もなく。

 やる気もなけりゃ手助けする人材も無いとなれば、地図の更新を後回しにしたくなるお役所の気持ちも分からなくは無い。

 

 

「まぁ、それで私が困るのは勘弁願いたいのですが…………」

 

 

 地図すら更新されないド田舎の森を歩きながら、その人物は軽く溜息を漏らす。

 

 

「全く、こんな国の端まで勧誘に行けとは人使いの荒い…………とは言っても、相手が相手だけに当然とは言えますが」

 

 

 パサり、と懐にしまっていた数枚の紙束を取り出す。

 

 

 

 かつて『昼の国』と呼ばれたこの国は、今では【ソーレイズ王国】と名を変えている。

 王家と結婚し、国の発展に尽力した元勇者………太陽と評された彼女にあやかったものだ。

 

 

 そのソーレイズ王国の中心地である王都には、大きく分けて4つの特権階級が存在する。

 

 一つは『王家一門』。

 ソーレイズ王国の初代国王から脈々と継がれる血筋を持つ面々であり、大なり小なり王位継承権を持つ人々。

 勿論現国王もここに含まれる。

 

 一つは『貴族家』。

 所謂お偉いさん、土地を持っていたり何か特別な功績を挙げた物が王家より任命されてつく役職だ。

 当然平民より身分的には偉く、金もある。

 

 一つは『迷宮騎士』。

 国防と希少素材の採取を一手に担う、国に無くてはならないもの達。実力はもちろんピンキリだが、国政とは一歩外れた場所に位置する彼ら彼女らは存外影響が大きい。

 指折りの実力者ならば、並の貴族家よりも高い発言権を持つことだって珍しくはない。

 

 

 そしてもう一つが、『五神教会』。

 

 高きは『天光神』。

 優しき『炎母神』。

 苛烈な『水怒神』。

 豊穣の『土緑神』。

 妖しき『夜惑神』。

 

 これら五つの神を中心として、神を信ずるもの達の集まり。

 主神五柱だけでなく、従属神への信仰も存在する為国内でも頭抜けた信徒の数を誇る。

 

 そんな五神教会は、トップともなれば王家すら軽々しく扱えない。

 宗教家とは、それだけ強力かつ面倒臭い相手なのだ。

 

 

 

「(その『五神教会』のお偉いさん達が、挙って推挙してきた才女…………か)」

 

 

 教会から資料に、と手渡された紙束には、写像魔導師が描いたのであろう精巧な線画が付いている。

 

 金糸のような長い髪に、優しげな目元。少しキツめな青い瞳が目を引く、文句無しの美少女だ。

 典型的なソーレイズ国民の特徴を持ったこの少女こそ、今回の目的。

 

 名を【アリッサベリー=ラキリ=マクレガー】。

 

 今から向かう先のマクレガー村の纏め役たる夫妻の一人娘にして、同村の教会で修行を積む修道女(シスター)

 そして何より、世界で唯一の再生魔導の担い手である。

 

 

 

「かすり傷を治す程度なら駆け出しの聖職者でも出来る。一端の実力者ともなれば切り傷程度塞げるし、指折りともなれば千切れた腕をくっ付けることだって可能だ…………だがこれが真実なら、彼女のそれは次元が違う」

 

 

 傷を治す、治癒魔法とは根本的に異なる異質なもの。

 

 全ての治癒魔法が怪我を『治す』という過程(プロセス)を踏むのに対し、彼女のそれは『逆行』だ。

 

 傷を『治して』『治癒』するのでは無い。

 

 傷を『戻して』『無かった』事にする。

 

 

 時間操作の一種であり、マトモに使おうとすれば大魔導師級の偉業。

 仮にこのマクレガー女史がその場に居たのなら、爆発した人間を瞬時に元通りに戻すことすら可能だろう。

 

 

 成程、教会が推薦するのも頷ける。

 

 神から祝福を受け、若くしてこういう桁外れた魔導術式を使う人間はたまにいる。

 マクレガー女史は、その中でも特別中の特別だ。

 

 大方、迷宮騎士として場数と経験を踏ませてから教会の顔役として働いてもらう算段だろう。市民受けは高ければ高いほど良い。

 

 

「資料を見る限りでは人格面も問題無し………まぁウチとしても、実力高い人材は欲しいですからねぇ………治癒役(ヒーラー)なんて毎度不足するんですから」

 

 

 はぁ、と一つ大きなため息をつく。

 

 夜の国との抗争に追われていた500年前程ではないにしても、現代でも都市の城壁外では魔物が闊歩している。

 その為、戦いに耐えうる人間というのは貴重な資源であり、その中でも【迷宮探査】に相応しい人材は特に少ない。

 

 

「仮にマクレガー女史が駄目だった場合は………まだ若くてフリーの有名どころなら、『剣鬼』の孫に『天地両断』の彼辺りか?斥候(スカウト)能力だけなら《紫煙》も候補に入るか………あとは《隊商騎士(キャラバンナイト)》?でも旅して回ってるらしく身元どころか姿見すら不明瞭なのがなぁ………」

 

 

 殺し殺されする相手が身近に存在する世界だ。当然の様に日常的に戦闘は発生するし、それに伴って名を馳せる人間も居る。

 特に娯楽の少ない市民にとって、そういった英雄譚にも似た噂は暇潰しの格好の的だ。

 

 歳若くして異名を轟かせる者達………と言っても、大半は金を持った親馬鹿が吟遊詩人に金を握らせて流布させるがらんどうの異名だ。

 その中で実際の物は極わずか。更に勧誘するに相応しい実力者となると数えられる程しか残らない。

 

 

「辺境伯経営のところに負けてはいられない………が、どうしても手が足りないのは…………ん?」

 

 

 他の所に取られる前に………なんてブツブツと呟きながら足場の悪い森の中を進んでいく最中。

 

 ガサリと草木の擦れる音が耳に届き、何かと視線を横目に投げる。

 

 

「_______ヴォアァァ………」

 

 

 瞬間見えた影に、二も無くその場を飛び退いた。

 

 

「ライラブ・ベアッ!?あのクソ役人、こんな危険魔獣くらい把握しておけよ!!」

 

 

 着地と同時にシュラリと腰に佩いた愛剣を鞘から抜く。

 

 細剣(さいけん)

 レイピアとも呼ばれる、刺突に特化した細身の武器。

 鎧やその下に着込む鎖帷子等の隙間を縫って急所を突き刺す、一撃必殺に重きを置いた物だ。

 対人に限れば、関節すら保護した全身大鎧の甲冑騎士でも無ければ軽さを武器に大抵有利に立ち回れる。

 

 しかし、目の前の巨塊に対しては心許ない細さと軽さだった。

 

 

 

 【ライラブ・ベア】。

 

 通常の獣の一段階上、魔物に近いものとされる『魔獣』。

 そこにカテゴライズされる生物であり、黒茶色の体毛と平均でも3.5m近くある体格、それに見合ったパワーが非常に危険だ。

 

 中でも特徴的なのが、子供に対する愛情が非常に強いということ。

 仮に我が子を殺されでもしたら、例え何年掛けてでも下手人を見つけ出して殺しに行く、と言われているほどの愛憎の深さ。

 

 ナワバリに入っただけでも、巨体に似合わぬスピードで追いかけ回してくる事だって珍しくない。

 人里の近くにも出没する為、目撃したら近くの都市へ通達を入れる事が推奨されている魔獣である。

 

 

 

 そんな危険生物と至近距離でかち合った。

 しかも相手は硬い毛皮に厚い皮下脂肪、細剣とは相性最悪。

 

 負けはしないが、面倒な。

 

 

 そう思った時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………んぉ?どしたーママさん。なんかいた?」

 

「………………は?」

 

 

 

 ひょこ、っと黒茶色の毛玉の後ろから人が顔を出した。

 

 素っ頓狂な顔を見せる人物を認識したのか、その少年も「おろ?」と首を傾げる。

 

 

 背の高い少年だ。ぱっと見るだけで180cmは超えている。

 動きやすさを重視した軽装の皮鎧に、背中には巨大な騎士盾(カイトシールド)を背負っている。腰から斜めに佩いた直剣を見るに、傭兵やそれに準ずるような職だろう。

 

 黒く短い髪に人懐っこそうな目の彼は、何故ここに人がと言いたげに首を傾げていたのだが。

 

 

「プオ〜……」

 

「お?どしたー、お腹減ったか?もうちょっとだから待ってな!」

 

「プオ!」

 

 

 そんな彼の装備や顔付きには目もくれず。

 

 彼の片腕に抱かれるようにしてウゴウゴしていた、小さい黒茶色の毛玉に、冷や汗を流しながらぽつりと呟く。

 

 

「…………ライラブ・ベアが…………人間に子供を抱かせてる…………?」

 

「あ、大丈夫だぞおっちゃん!ママさんもこの子も友達だから!襲ったりしねぇから剣収めてくれね?」

 

「あ、あぁ………これは失礼を………」

 

 

 シャロ、と鞘に収める。

 

 最初は武器に警戒していた親のライラブ・ベアも、少年が声を掛けると警戒心を解いたらしく。

 ズンズンと歩を進めていく姿を見て、呆気に取られている彼に少年が声を掛けた。

 

 

「おっちゃん、どこ行くにしてもここじゃ迷うだろ?取り敢えず表まで行くから着いてきてくれよ!」

 

 

 にぱー、と笑って案内を買って出た少年は、ごーごーごー!とノリ良く親熊と共に歩いていく。

 その彼に呼応するように「プオ!」と吠える小熊を眺めながら、もうどうにでもなれという気持ちで彼も追従して行った。

 

 

 

☆☆★

 

 

 

「着いた〜!」

 

「プオ〜!」

 

「なっはは、元気さんだな!おっちゃん、そこの家入って椅子使っててくれよ!水持ってくるから!」

 

「あぁいえ、お構いなく………」

 

 

 歩くこと十数分。

 

 どうやらあの森は入り口が分かりにくいだけで、道さえ抑えておけばそう迷うことも無いらしい。

 地図に書き加えながら少年と親熊小熊と共にやってきた村は、どうやら少年の住むところらしい。

 

 来訪者である自分に気を遣いながら、さっさと水を汲みにいく辺り手馴れた様子だった。

 

 

「………仕事で勧誘に来たら、ライラブ・ベアを従えてる人間に出くわして水をご馳走してもらうとは………なんなんですかね今日は」

 

 

 疲れと共にため息を着きながら1人ぼやく。

 

 人に従うどころか天敵として襲いかかって来るライラブ・ベアが、子供を預けて平然とする相手。そんなのが世界に何人いるだろうか。

 あの親熊が特別大人しいという可能性も無いでは無いが、小熊の懐き様から見て強制的に従えているとも思えない。

 

 世の中って広いなぁ、なんて思う青空の下である。

 

 

「お待たせっス!どぞ!」

 

「ありがとうございます。頂きますね」

 

 

 少年の運んできた木製コップを受け取り、口を付ける。

 

 程よく冷たい綺麗な水だ。

 魔法やそれを扱う魔導師の恩恵に預かりやすい都会ならまだしも、田舎でこの時期に冷えた水が飲めるとは思わなかった。

 遠くに汲みに行った様子もない、しっかりとした井戸がある証拠だろう。

 

 それなりに大きな村の特徴だ。実際、ぱっと家屋や周囲の柵を見る限りでも村の規模は中々だろうと推察出来た。

 

 

 

 ……………()()()()()()()()()()という点を除けばだが。

 

 

「…………お水、ありがとうございます。物のついでに宜しければ、マクレガー村がどちらにあるかだけお教え頂けませんか?」

 

 

 まぁ、その奇妙さにわざわざ首を突っ込む必要はあるまい。

 薮を突いて蛇を出しては面倒だ。

 

 なので感謝の言葉を口にしながら、パッと目的地の方角だけでも聞いて出立しようと思ったのだが、少年は首を傾げて聞き返す。

 

 

「………おっちゃん、マクレガー村に何の用だ?別に特産品も無いふつーの村だけど」

 

「人を探しているんですよ…………あぁ、そうだ。自己紹介がまだでしたね」

 

 

 そう言って、胸に手を当てながら軽く頭を下げる。

 

 

「私はヴィクトール。【ヴィクトール=ケランドラゴ】。迷宮騎士育成学校、《賛歌(さんか)三剣(さんけん)》の教官です」

 

「迷宮騎士………つーか、賛歌の三剣ってめちゃくちゃ凄いとこじゃないッスか!」

 

 

 【賛歌(さんか)三剣(さんけん)】。

 

 迷宮騎士という職業に着く為の育成機関、その中でも歴史と実績を併せ持つ、国内屈指の難関学校の一つ。

 国中から受験者が絶えず、卒業者は迷宮騎士になるにしろ各々の道を行くにしろ、何処からでも引っ張りだこ。

 学業も実技も厳しいが、その分成功が確約される。

 

 有り体に言えば、名門校である。

 

 

「なんでそんな人が………って、もしかしてアリスっスか?」

 

「それがアリッサベリー=ラキリ=マクレガー殿の事なら、その通りですよ。彼女を是非我が校の特別枠(プレシャス・ワン)に推薦したいと思いまして」

 

 

 多くの受験者が挑み、その殆どが落ちる賛歌の三剣。

 しかし中には、学校側から是非に、と招かれる特別な才能の持ち主もいる。

 

 それが特別枠(プレシャス・ワン)

通常払わねばならない学費の完全免除、また王家一門や貴族家のパーティに個人名義で招かれる等、他の学生とは一歩隔絶した場所に位置する身分。

 未来の迷宮騎士界隈、ひいてはソーレイズ王国を担っていくと期待される人材だ。

 

 

 大貴族が大金を積んでも得られない特別な称号。それを田舎の教会で修行を積む修道女(シスター)が得るとなれば、事情を知る人なら大口を開けて驚くところ。

 

 

「あー…………なるほど。なるほどなぁ………」

 

 

 しかし少年は、ガリガリと後ろ手で頭を掻くと、パッと顔を上げて立ち上がった。

 

 

「すみません、ケランドラゴさん。案内したい場所があるんすけど、いいっスか?」

 

「?えぇ、構いませんが………どちらへ?」

 

「墓地っス」

 

 

 

 そう言って、彼の先導で村の中を歩き始める。

 

 軽くしか見ていないが、やはりどうにも人は居ないらしい。

 生活の気配すら存在せず、寒村ですらもう少し人の気配があるだろうな、なんで感想が浮かぶほど。

 

 しかしこの規模の村の住民が移住したとなれば、流石にここの地域を管理している役人達も地図を更新しそうなものだが。

 

 

 ズシンズシンと小熊を抱えて一緒に歩くライラブ・ベアと共に歩きながら、そんなことを考える。

 

 

「プオ!」

 

「ヴォアアァァ………」

 

「(立つとマジでデケェなライラブ・ベア…………)」

 

「着いたッスよ!」

 

 

 

 少年の声に引き戻され、墓地へと足を踏み込む。

 そしてその規模を見て、僅かばかりだが顔を顰めた。

 

 村の墓地というものは、わざわざ個人名で墓標を立てたりはしない。

 穴を掘って、埋めて、それで終い。

 個人が使っていたものがあれば一緒に埋めたり、目立つものなら墓標代わりに刺しておく。その程度が、村の墓地の通常だ。

 

 

 顰めた理由は、その墓地に木札で作った墓標が立てられていたからでは無い。

 

 墓標の数が、夥しい程に多かったからだ。

 

 

「これは…………」

 

「ケランドラゴさん。こっちっス」

 

 

 少年に案内され、多量の墓標の隙間を縫って歩を進める。

 

 ちらりと墓標を見れば、わざわざ個人名で誰が眠っているのかが書かれていた。

 田舎の村ともなれば、誰ひとり文字が書けず読めないなんて珍しくも無いだろうに。村長辺りが心得でもあったのだろうか。

 

 しかしそれ以上に気になったのは、墓標そのもの。

 

 

「(比較的新しい。数年も経ってないんじゃないか、これ…………しかも、殆ど全部がそうだ)」

 

 

 どの墓標も、時間の経過があまり感じられない。

 良いとこ、5年も経っていない。その間にこれだけの人が死ぬなんて、流行病か災害でもない限り有り得ない。

 

 一体何が、と思った時。少年の足が止まった。

 

 

 目的の場所に着いたのか、そう思い彼の止まった墓標に書かれた名を見て、目を見開く。

 

 

 

 

 

 _______アリッサベリー=ラキリ=マクレガー。

 

 墓標には、そう刻まれていた。

 

 

「っ、コレは…………」

 

 

 咄嗟に隣に立てられた墓標を確認する。

 

 二つ並んだ墓標に刻まれる名前は、ジョン=マクレガーとララナ=マクレガー。

 どちらもマクレガー姓。手渡されて資料に記載されていた、アリッサベリーの両親と一致する。

 

 その更に隣に立てられていたのは、バルセン=レフアンス=ガルワン。

 マクレガー村の教会に司祭として滞在しており、アリッサベリーの教育係を勤めていた人物。これも資料の記載と一致。

 

 

 間違いない。

 ようやく今、この村こそが自分の探していたマクレガー村であること。

 

 

 _______そして、アリッサベリー=ラキリ=マクレガーが既に死亡していることを、理解した。

 

 

 

「………教会に、急に魔物が出てきたんス。訳も分からないまま、俺とアリスを庇ってバルセンの婆さまが殺されて」

 

「………君は、居たのか。その現場に………」

 

「なっはは、こう見えて俺、【教会騎士(テンプルナイト)】なんスよ!………何にも守れなかった、名ばかりですけど」

 

 

 教会に勤める人間には、主に二つの道がある。

 

 一つは洗礼を受けて修道士や修道女として教会にて務めに励み、人々のために祈りながら癒しの魔法等で治療を施す道。

 

 

 そしてもう一つが、教会騎士(テンプルナイト)

 修道士や修道女と同じように務めに励むが、剣や盾、鎧で武装した戦闘要員。

 その力で魔を祓い、人を守護し、神々の為に尖兵として剣を振るう者。

 

 尖った見方をすれば、信徒の守護を目的とした教会の私兵団の総称だ。

 

 

 教会騎士(テンプルナイト)は、護る事こそ最大の使命。

 特にこんな田舎の村では、武装して戦いについてある程度の知識のある教会騎士は村の守護者にもなるだろう。

 魔物や魔獣を追い払い、安寧を保つ。それこそが仕事であり、存在意義。

 

 

 彼は、その役目を果たせなかった。

 

 

「村のみんなや爺ちゃんに言われて、アリスを連れて逃げました。見知った顔が大勢死んで………結局、アリスも守れなくて。それどころか死ぬ間際にアリスに救われて、こうして一人ここに立ってる」

 

 

 とても、とても寂しい語り口。

 

 静かな淡々とした言葉の端々から、懺悔が漏れる。

 何故俺が。そう言いたげに、ぽつりと漏れる。

 

 

「………自己紹介、してなかったッスね!改めて、俺たちの村へようこそ、ケランドラゴさん!」

 

 

 これが出会い。始まり。一頁目。

 

 ドン、と胸を叩いて、笑顔で彼は来訪者を歓迎する様に。

 

 

 

 

「_______俺はゴーケン。【ゴーケン=ラビ=フェネクス】。マクレガー村最後の生き残りとして、貴方の来訪を歓迎します!」

 

 

 

 少年が、迷宮騎士の道を歩み始める。

 

 その始まり。

 

 

 

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