やさぐれ四天王 作:先バレプレミア当たらない
『ユニ○ォォォォン!!』
「ろ、6万発……だと」
俺は目の前の画面に表示されている数字を見て唖然としていた。
久しく打っていなかった台だが、まさかこんなことになるとは。やはり俺はニュータイプだったということか。
今週だけで既に10万円は溶かしていたのだが、ここで奇跡的に捲ることに成功。
もうこんなラッシュは二度と来ないかもしれないので、色々なカスタムで存分に楽しむことにした。
「すげぇ、マジすげえわこれ。超気持ちいいんだけど。やべーって。あっ、やばいっすね〜、やばいですよぉ。やばくなっちゃいますぅ。あぁ〜レバブルの音ォ〜!」
完全にキマっていた。
「やばいわ、まじやばいわ。最高やで。俺の時代来たんじゃねえの? 俺、天才かも。いや、俺が神なんだよな。俺が主人公なんだよな。俺以外のやつらは全員脇役なわけ。つまり、俺がナンバーワン。俺がオンリーワン。俺こそが最強。全パチンカーに告ぐ、山田ジュンが通るから道を開けろ、俺がパチンコ界を獲る。ふひゃひゃひゃひゃ」
もはや自分が何を言っているのか分からなかった。とにかく何かを喋っていないと頭がおかしくなりそうだったので、ひたすら意味の無い言葉を並べ立てる。周りの視線が痛かったが、それすらも今の俺にとっては快感の一部となっていた。
◇
「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙目玉ギョロギョロしないでぇぇぇぇ!! ……って、あれ」
目が覚めるとそこはいつもの自分の部屋。ベッドから身体を起こすと、カーテンの隙間から朝日が差し込んでいた。
「……俺の6万発は?」
素早くベッドを抜け出してテーブルに置いてあった財布の中身を確認する。何故かスッカラカンだ。24万入ってないとおかしいはずなのに。
次にスマホで自分の銀行口座をチェックする。預金残高は8万。全く増えていない。
この二つのことが意味するのは一つ。その厳しすぎる現実に思わず涙が出てきた。
「……うぅ、なんでだよぉ、俺の6万発はどこ行ったんだよぉ……」
身に降りかかる喪失感に泣き崩れていると、不意に玄関のチャイムが鳴った。誰だろうか。
ドアスコープを覗くと、そこには私服姿の見知った美少女が立っていた。可愛い可愛い我が妹、リョウだ。
涙を拭い、ドアを開けてやる。
「……何、どしたの。学校は?」
「お腹痛いから休んだ」
「ふーん。胃薬は?」
「飲んだ。もう大丈夫」
リョウは相変わらず表情が変わらない無口でクールな子だ。こういうところが俺に似て可愛いのだけど。
彼女はズカズカと部屋に上がり込むと、ソファに寝っ転がりテレビのリモコンを弄り始める。後はポテチとジュースを用意してあげれば完成だ。
「それじゃ、俺は作曲してるから。お昼になったら呼んで」
「うい」
部屋に戻り、机上のパソコンと向き合う。今日はオンデマンドの科目しかないため、大学に行く必要はない。実質休みだ。
作曲ソフトを立ち上げ、少しずつコードを打ち込んでいく。曲の世界観は、夜の街の静寂と喧噪というイメージだ。
夜、こっそり家を抜け出して静かな裏路地を歩く少年。やがてネオンに照らされた大通りへと出る。喧噪に身を委ね、楽しい時間を過ごす少年。やがて明け方になり、騒がしかった夜の街は眠りにつく。少年はその一瞬の煌めきを胸に刻み、自分の家に帰っていった。大体そんな感じのストーリーだ。
序盤は静かに、そしてサビから盛り上げ、ラストに向けて萎んでいくようにイメージする。この緩急の差によってより曲の深みが増すはずだ。
一通りメロディラインを書き終えたところで時計を見ると既に正午を回っていた。それを自覚した瞬間、腹の虫が鳴り出す。そういえば朝飯も食べていなかった。
リビングに戻ると、ソファに寝っ転がりながら、テレビの前でポテチ片手にコーラを飲むという、まるでダメなおっさんのような格好をした妹の姿が目に入った。どうやら映画を見ているようだ。
昼食にしたいところだが、邪魔するのも気が引けるので俺も床に座って一緒に見ることにする。
しばらくして、映画が終わりエンドロールが流れる。『俺はガン○ムで行く』で興奮と涙が止まらなかった。リョウも満足したらしく、大きく伸びをしてこちらを振り返る。
「あ、お兄ちゃん。いたんだ」
「気づいてなかったんかい。……まぁいいや。飯行こ」
「私お金無い」
「知ってる。奢るよ」
「やったぜ」
「"お兄ちゃん"ですから」
「さすがお兄ちゃん」
「へへへ、もっと言って」
「お兄ちゃん最高。大好き。財布」
「えへ、えへへへ」
幸せすぎて死んでしまいそうだ。今なら死んでもいいかもしれない。……いや、よくない。あの夢を現実にするまでは死ぬ訳にはいかない。
腹を空かせた俺達は近所のラーメン屋に向かう。ここは美味いし、割と穴場なのでお気に入りの場所なのだ。オマケに学割も効く。
席に着き、二人分の注文をする。数分後に、熱々の醤油豚骨ラーメンが運ばれてきた。
スープを一口飲むと、濃厚な旨味が舌の上で踊る。麺をすすり、チャーシューにかぶりつく。どれもこれもが素晴らしいハーモニーを生み出し、思わずうっとりしてしまう。これこそ至高の一杯である。
「……そういえば、バンドの方はどうなの? 四人集まったみたいだし、これからライブもどんどんしていくんでしょ?」
「うん。とりあえずはノルマ達成出来るように頑張る」
「そっか。……なんかあったら、遠慮なく言いなよ。俺、一応先輩でもあるんだから」
「分かった。じゃあ取り敢えず、結束バンドに10万ぐらい投資して欲しい」
「高いなぁ。せめて3万とかにして」
そう言うと、リョウは悲しそうな顔をして俯いてしまった。演技だと分かっていても、結構くるものがある。
「……そんな顔してもダメ」
「お兄ちゃん……お願い」
リョウが潤んだ瞳で上目遣いをしてくる。その威力は凄まじいもので、思わず胸がキュンとしてしまうほどだ。
ここで折れては駄目だ。心を鬼にしないといけない……いけないのに。
「う、うぅ。でも、そんなお金どこにも……」
「……そこに、ハンドルがあるじゃろ?」
「……ッ!?」
その時、山田に電流走る。
俺はおもむろにポケットからスマホを取り出し、店のデータを調べ始めた。
そして見つけた。4000発投資で350回転している台を。この機種のボーダーは17.4回。そしてこの台の平均回転数は、350を4000発=16000円の1/1000である16で割ると、大体21.9回転する計算になる。つまり、ボーダーを上回っているためプラスが見込めるのだ。
「……すまんリョウ。用事が出来たから、これで失礼する」
「ん。行ってらっしゃい」
俺はお冷を飲み干し、リョウを置いてすぐさま店を出る。
戦場へと足を進める俺に、周りの連中の視線が突き刺さる。やめろ、どうせ勝てない、破産するだけだ、大人しく貯金しろ。
それはあまりにも無責任というものではないだろうか。これは俺の始めた物語だ。店に骨を埋める覚悟など、とっくに出来ている。
パチンコ店にしっかり金を落とす。そして、あわよくば万発出してリョウへの手土産とする。それが力を持つパチンカーとして、兄としての責任だと俺は思う。
手持ちの資金は2万。もう何処へも逃げるつもりはない。俺の持つ全ての情熱を注ぎ込み、勝利を掴んでみせる。
「……山田ジュン! ユニ○ーンガ○ダム、行きます!」
席に着いたその後のことは、あまり覚えていない。
ただ、気がついたら公園のベンチに横たわっており、財布の中身は空っぽになっていた。