テンプルナイトは頑張んナイト!   作:ハチミツりんご

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エピソード5 エントランスロビーにて

 

 

 

「本当に失礼した……………ッ!!」

 

「大丈夫だって!そりゃ神官が来たらテンパるのもしゃーねぇ!急に声掛けた俺も悪かった!」

 

「くっ、優しさが痛い………ッ!」

 

 

 _______賛歌の三剣学生寮、エントランス広間。

 

 賛歌の三剣で学ぶ学生達の為に、学校側は入学期間の間、無料で部屋を提供している。

 男女で部屋を分けられており、学生寮で唯一男女が混在できる場所こそこのエントランス広間だ。

 

 入口と直結した、椅子や机などの座って話せるスペースのある大広間。

 管理教官や常駐のスタッフに頼めば有料ながら軽食も出てくるなど、卒業後もここに住みたいと喚く生活力欠如者が続出する程度には居心地いい環境だ。

 

 

 

 常に生命を危険に晒し、現役の平均寿命は二十歳を少し上回る程度………各地の都市にある迷宮騎士学校の卒業生のうち、5割が初年度のうちに死亡。残りの多くも致命的な怪我や四肢の欠損、仲間の死と恐怖による心理的な致命傷によって引退を余儀なくされ。

 残った一握りが、英雄譚とは程遠い血腥い冒険の果てに財を持ち帰る。

 

 それが迷宮騎士。

 栄光の裏にある惨劇を知る者達は、時に迷宮騎士を《鉱山の金糸雀(カナリア)》と評する程には、過酷で残酷な道。

 

 

 然し、金糸雀(カナリア)に当てはまらぬ英傑が居るのもまた事実。

 

 迷宮騎士という業界の先頭に立ち、後続を引っ張っていく人材………最も辛い道程を疑って唄うが如く駆けて行き、後輩達が死なぬ様に助け、育て上げる。

 其れを成す英雄、英傑。

 

 金糸雀(カナリア)に非ず、迷宮という闇の中を切り裂き進む雷鳥(サンダーバード)………その一握りの中の一握りを育成する機関こそ。

 ここ、王都に居を構える名門迷宮騎士学校の『賛歌の三剣』である。

 

 

「うぉっほん!………改めて、余はヴラド=ヴァルプス。役割(ロール)はメインが指揮官(コマンド)、サブが索敵役(スカウト)だ」

 

「俺はゴーケン=ラビ=フェネクス!ラビは洗礼名だ!火母神様の洗礼を受けた教会騎士(テンプルナイト)で、メインが盾役(タンク)のサブが治癒役(ヒーラー)!これから宜しく頼むぜ、ヴァルプス!」

 

 

 笑顔を向け、親交の証として躊躇いなく右手を差し出すゴーケン。

 その態度に僅かに驚いたヴラドは、一瞬悩んだ後に目を細めながらその手を握り返した。

 

 

「(………『当たり』だな。まさか先祖返りに偏見の無い神官が居るとは………富くじにでも当たった気分だ)」

 

 

 『五神教会』による先祖返りに対する弾圧は、はっきり言えば度を超えている。

 洗礼を受けた修道女(シスター)教会騎士(テンプルナイト)の殆どが先祖返りを悪魔であると罵って憚らないし、洗礼を受けていない一般の信徒からも忌み嫌われる。

 

 そして迷宮騎士を志して、或いは勧められて門を叩く神官達は、ほぼ全員がこの例に洩れない。

 即ち、入学時点で『先祖返り』である生徒達のほぼ全てが、五神教会の神官………つまるところは『治癒役(ヒーラー)』の恩恵に預かれないのだ。

 

 

 外に出て石を投げられるならまだ良い方。

 下手をすれば剣を向けられ、北部地方ならば弓矢で射掛けられる事すら日常だ。

 そんな先祖返り達が神官に対して不信感を抱くのはごく自然な話であり、それが相互の不理解へと拍車を掛ける。

 

 結果として、神官側から歩み寄ってくるなんてヴラドにとっては初めて見る相手であり。

 あっけらかんとしたゴーケンの態度が、不思議の裏表を感じさせなかったのも、信頼に泊をつけた。

 

 

「………ヴァルプス?どうした、固まって」

 

「ん、あぁいや………何でもない。これから先、宜しく頼むぞフェネクス殿」

 

「ゴーケンで良いぜ!そっちさえ良けりゃ、洗礼名の方でも構わねぇけど」

 

「ははは、流石に洗礼名は勘弁してくれ。それならゴーケン殿、俺もヴラドで構わん。両親から授かった誇りある名だ」

 

「素敵だな!改めて、よろしくヴラド!」

 

 

 この男なら、背を預けるには充分だろう。

 

 両親から授かった名を、先祖返りの自分の名を悩む素振りも無く素敵だと評するこの神官の事を、ヴラドはそう感じていた。

 

 

「………てか、なんか人少なくねぇか?一応エントランスロビーだろ、ここ」

 

「なんだ、見ていなかったのかゴーケン殿?他の連中の大半は購買棟(こうばいとう)だぞ」

 

 

 キョロキョロと周囲を見渡す相方に、軽く肩を竦めながらヴラドが答える。

 

 

 賛歌の三剣『購買棟』。

 

 迷宮内部に持ち込みやすい食料品や消耗品は勿論のこと、贔屓にしている鍛冶師から定期的に仕入れている多様な新品の武器防具。

 索敵役(スカウト)用のピッキングツールや魔物解体用の小型ナイフ、戦利品を詰め込みやすい大型の背嚢に頑丈な水筒。

 変わり種だと、天候が変化するタイプの迷宮や常に悪天候の状況下にある迷宮で便利な『水反射(カウンタ・アクア)』の魔導術式が組み込まれたテントや外套等、その品揃えは多岐に渡る。

 

 迷宮関連品の品揃えは王都一。

 学区内で大半のものが揃えられ、値段も一定に保たれて高騰する事も稀。

 

 学生達の多くが、明日からの試練の為の必要品を買いに、そんな購買棟へと駆け込んでいるらしい。

 

 

「ほー、じゃあ今は購買棟混雑してんだろうなぁ。どうする?俺らも行くか?」

 

「辞めた方が良いだろうな」

 

「そっか。まぁ一応俺も最低限必要なもんは持ち込んでっし、昼飯用だけ明日の朝に買えば………」

 

「あぁいや、そういう事ではなくてな。今の購買棟に『余が行く』と、面倒事になるからな」

 

 

 『自分が行くと』、という部分を強調したヴラドの言葉に首を傾げ、再び周囲を見渡したゴーケンは腑に落ちた様にあー、と気の抜けた声を発する。

 

 

 このエントランスロビーに姿を見せているのは、ゴーケンとヴラドの二人を除けば10人弱だ。

 

 黒い革鎧を着込み、対比するような白い髪が良く目立つ小柄で作り物めいた美貌の淫魔(サキュバス)

 二振りの短剣を手元に置き、黄色い瞳で周囲を楽しそうに見回す、幼子にしか見えない様な鉱山人(ドワーフ)

 椅子の背もたれに体重を預けながら、灰色の耳と尻尾をユラユラと揺らす猫の獣人(ビースティアン)

 室内だというのに真っ黒なローブで身を隠し、落ち着かない様子で隅に座っている吸血鬼(ヴァンピール)

 苛立たしげに壁を背に立っており、ゴーケンを見ると舌打ちをして顔を背けた狼の獣人(ビースティアン)

 馴れ合わないとでも言いたげに一人で紅茶を嗜む、暗色の民族衣装に身を包んだ森妖精(エルフ)

 

 少し離れた場所では入学式で顔を合わせたティエラとカレリアの二人も姿が見えた。

 ゴーケンが笑顔で手を振ると、カレリアが気付いてヒラヒラと振り返し、ティエラも其れに連れる様にオズオズと小さく振り返した。

 

 

「なーるほど。先祖返り以外が行ってんだな、購買棟」

 

「そういう事だ。下手に顔を出せば、なんと言われるか分かったものでは無い。準備するにしても、明日の早朝だろう」

 

 

 こんな所でも先祖返り差別か、なんて苦々しい顔で呟くゴーケンに、ヴラドは目を閉じて軽く首を振ることで答えとする。

 

 結局の所、ゴーケンが例外なのだ。

 勿論、先祖返りに対して差別意識の薄い人間もいるだろう。個人として接すれば、場合によっては友好的な関係を築けるかもしれない。

 

 然し、人の集まる場所には悪意もまた集う。

 攻撃的な者につられて差別してしまうのが、大多数の人間の性だった。

 

 

「急ぎで必要なもんがあるなら、俺が買いに行くぞ?解体用のナイフとか、ロープやくさび………流石に索敵役(スカウト)用のツールは持ってんだろうけど」

 

「いや、取り敢えず一式は準備している。武器も慣れ親しんだ物を使った方が身のためだろう。我らは初対面、連携に齟齬が生まれるのは必定だ」

 

 

 武器を扱う戦闘において、ゴーケンの様な前衛(フロント)で戦う人間が苦労するのが近接武器同士の連携だ。

 

 一撃当たれば死ぬかもしれない、という緊張感と恐怖の中で、自分の振るう武器が仲間に当たらないように細心の気を使える人間は多くない。

 下手をすれば、敵を斬ろうと振りかぶった剣に仲間がぶつかり、一人で戦う以上の危険をもたらすことだって日常だ。

 

 それが今日出会ったばかりの初対面ともなれば当たり前にお互いの動きに惑う事になる。

 

 

「だぁな。基本は俺が止めてヴラドが殴る、細かい声掛けは必須として、何個か合図決めとくか」

 

「賛成だ。但し複雑にしても咄嗟の時には間違えるだろう、基本の基本だけに絞って3つ4つ程度……………ん?」

 

 

 しかし、ゴーケンは大きな騎士盾(カイトシールド)を主体に立ち回る典型的な壁役で、ヴラドは長柄武器の槍斧(ハルバード)を振るう距離を保った攻撃役。

 互いの仕事がハッキリと分かれており、かつゴーケンとヴラドは双方が傭兵家業の経験者。

 

 互いに潰し合わない様に、思った以上の速度でテキパキと相談を進めていく二人だったのだが。

 

 

 不意に、ヴラドの視線が外れた。

 

 彼の視線を追うように寮の入口へと目を向ければ、どうにも購買棟へ買い物に向かっていた面々の一部が戻って来たらしい。

 

 

「…………最悪」

 

 

 ボソリと、入口近くにいた民族衣装の森妖精(エルフ)が聞こえないように悪態をつく。

 

 何故彼女がそのような態度をとったのか。

 それは、購買棟から戻ってきた人間が身に付けていた装飾品を見れば自ずと理解出来るであろう。

 

 

「………ハッ、『モドリ』の連中は随分余裕そうだな。いやはや、人ならざる力を振り回せて羨ましい」

 

 

 開口一番、侮蔑を込めた笑みでそう言い放ったのは大振りの騎士剣を背負った中背の青年。

 右腕部のみに渦巻く海流の様な装飾の施されたアシンメトリーの鎧に身を包み、胸当てには特徴的な紋章_______二振りの【三叉槍(トライデント)】を交差させた大男の刻印が彫られている。

 

 見るものが見れば、それだけでこの青年が五神教会の信徒だと分かる。

 それも、五神の中でも武闘派の多い事で有名な派閥。【水怒(すいど)神】の洗礼を受けた、教会騎士(テンプルナイト)だ。

 

 

「それとも、既に荷物纏めてご帰宅予定か?懸命だ、テメェらの椅子なんて要らねぇしな。まっ、帰るとこがあるならの話だが………」

 

「………ケンカ売ってんの?」

 

 

 はなから興味など無い、とでも言いたげにそう挑発するその男に、真っ先に噛み付く人影が一つ。

 

 先程から、入口付近で一人紅茶を楽しんでいた民族衣装の森妖精(エルフ)だ。

 彼女は徐ろに剣を手に取って立ち上がると、その濡れた刃先の如き瞳を吊り上げて男を睨めつける。

 

 

「おおっとこりゃ失礼。学園から去るのに邪魔だったか?直ぐに退いてやろう」

 

「口だけ達者な教会野郎(テンプラー)が吠えるじゃない。その分の栄養、今になって必要なものを買い揃える様なちっちゃいちっちゃい肝っ玉に分けてあげたら?」

 

 

 売り言葉に買い言葉。

 

 終始バカにした様な態度を崩さない男に対し、森妖精(エルフ)の女も嘲笑を浮かべて煽り返す。

 次第に男の後ろには似たような侮蔑感情を持った人間達が集まりだし、逆にエントランスロビーにいた先祖返りの多くは森妖精(エルフ)の女と同じ様に殺気に似た感情を男へ叩き付けていた。

 

 

「お口が悪いねぇ、耳長(ミミナガ)女。ママとパパに教わらなかったのか?………あぁこりゃ失敬!()()()()()んだから教えて貰えるわきゃねぇよなぁ!!」

 

「_______その首要らんと見たぞ、このクソがッ!!」

 

 

 先祖返りは、特徴の出ていない両親の間に突発的に生まれるものが全体のほぼ全てを占めている。

 そして先祖返りは、一般的に忌み嫌われる存在だ。

 

 故に、殆どの先祖返りの子供達は両親に捨てられる、或いはそれに似た体験をしている場合がほとんどであり。

 

 『親』というワードは、大半の先祖返りに対する激昂剤である。

 

 

 左手で掴んでいた剣の柄を、親指で弾いて浮かせる。

 そのまま男が反応するより速く、ごく僅かな動作で右手で剣を抜き払う。

 

 狙うはその首、一閃。

 

 誰よりも認められたくて、磨き続けてきたその瞬きは。

 不意をついた男に反応すら許さず、首から上に赤い華を咲かせんと銀色が煌めき_______

 

 

 

「_______これ以上はダーメ」

 

 

 鉄と骨、肉を裂く感触が剣に伝わると共に。

 

 橙色の首飾りを揺らした、青年の手を中程まで斬り裂いて留まった。

 

 

「ッ!?」

「んなっ………!」

 

「どっちもやり過ぎだ。迷宮騎士の見習いが刀傷沙汰なんて起こしたら退学どころか法の裁きを待つ身になるぞ?」

 

 

 突然の乱入に双方が面食らっている中で、その青年………ゴーケンはまるで世間話する様な気軽さでそう咎めると、手のひらを裂いている剣を顔色一つ変えずに引き抜く。

 

 

「水怒の兄弟。なんの結果を示さずに他者を愚弄するのがアンタらのやり方か?」

 

「…………あぁすまねぇ、火母の兄弟。お前さんを傷付けるつもりじゃ無かったんだ、許してくれや」

 

「俺の傷なんかどうだっていい。今この行いを神の御前で胸張って伝えられるのかって話だよ」

 

 

 五神の一柱、水怒神は苛烈な神である。

 

 水神であり海神、更には争いや闘技の神であるともされる一方で、裁きや平等、幼子の守護者としても語られる監督者であり庇護者でもある。

 

 

 そんな水怒神の信徒は、徹底的な実力主義。

 結果をだせばそれがどれほどの若輩者、どれほどの被差別民であろうとも垣根は無く敬い尊ぶ。

 信徒の中には互いに妥協点の見つからない争いが起こった際に、水怒神の前で決闘の誓いを行った後に当人同士の戦いによって決める習わしもある程だ。

 

 決闘で死そうとも、相手を侮蔑することは無く誇り高き戦士として祀る。

 それこそが水怒神のやり方であり、誇りでもあるのだ。

 

 

 …………勿論、『先祖返りの者は除く』という枕詞は必要だが。

 

 

「_______あ、あの!あの!!」

 

 

 そんな中、不意に当人達の下から声が掛かる。

 

 何事だと首を下に向ければ、そこにはフワフワとした赤髪の修道女が不安げに両者を見上げていた。

 金色の瞳を僅かに潤ませているその少女が胸に提げていたのは、光り輝く輪の傍で佇む老人の刻印…………つまるところは、五神が一柱、天光神の信徒を示している。

 

 

「あの、騎士(ナイト)同士の争いなど、五神のどなた様も御喜びになりません!ですので、あの、その、仲良くぅ…………」

 

「あぁいや、修道女(シスター)!喧嘩じゃねぇんだ、じゃれあってただけ!大丈夫大丈夫!なっ!」

 

「…………まぁ、止められてなお突っかかるほど無粋では無いわよ、私は」

 

 

 オドオドとしながらも喧嘩の仲裁に現れた彼女を安心させるかのように、目線を合わせながら笑顔でゴーケンが対応。

 

 それを見た森妖精(エルフ)の女も、剣を鞘に収めて小さく頬を掻いた。

 

 

 唯一言葉を発しなかった水怒神の信徒たる男も、ひとつため息を吐いてからガシガシと後ろ手で頭を掻きむしってからゴーケンへ向けて「おい」と声を掛ける。

 

 

「アンタ、名前は?」

 

「ゴーケン=ラビ=フェネクス。火母神様の洗礼を受けた身の上だ」

 

博愛(ラビ)ね………俺はアクエリア。【ハウゼン=アクエリア=レオドゥーロ】。我が神水怒の加護を頂いた身だ。騎士(ナイト)ラビ、先程は忠告感謝する」

 

「それが貴方の為になったのなら問題ねぇよ、騎士(ナイト)アクエリア」

 

 

 ▲    賛歌の三剣 新入生    △

 【ハウゼン=アクエリア=レオドゥーロ】

 ▽Age:17    マジシャン/コマンド▼

 

 

「悪ぃが、実力を見せつけられるまで俺はモドリと仲良しこよしとするつもりはねぇ。謝って欲しけりゃ力ずくで示すんだな、耳長」

 

「アンタの謝罪なんか要らないわよ。とっとと去ね、教会野郎(テンプラー)が」

 

 

 噛み付くような森妖精(エルフ)の女の言葉にも反応すること無く、ハウゼンは足音を鳴らしながらその場を去っていく。

 

 その様子を見てほぅ、と一息ついたゴーケンだったが、ほぼ同時に両手をクイクイと引っ張られる。

 視線をそちらに向ければ、天光神の修道女と民族衣装の森妖精(エルフ)の二人が彼の手を引いていた。

 

 

「ゴメンなさい、助かった。間に割って入ってくれなかったら、此処を去らねばならなかったかもしれない」

 

「なーに、勝手に割り込んだだけだしなぁ。そんなに気にしなくっていいぞ!お互い合格したら、そん時改めて仲良くしてくれりゃ」

 

「………変なやつね。教会野郎(テンプラー)らしくないわ」

 

 

 ニパーッと明るい笑みを見せるゴーケンに、若干気圧されながら彼女が呟く。

 

 先程のハウゼンの対応が、大体の信徒の対応だ。

 この様に先祖返りに笑顔を見せ、差別感情を浮かべない教会出身者の方が稀有なのである。

 

 

「そっちの修道女(シスター)も、その………ありがとう。貴女にも、助けられたわ」

 

「ほぇ?………い、いえ!!天光神様に仕える身として当然のことをしたと言うか!ただ喧嘩はヤダな〜………と思ってやっただけです!感謝される程では………」

 

「いや、マジで助かった!ありがとな、えっと………」

 

 

 ぺこりと頭を下げる森妖精(エルフ)の女に、天光神の修道女(シスター)はブンブンと首を横に振ってなんということでも無いと意志を告げる。

 彼女にとって仲裁はすべきことで、感謝という見返りを求めた訳でもない。

 

 しかし助かったのは事実、礼を言おうとしたゴーケンが言葉に詰まったのを見て、自己紹介もしていなかった事に気が付く。

 

 んんっ、と軽く咳払いをしたその小柄な少女は、慈愛の笑みを浮かべながらシャンっ、と背筋を伸ばした。

 

 

「失礼致しました。私はマルガレタ………【テテシア=マルガレタ=ページ】と申します。見ての通り、天光様の末席に身を置かせて頂いている修道女(シスター)です。これからよろしくお願いしますね、騎士(ナイト)ラビ」

 

 

 ▼   賛歌の三剣 新入生   ▽

 【テテシア=マルガレタ=ページ】

 △Age:15   ヒーラー/サポート▲

 

 

「宜しくな、修道女(シスター)マルガレタ!お互い残れるといいな!」

 

「はい…………もう…………自信が…………い、いえ!天光神様に仕える身です!弱音は吐きません!!…………吐きません…………」

 

「…………大丈夫、ページさん?」

 

「大丈夫ですぅ……………」

 

 

 半分シナシナになりながら大丈夫だと告げるテテシアの姿はどこからどう見ても大丈夫では無いのだが、弱音を吐くのは天光神に申し訳ないという感情があるのだろう。

 あまり深くは突っ込まないことにした森妖精(エルフ)の女も、改めて二人に向き直ると胸の前に剣を横に掲げて笑みを浮かべる。

 

 

「じゃあ、私も。【フェイリィ=シェン】です。見ての通り森妖精(エルフ)の先祖返りで………特技は剣術と体術。もしこの先組むことがあったら、攻撃手(ダメージディーラー)は任せて。…………あなた達とだったら、上手くやれそう。これから宜しくお願いね」

 

 

 ▼     賛歌の三剣 新入生     ▽

    【フェイリィ=シェン】 《森妖精(エルフ)

 ▲Age:16 ダメージディーラー/ダメージディーラー△

 

 

 流れるように腰に剣を戻したフェイリィに、思わずゴーケンとテテシアが拍手を贈る。

 この程度のことで拍手を贈られたのが慣れないのか、若干気恥しそうにしているフェイリィ。

 

 

 然しハッとした表情を浮かべた後、申し訳無さそうにゴーケンの方へと向き直る。

 

 

「フェネクス、ゴメンなさい!狙ってないとは言え、私の剣が貴方の手を裂いてしまって………!」

 

「え゛っ!?な、騎士(ナイト)ラビ!!お手手!お手手を見せて下さい!!」

 

「んぉ?騒がなくても平気だぞ、ほら」

 

 

 アワアワとテテシアが手の傷を確認しようとしたが、何のことも無いようにゴーケンが彼女へ手のひらを見せる。

 

 それを見て、テテシアとフェイリィは虚を突かれる事となった。

 

 

「_______()()()()?」

 

 

 確かに、手甲は斬られた様に傷付いている。

 

 しかしその傷口から見える彼の手は、特に斬られた様子も無く、血も出ていない。

 軽くさわさわとテテシアが指で突くが、問題無く繋がっているように見えた。

 

 いや、問題無く繋がっているというのも間違いだろう。

 

 

 『初めから傷なんて無かった』。

 それが正しいとしか、言えないのだから。

 

 

「ほら、平気だろ?」

 

 

 傷が無い事を見せたゴーケンは、くるりと踵を返すと二人に向けて笑顔でヒラヒラと手を軽く振る。

 

 

「んじゃ、相方と明日の為の打ち合わせの途中なんだ!修道女(シスター)マルガレタもシェンも、お互い頑張ろうぜ!」

 

 

 先程と同じような笑みを見せながら、ヴラドが待つテーブルへと戻っていくゴーケン。

 

 そんな彼の背を見ながら、フェイリィは一人疑問符を浮かべていた。

 

 

「(_______()()()()()()。流石にそれを誤認するほど鈍ってはいない)」

 

 

 先程の、抜き放った一閃。

 

 確実に自らの放った一撃は、手甲を斬り裂いて肉と骨を寸断した筈だ。

 鉄から伝わる硬さと柔らかさ、人体特有の嫌な感触。それを間違える程、フェイリィの積んできた道のりは甘くは無い。

 

 

 ならば何故、彼は怪我をしていなかったのか。

 

 

 

「…………何者?」

 

 

 確実に良い人だ。先祖返りへの差別感情も無く、人柄も善良そのもの。

 

 故にこそ。

 なんの躊躇いも無く自らの腕を斬らせ、顔色一つ変えないその精神性と、瞬きの間に修復した彼の肉体。

 

 何か得体の知れないものに触れた気がして。

 

 不思議な程に、寒気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「怪我をしたのか!!血は!!?!?」

 

「あ、悪ぃヴラド!血は出てねぇんだ、飲むなら首から飲むか?」

 

「違う!!!余は確かに人から血を分けて貰うことはあるが、傷は嫌いだ!!手のひらなんて想像しやすそうな部分が半分も斬れてみろ、余は食欲よりもショックが勝って失神する自信があるぞ!!!」

 

「吸血種族に有るまじきショック耐性だな!!」

 

 

 なお、戻った際のヴラドがこの日最も煩かった。

 

 

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