やさぐれ四天王 作:先バレプレミア当たらない
「……バイトだる」
ある日の午後、俺は大学の講義を終えてバイト先に向かっていた。その辺のパチ屋を覗きつつ、大荷物を背負ったおばあちゃんを助けていたら既に30分遅刻しており、星歌さんからの鬼電が止まらない。おまけに出たら出たで死刑宣告までされてしまった。人助けをしたというのにこの仕打ちとは、この世は地獄である。
とぼとぼ歩いているうちに、いつの間にかバイト先のライブハウスに到着していた。……何か急に体調が悪くなってきたかもしれない。激しい目眩に腹痛、これは病気に違いないだろう。本当に心苦しいが病欠するしかない。
そのままライブハウスを通り過ぎて帰ろうとした瞬間、肩に異常な力が加わる。
「あれー? どこ行くのかなー?」
振り返るとそこには不気味な笑みを浮かべたゴールデンゴリラがいた。ひょいっと担がれて崖にゴリラダンクされる未来が簡単に想像出来る。
「あ、いえ……ちょっと体調が悪いので今日は休ませてもらおうかなと……」
「じゃあ私が看病してあげるよ。ほらこっち来て」
「ひ、一人で大丈夫ですから!」
「遠慮しなくていいって。ほら早く」
必死に抵抗するも虚しく、俺は虹夏によってライブハウスに引き摺り込まれた。
中では既に星歌さんが腕を回しながら待機していた。廻天(リッパー・サイクロトン)……星歌さんは強化系だったか。
「よぉジュン。随分遅かったな」
「す、すいません。ちょっとおばあちゃんを助けてたら遅れてしまって」
「そうか、それは仕方ないな……とでも言うと思ったか?」
ギロリと眼光が鋭くなる。額に青筋を浮かべながら、彼女は言った。
「お前がパチ屋に寄ってなきゃ全然間に合ってたはずだよなぁ?」
「……さて、何のことだか」
「私がちゃんと証拠抑えといたよ」
「えっ」
虹夏がスマホをかざす。そこには、俺の足取りを追うかのようにして、パチ屋に入っていく映像が映し出されていた。……あの、ストーカーか何かですか?
「せ、星歌さん! 妹にこんなストーカー紛いなことさせるなんて見損ないましたよ!」
「知らねぇよ。それよりお前、状況分かってるか? ん?」
「ひぃっ!」
怖い。星歌さんの眼光が、俺の命を奪おうとしている。このままでは綺麗な頭の形が歪んでしまう。
だが、まだ抗える。パチンコで負け続けた俺は、その深い哀しみを知っている。故に、俺は会得した! 北斗神拳究極奥義、無想転生を!
「ふっ、甘いですね星歌さん。そんな拳一発程度、躱すのは容易いこと……」
「虹夏」
「はーい」
次の瞬間、俺は虹夏によって羽交い締めにされる。馬鹿な、こんなあっさりと俺の背後を!?
「わ、分かった! 俺は心を入れ替えたぞ! もうパチンコもしばらくしない! お願いだ虹夏、信じてくれ〜っ!」
「ダーメ」
無情にも、俺の頭に星歌さんの鉄拳が炸裂する。俺は泣きながら床に転がり、痛みに悶えることしかできなかった。
そんな俺を尻目に、星歌さんと虹夏はそれぞれ仕事を始める。ここに俺の味方はいないのか。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「……おぉ、いたのかリョウ。いたなら助けてくれてもいいだろうに」
「とばっちり受けたくないし」
リョウは素っ気なく言う。彼女の手を借り起き上がると、その後ろに見慣れない女子が二人いるのに気づいた。一人は如何にもパリピそうな子で、もう一人はその真逆をいくような陰気で芋臭い感じの子。
パリピっ娘は何だかこちらをキラキラした目で見つめている。そしてこちらの視線に気付いた瞬間、縮地でも使ったのかと錯覚するぐらいのスピードで距離を詰めてきた。
「初めまして! リョウ先輩のお兄さん!」
「うわ速」
「私、喜多って言います! 前からリョウ先輩からお話を聞いていて、会ってみたいと思ってたんです!」
「あ、うん。そうなんだ」
勢いに押されてしまう。この子、なかなか強烈なキャラだな……。というか、リョウが俺のことを話していた? 何を言っていたのか気になるところだが、怖くて聞けない自分がいる。気持ち悪いとか言われてたら舌を噛み切って死んでやる。
「ジュン先輩って呼んでもいいですか?」
「どうぞ。……喜多さん」
「どうか喜多ちゃんと!」
「あ、はい。……喜多ちゃんね」
何だこの距離感の詰め方は。陽キャ特有の人懐っこさなんだろうか。コミュ力高すぎて怖いんだが、陰キャとしてはこういうノリにはついていけない。
それに対して後ろのジャージっ娘は話しかけるタイミングが分からず一生あっあっあっとか呻いている。カオナシかよ。
「リョウ、後ろのジャージの娘は誰だ?」
「ぼっち」
「……ん? 罵倒か?」
「ぼっちはぼっちだよ」
「あだ名か?」
それにしちゃ酷いあだ名だ。
「あっ、ぼっ、ぼっちです……」
「本人公認なのか。ならいいけど」
ぼっちちゃんは人見知りのようで、消え入りそうな声で自己紹介してくる。……顔は結構可愛いはずなんだがなぁ。雰囲気が全てを台無しにしてしまっていると言った所か。
「よろしく、ぼっちちゃん」
「あっ、えっと、こちらこそ。……男の人の友達出来ちゃった……! 私もう陰キャじゃないのでは……!?」
何やらブツブツ言っているぼっちちゃん。
なるほど、彼女らがリョウのバンド仲間か。確かにリョウに負けず劣らず濃いメンツだな。ウチも他所のことを言えたものじゃないが。
少し疲れた俺は、カウンターでPCを弄りながらりんごジュースを吸っている星歌さんの横に座る。
「これ一個貰いますね」
「ん」
「どうも。虹夏、結束バンドの次のライブっていつ? 見たいんだけど」
カウンターの奥で作業をしている虹夏に聞いた。
「来月あたりにやりたいなって思ってる。お姉ちゃん、いいでしょ?」
「いや、出す気ないけど」
星歌さんの言葉に、結束バンドの四人はは動きを止める。
「……あっ、集客出来なかった時のノルマなら払えるよ?」
「お金の問題じゃない。実力的に出せないってこと」
「で、でもこの前は出してくれたじゃん」
「あれは思い出作りの為に特別にな。普段はデモ音源審査とかしてんの知ってんだろ?」
俺は何も言わずに聞いていた。そう、「出して」って言葉だけじゃダメなのだ。俺達も今の拠点でライブをするのにどれだけの数オーディションに挑んだことか。
「悪いけど、この前みたいなライブのクオリティなら出せないから。一生仲間内で仲良しクラブやっとけ」
「……っ」
虹夏は拳を握りしめる。その顔には悔しさがありありと浮かんでいた。
「三十路なのに未だにぬいぐるみ抱かないと眠れない癖に〜っ!」
彼女は捨て台詞と共にライブハウスを飛び出してしまう。そして、その内容にはとても心当たりがあった。リョウとのロインの履歴を遡る。
「あった。そのぬいぐるみってこれですよね?」
俺は星歌さんがヨレヨレのパンダとうさぎのぬいぐるみを抱いて寝ている写真を横から見せる。案の定、星歌さんの顔がみるみる赤くなっていく。近くにいたPAさんも覗き込んできた。
「あら可愛い」
「お、おいっ! 早く消せそれ!」
「はーい」
言われた通りに写真を削除する。しかし無駄だ。既に家のPCに星歌さんの恥ずかしい私生活の写真が数多く保存されているのだから。
「ほらリョウ先輩、後藤さん! 追いかけないと!」
「えー」
「えーじゃないですよ!」
リョウと喜多ちゃんが虹夏の後を追って外に出ていく。ぼっちちゃんもその後に続こうとした。
「待ってぼっちちゃん」
「は、はい!?」
星歌さんがぼっちちゃんを呼び止めると、彼女はビクッ、と体を震わせた。そして怯えた表情でこちらを振り返る。
星歌さんはPCを弄りながら虹夏への伝言をぼっちちゃんに伝える。
「で、ホントのとこはどうなんですか?」
「何が?」
ぼっちちゃんがライブハウスを出た後、俺と星歌さん、PAさんがその場に残される。
俺は星歌さんに尋ねた。
「オーディションで決めるって言ってますけど、実際もう出してあげる気なんじゃないかなって」
「……さぁ、どうだろうな」
星歌さんはキーボードを叩きながら、曖昧な返事をする。多分図星だろうな。
「こういうのシスコンって言うんですっけ?」
「そうですよ、この人超シスコンなんです」
「それ以上喋ったらお前らクビだかんな」