感想、活動報告のコメント等、全て読ませていただいております。
時間がある時に必ず返信致しますので、どうか今暫くお待ちください。
「失礼致します、統括長」
数度のノック音の後、ヴィクトールが扉を開けて部屋に足を踏み入れる。
日が昇り始めたばかりの早朝。
市井では朝食を買いに来る市民達を相手にする為、パン屋や軽食を扱う店のコック達が慌ただしく商売を始める時間だ。
そんな時間にも関わらず、皺ひとつない教官用の制服をきっちりと着こなすその姿にこそ、ヴィクトールの性格が見える。
「やぁヴィック、おはよう。君も早いね」
「おや、ケランドラゴじゃないか。今日も偏屈そうな顔だねぇ」
軽く手を挙げて挨拶を返して来たのは、賛歌の三剣のトップ、統括長のモラクス。
そして、その隣に居座るもう一つの人影を見たヴィクトールは、面倒臭そうに小さくため息をつく。
「………
「え、仮にもって言った?」
「おや、お堅いねケランドラゴ。なぁに曲がりなりにもこのジジイは統括長さ、最低限の礼は守るとも」
「曲がりなりにもって言った?泣くからね、ジジイの涙腺は脆いからね?」
ジャムの練り込まれた白パンをモッシャモッシャと口に運ぶ歳若い女性。
その姿を見たヴィクトールが注意すれば、なんて事ないように肩を竦めてそう答える。
こう見えて、賛歌の三剣教官勢の中でもかなりの若手………しかも、ある意味で
▲ 『賛歌の三剣』指揮学担当教官 △
兼王都防衛軍『軍将』
兼女王親衛隊『ブラックガレオン』所属
【デゥドラ=ヴァラ=キーン=オロバス】
▽Age:22 コマンド/コマンド▼
「………コレが王都防衛軍の最高指揮官とは、未だに信じられないというか………」
「あぁ、私も信じ難い。如何にすれば白パンがこんなにも柔らかくなるというのか………やはり職人技とは素晴らしいものだな」
「テメェが軍将だって事が信じられねぇっつってんだろ、シバくぞショタコン女」
「ハッハッハ!!そちらの口調の方が可愛げがあって良いぞ、ケランドラゴ!」
ソーレイズ王国の軍部の人間は、大きく分けて二つ。
一つは、各地の街で市民の守護や犯罪者減少のための啓発活動、地域との交流を主な仕事とする『衛兵隊』。
彼等は所謂お巡りさんの様な役回りであり、戦いよりも街の人々を安心させる事を目的としている。
そしてもう一つが、『防衛軍』。
突発的に『
その防衛軍の中でも最も重要な集団、それが女王の直臣として仕え、防衛重要度の高い王都の守護を任された『王都防衛軍』。
その一切の権限を取り仕切っている者こそ、今この場でゲラゲラと笑っている女、オロバスだ。
「陛下も幾ら才能があるからって、こんなのを取り込まなくても…………」
「陛下は能力至上主義だからねぇ。まぁ、囲いたくもなるだろうさ。なんたって超貴重な
齢22にして、軍部における事実上のトップに君臨したオロバスは、非常に貴重な才能を持ち合わせていた。
即ち、未来予知。
予知能力自体は、さほど珍しいものでは無い。
予知魔法を学んだ人間ならば、大なり小なり出来るものだ。
しかしその精度は人によってマチマチであり、高い者でも『向こう一週間の天気が八割当たる』程度、酷い場合は勘に任せた方がマシな予知者も居る。
そんな中において、オロバスの予知能力は『向こう一週間に限ればあらゆる事柄が100%予知出来る』という破格の能力。
情勢の目まぐるしさや事態の大きさ、見通したい期間等によって精度は左右されるが、基本的にオロバスが見た未来は何もしなければ確実に起こる未来となる。
その予知能力の高さと、本人の指揮官としての才能。
それ等を得難いものと認識したこの国の女王は、早々に彼女の実家を継がせて親衛隊へと囲いこんだ。
「陛下からの信任も厚き懐刀ですとも、損をさせることはありませぬ」
「………信頼はしていますとも、性格は兎も角能力は」
事実、この女の実力は本物だ。
迷宮騎士の経験が無いにも関わらず、
迷宮騎士における指揮は、軍を率いるという彼女の得意分野とは異なる。それを加味した上で、彼女以上の適任が居ないほどにオロバスの指揮官能力はずば抜けている。
それはヴィクトールも認めるところではあるのだが、如何せん性格の相性はどうにもならないのだ。
「それで?統括長のジジイに連絡事でもあるのかい、ケランドラゴ」
「デゥドラ、君ほんっと容赦ないよねぇ………」
「………まぁ、確認ついでの軽いものですけどね」
佇まいを正したヴィクトールは、先程までの砕けた雰囲気からは打って変わって教官としての空気を身に纏う。
「本日早朝より《腐敗の大聖堂》を解放、試験を開始。既に十数組が
「報告ありがとう。『
「ワロンクロンが作成し、受け取った組から順に迷宮に入れているので問題は無いかと。マルヤルさんも警護についているので、万が一中から何か出てきても対処は容易です」
術者が設定した一定の条件を満たすと、特定地点へと戻ってくることが出来る魔法『
安定して使いこなす為には王国指折りクラスの実力と魔法への知識の深さが求められ、その割には『帰還場所はその魔法を使用した地点』『他者に使用する為にはその個人を肉体的に熟知していなければならない』といった面倒な条件が複数存在。
使用中は術者の魔力を一定量持っていってしまう等余りにも使い勝手が悪く、基本的に『優れた魔導師が死亡を避けるために自分自身に掛けておく保険』でしか無い。
それを特殊な鉱石に込めて安定化、心得の無い物でも条件を満たせば帰還させられるマジックアイテムへと昇華させた才媛。
それこそが、賛歌の三剣【治癒長】の地位に座る、間延びした口調の女。ワロンクロンである。
「………前々から思っていたんだがワロンクロン女史って色々とおかしくないかい?陛下もラブコール送ってるよね、確か」
「そりゃ王家一門からも五神教会からも引き抜かれまくってる子ですからね。本人は『嫌ですねー』の一言で全部蹴ってますけど」
「うっわ声真似全然似てない」
「おろし金で削るぞチビ」
「ヴィック、ステイステイ」
眼鏡を指で押し上げながら青筋を浮かべるヴィクトールを宥めながら、この二人も出会ってから変わらんなとモラクスは苦笑する。
とはいえ、報告の場所で下手に引っ掻き回すのは好ましいものでは無い。
それを込めてオロバスへと視線を向ければ、肩を竦めながら口元に指を当てる。
静かにしていますよ、という意思表示だ。
「………とはいえ、今年は出るかなぁ………『初日合格者』」
「一昨年も昨年も、一番早くて4日目合格でしたからね。難しいのでは?」
5日間という期間の中で、5階層まで辿り着き、証を持ってくる。
一日につき1階層、それだけ聞けば無理のない試験内容に見えてくるだろう。
然し、実際のところ新入生の身で迷宮に潜るというのは半ば自殺行為だ。
二人組みであるという事を加味すれば、初見です1階層突破出来れば及第点。5日間で、3階層を越えられれば褒めた物だ。
昨年も一昨年も、5階層まで辿り着いて証を持ち帰った組は全体の2割と少し。
一番早い組でも、4日目の日暮れ頃がクリアタイムだ。
初日合格なんて夢のまた夢、ヴィクトールからすればそう口にせざるを得なかった。
「おや、予知しようか?」
「こういうのはちゃんと経過も含めて見るのがいいのさ!分かって無いなぁデゥドラ」
「結果良ければそれでいいじゃないか。歳食うと無駄に感情的になって困るね」
「ねぇ今日なんかいつもより辛辣じゃない?」
ハッハッハ、と笑うオロバスの隣で小刻みに震える統括長を見ながら、ヴィクトールは眉間の皺を揉んでため息をひとつ。
「(_______まぁ、本当にどうなる事やら。迷宮内部で『
生徒の死亡は、はっきり言って仕方の無い面がある。
此処は迷宮騎士の未来を担う人材、ひいてはソーレイズという国の需要を支える人材の育成を担う機関だ。
過保護に育てた挙句、そこそこの強さの卒業生を大量に送り出すというのは賛歌の三剣の仕事では無い。
仮に今年度の半数が死亡しようと、残り半数が【黄金】や【黎明】といった上位階級になってくれれば育成は大成功。
賛歌の三剣に求められるのは人材の量ではない。
絶対数が少なくなっても、揺るがない質が求められるのだ。
「(_______五神よ、どうか彼等彼女等に、僅かばかりの祝福を)」
とは言っても、これから教える生徒達に好き好んで死んでほしいはずも無く。
無事に終わればいいのだが………と。
ヴィクトールは柄にも無く、神に祈った。
☆☆★
「_______装備品は?」
「互いに完璧だ」
「灯り用のランタンとスカウトツール」
「余の腰に備え付けてある」
「昼飯と水」
「互いの分は自分で、余分量はゴーケン殿が背負っている」
「やる気」
「滾っている」
指差し確認、互いに抜けが無いかの最終チェック。
いくら完璧に準備したと思っていても、ふとした忘れがないとは言い切れない。
故に互いに声を出して確認し合いながら、ついでに『何が何処にあるのか』を共有する。
「うっし、完璧!なんか危なくなったら戻ってこれる石も貰ったし、万端だな!」
「今日の目標は第三階層。どれだけ余裕が残っていても、そこに到達した時点で撤退する。反論は?」
「昨日話し合っただろ?大賛成だよ」
地下とは思えぬほどに、魔力を光に変換する壁掛け灯篭に照らされたその場所。
空間の真ん中に、青く奔る稲妻が如く。
不気味さを漂わせるそのヒビ割れの前で、二人の男は互いに拳を打ち合わせる。
「索敵、当てにしてんぜ
「こちらもせいぜい頼らせてもらうさ、
一歩、同時に。
意識そのものが吸い込まれるような錯覚と、視界が歪み_______
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
難度:E- 推奨人数:4人
嘗て笑いあった場所
祈りを共に捧げ合った家
砕け 朽ちて 侵され 哭いた
此処は祈り場
有り得ざる救いに縋った
愚か者達の
我が
《腐敗の大聖堂》
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
「_______っとと…………!」
たたらを踏む身体をグッと堪える。
厚く重ねられた重装の革鎧は思っている以上に動きを鈍らせ、腰の剣と背に負った騎士盾は容易にバランス感覚を崩す。
『重装備で十全に動く』。それ自体が単純ながら非常に御しにくい、
たったこれだけでたたらを踏むなど、気が緩んでいる証拠だと頭を振って思考を整える。
「…………コレが迷宮への転移かぁ………うお、頭ぐわんぐわんする!」
ゴンゴン、と側頭部を軽く叩きながら顔を顰めるゴーケン。
渦に飲み込まれる様な、一瞬で遠くまで運ばれるような、言葉にし難い異様な感覚。
迷宮への突入は、時に酷い酩酊感に似た不快さを与える。
【迷宮酔い】と俗称されるそれを初めて味わった彼は、慣れないうちはキツイなと独りごちる。
「おーいブラド、生きてっか?」
共に迷宮へ足を踏み入れた相方の安否を確かめようと、振り向いた先に居たのは。
「もうむり」
「ブラドォォォォォーーーッ!!?」
顔を覆い隠すマスクを抑えて小さくなる相方の姿だった。
「おいぃぃぃぃっ!?入口も入口だぞ!?入学前に迷宮酔いへの耐性試験ってやつやらされただろ!アレどうやって突破したんだよ!!」
「すごくガマンした」
「我慢出来てえらい!!!」
さすさすと背中を擦りながら、背中の騎士盾を腕に嵌め込んで周囲を警戒するゴーケン。
元々索敵役を担うはずだったヴラドがこの状態だ、仮に戦闘になったら逃走出来るかも怪しい。少なくとも、彼が万全に復帰するまでは此処で立ち往生だ。
せめて落ち着ける場所を、というのが本音ではあるが、この状態で相方を無理やり動かす方が酷だろう。
「う、っぷ………あ、安心しろゴーケン殿。余は確かに迷宮酔いが酷いくそざこナメクジ役立たずだ」
「酔いなんて誰でもなる!俺はお前がコンビで嬉しいぞ!」
「優しさは時に何よりも深く心を抉る。余、学んだ」
トンチンカンなやり取りをするゴーケンを他所に、ヴラドは指先を地面に
「確かに今の余は仕事が出来ないが………
沈みこませたのは地面に非ず。
ヴラドは地面に映る自らの影に指先を沈ませると、ゆっくりと影を纏わせながら引き抜いていく。
影の中から呼び出されたのは、数匹のドス黒い
一際大きく、血のような紅い眼をした個体がひと鳴き。それに合わせて、まるで蜘蛛の子を散らすように迷宮の中を飛んで行った。
《眷属招来》。
【
自らの影から眷属を呼び出し、従える事で様々な作業を肩代わりさせられる。
代償として喉の乾きを覚え、招来した眷属の数や質によって一定量の血を啜る必要があるのだが………ヴラドからすれば、これは血を必要とするレベルでもないようだ。
「おぉー、複数呼ぶとかやるなヴラド。《
「《
壁に背を預けながら、深く呼吸をして体調を戻そうと奮闘するブラド。
体力温存の意味でも、初めての迷宮探索を慎重に行う為にも。即座に適解を選んでみせた彼の手腕の高さは、この一幕だけである程度察せられる。
《黒飛び》かつ傭兵経験者。
その肩書きは、伊達では無い。
なお近くの壁まで死ぬ気で這って移動し、ヨロヨロと壁に掴まりながら何とか立ち上がった姿は控えめに見ても敗残兵のソレ。
先程高らかに飛翔した《害する眼》を思い浮かべたゴーケンは、『どっちが眷属か分からんな!』という言葉をそっと呑み込んだ。
「ほら、水飲んどけ。あと目ェ閉じてろ、警戒は俺がやっとくから」
「済まない………本当に済まない………」
「いいって。迷宮騎士でも傭兵家業でも、助け合わなきゃやってけねぇだろ」
荷物から水筒を取り出しヴラドに手渡すと、ゴーケンは少しその場を離れた通路方向へと意識を向ける。
古びた石造りの壁に、青地に黄色で描かれた朽ちかけの垂れ幕。
見覚えの無い紋様だ。少なくとも彼の信ずる火母神や、五神に類するものでは無い。
廊下には錆び付いた燭台に溶け折れたロウソクが刺さり、燃えていないにも関わらず視認出来る程度には辺りを照らし。
不気味な程に静かな廊下は、ボロボロの絨毯が却って石畳の冷たさを際立たせていた。
「(青地に黄色………見た事は無いけど、明らかに雰囲気は教会とかのソレだな。それがボロボロ、生気も無し………なるほど、確かに《腐敗の大聖堂》だわこりゃ)」
空間の裂け目から入って一転、綺麗で整っていた賛歌の三剣の地下室とは比べようにならない程に古ぼけた場所。
迷宮が地上と地続きでは無く、全く繋がりも無い事くらい一般知識として知ってはいる。
だが実際にこうして当事者になると、裂け目に吸い込まれただけで全く違う景色の場所に連れてこられる違和感が何とも気持ちの悪い物だ。
古くなった布や石の匂いに、埃が混ざってどうにも不快だ。
これが続くとなると、気が滅入る。迷宮で変な病を貰ったという話は聞かないが、次からは口当て様の布でも持ってくるべきか。
そんな風に思っていたゴーケンの元に、コンっ、と柄を地面に突く音。
次いで布が擦れ、何かが立ち上がる音が届く。
言うまでもなく、迷宮酔いにやられていたヴラドだ。
「悪いな、ゴーケン殿。もう大丈夫だ」
「いけるか?まだ無理そうなら早めに言えよ、索敵役が体調不良で敵さん見逃したとか洒落にもならねぇし」
「なに、それくらい心得ているとも。サブとはいえ、余も
そう言って
この二人の役割は、幸運な事にきっちりと分かれている。
ゴーケンは鈍器に近い片手剣に、大柄な
ヴラドは両手で
出会ったばかりの両者で複雑な連携をこなす確信も無く、下手を打てば危険すら招きかねない。
「前は任せたぞ。何か気が付いたら、遠慮無く言ってくれ。判断は余が行う」
「はいよ。どの敵を抑えるのかは、逐次口に出すわ。優先したいヤツいたらなるべくそっち行く」
故に、役割は固定。
ゴーケンは荷物の大半を背負った上で常に最前に立ち、敵の行動を阻み続ける
ヴラドは索敵に注視しながら、戦闘では
荷物運びや、敵の攻撃を一身に受け止める肉体面の負担をゴーケンが。
逆に索敵や選択の決定等、精神的な負担の大きいものをヴラドが。
それぞれ担当する、この迷宮探査における
「………良し。取り敢えず右手方向に進むぞ、余の眷属達も、近場に何も居ないと報告をくれている」
「あいよー、了解」
ヴラドの指示に合わせて、ゴーケンが先んじて廊下を歩み進んでいく。
そんな場所での探索において重視されるのは、当事者達の肌感覚。第六感と呼ばれるものが、何より貴重な判断材料となる。
故に、本来なら純人間よりも肌感覚の鋭い
二人しかいないメンバーで、わざわざ軽装の者を前衛に置くわけも無い。万が一、敵を捕捉し損ねて不意打ちを受ければそれだけで崩壊しかねない綱渡りだ。
コン、コンという石畳に響く靴音。
特にゴーケンは重装備であり、
「悪いな、音邪魔だろ」
「ゴーケン殿は荷物の大半を持っているのだ、靴音が鳴るのは当然の事。この程度で索敵を損ねる様な奴は
挙げられた左手に合わせ、ピタと止まる。
剣の柄に手を掛け、ゆっくりと引き抜く。
鈍い鉄色が淡い光を反射し、重苦しく輝いて。
剣というには肉厚な、鉄の棒に近いそれを抜き払ったゴーケンは、騎士盾を嵌め込んだ左腕を前に出しながら半身に構える。
ゆっくりと地面にしゃがむヴラドは、目を瞑りながら石畳に触れ、壁に耳を当てる。
数度指で石畳を叩いた彼は、一つ息を吐いて言葉を紡いだ。
「…………金属装備、だが妙に軽い上に空洞音がする。
「げっ、
顔を顰めるゴーケンに、ヴラドも心底同意するように首を縦に振る。
成人男性並の力と、肉が無い故に想像以上の身軽さを併せ持つ厄介な敵であり、見た目の貧弱さに騙された新人の傭兵が餌食になる事も少なくない。
更に、墓地の様な死体の集まる場所なら街中でも平然と発生する面倒な生態の持ち主で、ある意味傭兵達の糊口凌ぎに一役買っていたりする。
武器防具も持たない素手状態で現れる最下級の【
一端の防具に身を固めた【
金属製の武器防具で全身を固めた【
並の騎士と同等以上の装備に身を包み。
痛みを顧みず、怪我も死も恐れず。
重装備に似合わない身軽さで襲いかかって来る、迷宮外なら最上級の扱いを受ける敵。
それが複数匹集まって連携してくる。
【
「ヴラド、正直戦いたくねぇ。入って早々出てきていい強さじゃねぇよ、割とマジで」
「同感だ。このままだと鉢合わせる可能性もある………そこの玄室に入ろう。何が居るか分からんが、通路で連中にかち合うよりマシだ」
想像よりも遥かに強い敵の出現に、迷い無く回避を選択する二人。
仮にゴーケンと組んでいるのが攻撃性能の高い生徒………それこそ入学式で知り合った、
しかし共に組むヴラドは、索敵や状況把握など様々な状況で均等に力を発揮する万能型。
戦いに特化した人物では無く、攻撃力に乏しいゴーケンとの二人では流石に相手取る事は出来ないだろう。
まぁそもそもの話、ヴラドが居なかったら捕捉出来ずに連中とかち合う可能性が高いのだが。
「中どうだ?」
「………少なからず動いているのはいない………入った瞬間に
古ぼけた、そしてその割にはやたら頑丈な木扉。
そこに耳を当てたヴラドは、少なくとも動いている物は無いと頷いた。
【玄室】。
本来であれば死体安置所を意味する言葉なのだが、迷宮においては些か皮肉めいた意味が込められる。
迷宮に必ず存在する、木製扉の小部屋。
行き止まりのその部屋には、敵が潜んでいることもあれば、宝箱といったお宝が無造作に置かれている事もある。
常に危険が伴うものの、その危ない魅力に取り憑かれた迷宮騎士が室内へと誘われ、そのまま帰って来ない場所。
迷宮騎士の死に所、とどのつまり死体のある場所。
そう言った意味から、何時しかこれらの小部屋は【玄室】と呼ばれるようになった。
「まっ、時間もねぇ。開けるか?」
「あぁ、警戒だけはしておいてくれ。息を殺して潜んでいるやつがいるかもしれない」
「おっけ、んじゃ行くぜ………3、2、1ッ!!」
万が一不意打ちで攻撃されても受け止められる為に、ゴーケンが盾を構えながら突撃。
その背後にピッタリ着くように玄室へと入ったヴラドは、外の敵が入って来ないようにすぐさま扉を閉めた。
中に広がっているのは、埃にまみれた広い部屋だった。
部屋の中央には無地の絨毯が敷かれ、古びたテーブル掛けが掛けられた長机や複数の椅子、ボロボロの本が並んだ本棚。
端の方には2段ベッドが複数個並んでおり、ぬいぐるみらしいものが飾られているのも見受けられた。
「………暗いけど敵影無し。えらく寝床が多いな、長机もあるし…………孤児院の子供部屋か?」
「迷宮は意味があるように見えて不規則で無意味なものも多い。あまり深く考えても骨折り損であるぞ」
ひとまず敵がいないことに息を吐いたゴーケンの呟きに、
実際、迷宮内では構造的におかしな造りになっていることもままあるものだ。
食堂の裏に墓地がむき出しで存在したり、生い茂る林の中に肉食系の魔物の巣があったり………と、首を傾げるような場面も存在する。
仮に研究者に類する者なら考察を重ねることも出来るのだろうが。
あくまでゴーケンとブラドは迷宮騎士。実益を持ち帰ることが仕事だ。
「まぁ、何だっていいか。しっかし何もいなくて良かったな、ツイてるツイてる!」
「まぁ、それは確かにそうだな。念の為、今のうちに眷属を増員して_______」
下手しなくても戦闘があると身構えていただけに、何事も無くやり過ごせそうで得した気分のゴーケン。
相方の言葉に同意するように肩を下げたヴラドは、安全なうちに更に眷属を増やして索敵を磐石にしようとしゃがみ込んだ。
ピチョン、とヴラドの首筋に何かが落ちる。
弾けた様に視線を天井に移す。
部屋には何も見当たらなかった。音もしなかった。
ソコに居たのは、大きな影。
人を形どったソレの目にあたる部分には、眼球をくり抜かれた幼子の顔が二つ縫い付いて。
子供の肉を無理矢理捻った様な四肢と胴が、ぐじゅぐじゅと不快な水を垂らす。
呼吸もせず、ただひっそりと。
天井に張り付いたその人型をした骸の集合体は、侵入者を己が一部にする為にその巨体を天井より堕ち_______
「ゴーケン、スイッチッ!!」
_______振り下ろした両腕が、ヴラドの元に割って入った騎士盾とぶつかった。
「お、っも………!?」
苦悶を浮かべながら、身体を捻じる。
盾を補強する金属部がミシミシと悲鳴をあげる。マトモにぶつかれば、盾は使い手と共に砕けて血染めの花が咲く事になる。
直下的に叩き付けられる両腕を横にズラし、衝撃を流す。
爆ぜた石畳が礫を撒き散らす中で、殺し切れなかった衝撃で跳んだゴーケンは靴裏と剣で地面を削ってその勢いを殺す。
「無事かっ!?済まない、コイツに気が付かなかった!!」
「息潜めてたんだろ、しゃーねぇ!つかコイツ何だ!?振り下ろしマトモに食らったら即死だぞコレ!」
「【
【
腐り堕ちた死体が寄り集まって形成されたような見た目から名付けられた、ゾンビ系の上位魔物。
金属製の全身鎧すらひしゃげて潰す怪物じみた膂力と、3mにも及ぶ体格。それにアンデッド特有の無痛性を兼ね備えており、搦手を持たぬ故にたたただ単純に強い。
迷宮の外なら、傭兵の
仮に一党一つで討伐したなら、傭兵界隈では名前が瞬く間に広まる。そんな相手だ。
「さては迷宮造った魔王って馬鹿だろ!!入り口に居ていい敵じゃねぇって!!」
「逆だろう。外の最上位程度では、第一階層しか務まらない…………そんな魔境なのだ、迷宮というものは!!」
悪態を着くゴーケンに放ったヴラドの言葉は、ある意味正しい。
悪辣と欲望と死。
それを荒々しく混ぜ込んだ様なこの場所では、外で出現する様なレベルでは尖兵が関の山。
寧ろある程度の対処法が知れている分、未知の魔物より余程戦う術がある………そう思える者だけが、生き残ることが出来る。
それが迷宮。
幾人もの実力者を呑み込んで来た、魔窟なのだ。
「兎も角やるぞッ!
「どしたヴラド!最悪の更新なら早めに頼むぞ!」
最早乾いた笑いしか浮かばないヴラドに、何か更に最悪が襲いかかったのだと何となく察する。
ゴーケンの催促を受けたヴラドが、苦虫を噛み潰したように口を開く。
「安心しろ、最悪も最悪だ。眷属から報告があった………さっきの爆ぜ音を聞いて外の
玄室の外を巡回する、
連中を避ける為に近くの玄室に入ったにも関わらず、そのせいで先程の振り下ろしによる爆ぜ音が耳に届いたらしい。
速度を上げてこの玄室方向に駆けて来ている。
その上、天井からの不意打ちを躱すのに精一杯だった二人は部屋の奥に誘われる形となり、入り口側は
逃走は不可能、相手側の方が強さ的に格上、しかも援軍あり。
有り体に言ってしまえば、絶望的。
決して間違いを犯した訳でもない。ただただ、初手で転がした賽子の出目が
それだけの話。
「………つまり放っときゃ2vs7………まぁコイツは1より上か。どれくらいだと思う?」
「4で良いんじゃないか。そしたらキリよく2vs10だ」
「つまり一人頭5倒せば俺らの勝ちだな!!」
「その際に1でも削られたら実質余らの負けだがな!!」
なっはっはっは、と揃って笑う。
仮にこれが傭兵家業なら、死を前にして気が狂ったと思われるだろう。
生を手放し、これから来る死を受け入れるのだと諦めたと見なされるだろう。
「どうするヴラド。一応致命傷とか受けても生きて地上には戻れるぜ」
「笑止。生憎だが成し遂げたい夢があってな。この程度で手放す様なら、そもそも賛歌の三剣に来ていない!」
互いに目を合わせ、笑う。
その目に諦めは無く、絶望も無い。
生き足掻いてやるという悲壮な決意も、一矢報いようとする最期の誇りも無い。
あくまで自然に。当たり前に。
この程度の苦難など覚悟の上。故にこれは何よりも良い機会だ。
「さて、と。んじゃまぁ_______」
盾を前に、剣を構え。
誓いを果たす為、あの日見た夢を叶える為に。
槍斧が風切り、切っ先はブレず。
泣き崩れた後悔を、泡沫にしない為に。
「「_______超えようか」」
さぁ、迷宮探査を始めよう。
Q:今回出てきた敵ってどんくらい強いの?
A:RPGで言えば中盤の終わり〜終盤の始まりくらいで出てくるようになる敵位の強さ。外の傭兵達に今のゴーケンとヴラドの状況伝えたら無言で葬儀の準備始めるレベル