テンプルナイトは頑張んナイト!   作:ハチミツりんご

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エピソード3:王都、マキシにて

 

 _______ソーレイズ王国首都『マキシ』。

 

 

 勇者と結婚したソーレイズ王国初代国王、マキシミリアンに因んで名付けられた王国の心臓部。

 

 東西南北から様々な品が活発に流通し、鍛えられた守兵隊によって表通りの治安も上々。

 石畳の敷かれた道は昼夜を問わず人や荷を載せた馬車の蹄音を鳴らし、聳え立つ見張り台からは王家より遠視の魔道具を借り受けた精鋭弓兵隊が睨みを効かせる。

 地方の人々も商売の種や仕事を求めて王都へ赴き、宿屋や流通がさらに潤う。

 

 正しく大都市。

 

 それこそが、王都マキシである。

 

 

 

 

 

「あいったたたた…………悪いねぇ神官さん、通りがかっただけなのにこんな事頼んじまって」

 

「良いってことよ!困った隣人は助けなさい、ってのが火母神様の教えだしな!」

 

 

 王都南部、都市の入口が広がる商業地区。

 その道の端で腰を叩きながら木箱に腰掛ける40代程の男性が、すぐ側で木箱を運んでいる少年へ申し訳なさそうに頭を下げていた。

 

 王都に小さいながらも店を構えるこの男性は、商品を仕入れて意気揚々と王都へ戻ってきた。

 そこまでは良かったのだが、いざ商品を店内へ………と思って力んだ瞬間、腰をやってしまったらしい。

 

 そんな彼を見兼ねて、通り掛かった神官の少年が手伝いを買って出たのだ。

 

 

「いやぁ、男手連中が出払っちまっててな………あ、それは手前でいい。すぐに広げちまうからな」

 

「あいよー!他にもやることあったら遠慮なく言ってな!」

 

 

 荷の詰まった木箱というのは、見た目以上に重量がある。

 普段から上げ下ろししている人間でも、不意に怪我をしてしまう程度には取扱に注意が必要だ。

 

 それを複数重ねて、軽々と運ぶ少年。

 荷降ろしに慣れているのか、手際良く木箱の山を次々店内へと運び入れていく。

 

 

「兄ちゃん、手際良いなぁ!商人………にゃ見えねぇし、傭兵さんかい?」

 

「ついこの間までやってました!隊商護衛とか中心だったんで、慣れてるのはそれッスね!」

 

 

 荷降ろしに慣れているのは、商人やそれに連なる仕事に従事していた証拠だ。

 手早く運び込むのはコツがいる、一市民がやればこうはいかない。

 

 となれば商人や商家に奉仕に出ていた丁稚辺りかとも思うが、彼から漂う気配は金の匂いに敏感なそれ等とは異なる。

 

 ガタイが良く、武装を身に付け、かつ荷降ろしに慣れている。

 とくれば、一番可能性が高いのは何でも屋の傭兵だろう。

 

 

「やっぱりなぁ。傭兵さん辞めたってこたぁ、次の仕事は決まってんのかい?」

 

「おう!もうちょい稼げそうなとこに誘われてさ。傭兵家業はお休みだな」

 

 

 サボらず良く働き、愛想のいい若い男というのはどこの商家でも重宝される。

 特に少年の様に荷降ろしに慣れた人材は、どこに行っても雇ってもらえるだろう。

 

 もしフリーなら従業員として勧誘………物覚えさえ良ければ、娘を嫁がせてもいいなと思っていた商家の男性は、次の行き先が決まっていると聞いて僅かに肩を落とす。

 

 

「そっかぁ………決まってんならしゃあねぇな。おう兄ちゃん、それが最後だ。お疲れさん」

 

「あいよ!勝手にやった事だから、気にすんなって!」

 

「はっはぁ、元気だねぇ。おおそうだ、コイツを持ってってくれや。荷運びの駄賃代わりだ」

 

 

 軽く手をはたきながら笑顔で答える少年。

 陽射しの中で重い荷物を運んだにしては疲れも見えず、大して汗もかいていない。

 

 惜しいものを逃したな、なんて思いながら、男性は背後に置いていたカバンをゴソゴソと漁ると、袋を一つ手に取って少年へと放り投げた。

 

 

「んぉ、アザっす!………うぉ、イチゴだ!砂糖漬けッスか?」

 

「おうよ、ただの乾燥させた砂糖漬けじゃねぇぜ?かの甘味都市、ガッシュ伯爵のお膝元で作られてる逸品よ!コイツを口に入れながら辛い酒をクーっと………堪んねぇぜ?」

 

「なっはは!いい趣味してんな、おっちゃん!」

 

 

 果実を砂糖に漬けて乾燥させたドライフルーツは、手軽に取れる甘味として貴族から平民まで親しまれる品だ。

 粗雑な作り方で生産された物は日持ちも味も悪いので、少しばかり見る目が必要だが………栄養価、日持ち、味の良さ。どれをとっても満足度高し。

 

 重量も軽いので、迷宮に持ち込む騎士も多く。特に女性から高い支持を得ている食品だ。

 

 

 その中でも西方の都市、ガッシュという街で作られる砂糖漬けは王国一とも評される出来の良さ。

 迷宮騎士達や貴族は勿論。王家一門も口に入れる程の出来栄えで、ソーレイズの民に広く愛されている。

 

 その分値段もそれなりに張るのだが………男性は商売用に仕入れた物の一部なので安上がりだとの事。

 断るのも失礼だと有難く受け取った少年は、飲兵衛らしい商家の男性と共に笑っていた。

 

 

 

 

「_______おいゴラァ!!てめぇどこ見て歩いてやがんだ!?」

 

 

 

 そんな和やかな折に。

 少年の耳に、男の怒号が響いた。

 

 

「このデブッ!!幅とってんのが分かんねぇのか!?隅っこを屈んで歩きやがれ、ボゲっ!!」

 

「ん〜………オイラ別に、普通に歩いてただけなんだけどなぁ」

 

 

 腰に剣を差した強面の男が、大きなバッグを背負っている少年へと唾を飛ばしながら捲し立てる。

 当の少年の方は気負いする様子も憤る様子も無く、ただただ困惑気味に頬をポリポリと掻いていた。

 

 

「おいてめぇ、兄貴はあの『賛歌(さんか)三剣(さんけん)』なんだぞ!?てめぇとは格が違ぇんだ、とっとと土下座なり何なりで謝りやがれッ!!」

 

「え〜、賛歌の三剣何ですか?やだなぁ、この人同期なの」

 

「訳わかんねぇこと言ってんじゃねぇぞデブゥ!!」

 

 

 腰巾着らしい小柄な男が指を突き付けながら凄むものの、その小太りの少年は何処吹く風。

 おっとりとした様子を隠さず、ビビられてもいないと理解した2人のチンピラの顔が怒りで赤く染まり始める。

 

 

 

「なんだなんだ、喧嘩か?こんな朝っぱらから」

 

「あー、兄ちゃん!関わんねぇ方が良いぜ?毎年この時期になると出るんだよ、賛歌の三剣モドキ」

 

「モドキ?」

 

 

 その様子を見ていた手伝いの少年が物珍しそうをそれを眺めていると、商家の男性が少年を引き止める。

 

 至極面倒臭そうな顔をした男性は、耳打ちしながら少年へと話しかけた。

 

 

「兄ちゃん知ってるは分かんねぇが、王都にゃでっけぇ迷宮騎士の為の学校があんのよ。それが、連中の言ってる『賛歌の三剣』ってとこだ」

 

「おー、そりゃ分かるけど、何でそれが喧嘩に繋がんだ?」

 

「それがな、この時期になるとその賛歌の三剣が、入学者を募るんだよ。それを嗅ぎ付けて、自分は賛歌の三剣だーっ、つってビビらせようとする田舎者が出るのさ、毎年な」

 

 

 迷宮騎士学校、賛歌の三剣の名声は王国に広く轟いている。

 

 毎年の様に、この時期に入学を募る賛歌の三剣にかこつけて、道行く人物やものを知らなそうな相手にちょっかいをかけるチンピラが後を絶たないのだとか。

 それだけ有名である、と言えばそうなのだが、被害を被る側としては溜まったものでは無い。

 

 

「賛歌の三剣の入学者にゃ、胸に飾る勲章かま配られるんだ。アイツらなんも付けてねぇだろ?チンピラとの見分け方はそこさ、兄ちゃんも気ぃつけろよ?」

 

「ほぇ〜、入学もしてねぇのに名前使ってカツアゲとは、暇だなあの兄ちゃん達」

 

「はは、違ぇねぇや………ん?」

 

 

 そんな会話をしていた最中に、にわかに騒がしくなってきた。

 

 何事かと目を件のチンピラと少年へと戻せば、何と兄貴と呼ばれていた強面の男が腰の剣を抜き払っていた。

 

 

「このデブ………俺の恐ろしさを思い知りてぇらしいな?」

 

「ヒューッ、出たぞ兄貴の殺人剣だ!おいデブ、今ならその荷物全部で許してやってもいいんだぞ!?」

 

 

 街中で剣を抜く、しかも人に向けるなんて衛兵案件だ。しかもカツアゲ目的、許されるものでは無い。

 しかし頭に血が上っているのか、こめかみに青筋を浮かべながら小太りの少年の喉に剣を突き付ける。

 

 

「おいおいおい、洒落になってねぇぞ!?は、早いとこ衛兵さんを………!」

 

「あ、ヤバいなアレ」

 

「そうだよやべぇよ兄ちゃん!早いとこ止めねぇと、あのバッグの子死んじまうかも………!」

 

 

 アワアワと衛兵の詰所の方に駆けて行こうとした男性の横で、あっけらかんとした顔で呟く少年。

 その少年に同意するように言葉を発した男性だったが、当の少年が違う違うと軽く手を横に振る。

 

 

「あぁ、違ぇッスよ。そっちじゃなくて_______」

 

 

 

 ス、と彼らの方を指さした、その時。

 

 

 

 

 

「_______あのチンピラ、死んだかも」

 

 

 

 破裂音が、市井に響いた。

 

 

 呆けた顔をしていたのは、遠巻きに見守っていた野次馬のほぼ全員と、商家の男性。それに、チンピラの腰巾着だった小柄な男。

 

 逆にそれを当然の様に見守っていたのは、手伝いの少年を含めたごく一部のみ。

 

 

 何が起こったのか?

 答えは単純だ。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ただそれだけの話でしかない。

 

 

「い____いでぇ!?いでぇぞっ!?俺、俺の鼻っ!歯が、歯がァッ!?」

 

「え、アレ…………剣抜いたんだから、喧嘩ですよね…………?まだ鼻と歯がへし折れたくらいだけど…………」

 

 

 石畳の上を転がり、口と鼻を抑えながら叫ぶチンピラ。

 鼻は潰れたようにひしゃげ、鮮血が滝のように溢れ出ている。歯も数本折れたらしく、口内に突き刺さって悶えるような痛みが続いた。

 

 殴り飛ばした小太りの少年は、その様子を見て困惑した様に首を傾げる。

 どうやら彼にとって、鼻と歯が折れるというのはそう大騒ぎする程のものでも無いらしい。

 喧嘩を吹っ掛けてきたにも関わらず、その程度で子供のように泣きじゃくるチンピラを見て若干引いてすら居た。

 

 

「あー………もしかして中央だと剣を向けるのが歓迎なのかな………?いやぁ、そんな事ないよなぁ………でも喧嘩なのに歯折れたくらいで騒がないよなぁ…………あの〜………」

 

「ヒィっ!?わ、悪かった!!アンタに手を出したのは謝るよ!!お、俺は賛歌の三剣なんかじゃねぇんだ、許してくれぇ!!」

「あ、兄貴待っておくれよォ!?置いてかないでぇーっ!!」

 

 

 オドオドと声をかけようとしたが、チンピラは怯えた様子で捲し立てると口と鼻を抑えながらふらついた足取りで走り去る。

 我に返った腰巾着も、慌てた様にその背をおって人混みの中へ消えていった。

 

 

「あ、ちょっと!?…………何なんだろうなぁ………」

 

 

 ポリポリと頬を掻く小太りの少年。

 服やカバン、()()()に血が着いていないか確認するその少年の肩に、ポンっと手を触れる人影があった。

 

 

「よっス!あんたすげぇ力だな!」

 

「え?あぁ、どうも………初めて言われたよ、そんなの」

 

 

 照れくさそうにする小太りの少年の後ろに立っていたのは、先ほどまで眺めていた商家の手伝いをしていた少年。

 橙色の首飾りをした皮鎧の少年、ゴーケンが気さくにそう声をかけた。

 

 

「つってもやり過ぎだぞ?幾ら剣抜いてたとはいえ、あんたならどうにでもなっただろ」

 

「いやぁ、だって来て早々喧嘩売られたと思ってさ………殴らなかったら礼儀知らずだし………」

 

「………もしかして(ザウス)出身?」

 

 

 ソーレイズ王国は、大きく分けて五つの地方が存在する。

 

 

 王都マキシを中心に王家の影響が強い、中央(セントラル)地方。

 魔術が盛んな学問都市ハルゲンティを有する(イスト)地方。

 商売と繁栄と転落の街マルバスを起点に金貨が巡る西(ウェスト)地方。

 仁義と我を通す為なら法すら厭わない悪漢の街トドロキの影響下にある(ザウス)地方。

 五神信仰が最も盛んな聖地にして洗礼を受けた信徒達が集い祈る聖なる都市ラキリがある(ノス)地方。

 

 

 このうち、(ザウス)地方は気性が荒い………と言うより、戦いに対する引き金が異常な程に軽い。

 火事と喧嘩はトドロキの華とも評される程で、大した要件でも無いのにスポーツ感覚で喧嘩を始める様な地方だ。

 

 仮に臓物(はらわた)が零れようとも、死ななければそれは喧嘩のうち。

 死んだら気骨の無い奴だったという事で、それはまぁ仕方ないので特にお咎めも無し。

 

 刀を腹に突き立てられ臓腑をかき混ぜられたにも関わらず、治癒士の治療を受けながら『良い喧嘩だったなぁ!楽しかった!』なんて笑うのが(ザウス)流だ。

 

 

「もしかして中央(セントラル)の人って喧嘩で殴り掛かったりしないの?」

 

「喧嘩はするけど(ザウス)ほど派手じゃないと思うぞ!ああなる前に衛兵さんが止めに入るし」

 

「なるほど〜………うん、入学前に知れてよかったよ」

 

 

 へな、と笑う小太りの少年。

 その姿だけ見れば非常に大人しい人物に見える………否、(ザウス)出身としては相当に穏当かつ大人しい人間だ。

 問題なのはそもそもの地方に根付いた習慣の問題。

 

 喧嘩=ノータイム顔面強打に至るまでの思考を形成してしまう地方そのものに問題があるのだ。

 

 

「………あ、そういや自己紹介まだだったな!」

 

 

 そんな中で、ふと思い出したようにゴーケンは右手を差し出してに、と笑う。

 

 

「ゴーケン=ラビ=フェネクス!ラビは洗礼名だ!あんたと同じ、賛歌の三剣の入学生!宜しくな!」

 

「あ、君も入学するの!?良かったぁ、オイラこっちに知り合いとか居ないから………」

 

 

 ホッと胸をなで下ろした少年は、背中の大きなバッグを背負い直し、ゴーケンの差し出した手をがっしりと掴む。

 

 

 

 

「_______オイラはアルタ。アルタ=ミアム。一応、特別枠(プレシャス・ワン)に選んでもらった身の上だよ。これから一年、よろしくねぇ、フェネクス君」

 

 

 

☆☆★

 

 

 

 

「おー、らっしゃいねー。入学勲章とお名前、確認するですね〜」

 

「あ、はい!テテシア=マルガレタ=ページ、(ノス)地方のラキリ出身です!」

 

「おー、問題ないですね〜。そのまま奥にどうぞ〜、ページさん。貴方の一年に祝福があらん事を祈りますね〜」

 

「あ、ありがとうございます!失礼します!」

 

 

 ぺこりとお辞儀をしながら、ふわふわとした赤毛と修道服が目を引く少女が門の奥へと消えていく。

 

 門前に椅子を持ち込んで座っている小柄な女性が手を振りながらそれを見送ると、ペラペラと資料を捲りながら再び待機を始めた。

 

 

 

 迷宮騎士学校【賛歌の三剣】。

 

 その広大な学区は、王都マキシの北部一体をほぼ全て覆っていると言って過言ではない。

 

 学区内には戦闘訓練用の広大な訓練場が広がり、学生の為の専用寮も完備。

 食堂はそれ専門の建物が用意され、様々な武器防具にアイテム類、細々した雑品に加えて生活用品や嗜好品も完備した購買棟、卒業後も居座る生徒の多い研究棟など、凡そこの場所で全てが揃うと言っていいだろう。

 

 

「ん〜、結構な人数来ましたね〜。今年は忘れる子も少なくて、シィアンは気分花丸ですね〜」

 

 

 その入口たる大正門、その真ん前に陣取る一人の小柄な女教師。

 偉く間延びした口調のこの女は、紛れもなく賛歌の三剣の職員だ。

 

 

 ▲ 『賛歌の三剣』治癒長兼治癒学教官 △

   【シィアン=ドゥン=ワロンクロン】

 ▽Age:25      ヒーラー/サポート▼

 

 

「早く新入生、みんな会いたいですね〜。そしたらシィアン、今日は早めにお昼行けますよ〜」

 

 

 彼女の今日の仕事は、今期の新入生全員を確かめた上で学区内に案内すること。

 それが終わってしまえば、残りはフリーだ。まだ見ぬ昼食に思いを馳せる。

 

 ほやんほやんとした空気感のまま椅子にポテンと座る彼女だったが、カツンと耳に石畳を蹴る音が響く。

 

 

「………………………」

 

「…………おー、新入生さんですね〜。入学勲章とお名前、確認するですね〜」

 

「…………シャムス=メイザース」

 

 

 現れたのは、灰色のフードを目深に被った青年。

 陽射しがあり暖かい今日、フード付きコートに身を包んだ如何にも怪しげな風貌。

 しかしそれを見ても、シィアンは特に訝しげにするでも無く、淡々と呟かれた彼の名前を確認した。

 

 

 ▲ 『賛歌の三剣』新入生? △

  【シャムス=メイザース】

 ▽Age:18 コマンド/サポート▲

 

 

「おー、確認した取れましたね〜。そのまま奥にどうぞ〜、メイザースさん。貴方の一年に祝福があらん事を祈りますね〜」

 

「…………どうも」

 

 

 フードの奥から濡れた鴉の様な黒い髪と、吸い込まれる様な深い蒼色の瞳。

 メイザースと呼ばれた彼は、軽く頭を下げると案内に従って門の奥へと歩みを進める。

 

 

「あぁ、そういえばメイザースさん」

 

「…………?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ね〜」

 

「…………どうも」

 

 

 ヒラヒラと手を振るシィアンに、小さく礼を言って門を潜る。

 

 

 

 眼前にまず広がるのは、広大な景色と整えられた緑の園。

 そして奥に聳え立つ様に佇んでいるのが、賛歌の三剣本校舎。

 

 これから一年間、彼らが通う学び舎である。

 

 

 

 チラリ、と周囲に視線を向ければ、今期の新入生達が思い思いに過ごしている。

 

 緊張した面持ちで時間の経過を待つ者。

 周囲の人間と情報交換に勤しむ者。

 ただじっと武器の点検に精を出す者。

 友人らしき者たちと談笑する者。

 

 賛歌の三剣は、年間で300名前後を見習いとして育成する。

 軽く見渡しただけだが、既にその殆どが此処に居るだろう。

 

 

「(とは言っても、入学の為の選抜試験があったんだ。合格者のうち、遠方の出はほとんどが合格日のうちから寮に入る………この時間になっても居ないのは、推薦もらった連中位だろうな)」

 

 賛歌の三剣には、大きく分けて4種類の新入生が存在する。

 

 一つが『一般生』。

 単純に選抜試験に合格し、今日この日を迎えているもの。メイザースはこれに該当する。

 

 一つが『黒飛び』。

 選抜試験時点で、他生徒よりも頭抜けた実力を持つと認められた強者達。

 

 一つが『特別枠(プレシャス・ワン)』。

 そもそも選抜試験を受けていない、学校側から請われて入学した特待生。学費の免除など、様々な恩恵が与えられる期待の星。

 彼等は選抜試験を受けていないので、まだ寮に入っていないものも多い。特に遠方からこちらに来るとなれば、他より遅れるものが多いのも例年の事だ。

 

 

 

 そして、4種類の最後の人つ。それが_______『裏口入学組』だ。

 

 

(金払って入学した連中か。多くは無さそうだが………考えても無駄だな)」

 

 

 迷宮騎士を目指す志を持った者達が大半を占めているとはいえ、1部にはそれを望んでいない者もいる。

 迷宮騎士では無く、王家や貴族家の私兵団を目指すものや、大きな商家の護衛兵を志す者。洗礼を受けた神官や教会騎士ならば、聖堂の司祭やその上を目指すという道もある。

 

 その中でも、特にタチの悪い者。

 それが、金だけ払って入学、賛歌の三剣卒業生というネームバリューを求めて入ってきた裏口入学組。

 そもそも合格に足る能力を持ち合わせず、金のある実家に頼って入ってきた面々だ。はっきり言って、入学後の実技では役に立たないだろう。

 

 

 そういった面々を、見極められるか否か。それも大切な要素だと、メイザースはひとり思う。

 

 

「…………あそこか」

 

 

 ふと、彼の足が止まる。

 

 賛歌の三剣、本校舎と大正門の丁度中間ほどに位置する噴水広場。

 水を浄化して巡らせる魔道具を用いた贅沢な代物であり、賛歌の三剣の財を象徴するものでもある。

 

 

 その位置に固まり、特に話す訳でもなくただただそこにいるだけの十数人の人々。

 見た目も、背格好も、武装も全てが千差万別。

 

 共通点は、通常の入学勲章の横に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事。

 

 

「ひぃ、ふぅ、みぃ………黒飛びは全員居るな。特別枠(プレシャス・ワン)は…………少し足らんな。一人……いや、二人か」

 

 

 近くの木に寄り掛かり、軽く噴水広場に居た面々を数え始める。

 

 黒い仮面で顔を隠した黒装束の男に、黙々と長銃をバラして整備している女。

 口元を黒い特殊な魔道具のマスクで隠した少女も居るなど、凡そ周囲からは大きく浮いている。

 

 異様とも呼べる空気感。周囲から浮いているが故に、その張り詰めた空気感が他の生徒をある意味引き締めていた。

 

 

「足りないのは………報告にあったミアム家の末息子か。後は………再生魔導を使う修道女(シスター)のマクレガーか?妙だな、ミアム家の末息子は兎も角として、マクレガーなんて教会が宿でもなんでも用意しそうなものだが………ん?」

 

 

 

 

 ふと、賑やかしい声が耳に届く。

 

 振り返ってみれば、大正門から新しい二人の新入生が入って来たらしい。

 門がガッチリと閉じられた辺り、彼らが最後だったのだろう。

 

 片方の騎士めいた格好の男が、周囲に気さくに声を掛けている。

 それ故、返事をする者も多く、大正門から離れたこの噴水広場まで賑やかしさが聞こえてきたのだ。

 

 

「………胸に三剣の勲章………ということは残りの2人はアイツらか。ミアム家の末息子は報告に通りだが…………もう片方はだれだ?マクレガーより優先する人材なんて居たか?」

 

 

 ふと顎を指で撫でながら、ポツリと呟く。

 

 ガタイは良いし、武装も真新しい物に着られているのでは無く使い慣れたものを着こなしている。

 一定の実力は有りそうだが、かといってマクレガー………アリッサベリーの代わりにわざわざ推薦するような人材には見えなかった。

 

 

「…………だが、マクレガーの代わりならば推薦者はケランドラゴか………能のある男だ、適当な理由では無いはずだが………確認は追々だな」

 

 

 特別枠(プレシャス・ワン)に選ばれる人間は、その名の通り特別な存在だ。

 下手な理由で推薦される様な枠ではなく、賛歌の三剣側から推薦を許可されている教官陣は優秀なもの揃い。

 

 つまりあの騎士のような風貌の彼も、それに足るだけの何かを持っていたのだろう。

 

 

「_______新入生の皆様方〜!これより大ホールへと移動致します!遅れずに着いてくるようお願いします〜〜!!」

 

「………まぁ、考えていても仕方ない。時が来れば、声を掛ければいいだけの話か」

 

 

 歳若い女性教師の声が響き、ゾロゾロと300人の団体が移動を始める。

 

 考え込んで置いていかれるのも馬鹿らしい、とばかりにコートを翻して歩を進め始めたメイザースは、腰のベルトを指先で撫でる。

 

 

「それに…………害になるなら、消せばいい。単純な事だ」

 

 

 にこやかにミアム家の末息子と談笑している少年に向けて、誰にも聞こえない様に小さく呟く。

 

 

 

 それにしても。

 

 

「…………マクレガーが居ない、という事は………他所に入ったという情報も無い。死んだか?陛下に確認を頼むか………あぁ全く、しかし…………」

 

 

 

 

 

 

 

「_______惜しいな。数少ない、■■の候補者だったと言うのに」

 

 

 

 その言葉を最後に。

 

 メイザースは、同期の少年少女の波の中に消えていった。

 

 

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